第563話 圧倒的実力差
完結まで一気にいきます。
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勝負になるはずもなかった。
ミーリニアスの剣も炎も全て結界で防がれるのに、彼女は私の攻撃を凌ぐことは出来ない。
対峙して十分も経過する頃、ミーリニアスは剣を杖にして膝をついていた。
「ここまで、とはな」
「わかりきってたことだろうし、貴女はよく戦ったと思うよ」
「ならば余の最後の一撃、受けてはくれまいか」
最後の一撃、というほどミーリニアスに残された力は多くないと思う。
彼女の剣技はそれは素晴らしいものがあるし、それこそスキルを超えた研鑽の賜物というべき力だろう。
だからこそ、それをこんなところで散らせるのは余りに勿体ない。
「貴女にはまだやるべきことがあるでしょ。大人しく引き下がれば王国からも必要以上のものは求めないと約束するよ」
「そちにそのような権限などなかろう」
残念ながらあるんだよね。
ウチの優秀な息子がちゃんと陛下から許可をもらってきてるから。
まぁそれもこれもジョーカーの仕込みの一つでしかない。私達が本当に求めるものを手に入れるために。
「ふ……それも、余の最後の一撃を受けてからの話よ」
ミーリニアスは震える膝を押さえつけながら立ち上がるともう一度剣を構えた。
これは彼女の誇りを賭けた一撃になる。気迫は今まで以上だけど、強力なものにはならないだろう。でも、その誇りには敬意を示さねばならない。
私は異空間へ手を突き入れると、その中で一振りの剣を掴んだ。
ズズッ
かつて手に入れた時とは比べ物にならないほどの力を放ちながら異空間から顔を覗かせたのは神晶剣。
私のレベルが上がるにつれてこの剣もまた成長しているのか、常に帯剣しておくことさえ出来ないほど強力な兵器へと育ってしまった。
神晶剣を両手で掴んで左右に開くと、その強さは半減してしまうけれど、二本に分かれて私の手に収まる。
「悍ましき力を放つ剣よ」
「ミーリニアス、貴女の覇気に対する私なりの礼だと思って」
「感謝する。……では、参るっ!」
ミーリニアスは残る力を振り絞って一歩、踏み込んだ。
その一歩で瞬きするほどの時間もかけずに彼女の剣が届く位置へとやってくると左下から斬り上げてくる。
「ふっ!」
バキイィィィン
それを左手の神晶剣を振るうことであっさり叩き折った。
続けて右の剣をミーリニアスの首へと突きつけ、動きを止めた。
「ここまでだよ」
「く……情けなど無用! 余の首など簡単に落とせよう……っ?!」
だからそれは必要ないって言ってるのに。
「貴女が死んだら帝国は崩壊しちゃうでしょ」
「……余の独断故、帝国の民に罪はない」
ミーリニアスが掴んでいた折れた剣を落とすと炎のようにふっと掻き消えた。
どうやらやっと降参してくれたみたいだ。
この後戦後処理とかいろいろあるけど、それは日にちだけ決めて修理した人形セシルに任せれば良い。
「えぇ、いろんなこと話し合おうよ。わざわざ戦わなくても良い方法なんてきっとたくさんあるはずだから」
私も神晶剣を異空間へ放り込むとミーリニアスへと手を差し伸べた。
戦争はこれで終わりだよね。
「そちは器の大きい……いや、良い女よな」
「あは……うん、奥さんたちに言われて最近ちょっとだけ自覚してきたよ」
「ふ……だが稀代の女誑しでもあるわけか」
「ちょ、それは言い過ぎじゃない?」
ミーリニアスの顔にも小さく微笑みが見えた。
さぁ、これから忙しくなるね!
……人形セシルがね。
ミーリニアスは私が差し出した手を掴もうと、震える手を伸ばしてきた。
「……っ?! うっ、ぐあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
しかし私の手を掴む直前、突然ミーリニアスは突然動きを止めたと思ったら自分の頭を掴んで獣のように咆哮を上げた。
「うっ、ぐうぅぅっ?! うがあぁぁぁぁっ?! あぁあああああぁぁぁぁっ?!」
ブンブンと何かを嫌がるように全身を使って頭を振っている。
何が起きてるの?
「メル!」
ぽんっと小気味良い音を立てて黄色い玉が現れる。
「呼んだのだ?」
「急いでミーリニアスを解析して!」
「む……わかったのだ」
私自身には今までと同じ鑑定や解析能力しかないけれど、メルにはアイカの神の眼と同じくらいの力がある。
それがあればミーリニアスに何が起きているかわかるかもしれない。
「わかったのだ」
ミーリニアスの解析を終えたメルは必要な情報だけを鑑定と同じ半透明の画面を私に向けた。
「……汚染? って、まさか?」
「そのまさかなのだ。ミーリニアスは『汚染』されているのだ」
なんの冗談だ。
汚染って本来はダンジョンがよくわからない黒いヘドロみたいなのに侵された状態なのに。魔王であるミーリニアスがあんなものに支配されたとでも言うの?
「ぐああぁぁぁぁっ!」
ドゴォォォォォッ
私が逡巡している間にもミーリニアスは拳を地面に叩きつけたり、制御しきれない力を溢れ出させては頭を掻きむしっていた。
「セシル! このままだと拙いよ!」
「ミーリニアスをなんとかしないと第三大陸が粉々になるわ!」
ユーニャとリーラインがミーリニアスの暴れた余波とも言える衝撃を打ち消しながら叫ぶ。
あの黒いヘドロみたいなものに侵された者はレベルだけでも十倍近く上昇する。純粋な力だけでいえばもっとだと思う。
「わかってるよ! 殺したら、ごめんね!」
収納してしまった神晶剣は使わずに別の剣を取り出すと再び両手に持って構えた。
「悪いけど、本気で暴れ出す前に止めさせてもらうからね!」
レベル差もスキルの数も私に軍配が上がるだろうけど、彼女は今力の制御が出来ていない。そう考えればこちらが手加減など出来る余地は無いだろう。
「う、ぐあぁぁぁぁぁっ?!」
そうこうしている間にもミーリニアスの額から生えてきた黒い角。更には身体のあちこちから流れ出た黒いヘドロによって彼女の身体だけでなく大地までもが汚染されていく。
私の作った結界によって決闘システムは発動しないようになっているけれど、そもそも魔王をも汚染するようなあの黒いヘドロを抑えきれるかはわからない。
「ごおおぉぉぉぉぉっ!」
全身を黒いヘドロで覆われて巨大化、十メテルにも及ぶその姿はまるで真っ黒なオーガ。
追い詰められた魔王が真の姿を現して巨大化するとかゲームじゃないんだから!
「セシル! あの黒い角を切り落とすのだ!」
「了解! いくよ、神の祝福『DIVA』発動!」
じゃららっ
私の腕に巻き付く鎖の太さは変わらない。けれど、奥さん達や結界の外にいる眷属、ミオラ達には金色の太い鎖が腕に絡みつく。対して目の前にいるミーリニアスには黒い鎖が。
これは彼女が私に対して負の感情を強く持っているせいだけど、話を聞いた感じだとそんな風には思えなかった。
それもきっと汚染のせいだろう。
「ブルルルアァァァァァッ!」
黒鬼と化したミーリニアスが私の身長と同じくらいある太さの腕を振り下ろしてきた。
さすがに元々高レベルなだけあってかなり速い。
それを飛び上がって避けると、ミーリニアスの攻撃が次々に迫る。
空中での戦闘も慣れたし、攻撃の速度でいえばもっと速いものを相手にしたこともあった。
「はああぁぁぁっ!」
ミーリニアスの角を斬り落とすために放った閃亢剣。当然かなり強力にはなっている。が。
ガキィン
「かたっ?!」
かなりの強度があったようで弾かれてしまった。
その隙を見ていたミーリニアスが大きく口を開いたかと思えば超高熱のブレスを吐く。
「あちちちっ?!」
「セシル! せえぇぇりゃあぁぁぁっ!」
「援護しますわ!」
その様子を見ていたチェリーとミルルがすぐに動き出した。
まずチェリーが飛び出してミーリニアスの足をすぐに払う。
続いてミルルが扇子を振るって氷魔法でミーリニアスの身体を氷漬けに。
「続くわよ!」
「私も!」
続けてリーラインが放った矢はミーリニアスの両目を穿ち、飛び出したユーニャが凍りついたミーリニアスの鳩尾をその拳で突き上げた。
「ごおぉ……っ?!」
ユーニャのあの一撃は本当に凄い。私の結界を単騎でぶち抜いてくるのは未だに彼女だけだ。
当然それを生身で受けたミーリニアスの身体は前屈みになり、ミルルとリーラインの攻撃もあって動きが止まる。
「ありがとっ! これならどう、だあぁぁぁっ! 金光剪!」
両手の剣から金色の光が伸びて交差した。
そのままミーリニアスの角の付け根に突き立てると、力一杯腕を振り抜く。
ジャキイィィィィン
「斬れましたわ!」
「斬れたよセシル!」
感触でわかっていたけれど、声を上げるユーニャとミルルに感謝しつつそのまま次の攻撃へと移る。
「これで終わりだよ! 根源魔法 創世の輝き!」
以前まで汚染された相手に使っていた天国への階段よりも強い浄化と再生の力に満ちた魔法。
ヴォルガロンデから引き継いだ魔法の中でも異色のものだけど、彼もまた汚染について何か知っていたのかもしれない。
夜明けの光よりも強い光が結界内を満たしていく。
「強い魔法だけど、ミーリニアスならきっと……」
やがて光がおさまってくると、浄化の光に包まれたミーリニアスが姿を現した。
その様はさっきまで真っ黒なヘドロに覆われたものではなく、燃え尽きた灰のように真っ白だった。
まだ動くかもと思い、剣を下げずにいたけれど彼女からはもうほとんど力を感じられない。正しくあそこにいるミーリニアスは燃えカス同然のものでしかない。
どうしたものかと思案していたが、突然後ろから飛んできた小さな羽が二枚、白くなったミーリニアスに突き刺さった。
どうやらキュピラとネレイアの仕業らしい。
そして羽が刺さったミーリニアスの身体はサラサラと零れていき、やがて一気にその身を崩壊させた。
「もう動くことないと思います。姉様、ミーリニアスさんを探しましょう」
「ん。その灰は邪魔だからどかす」
キュピラから言われてようやく私は剣を異空間に放り込み、ミルルもまた扇子をパチンと畳む。
灰はリーラインが天魔法で少しずつ飛ばしていてくれるが、念の為にその灰を一部回収しておいた。
「セシル、こっちに来るの! ミーリニアスを見つけたの!」
誰よりも早く動いていたのはチェリーで、彼女の優れた五感でミーリニアスを探し当ててくれたらしい。
それほど切羽詰まった顔をしていないところを見るとミーリニアスもちゃんと生きてるみたいだ。
殊更ゆっくり、というわけではないけど自分のHPとMPが全快するくらいの時間をもらいながら私はこのあとの言い訳に頭を使うことになるのだった。
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