第266話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)39
「しゃ、喋ったわ……! あたしにも聞こえた――!」
「私にも聞こえたわ……!」
「わたくしもです――!」
「やはり人の言葉を――では今話したのは、イーベル殿……!?」
「「「えええぇぇっ!?」」」
ラフィニア達がそろって驚きの声を上げる様子に、フフェイルベインの姿をしたイーベルは勝ち誇ったように一つ頷く。
「そう簡単にやられると思ったか……!? 残念だったな――! 僕が何のためにあのガラクタに意識を宿していたと思う……!? 途中でお前達もろとも自爆させず、わざわざあれを引き上げたのは――!? 全てはこの『精神剥奪法』を完成させるためさ……! 意志ある者の精神を、自分の意識で奪い取る……! 神竜とは誇り高く傲慢な存在だよ。決して人の言いなりになどならない……! 対話よりもこちらの方が手っ取り早いのさ!」
「なるほど――イアンさんにあなたの意識が宿っていたのはその実験のため。そしてイアンさんが姿を消したのは、成功した実験の成果を引き上げるため――」
「そういう事だ……! この機竜は王都の地下に潜ませていたから、準備が整うまでお前達をこちらに近づけないよう、誘導もさせたかな――!」
「あ、そうか……! それでプラムが浚われたのね……!」
「プラムがいなくなったら、私達は必ずリックレアの方に取り返しに向かう――という事ね……!」
「わたくし達はまんまと狙いにかかっていたというわけですか――!」
「まああの女が……ティファニエが予想以上に不甲斐なかったせいで、お前達に神竜を掘り返されていたのは想定外だったが――今狙い通りこの状態に辿り着いているのだから、不問にしてやってもいいかも知れないな……! はははははっ!」
「――おめでとうございます。では早速その成果を試してみては如何でしょう? ここにいい実験台がいますので、お相手させて頂きますが――?」
と、イングリスは自分の胸に手を当てて呼びかける。
フフェイルベインの肉体を手に入れたイーベルなど、最高である。
中身が彼ならば、再びイングリスと戦ってくれるに違いない。
「くくく……焦るんじゃない。これだけで終わりと思ったか? お前も言っていたじゃないか――神竜をも超える力を……とね。黙って見ているんだな――」
「おお……!? それは済みませんでした――楽しみにしています!」
「ふん……! 嬉しそうにして――! すぐにその顔を恐怖と絶望に染めてやる! 覚悟しておけ……!」
「――はい! 分かりました!」
イングリスは期待に目を輝かせて、声を弾ませる。
「全くふざけた奴だ……! 忌々しいことこの上ない!」
フフェイルベインの肉体をしたイーベルはそう吐き捨てると、近くの偽の虹の王に指令を出す。
「さあ機竜よこちらに来い! 天上領の未来のため、我が教主様をお守りする盾となるんだ……! ここに、守護神の誕生だっ!」
カッ――――!
イーベルが機竜と呼んだ偽の虹の王が、激しく眩く輝き始める。
その中で機竜の体のあちこちから無数の細い腕のようなものが伸び出して、フフェイルベインの体に巻き付いていく。
すると激しい輝きは神竜の体をも侵食し、二体が共鳴するように光を増していく。
もう、目を開けて見ているのが困難なほどだ。
「ま、眩しい……! 目を開けてられない――!」
「ラニ、無理に見ちゃダメだよ。下を向いて、地面に映る影だけ見ればいい――! レオーネもリーゼロッテもね……!」
「わ、分かったわ――!」
「そうさせて頂きますわ……!」
地面に映る二つの巨体の影は、機械が軋むような駆動音や、生身の者同士がぶつかり合う鈍い音や、何かをかき混ぜるようなグチャグチャとした音や、さまざまな種類の音を複雑に絡ませ合いながら、一つになって行った。
一つの姿がはっきりしていくと共に、激しい光は少しずつ薄まり――
やがて、イングリス達の目には、一つになった更に巨大な姿だけが残っていた。
「おお……凄い――!」
基本的な姿は神竜フフェイルベインのそれだが、各部の関節や頭部の要所要所が、強固な装甲で補強されている。そしてその分手足は長くなり、直立も出来そうな体格に変化していた。
機械化された部分からはいくつもの砲門が突き出し、天上領の飛空戦艦も顔負けの重装備である。
特に両肩から突き出した二門の砲門の巨大さは圧巻で、フフェイルベインの竜の吐息をも上回る破壊力を秘めていそうである。
全身から感じる竜理力の強さも一段と増し、そこに更に天上領製の技術由来の魔素も絡まり合う、確実に進化した姿だった。
「な、何あれ……!? 竜さんと天上領の戦艦が合わさったみたいな……!」
「す、凄い迫力だわ……! これが天上領の本当の力――!?」
「こ、これがあの方の狙いでしたのね……!」
ラフィニア達はその姿に圧倒され、立ち竦んでしまっている様子だった。
「どうだ……!? これが伝説の神竜をも超えた力――フフェイルベインを素体とした機竜。いわば、機神竜とでも言った所だな……! 我が教主様をお守りする盾として、相応しい力だよ――! あの方は神竜を兵器化するなど罰当たりだと仰るかも知れないが、使えるものは何でも使って、あの方をお守りするのが大戦将の務めだ!」
機神竜は機械仕掛けになった拳を強く握り締め、イーベルの言葉を紡ぎ出す。
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