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火に問う  作者:
6/17

第六夜「星の観測者」

空には星が流れ、焚火はゆったりとしたリズムで燃えていた。4人が静かに”神と宇宙”について語っている最中、突然の声が夜の静寂を破った。

「――そう!その問いこそが、私が地上で裁かれた理由だ!宇宙には秩序がある、そしてそれを”観測”できるのだ!」

声とともに、重たげな望遠鏡を担いだ中年の男が木々の間から現れた。彼のローブはほこりまみれで、肩には長旅の痕跡が見えたが、その目は情熱に燃えていた。

アインシュタインは丸太に座ったまま、にやりと笑った。「ガリレオ…!あなたか。やはり現れましたね、宇宙を覗き込んだ最初の男」

ソクラテスは驚きの表情を隠しきれずにいたが、それでも歓迎するように身を乗り出した。「その声、まるで神々にさえ挑むようだ。君は一体何者だ?」

「ガリレオ・ガリレイ」男は望遠鏡を地面に立てかけながら答えた。「天動説を揺るがし、地動説を唱えた”異端者”です。星を見上げ、月のクレーターを数え、木星の衛星を追いかけてきました。私は神の創った宇宙を、肉眼ではなくレンズで見た者です」

プラトンは眉をひそめ、半ばあきれたような表情で言った。「随分と…勢いのある登場ですね」

「勢いなくして、教会も、偏見も、破れませんよ!」ガリレオは焚火に近づき、その温もりに手を伸ばした。「神を語るなら、まず神の書物である”自然”を読むべきです。天は語る、ただ耳ではなく、目で見よ!」

ソクラテスは少し微笑んで問いかけた。「だがガリレオよ、君の望遠鏡に”神”は映ったのかね?」

ガリレオは一瞬言葉に詰まり、火の揺らめきを見つめた。「神そのものは…見えませんでした。だが、神の思考の跡は確かにあった。月の凹凸、木星の衛星、土星の輪――完全なる天界という神学の幻想を、星々は否定していた」

「それは科学の美しさでもありますね」アインシュタインは静かに言った。「神話を壊すのではなく、“神の設計図”を解き明かす旅」

プラトンは両手を膝の上で組み、思索するような表情を浮かべた。「…しかし、それは”見るべきもの”ではあっても、“感じるべきもの”ではないか?」

「感じるだけで真理に届くのなら、私は火炙りにならずに済みましたよ」ガリレオは真顔で答えた。「私は神の存在を否定したことはない。むしろ、『宇宙こそが神の言語で書かれている』と言ったのです。だが教会は、神の沈黙よりも、自分たちの言葉を信じた」

「つまり、君もまた『問い』を重んじた者なのだな」ソクラテスはうなずいた。「我々と同じだ。沈黙の中に問う声を聴こうとする者」

「そうです。沈黙を恐れてはならない」ガリレオの声は柔らかくなった。「沈黙こそ、星々の語りなのです」

彼が望遠鏡を夜空に向けると、焚火の炎が一瞬だけ、青白く揺れた。その望遠鏡の先には、土星の環が、まるで宇宙の指輪のように輝いていた。

「科学が進めば進むほど、私は”神をより深く信じたくなる”」アインシュタインは夜空を見上げながら言った。「奇跡ではなく、調和。偶然ではなく、構造。私にとって神とは、宇宙が崩れずに存在し続ける理由だ」

「ならばこうしよう」ソクラテスは両手を広げた。「我々の問いに、天体の静かな運行が答えるなら――神はきっと、沈黙の中で微笑んでおられる」

「…そして、その笑みは時に、望遠鏡のレンズ越しに見えるのです」ガリレオは静かに言った。


 夜はさらに深まり、四人の思索者たちは、語ることなく天を見上げた。星は語らず、しかしその沈黙が、問いに満ちていた。

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