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Tale a1 聖騎士と騎士団(1)

本作品は自著『その日暮らしの召喚弓術師 ~五人の英傑と召喚士の脈動~』の外伝作品となります。前提として、本編の設定が何の前触れもなく登場することがあります。そのため、本編をある程度読み進めた上で読み始めることをお勧めします。


推奨:本編『Tale 27 青白の聖騎士』を読了

 クロス・ファンタジー。それは昨今、人気を博していた一つのVRMMOゲームだ。


 その世界ではある日、一つの大型イベントが進行していた。ギルドと呼ばれるプレイヤーの集団同士で城を攻め落とすという、攻城戦と呼ばれるものだ。


 それが終わろうとしていた時のことだった。一つの古城で正体不明の闇の禍々しい渦が、そこにいたゲームプレイヤーを襲った。


「おい、どうなってるんだ!?」


 必死に抵抗していたのは、弓術師と呼ばれ、雷帝という異名を付けられていた、ライという少年。足元の渦に呑み込まれかけていた。


「ちょっと……抜け出せない!」


 聖賢という異名を持つ女セリカも、彼と同じ有様だった。


 戦いを共にした総勢五名のギルドメンバーは次々に声を上げるが、渦の力は一方的に働く。


(これは……一体何なんだ!?)


 そのギルド【聖光の五英傑ホーリー・クインテッド】のマスターであるグランには彼らの様子が見えていたが、彼もまた何もすることはできなかった。


 順々に呑まれていく中で彼が最後に見たのは、自分よりも後に呑まれようとしていたライの姿だけ。


 意識は段々と切り離されていった。




 グランが目を覚ましたのは、それからどの程度時間が経ってからだろうか。彼は短い草の茂った斜面に倒れていた。


「……ここは?」


 彼の目に最初に映ったのは、広々とした青空。


 何とか立ち上がろうとすると、


「うわっ!?」


 足を滑らせ、斜面を転げ落ちた。


 唯一無二の、クロス・ファンタジーで聖鎧と謳われていた鎧は、傷物になってしまった。


「いたぁ……。何であんな場所で俺は寝ていたんだ」


 鎧の汚れを落としながら、グランは立ち上がる。全身に強く重量が掛かったのを感じた。


(心なしか、重い……)


 自分の感覚が鈍ったかと思っていたが、


(まさか、この鎧か?)


 と答えはすぐに出た。


 しかし、それは疑問としてしばらく残り続ける。


 クロス・ファンタジーでは、重量をあまり感じなかったからだ。もちろん物によって差異はあるが、鎧と言っても走れなくなるほど負荷がかかる訳ではなかった。


 そんなことを思い出していると、自身が気を失っていた理由も思い出した。


(あいつらはどこにいる?)


 周囲に仲間はいなかった。状況が掴めず、グランはその場に座り込んだ。


(変だな……。適当な場所に転移させられた? 一体何の目的で?)


 グランは小さく唸る。


(だが、ゲームにしては感触が妙にリアルだ。なんだ、この違和感は……?)


 手を強く握ってみる。


 近くの草を毟ってみる。


 腕を(つね)ってみる。


「あり得ない……」


 それだけ呟き、グランは放心しかけていた。流れて行く雲を呆然と眺めていた。


 察しの良い彼は、既に自分のいる場所がクロス・ファンタジー内ではないことを悟り始めていたからだ。


 彼にはまだまだ現実(リアル)でやりたいことがあった。し足りないことがあった。


 ゲームに没頭したいと思ったことはあっても、その世界の住人になりたいと願ったことは一度もない。


 まさに今の状況は不本意そのものだった。


 だから、グランは自分たちを襲った出来事を振り返り、


(あのわけの分からない現象が原因……だな)


 渦の原因を究明することから始めようと決心した。


(さて、最寄りの街にでも行くか)


 いくら元の世界に帰りたくても、焦ってそれが早まるわけではない。


 情報収集のため、まずは目の前に広がる草原を歩き回ろうとした。


「全員、戦闘態勢に入れ!」


 そんな時に、士気を高める男の声が背後から聞こえた。


「なんだ?」


 物騒と思いながらグランは振り返る。正確には声は、先ほど転がって来た斜面の上からだった。


 装備品の重量に苦労しながらも、グランはそこを登る。


 鉄の剣を振る数人の鎧姿の男たち。彼らが相対していたのは、見た目に難ありの虫型モンスター。


 蜂に似ていて、男たちはそのモンスターが持つ針に警戒していた。


「うわあっ!?」


 一人が蜂型モンスターの動きに翻弄され、尻餅をついてしまった。


「大丈夫か!」


 彼の悲鳴に反応したのは、より目立った外装の男。三十代ほどで、この集団をまとめ上げるリーダーに見えた。


「副団長、もう駄目です!」


 また別の男が、リーダーに向かってそう言い放った。


「くっ……。やはり今の騎士団では……」


 状況の確認をすると、何人かの団員は地に伏していた。青ざめた顔に、全身の痙攣。蜂型モンスターの麻痺毒による症状のようだ。


 副団長の男は自分が相手していた敵を斬り、


「撤退だ! 手の空いている者は倒れている者を担げ! 私が敵を引き付ける!」


 と告げた。


 各員はすぐに行動に移った。団を形成していて、訓練された者たちだ。その姿に躊躇いはなかった。


 その様子を斜面から覗き見ていたグランは、慎重に判断していた。


(どう見ても、モンスターに襲われている……な)


 落ち着ける状況、少なくとも人の集落に辿り着くまでは余計なことに首を突っ込まないでおこうと決めていたのだが――。


 片方はモンスターの群れ。片方は武装を整えた人間の集団。グランは不安を感じていたが、騎士団という響きから彼らに加勢することにした。


(やってみるか)


 グランは鞘から聖剣を抜いた。クロス・ファンタジーにいた時と同じ輝きを放つそれと聖鎧、そして聖盾だけが、今の彼の味方だった。


 踏み出して斜面を上り切ると、開けた平地が見えた。


 既に騎士団は撤退の最中。副団長が険しい顔で蜂型モンスターを次々に相手取っている。――がしかし、彼一人では役不足だった。


 グランは聖剣を構えながら無言で駆けた。


 剣を合わせるだけで、蜂型モンスターは緑の体液を撒き散らしながら真っ二つに切断された。


(こんなものなのか……!)


 クロス・ファンタジーで無類の強さを誇っていた聖剣で斬ったと言えども、グランは用意周到で警戒心の強い男だ。


 騎士団の実力が分からないため、蜂型モンスターの危険度を未知数に想定して臨んだが、あまりの軟弱さに驚愕した。


 騎士団員は突如現れた眩しい聖騎士に、目を奪われていた。撤退という命令を忘れるほどに。


 副団長もグランの存在には驚いた。蜂型モンスターを相手しながらも、彼を一瞥(いちべつ)していた。


 副団長が蜂型モンスターの相手に手こずる中、グランは次々に斬り捨てた。その度に、周囲の騎士団員が騒ぐ。


 だが一度だけ、グランは攻撃を許してしまった。背後から急接近する蜂型モンスターに気付いた時には、毒針は背中に刺さろうとしていたが、聖鎧の頑丈さに返って針が欠ける事態に。ゆえに大事には至らなかった。


 最後には、グランと副団長は残りの二匹の蜂型モンスターをそれぞれで斬った。


「「ふぅ……」」


 同時に一つ息を吐いて剣を収めようとした二人。


 その直前に、より巨大な鉢が接近したために再度剣を構えることになったが。


「キラークイーンか! 女王蜂が自ら表に出るなど珍しいこともあるものだな」


 副団長は稀に見る女王蜂に対して、固唾を呑む。


 グランは自分の隣で語られていることを完全に理解はできなかったが、ボス級のモンスターが目の前にいることだけは分かった。


 そして肩の力が抜けない副団長の様子から、


「私が相手をしましょう」


 と前に出た。


「し、しかしこれは我々の問題……」


「誰が抱えている問題であろうと、今の私にできることはそこに手を差し伸べることだけ。あなた方は離れていて下さい」


「……了解した。どうか、ご武運を」


 副団長が後ろに下がると、グランとキラークイーンは睨み合う。


 短く息を吐きながら、彼は斬りかかった。


(硬い……!)


 働き蜂とも言える先ほどまでのモンスターとは異なり、キラークイーンの外皮は頑丈だった。


(しまっ……!)


 そんな驚いているグランに、蜂の太く長い針が襲いかかった。


 なんとか聖盾を合わせて防いでいるが、


(同じ力関係だと……!?)


 グランの腕は震えていた。


「くっ……」


 声を漏らしながら、体重を掛けてキラークイーンを押し返す。


「時間は掛けていられないな」


 グランは作った隙で背後の団員の様子をうかがった。


 キラークイーンに恐れているのか、グランの身を案じているのか、不安げな顔の者ばかりだ。


 グランは目を瞑り、意識を聖剣に集中させる。


 不思議と体内を巡る物、すなわち魔力が腕を伝って、聖剣がそれで満たされていく。


 キラークイーンは離された距離を不乱に詰めようとしている。


 その気配を感じ取り、


「【聖なる輝剣(ホーリーブレイド)】!」


 聖なる力を強めた一撃が女王蜂を裂いた。

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