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はずれ祝福持ちの私が、なぜかイケメン騎士団長に溺愛されているらしいです  作者: (さ)くま


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第12話 新シリーズ、開幕の予感

 討伐から数日が経ち、村にはようやく落ち着きが戻りつつあった。


 ――ただし、私の家だけは、一向に落ち着く気配がなかった。


「マイ、これを」


 初日は、花束だった。村の周辺には咲いていないはずの、見たこともない青い花を、包帯だらけの腕で恭しく差し出された。「野営中に見つけた」と言うが、どこの野営地に、こんな洒落た花が自生しているというのか。


「マイ、これも」


 二日目は、干し肉だった。「精をつけるべきだ」と言って、山ほどの干し肉を、私の腕が抱えきれないほど持ち込んできた。おかげで我が家の食料庫は、しばらく肉に困らなくなった。


「マイ、手伝おう」


 三日目は、まさかの畑仕事だった。まだ包帯の取れない体で、鍬を握ろうとする団長を、私は半泣きで止めた。「怪我人は寝ていてください」と何度訴えても、「動いた方が早く治る」という謎の持論を展開され、結局、畝の半分を耕されてしまった。しかも綺麗に。

 四日目、五日目も、似たような調子だった。花、食料、労働力、その他もろもろ。ヒース団長は律儀に――というより、もはや職務であるかのような徹底ぶりで、毎日欠かさず、私の元へと通ってくるようになっていた。


 負傷した騎士たちは、聖務院から追加で派遣された聖人たちの手当てを受け、日に日に回復していった。焼けていた雑木林も、あの謎の現象のおかげか、思ったより早く鎮火し、今では焦げた木々の隙間から、控えめながらも新しい緑が顔を覗かせ始めている。


 ――結局、あの日何が起きたのか、いまだに誰にもわかっていない。


 アダムさんをはじめとする聖務院の記録係が、何度も私に話を聞きに来た。「もう一度、同じ状況を再現できるか」と聞かれるたびに、私は正直に「わかりません」と答えるしかなかった。何しろ、当の本人が一番わけがわかっていないのだから、仕方がない。何度も何度も、あの日と同じように草を投げてみたけれど、地面が凍るような気配は、微塵も感じられなかった。

 ただ一つ確かなのは、あの日を境に、私に対するヒース団長の態度が、明らかに変わってしまったということだった。


「マイ、体調はどうだ。無理はしていないか」


 今日も今日とて、まだ包帯の残る腕で、彼は律儀に私の家まで様子を見にきていた。もう三日連続である。


「大丈夫です、団長。私はどこも怪我してませんし……」


「油断は禁物だ。あの日、貴殿はかなりの力を使ったはずだ。倒れられては困る」


「あ、あの、団長のほうこそ、まだ本調子じゃないのでは……」


「氷の君に心配してもらえるなら、この程度の怪我、安いものだ」


 ――いちいち、返しがキザすぎる。しかも呼び名が定着してしまっている。


 もはや慣れてきた自分がいるのが、逆に恐ろしい。あれから毎日のようにこの調子で、私は「命の恩人」「氷の君」呼びとともに、過剰なまでの気遣いを浴び続けている。村の人々は、微笑ましそうにこの様子を眺めているが、当の私は毎回、内心で叫び続けていた。


(近い! 距離が近いです団長! あと、氷の君呼びも、慣れる気配がないです……!)


 もっとも、口に出す勇気はまだない。命の恩人という、確定情報でもない評価を盾に、こうもぐいぐい来られると、押し返す気力が湧いてこないのだ。それに、悪い気はしない自分がいることにも、薄々気づいてはいた。認めたくはないけれど。


「そういえば、マイ」


 ふと、ヒース団長が思い出したように切り出した。


「近々、幼馴染が視察に来るかもしれない」


「幼馴染、ですか?」


「ああ。イドラヌ王国の王太子、パトリックだ。俺とは、子どもの頃からの付き合いでな」


 ――王太子。しかも、幼馴染。


 その単語の組み合わせに、私の中の何かが、静かに、しかし確実に、覚醒する音を聞いた気がした。


「切れ者で通っているが、俺の前ではいまだに、餓鬼の頃と変わらないところがある。……まあ、会えばわかるだろう」


 ヒース団長は、どこか懐かしそうに、それでいて少し呆れたような表情で笑った。その表情の端々に、彼が語る以上の、長い付き合いの気配が滲んでいる。


「幼馴染、で、王太子で……仲が良い、と……」


 自分でも、声が微妙に上ずっているのがわかった。


「ん? どうかしたか」


「い、いえ! 何も! 何でもないです!」


 全力で誤魔化しながらも、私の脳内では、すでに新しい物語が、猛烈な勢いで動き始めていた。


 ――幼馴染。子どもの頃からの付き合い。片や騎士団長、片や王太子。身分差。立場の違い。それでも変わらない絆。すれ違いそうで、すれ違わない信頼関係。ああ、ああ、供給が、供給が過ぎる。


(ダン×ヴォルフシリーズも大事だけど……これは、これは新シリーズを立てるレベルの案件では……!)


 脳内で、すでに仮タイトルまで浮かび始めている。『騎士団長と王太子――炎と氷の幼馴染譚』。安直だけど、悪くない。むしろいい。いや、団長の色は炎で、王太子は何色にしよう。あの人の瞳の色を、まだ知らないことに気づく。今度こっそり確認しておかなければ。設定資料は、細部まで詰めてこそ楽しいのだ。


 ――待って。待って私。今はそれどころじゃない。目の前で氷の君呼びしてくる団長本人のことも、ちゃんと考えないといけないのに。


 でも、こういう供給を前にすると、理性なんてあってないようなものだった。前世からの業が、こんな異世界に来てまで健在なのが、我ながら少し怖い。


「マイ、また百面相をしているぞ。何を考えている?」


「な、何も! 本当に何も!」


 誤魔化す私を、ヒース団長は不思議そうに、それでいて愛おしそうに見つめてくる。その視線から逃れるように、私はそっと目を逸らした。


 ――地味な祝福持ちの、平穏な田舎暮らし。そのはずだったのに。


 気づけば、私の周りには、押し売りの愛と、新しい供給の予感が渦巻いている。あの日凍りついた大地が何を意味していたのか、それを気にする余裕なんて、今の私には、正直、ほとんど残っていなかった。

 それよりも、頭を占めているのは、もっと差し迫った問題だった。


 ――王太子殿下、いつ来るんだろう。何色の瞳をしているんだろう。ヒース団長との掛け合いは、どんな感じなんだろう。ツンとした感じ? それとも懐いてる系? できれば両方見せてほしい。


 目の前で私を見つめ続けるヒース団長そっちのけで、私の思考は、すでに数日後の視察の日へと飛んでいた。パトリック殿下が到着した暁には、挨拶もそこそこに、まずは観察と設定収集に徹しよう。表面上は聖女らしく、しずしずと。でも内心は、全力で取材モードだ。


「マイ? また百面相が始まったが」


「な、なんでもありません! 王太子殿下がいらっしゃるの、楽しみだなって、それだけです!」


 半分は本当で、半分は真っ赤な嘘だった。楽しみなのは、殿下ご本人というより、殿下とヒース団長の間に横たわるであろう、あらゆる供給の可能性についてなのだけれど、そんなことは口が裂けても言えない。


 燃えるような夕焼け空の下、私は今日も、誰にも打ち明けられない野望を胸に、こっそりと拳を握りしめていた。


「マイの脳内妄想シリーズ」というタイトルで、ムーンライトノベルズに投稿しております。

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