第361話 16歳のイングリス・お見合いの意味13
「もう殆ど見えないです……っ!」
「安心しなさい。私も大して変わらないわ……見えるだけで、反応できるかと言われると……ね。だけどあの子が、天上領の大公とまで互角と戦えるというなら……」
世界を変え得るのかも知れない。と、エリスは思う。
イングリスにはまだ天恵武姫である自分やリップルを使って戦力を増す事も出来るのだ。
その増強の度合いは、半端ではない。
今より更に比べ物にならないほど強くなるだろう。
武公ジルドグリーヴァもまだ全力でないであろうとは言え、イングリスが全く通用しない、勝てないとも思わない。
だとしたら――
イングリスは最高級の天上人をも倒し得るというのなら。
エリスの思っていた世界。
地上の国や人々は、多少の無法や理不尽は飲み込んで、天上領に従属する他に生きる道は無いという世界は、実は違うのかも知れない。
イングリスは聖騎士とは違う。
天恵武姫を振るっても命を失う事は無い。
その力を天に向ける事も、不可能ではないのだ。
「互角だったら……何かいい事があるんですか?」
ラフィニアがエリスの言葉の続きを待っていた。
まさか天上領とも戦い得ると口に出すわけにもいかない。
「いえ、まあいい相手と戦えて何よりねって」
伝令役としてここに来たのは、任務の都合による完全な貧乏くじだったが、この戦いを見られたのは良かったかも知れない。
自分達と天上領の力の差が、最強の戦力と言う意味ではそう変わらない。いやむしろこちらが上回るかも知れないという事が分かった。
これはとても大きな発見だろう。
セオドア特使をはじめ三大公派はカーラリアにとってはある程度友好的であるため、事を構える必要は感じないが、だが、知っておくのは無駄にはならない。
「何よりじゃないですよぉ! このままじゃ城が壊れちゃう!」
「ははは……それはそうかもね」
「ほっほっほ。そうなればお詫びは致しますのでご容赦を。武公様のあれほど楽しそうなご様子も何十年ぶりか分かりませんので、是非このまま心行くまで戦闘行為を堪能差し上げて頂きますようお願いいたします」
老紳士カラルドの言う通り、武公ジルドグリーヴァは弾幕のように拳を繰り出しながら哄笑する。
「はははははははははっ! やるじゃねえか! 幼女ぉ! 名前は何つったか?」
「イングリス・ユークスと申します」
イングリスも拳を無数に繰り出しながら応じる。
「おう! 俺はジルドグリーヴァ! 天上人だ! 三大公だ武公だなんだと言われちゃいるが、戦のねえ天上領じゃあ、武力担当なんざ冷や飯食いの窓際族よ! おかげで自分の修行に専念できるわけだが、たまにゃあ実戦で成果を試したくてな! 悪いが邪魔させてもらったぜ!」
「邪魔などと、とんでもありません! 先程も申し上げましたが、ようこそおいで下さいました!」
「はっはは! いいねぇお前とは話が合いそうだ、イングリス! さすが天恵武姫を使って虹の王を倒したなんてぶっ飛んだ奴は、頭の中もぶっ飛んでるな! だってそうだろ……!? 天恵武姫を使って生きてることが、もう異常だからな……! それにこんな幼女とは、見た目までぶっ飛んでやがる!」
「姿のほうは少々事情がありますが、概ね間違ってはいませんね!」
「お前を倒せりゃ、俺も虹の王を超えられたってわけだ! そういう奴がいるのは助からぁな!」
「自ら虹の王に挑戦はなさらないのですか?」
「してえのは山々だが、俺も天上人だからな、あれにゃ近づけねえわけよ。魔石獣化しちまったらマズいだろ?」
「ああ、なるほど……!」
「仲間の天上人に喧嘩売るわけにもいかねえし、お前みたいなのを待ってたぜ俺は! 生まれて来てくれてありがとさん!」
「こちらこそ!」
ドゴオオオオオオオオォォォォンッ!
これまでで最大の衝撃波が、またラフィニアをこてんと転ばせた。
見かねたエリスはラフィニアを抱き上げて、そのまま抱っこしている事にする。
「わっからねえ! こんなちっこい体で俺と互角に殴り合ってるのに、魔素も奇蹟も感じねえとは、意味不明だ! 体は光ってるから何かあるはずなのに、それが何かが分からねえ! だがそこがおもしれえ! ははははははっ!」
それはイングリスは霊素殻を使っているのだが、武公ジルドグリーヴァには霊素を感知することが出来ないからだろう。
だがその疑問は、こちらも同じ事だった。
武公ジルドグリーヴァには、何の魔術も発動しているような形跡がないのである。
例えば大戦将のイーベルは魔素精練なる技術で高出力の魔術を行使して戦闘を行っていた。
他の天上人も戦闘には魔術を使っていた。
天上人は地上の人間より遥かに強い魔素で、魔印武具など必要とせず魔術的現象を操る種族のはず。
武公ジルドグリーヴァにはそれを感じない。
いくら5、6歳の幼児の体になったとはいえ、こちらは半神半人の神騎士である。
しかも霊素殻を発動して、大幅に身体能力を引き上げている。
それとまともに殴り合っているこの状態。
それが彼の場合、何の魔術的現象も無くそうしているように感じる。
つまり単に彼の体が強靭だから――のようにしか思えないのである。
これは逆に驚異的な事だ。
そんな事があり得るのだろうか。
あの神竜フフェイルベインですら、竜理力を駆使しなければイングリスとまともに殴り合う事は出来なかっただろうに。
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