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火に問う  作者:
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7/17

第七夜「記述と後悔のあいだで」

星は高く昇り、焚火は静かに燃えていた。対話の熱もひと段落し、夜はより深く、静かに満ちていた。木々の葉が時折かすかに揺れ、星明りを反射していた。


プラトンが突然立ち上がり、ローブの裾を払いながら声を上げた。

「こうしてはいられない…!この夜、この対話、この知の交わり――すべてを記録せねば。さもなければ、この智慧の灯は、時間の海に沈んでしまう!」


ソクラテスはやれやれという表情で師弟子を見上げた。

「またか、プラトン。言葉を刻んだところで、魂には届かぬものだ。真理とは、生きて問う中にあると、あれほど…」


だがプラトンは勢いよく腕を振りながら反論した。

「師よ、それでも!誰かがこの夜を知り、問いを継がなければ、永遠の探求は止まってしまいます!」


ガリレオは望遠鏡の筒を調整しながら、肩をすくめて口を挟んだ。

「私はその考えに賛成だ。書き記さねば、星の名も、軌道も、神の沈黙すら消えてしまう。記録とは、宇宙に残す"人間の軌道"だ」


アインシュタインは丸太の上で身じろぎし、頷きながら微笑んだ。

「観測がなければ、存在もまた不確かになる。君の筆は、時空の座標系になるかもしれない」


プラトンは深く一礼し、星空の下へと歩き去った。その背中はまるで、知を運ぶ舟の船頭のように、まっすぐだった。


沈黙が戻る。三人だけの焚火。しばらくの間、ただ炎の音だけが響いていた。時々、火の粉が空へと舞い上がっては消えていく。


やがてアインシュタインが火を見つめながら、ぽつりと口を開いた。

「…君たちに話しておきたいことがある。ずっと…胸に残っていたことだ」


ソクラテスは顔を上げ、まっすぐアインシュタインを見た。

「ほう、ついに自分から語り始めるとは。その悩み、問うてみようか?」


アインシュタインは苦笑して頭を振った。

「いや、自分で問わねばならない。私は…あの方程式を書いたんだ。E=mc²――エネルギーと質量は等価であり、小さな物質も巨大な力を持つ」


ガリレオは焚火の火で浮かび上がる老科学者の表情を真剣に見つめた。

「それが…核爆弾の理論的基礎か」


「そう」アインシュタインはうなずいた。「そして私は、その可能性を知りながら、ある日、署名した。ルーズベルト宛の手紙――ドイツが原爆を持つ前に、我々が開発せねばならない…と」


焚火の火が、少しだけ揺れた。風ではなく、何か別のものが空気を動かしたかのようだった。


アインシュタインは声を落とし、両手で顔を覆いたくなるのを堪えるように、目を伏せた。

「結果、広島、長崎。数えきれぬ命が、私の理論の延長線上で消えた。私は引き金を引いていない。けれど、その銃を発明したのは、私だった」


ソクラテスは静かに、しかし確かな声で言った。

「それは、魂の問いだな。『知』は罪を生むか?『可能性』を示した者に、どこまでの責任があるか」


ガリレオは望遠鏡から目を離し、ゆっくりとアインシュタインの方に体を向けた。

「…我々も似たような苦悩を抱えてきた。天体の真理を語れば、異端とされ、知が恐れられた。だが、真理は語らねばならない。武器にするのは、いつも別の誰かだ」


アインシュタインは目を閉じ、丸太にもたれかかった。その肩には、目に見えない重みが乗っているようだった。

「それでも、私は祈ったよ。"どうか、この理論が、人を滅ぼすためではなく、守るために使われますように"と」


長い沈黙が訪れた。焚火の火は、まるで悲しみを知っているかのように、赤く、深く揺れていた。三人の影が、焚火の周りで静かに揺れていた。


ソクラテスは老いた科学者に柔らかな視線を向けた。

「君は、"知らぬことを知っていた"。だが、知らぬことに巻き込まれた。その後に問う姿勢を捨てていない限り――魂は、まだ旅の途中にある」


アインシュタインは静かに頷き、少し身を起こした。

「ありがとう、ソクラテス。私は今も問い続けているよ。"この宇宙の知識は、どうすれば人を救えるのか"と」


風が吹き、火は静かに強く燃えた。その炎が三人の思索者たちの顔を優しく照らす中、夜空に流れ星がひとつ、ゆっくりと横切っていった。

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