第74話 離れてみないとわからない
私のスキルを使って探ってみた結果、ハウルは門での引き継ぎを終えて自衛団の拠点に戻っているようだった。
さすがにその場に行くほど私も空気を読まないわけではないので、彼が出てくるのをゆっくり歩きながら待つことに。
「それにしてもセシルちゃんってさ」
「うん?」
「村にいたときからすごいなって思ってたけど、今じゃ考えられないくらいすごくなってるよね」
「うーん…そうかも。いろんなことできるようになったし、あの頃よりもっと強くなったからね」
「すごいなぁ…私もセシルちゃんくらい強かったらなぁ」
キャリーは両手を頭の後ろで組みながら足を投げ出すようにゆっくり歩いている。
この子が私くらい強かったら?
私みたいな理不尽な人外がそうそういても困るのよ?
女の子は男の子に助けてもらえるくらいでちょうどいい。私は全くの真逆を行ってるのでどちらかと言えば助ける側だろうね。
しばらくして私達がゆっくり歩いている間にようやくハウルが少しずつ移動を始めた。どうやらちょうどこちらに向かっているようで、数分歩けば遭遇するはず。
「おーい、キャリー」
しばらく歩いているとハウルと思わしき少年が前から手を振りながら歩いてきた。
キャリーのことを呼んでいるし間違いはないのだろうけど…それにしても随分背が伸びた。男の子は女の子に比べたら成長が遅い方だと言われるがこの世界ではそんなことはないのか、既にハウルの身長は私よりも頭一つ分は高くなっている。
そして合流すると彼に見下ろされながら私も手を振ってみた。
「ハウル久しぶり」
「…お前、セシルか?!副団長から村に帰ってるって聞いてたけど久し振りだな!てか、お前全然背伸びてないな?」
「ハウルが伸び過ぎてるだけだよ!」
相変わらずデリカシーのない。
こんなやり取りも懐かしく思いながら私達は一緒に村の見回りに行くのだった。
あれからしばらく三人で村の中の見回りをしながらいろんなことを話した。
キャリーはハウルのことをやっぱり特別な目で見ているようだし、ハウルもキャリーのことを憎からず想っているのは間違いなさそうだ。
私がいたらキャリーもハウルに御守り渡しにくいかもしれないから早々に退散するべきだろう。しかしこうして久し振りに幼なじみが集まったのにいきなり立ち去るのもおかしい。
なんとかタイミングを図りたいところなんだけど…さっきからキャリーとハウルがずっと話しっぱなしで全然私が抜けられる気がしない。あなた達は私がいなくても変わらないんじゃ…?
「なぁ、そういえばセシルお土産は?」
「…は?なんで私がお土産……あるよ」
なかなかいい話題を振ってくれたねハウル。
「さっきキャリーにハウルの分もまとめて渡しておいたから受け取っておいてくれる?」
「お?そうなのか?やったぜ、言ってみるもんだな!」
これならキャリーも自然と渡すことができるに違いない。
実際キャリーは複雑そうな顔をしているものの、不自然無く渡せそうなのでちょっと嬉しそうだ。
「あ、話変わるんだけどミックとアネットはどうしたの?」
「あー…あいつらか…」
「うん、ちょっとね」
二人はあからさまに言葉を濁してきた。
割とさっぱりした性格のこの二人がここまで言いにくくなるというと不幸なことでもあったかと勘ぐるが、どうも違うようだ。
苦笑いとも取れるような困った顔をしてお互い顔を合わせている。
「どうしたの?何があったの?もしかして…」
「あぁ違うんだ。いや違わないけど」
「どっちなのよっ」
思わず「どっちやねん!」とツッコミたくなったけど、つい本気でやってしまいそうだ。
「ミックとアネット、あとあの二人の両親も村を出たの。理由は村の人からお金を騙し取ったからだよ」
「は…い?…ミック達の両親ってそんな感じの人だったっけ?」
「違う違う、騙したのはミックとアネットで両親はカントクセキニンってやつらしい」
どんな子どもたちよ、全く。
確かにあの二人は詐欺師のタレントが開花してもおかしくはなかったけど。まさか子どものうちからそんなことするとは思わなかった。
「それでどこに行ったかは知ってるの?」
「いや、俺達には教えてもらってないんだ。でも村から出てった連中の行き先なんて大体は大きな町だからなぁ」
「うん、そうだねぇ。多分王都とかベオファウムあたりに行ったんじゃないかな?」
ベオファウムではそんな噂は聞いたことがない。
もちろん全てを把握してるわけではないけど子どもの、それも兄妹で詐欺師となれば耳に入ってきてもおかしくはなさそうだけど。となれば恐らくは王都か他の大きな町に行ったのだろう。
「それにしても折角帰ってきたのに幼なじみが半分もいないとは思わなかったよ」
「うー…ごめんね?」
「ううん、キャリーのせいじゃないよ。それに王都に行けばユーニャには会えるかもしれないんだしね」
ユーニャは頑張っている。
王立国民学校では国内の優秀な子どもが集められるみたいだし、それほどまでに勉強したのだとすれば並大抵の努力ではない。
コールも一緒にというのは意外だったけど、彼は元々頭もよかったしね。
「セシルってさ、ユーニャのことかなり好きだよな」
とここにいない幼なじみたちのことに思いを馳せていたらハウルが意味も無く爆弾を投下してきた。
彼の頭の構造を是非とも見てみたいものだ。
「あー…セシルちゃん。ユーニャちゃんも可愛いから気持ちはわからなくはないんだけど…男の子とじゃないと子どもってできないんだよ?」
知ってるよっ?!私は前世から数えたらもう三十歳なんだよ?
というかなんでこんな道の往来で堂々と性教育を受けないといけないのよ!
「そういうのじゃないから。私の恋愛対象は今まで一度も変わらずに男の人だから!」
「でもその割には…ねぇ?」
「そもそも私より弱い男になんて興味ないよ!」
「えぇ…セシルより強いやつなんて…無理だろ」
それでもリードは頑張ってるよ?まだ私の足元くらいの実力しかないけど。
あと十年くらいしてせめて私に一本入れられるようになるといいけど…その頃には私ももっと強くなっちゃうかな?…なってるだろう。そしてまた言われるわけだ、理不尽だって。
懐かしいはずなのに、つい昨日も会っていたかのような気安さで二人と話しているといい時間になってきた。
「それじゃ私夕飯の支度もあるからそろそろ行くね」
「おぅっ、またなっセシル」
「セシルちゃんまたね!」
片手を上げてそれに応えると私は自宅の方へと駆け出した。
もうすぐまたいなくなるけど別れの挨拶はしなくていい。いつかきっとまた会うはずだよ。そのときにはひょっとしたら二人の子どももいたりしてね?
…案外現実にそんなことがありそうかも…?
帰る前に自宅を通り過ぎて森へ入り狩りをした。
知覚限界、気配察知、魔力感知を使えば近くにいる魔物や大型の獣を探すことができるようになっているので、最早お手の物だ。
とりあえず森の奥に大きめのブーボウがいたのと、大きめの熊がいたのでその二匹を狩ってその場で解体しておいた。
家に着いてその成果を出したときのイルーナは大喜びだった。
ディックは泣いてしまったけど。
夕飯を作っている間にランドールも帰ってきて、後でまとめて薫製にしてしまおうと話しておいた。流石に大型の獣二匹をずっとこのままというわけにはいかない。
相変わらずよく動く私だけど、以前村にいたときに比べたら全然苦にならなくなっていた。
多分これがちょうどいい距離感なんだと思う。
前世でも園にいたときちょっと荒んだ性格のお兄さんがいたんだけど、仕事に就いてからは滅多に帰ってこなくなった。でもたまに帰ってくると園長先生にすごく優しかったのを思い出す。
離れてみないとわからないなんてホント皮肉よね。
その後結局会いたい人にはひとまず会えたということで、残る一日は家族とゆっくり過ごした。
ようやく私に慣れてくれたディックと遊びながら、イルーナと交代して数時間狩りにも出て我が家の食料事情を少しでも改善しておいた。
そして。
ベオファウムに戻る日、村の門で家族と最後の話をしているわけなんだけど…。
「うぅぅぅ…またセシルちゃんいなくなっちゃうの…?」
「母さん、またちゃんと帰ってくるから…ってこれ昨日も散々やったよね?」
「セシル、お前の強さはわかってるし、無茶するなとは言わないが…無理はするなよ?」
「父さん、それ初日から何回も聞いたってば」
「ねえね、また来てくれるんだよね?」
「うん、必ずまたディックに会いに来るよ。だからそれまで父さん母さんの言うこと聞いて、ちゃんと訓練もしておくんだよ?」
「うん!僕ねえねより強くなれるように頑張る!」
「ふふ、私よりかぁ…。じゃあお姉ちゃんももっと訓練して強くなっておくね」
「じゃあ僕はもっともっと頑張る!」
キリないね。
この話は昨夜から何回もしている。イルーナやランドールだけじゃなくディックとも何回もしたやりとりだ。それだけ私のことを想ってくれてると思えば無碍にはできないけども、さっきから何度も出発するタイミングを失している。
「あれ?セシルちゃんまだ残ってたの?」
「キャリー。それが、ね?」
見回りのついでだろうか、門までやってきたキャリーに対して私は自分の家族に眉を寄せて視線を送る。
それだけで察してくれたキャリーもやれやれと肩を竦めて家族に近付いていく。
「副団長、今日はみんな大目に見るからって言ってましたけどそろそろ戻ってもらわないと困りますよー」
「えぇっ?!キャリー…んんっ!いや、もう戻るところだ。わざわざスマンな」
「イルーナさんもディックも、あんまりセシルちゃんを引き止めたらベオファウムに着くのが遅くなって領主様に怒られちゃうかもしれないですよ」
「むー…。ザイオンが無茶言ってるだけかもしれないし…」
「イルーナさん」
「…はぁい。じゃあディックちゃんもそろそろお家に戻ろっか」
ランドールは渋々自衛団の詰所へ。イルーナもディックの手を引いてようやく私の側から離れてくれた。
「助かったよキャリー」
「なんかこうなる気はしてたんだよねー。じゃあセシルちゃん、次に会うときまで元気でね!」
「うん、キャリーもね!じゃあ行ってきまーす」
キャリーのおかげでようやく村を出発することができた私は勢いよく街道を走り出した。
さて、それじゃ急いで帰りますか。
次は学校だね!ユーニャにも会えるといいな。
今日もありがとうございました。




