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英雄王、武を極めるため転生す ~そして、世界最強の見習い騎士♀~  作者: ハヤケン
第二部

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第496話 16歳のイングリス・和平交渉5

「ふっ……確かにお前程の女、ただ口で言った所でハイそうですかと手に入るわけがねえか……! まずはお前の近くをうろついて、顔見ても平常心でいられるように慣れさせて貰うとするか……!」

「それは、ラニ達の迷惑にならない程度にご自由になさって下さい。挑戦はいつでもお待ちしていますので」

「つ、つまりレダスさんとか近衛騎士団の人達みたいなクリスのファンが増えるって事……かな?」

「とにかく戦えないならお腹のほうが空いたし、食堂に戻って何か食べよう、ラニ」


 まだ少し不満顔のイングリスは、武公ジルドグリーヴァにくるりと背を向ける。


「……それはそうね! ね、メルティナ?」

「ええ、お腹は空きましたね……!」


 そう言い合って、イングリス達が引き上げようとした時――


「ほっほっほ。これこれは、随分とお美しくご成長なされたものですなあ」


 横手から、落ち着いた老紳士の声がする。


 見るとそこには声の印象とぴったり一致するような、口髭の老紳士然とした天上人(ハイランダー)の姿がある。


「じい!」


 武公ジルドグリーヴァの側近の老紳士だ。

 しかも天恵武姫(ハイラル・メナス)に酷似した武器化の能力を持っている。

 その威力は武器化した天恵武姫(ハイラル・メナス)のエリスの刀身を砕くほどで、極めて強力だった事は忘れようがない。

 本人曰くハイラル・メナ爺との事だが、何がどう間違ってそうなるのかは全く不明だ。


「カラルドさん。お久しぶりです」

「これはどうもご丁寧に。それにしてもお美しく成長なさいましたが、いやに急激ですなあ。驚きましたぞ」

「ええまあ、元々この姿なのが戻っただけなので。ところでよろしければわたしと手合わせして頂けたりは――?」

「ほっほ! いえいえ滅相もない、坊ちゃんと互角に渡り合うあなたに、私などではとてもとても……!」


 割と強めに首を振られてしまう。少々悲しかった。

 本人は天恵武姫(ハイラル・メナス)と同等の能力を持っているのだから、単体の戦闘能力も同等以上のものを期待できると思うのだが。


「しかし少々困りましたなあ、せっかくの贈り物の丈が合わなくなってしまいました」

「あぁ。そういやそれがあったな」


 武公ジルドグリーヴァがぽんと手を打つ。


「贈り物?」

「ええ、これなのですが――」


 老紳士カラルドがパチンと指を弾く。


 ドゴオオォォッ!


 上空から物凄い勢いで落ちてきた何かが、地面に激突して大きな音を立てた。

 重い衝撃が地面を抉ってひび割れを起こさせるくらいだ。


「きゃあっ……!?」

「な、何か落ちてきたわよ!?」

「すごい衝撃ですわ……!」


 しかしそのひび割れの中心にあったのは――


「えぇっ!? 子供の服? 可愛いけど、可愛くない音立ててたけど……!?」


 ラフィニアの言うとおり、その重量感とは全く似ても似つかない、薄桃色で格子柄の可愛らしい子供服だった。


「ええ、今回面白い素材が手に入りましたのでな。超重量のお洋服をお召しになる事で、イングリス様のより一層の鍛錬になればとの坊ちゃんのお考えでして――」

「では、わたしのために……?」

「そのつもりでしたが、こんなにもご成長されているとは予想外でしたな」

「これじゃあ使えそうにはねえなあ」


 武公ジルドグリーヴァはそう言って後ろ頭を掻く。


「いえいえ! 何なりと使いようはあるはずです。触ってみても構いませんか?」

「ああ、勿論だ」


 イングリスは地面に鎮座している超重量の子供服を手に取ってみる。

 持ち上げるだけでかなりの手応えがあり、ずっしりと重い。

 これは確かに身につけていると、かなりの鍛錬になりそうだ。

 いつも行っている自分自身に強烈な重力負荷をかける魔術と掛け合わせれば、更なる相乗効果も期待できるだろう。


「おぉ……すごい……! 凄くいいですね、これは!」

「そんなに重いの? すごい?」


 ラフィニアが星のお姫様(スター・プリンセス)号から降りて、近くにやってくる。


「うん、持ってみる?」


 イングリスはひょいと薄桃色の子供服をラフィニアに手渡す。


「きゃーっ!?」


 ゴツン!


 重過ぎて持てずに、また地面に落ちてしまう子供服。


「な、何よこれぇ……!?」

「本当に凄い重さね……!」

「持ち上がりませんわね……!」


 レオーネとリーゼロッテも持ち上げようと試みるが、持ち上がらない様子である。


「ありがとうございます。これは訓練が捗りそうです!」


 イングリスは笑顔で武公ジルドグリーヴァの手をぎゅっと握る。

 実戦に勝る修行は無いが、かと言って日頃の基礎的な修練を疎かにするのも違う。

 この超重量の服は、後者の方で役に立つ事請け合いである。

 今の体には合わないが、仕立て直したりすれば使えるはずだ。

 武公ジルドグリーヴァとの手合わせが出来なかったのは残念だが、これはこれで嬉しい贈り物である。


「お、おう。まあ気に入ったなら何よりだ……しかし、俺のほうの訓練はこりゃあ長くなりそうだぜ……」


 イングリスに手を握られ笑顔を向けられた武公ジルドグリーヴァは、どこか緊張気味にそう述べていた。

ここまで読んで下さりありがとうございます!


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