第562話 さすがに無理だった
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「ほらほらどうしたあっ! もっと凌いでみせよ!」
ミーリニアスの剣筋は速度が上がったことでより鋭さを増していた。
「くっ! あぁぁぁっ!」
彼女の猛攻を捌いていたけれど、そのあまりに速すぎる炎に包まれた剣を受け損ねて左肩を斬りつけられてしまう。
自己治癒力によって傷はすぐに治るけれど、体力までは回復しない。
「休ませるつもりはないぞ?!」
間合いを大きく取ったところでミーリニアスから放たれる炎によって私は全身を焼かれる。
物理的にも魔法的にも防御力が非常に高いこの服のおかげで全裸になるような恥を晒さないで済んでいるけれど、その全てを防ぎきれているわけじゃない。
髪はチリチリに焼かれてしまっているし、服で覆われていない箇所の火傷は常人なら後遺症が残るレベルだ。
「こ、のおぉぉっ!」
対抗して私も力を振り絞って魔法を放つけれど、ミーリニアスは剣を一閃して魔法を掻き消してしまった。
「ふん……やはり、勇者と言えどこの程度か? セシーリア•ジュエルエースよ、今一度問う。我が軍門に下れ」
「……何度でも、言ってあげるよ……。『お断り』だよ」
「き、さま……」
チャリ、とミーリニアスが剣を握り直す音が聞こえた。
こうして聞かれるのも何度目か。
既に私達の戦いは半日ほども続いている。
「セシーリアさまああぁぁぁっ!」
遠くで、ノルファが叫んでいる声が聞こえる。
今の私はあの子から見ても一方的にやられているようにしか見えないのだろう。
飛び出してこないのは彼女のことをラーヴァが抑えているからだ。進化して強くなったとはいえ、私の眷属たちに比べたらノルファもエリーもまだまだ及ばない。
安心なのは飛び出そうとしているノルファに対しエリーはプレリによって拘束されているため身動きを封じられていることか。
「出来れば自分の意思で余に仕えてもらいたかったよだがな……仕方あるまい」
ミーリニアスが一歩、私に向かって踏み出した。
瞬きするほどの時間もかからず彼女は私の正面に現れ、その剣を高く振り上げている。
「終わりだ」
ざぐっと自分の身体の中から音がして肩から脇腹にかけて猛烈な熱が襲ってきた。
「あがっ……あ……」
ミーリニアスが振り下ろした剣に纏わりつく炎が今の一撃でふわりと消え、それが私が感じている熱だと気付くのはすぐだった。
「少し耐えてくれよ? さすれば余の力によってすぐ癒やしてみせようぞ」
多分彼女が本気だったら私の身体なんて真っ二つに出来ただろうに、致命傷になる程度で済ませたのはそのためか。
なんとか、自分で回復出来れば……。
自分の身体に鞭打って傷口に手を伸ばそうとしたところ、ミーリニアスはその剣で私の手を差し貫いてきた。
「うがあぁぁ……っ?!」
「普通の回復魔法ではその傷は癒えまい。無駄な足掻きはやめよ」
駄目、だ……これじゃ回復、出来ない……。
傷口の熱は未だに引かないというのに、今度は全身の熱がどんどん失われていくかのように猛烈な寒気が襲ってくる。
この感覚……前世で刺されて死んだときみたい……? って、やばいんじゃない、かな。これって。
やがて私の思考はどんどん闇に覆われていき、突然ぷつりと途切れてしまった。
「んー……さすがに無理だったかぁ」
ミーリニアスがセシルの身体へと手を伸ばす。
直接触られたらひょっとしたら気付かれるかもしれないね。
「セシル?」
ただ名前を呼ばれただけだというのに、その声には大地を震わせるほどの怒気が込められていた。
「まさかミーリニアスがあそこまで強くなってるなんて思わなくてね」
「セシルがやらなくても私たちだけで出てもよろしくてよ?」
ここは九天ルミナス。
ヴォルガロンデから引き継いだこの世界最大の浮島であり、管理者代理代行としての私が拠点としている宮殿がある。
かつてヴォルガロンデが作ったものは私が改変し、水晶以外にも様々な宝石や準貴石で彩られた私にとっての楽園でもある。
「ミルルがいくなら私も行くの!」
「ミルリファーナ、チェリーツィア。二人とも少し落ち着きなさい。セシーリアを困らせちゃ駄目よ」
この部屋も以前はヴォルガロンデ一人だけが座る玉座があっただけだったけれど、現在は私用の大きめの玉座以外に七つの椅子も用意されている。
「キューはちゃんと我慢するのです」
「ネルもセシル姉の指示に従う」
なのにみんなして私の玉座に来るものだから絶対埃被ってるよ? いやまぁここも下の屋敷同様魔道具で掃除出来るから毎日ピカピカだけどさ。
「それでセシルはどうするの?」
ユーニャの声に改めて正面に映し出した外界の様子を確認する。
ミーリニアスによって生体神性人形の私はほぼ瀕死。フィアロは回収したけれど、ここであの身体を奪われるのはちょっと面白くない。
もちろんアレをミーリニアスがどうこうできるとは思えないけど、何度も私の物を盗もうとする彼女に対して苛ついているのも事実。
「ここの兵士も連れてちょっと脅しに行こうかな。みんなも付き合ってくれる?」
薄い布地で覆われた私の身体に群がる奥さん達を問いかければ否を唱える人なんて誰もいない。
感謝を込めた口づけをみんなの額に落とすと、私は一番に玉座から下りた。
「さ、行くよ」
ミーリニアスの表情はとても暗い。
眉間に皺が寄り、唇を細かく震わせていた。
今にも激昂し辺り一帯を更地にするほどの力さえ隠そうともしない。
しかしそこでふと気付く。
「いや待て……セシーリア•ジュエルエースには何人もの妻がおるはず。しかもそのうちの一人はチェリーツィアではないか」
であるならば、何故この状況に彼女はここにおらなんだ。
その思考が終わるよりも早く、次の状況へと彼女を招待した。
バキイィィィィィィン
「何事かっ?!」
突如としてミーリニアスを含めた半径千メテル程度を巨大な結界が覆う。
ズガアアアアアァァァァァン
直後特大の雷かと思うほどの強く密度の高い力を込めた光の柱が立ち昇った。
過剰な演出かと思ったけれど、結界が無ければ私の本体が全力を出した状態で地上に顕現するのほ困難を極めるので仕方ない。
「お待たせ、ミーリニアス」
あくまで軽い調子で彼女へと話しかけたのは、下手に圧をかけ過ぎるとスキル『神威』が発動してしまうからだ。
「バカな……セシーリア•ジュエルエース、が……二人?」
「あぁ、そこで寝てるのは私の姿をした人形だからね」
じゃら
金と黒の鎖が巻きついた腕を伸ばして指を曲げると人形のセシルかこちらへ転がってきた。
かなり深い傷を負わされているけれど、魔石自体に傷はついてなさそう。ちゃんと補修すれば問題なく稼働出来るはず。
足下の人形セシルへ回復魔法を使って傷を癒し、その後九天ルミナスへ転送しよう。
「おのれ……っ?!」
当然それを阻止しようとミーリニアスが足を動かそうとした。
けれど私だって一人で来ているわけじゃない。
すぐ横には私の愛する奥さんたちが七人並んでいる。
「皇帝陛下、セシーリア様の為さることを妨げられませんよう」
「ぬっ……ぐぅ……!」
右隣に立つミルルがミーリニアスに突き出した扇子に二の足を踏んだのだ。
あのまま動いていたらミーリニアスの身体は結界の端まで吹き飛ばされていたと思う。
ま、それはともかくセシル人形の治療だ。
「根源魔法 復活」
強力になった私の回復魔法は死んでさえいなければあっという間に傷は癒えていく。
まぁ厄介な性質もあったりするけど、それはとりあえず置いておこう。
「続いて、根源魔法 強制転移」
以前は魔法の準備から発動までに相当な時間がかかったこの魔法も、今の私ならさっき人形セシルがフィアロを転送したより遥かに早く九天ルミナスへと送られていった。
「さて……待たせてごめんねミーリニアス」
「動けぬようにしておいてどの口がほざくか」
「動かなかったのはミーリニアスであって、私もミルルも何もしてないよ?」
人形セシルを傷つけたことは気にしない、そう暗に伝えたかったのだけれど彼女はそうでもないらしい。
自分が気持ち良く『私』の実力を上回り、辛酸を嘗めるように斬り伏せたはずの『私』が実は人形でしたという話なのだから、馬鹿にされていると思っても仕方ない。
何より彼女はミルルの扇子を脅威に感じて動けなかったのだから。
「……先ほどまでのそちは人形と申したな?」
「そうだよ。私の実力の百分の一もあればいいくらいじゃないかな」
「つまり、そちはあのセシルよりも百倍強いと申すか」
レベルだけで見ればそのくらいだけど、私があの人形に与えたスキルなどを考えればその程度では済まない。
加えて。
「さっきまでは我が家の騎士団しかいなかったけど、今度は私も奥さん連れてきたからね。世界中だって相手にしてみせるよ?」
「……その力を片鱗を見ている今では、世迷言をと虚仮にも出来ぬな」
管理者代理代行を引き継いだ時点の私のレベルは十万だったけれど、当然私とて遊んでたわけじゃない。
いやまぁ半分くらいは遊びだったけど。
当然奥さんたちも付き合ってくれるわけで……。
いろいろ研究や開発したりもしたしね。
でもその甲斐もあって。
「そちの奥方とやら一人一人が余と同等の強者ではないか」
ということである。
一番非力なキュピラでさえ、今ならアグラヴェインの威圧さえ涼風程度にしか感じないだろう。
「その通りなんだけど……まだ私が欲しいって言うなら私も私や奥さんたちのために戦わざるを得ないね。どうする?」
ここまで力の差を見せつけたんだし、いくらミーリニアスが強くても自分と同じくらいの強さの人を七人、更に遥かに格上相手を一人相手に戦えるはずもないでしょうよ。
「先ほどそちは余に敵わぬとわかっておった上で余の誘いを断り続けた。であれば、敵わぬとわかったからといって誘いの言葉を取り下げるわけにはいくまいよ」
……なんですと?
「いや……貴女は帝国の皇帝なんだから、命は大切にしなきゃ駄目でしょ」
「ふ……皇帝であろうとも、余は一人の魔王、そして一匹の獣よ!」
まるで消える直前の蝋燭の揺らめきを見ているかのようにミーリニアスは全身から力を溢れ出させてきた。
どうやら本当に引くつもりはないらしい。
「仕方ないね……じゃあ最後に相手をしてあげるよ!」
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