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驚きの声を上げそうになったジェームズは、店員のどこまでも気さくだが真摯な態度に終始感心させられていた。
「実はここ宝石店エアリス・ジャーン本店には、最初は八宝石の八つは全て揃っていました。ですが、一つの宝石を残して、全部散り散りに売られてしまいました。あ、全部ではないですね。一つの宝石は、それがどんな宝石なのかも、どんな種類なのかも、また、どんな形なのかも、誰にも目に触れることもなく無くなってしまいました」
「無くなった?」
「ええ。決して目の前から消えたというわけではありませんが、最初から無かったのではと思えてしまうほど、ある日。忽然と消えてしまったのです」
「??? どうして、無くなったのですか?」
「それが、さっぱりわかりません。忽然と無くなってしまいました。もはや、この世から完全に消えたと言った方が良いかも知れません」
「……そうですか……ええと、八宝石を誰が買っていったのかは……勿論?」
「ええ。言えないのです」
「では、八宝石のことを詳しく教えて下さい。どうしても、私は八宝石を揃えてみたいのです」
「そうですねえ。最初に言えるのは、八宝石は八つ揃えればどんな願いも叶うと言われていますが……それが呪いによってだとしたら? お客様はどうしますか?」
「……」
「揃えない方がいいのかも知れませんよ。事実。あの宝石は八つ全部とはいえませんが……ここだけの話。ほとんどが血塗られた過去を持っているようですので」
「……構いません。聞くだけなら命に危険はないでしょうから」
「そうですか……それでは、それぞれの八宝石は、薄幸のダイヤモンド。笑うトパーズ。残酷なサファイア。真実のルビー。意志のターコイズ。情熱のガーネット。幸運のエメラルドと、いつの頃から、一つ一つに名前が付いておりました。あ、最後の宝石はただのクリスタルなんです。それだけ名前が付いていないのですよ。お客様。不思議に思われるでしょう。そうです、クリスタルです。あ、本当に八宝石には呪いがあるかもしれませんよ。それでもお探しになるというなら……イタリアにあるエアリス・ジャーン西店に訪れてみるのも、探し物の一つの道しるべになるのかも知れませんね」
「……ありがとう」
店から出ると、ジェームズは悩んだ。
自分はこのまま八宝石探しを続けてもいいのだろうかと……。もしかしたら徒労に暮れて、最後は呪われてしまうのがオチなのかも知れない。
だが、医者や医学に頼ることを止めて、どこかに祈祷者や呪術者などにしがみつくような方法も孫娘の不治の病を治すことができるとしても、八宝石と同じような眉唾物の話ばかりだろう。
古代のシャーマンが書き記したといわれる石版による呪術。
エジプトのピラミッドから発掘されたといわれる永遠の命を持つものの遺灰。
深海にあるといわれているアトランティスの宮殿に飾られた命の壺。
それらの伝説でしか、孫娘の不治の病は治せなかった。
「呪いか……八宝石を集めることは……果たして良いことなのだろうか?」
「あの? すいません。お願いがあります!」
その時、ジェームズはメインストリートで、佇んでしまっていた。
「いや、すみませんね。ちょっと考え事をしていました」
メインストリートのど真ん中で、頭を下げている相手に、ジェームズは片手を上げて、道を譲ろうとすると。
その女性はぶんぶんと横に首を振った。
「あ、そうではなくて……。ここの店の人にも言ったのですが、断れてしまいましたので。もう、手放すにはこれしかないのです。……先程、あなたはこの店の中で八宝石の名を言われましたし、きっとお詳しいのでしょうから。ですのから、この宝石を貰ってくださいませんか? お金は一ポンドたりともいりませんから」
「は?」
その宝石は、さっきエアリス・ジャーンの店員から聞いた八宝石の一つ『笑うトパーズ』という名の宝石と、全く同じ形状のネックレスタイプのトパーズだった。




