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 ドンドコドンドコ、燃えたぎる様な熱い太鼓の音が胸をそそる。灼熱の色をしたバイキン達が、丸くなった部屋の外側で太鼓を叩きまくっていた。その真ん中にいるのが、私達よりはるかに大きく、天井まで届きそうな程だ。蛇王様ってだけあって、やっぱりこう、凄味があるよね。これぞ、蛇に睨まれた蛙と言う奴か。運ばれてきたバイキンに投げ落され、ドシンッと一瞬地面が揺れた。痛い、お尻打った。


「学者さん、揺れたよ。重いんだね」


 同時に落ちた君も同罪なんだよ。


「そう」

「キキッ! キキキキッ!!」


 何だか投げて落としたバイキン達が怒ってる。手を蛇王様の方へと向けていた。そっか、私語厳禁ってね。ピンと真直ぐ立ち上がって蛇王様を見上げる。


「リック、何故またここへ戻ってきたのだ?」


 リック? あ、この子リックって言うんだ。思わずリックの方を見る。


「この人に落とされたんです」

「またか」


 また? もしかしてこの子、前にも落とされてたってこと?


「お前もよくやったもんだな」


 ああいや、見知らぬ土地に1人で行くって怖いじゃないですか? やっぱり知り合いがいないと。


「さっき会ったばかりだけど」


 1度会話をしたものは、私にとってみーんな知り合いなのよ。


「そうなんだ、初耳だった」

「お前は、何故リックを道連れにしてまでここへ来たのだ。道はもう1つあったはずだろう」


 はい。少しでもこの世界のことを知って、その情報を持ちかえろうと思ったのです。だから、全く情報の無いこっち側を。


「ほう。しかし、簡単にここの情報を持ちだされても困るのだ」


 私は風の噂でここの存在をおとぎ話の様な形で聞きましたが、古い文献に同じような情報が載っていまして。信ぴょう性はさほど感じられませんでしたが、こういった状況に遭遇した以上、どうせ生きて帰るのならば何かを得たいと思うのです。


「これを持ち帰ってどうするつもりだ。その体で」

「その体?」


 持ち帰ってどうこうするつもりはありません。それは後々必要となることなので。この世界が本当だと分かった以上、私はまず帰ってすることがあるんです。


「それは何だ。……と聞きたいところだが、何となく想像つく。お前のことだからな」


 お前のことって、この人私のこと知ってる感じ。昔ここに来たことあったっけ。蛇王様、私のこと知ってるの?


「お前達、覚えていないのか? ……そうだな、幼いころのことだ、仕方あるまい」


 お前達ってことは、リックのことも指してるのかな。そう思ってリックを見ると、同じことを考えているのか、リックと目があった。


「昔な。お前が、リックを突き落としたんだ」

「え……」


 うそ……目の前が途端に真っ白くなったみたいだった。リックは此処に落ちたって言ってた。その上、もうこの世に体は無い……と。つまり、私は昔強引に彼の命を奪ったってこと?


「へぇ。貴方。例の、あの人だったんだ」


 少し冷たい目。身に覚えはあるみたいね。


「まぁ、10年近く前のことだからな。こいつも10年で、霊なりに成長したぞ」


 ……彼は少ない食料でずっと働かされてたって聞きましたが。


「5歳くらいになってからな。1年くらい働いたが、こいつは頭が切れる、すぐ昇進したさ。そして14歳の今、自らの力で成り上がり、この世界を仕切れるまでになったんだ。今私の次に高い地位にいるリックに、私はこれ以上何もする気は無い」


 そうだったんですか……10年前なら、おおよそ10代後半のことなんだ。どうして記憶が無いんだろう。こんなにも酷いことをしているのに。


「記憶は、生き返った反動か何かで失われたのかもしれないな。何せあんなこともあった」

「あんなことって?」


 今度はリックが聞いた。蛇王様が1つ頷いて答えた。


「その時は丁度、此方の(しもべ)達がストライキを起こした時期でな。多くの僕達が一気に出たものだからトンネルが詰まってしまったんだ。そんな時、トンネルの前に来てしまったのが、この少年と、そのストライキに混じって此処をよじ登ってきたお前だ」

「よじ登ってきた? 学者さん、もともとこっちにいたの?」

「その顔は、まったく覚えていない様だな」


 私の方を見る。申し訳ない程に、全く身に覚えが無いんだけども……コクンと頷いた。


「お前は、俺の娘なんだ。つまり、もともとはこの世界での王女だったと言うことだ」


 ……は? どういうこと? 流石の私でも言葉を失った。


 でも、記憶が無いのは此処だけじゃ無かったんだよな。10代くらいの時、1度記憶を失った時があった。自転車で学校へ向かう時、単身事故起こして病院運ばれたことはあった。病室で目を覚ました時のあの家族に対する違和感が不思議だった。まるで知らない人達の様な感覚。でも、私のことを何度も呼んでくれる家族に、そんなこと言えなかった。


「起きた時、お前は見知らぬ家族から多くの愛情を受けたのではないか? その家族が、リックの家族なんだ」

「えっ」


 私もリックも茫然とした。開いた口がふさがらない。


 だって、当時の彼は3、4歳の子供で、あの頃の私は確か18。年だって全然違う。高校は丁度卒業した時で、大学進学はしてなかったみたいだから、学校とかは全然覚えて無いけど……自転車こいで事故ったって親から聞いた、あの記憶は?


「それはな、リックの記憶なんだ」

「オレの?」

「もともとこの世界にいたお前に、あっちの世界での居場所なんてあるはずが無いんだ。そんなお前に家族がいたのは、お前がトンネルを抜けてしまったことでこの世界でしか生活出来なくなったリックの記憶があるからだ。難しい話をしているかもしれないが、要するに、2人が入れ替わったってことなんだよ」

「……信じられない」


 リックは視線を逸らした。その表情は、絶望とか、悔しさとか、悲しさとか、色々な気持ちが混ざっているみたいだった。私も、どうしたらいいのかわからない。


 でも、どうして私は彼を見捨ててそんなことを。


「それが、さっきのストライキの問題に繋がってな。あの時、トンネルにいっぱいにいた僕

しもべ

達は、その時とても殺気立っていた。人でも無いものが、あそこを抜けられるワケも無いのにな。その時やってきたのがリックで、リックを見た僕達は、自分より先に行かせるものかと、リックに手を出そうとしたんだ。その時、丁度下からよじ登ってきたお前は、急いでリックの手を引くと、そのままリックを下へ落とした。お前は、下に落ちても怪我をしないことはわかっていたからな」

「それじゃあこの人は……」

「ああ、ひとまずはリックを助けようとしたんだ。そして、ストライキを止めようとお前は僕達の中に入って行った。だが、その量の多さにはどうしようもなくてな。僕の波に流され、お前はそのままトンネルの外へと出されてしまった」


 そして、本当はリックが帰るはずだった、家族の元へ……。


「そうだったんだ」

「娘が悪いことをしたな。しかし、私の知りうる限りでは、そう言うことなんだ。あまり恨まないで欲しい」

「まぁ、仕方ないよね。お姉さんは、死んでも消えないの?」

「消えはしないが、戻るなら早く戻った方が良い。あまりゆっくりしてると、戻れなくなるぞ」


 ねぇ、私じゃ無く、リックが戻ることは出来ないの? 私は目的さえやってくれれば、リックに任せて、後のことはリックにしてもらっても良いの。


「それは無理だ。お前は、生も死も無い存在だ。だから、リックの代わりにあの世界で生活することが出来た。だが、リックは人間だ。人間は、この世界で1度死んだら、戻ることは出来ないんだよ、生まれ変わらない限りはね。そういや、前に死後の世界から突然やってきて、此処へやってきた人間と一緒にトンネルを抜けてった変わった霊もいたな」

「オレは、こっちで1年以上も過ごしちゃったし、地位も上がったから。普通の霊だったけど、蛇王様に頼んでトンネルの監視者になったから。もう生まれ変わる権利も無い」

「第一、今代われたとしても、今のお前とリックの状況は変わらないんだ。これがどういう意味か、分かるよな?」


 痛いほどわかる。今彼が私になったとしても、もう……。


「よく分からないけど、帰るんなら帰った方が良い。恨んでは無いよ。ただ、家族がオレのことを欠片も覚えていない。それが悲しかっただけだから」


 そうだよね。育ててくれた親が、全く違う人を見て、子供だと言っている。考えただけで辛いよ。


「だからこそ、今、お前が考えていることは、帰って実行した方が良い。この世界に、希望を見出すものが来ない様にな」


 わかりました。蛇王様に言い、深く頭を下げ、踵を返してその場を去った。私が消えてしまう前に、帰らないと。


「待って」


 1人早歩きで向かう私を、リックが走って追っかけてきた。


「1人であの崖登れる? まぁ、昔登ったみたいだから出来ないことも無いだろうけど。時間かかると思うから、送ってく。1人じゃ、怖いんでしょ?」


 リックが儚げに微笑んだ。


 送るって……。そう言った頃には崖の前まで来ていた。


「オレ、何のメリットも無くここの監視者になったワケじゃないから」


 すると、リックと私の体が浮き上がり、エレベーターの様に簡単にトンネルの前まで上がってこれた。

 始めいた地点に戻ると、トンネルの前まで。みんな、此処がスタートで、この先の、出口まで行くんだ。そして、そこからがまた新たなスタート。


「送ってく、出口の手前まで」


 リックが言ってくれた。本当は優しい子なんだ。


 うん、有難う。本当にごめんね。ごめんじゃすまないけど……。


「ううん、むしろ、助けてくれてありがと。せめて、トンネルを抜けるまで聞かせて。貴方のこと」


 うん、私こそ。リックのこと、聞かせて。


 私達は、暗いトンネルの中へと入っていった。

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