第267話 15歳のイングリス・神竜と老王(元)40
「ふふふふ……素晴らしいです――見た目も迫力があって格好良いですし、確かな力を感じますよ……! 相手にとって不足はありません――! さあ、喜んでお相手させて頂きます……!」
せっかくこの手で鍛えた竜鱗の剣の試し切りの相手として、この機神竜は申し分ない。
フフェイルベインを超える力を持つのは確実。
そしてフフェイルベインを超えるならば――前世から通して見ても、最強の敵である可能性が高い。
この戦いは、必ずイングリスに更なる成長をもたらしてくれるはず――
これは武者震いを禁じ得ない。本当にアルカードまでやって来て良かった。
「はああぁぁぁっ!」
霊素殻を発動しつつ、星のお姫様号を飛び降りて機神竜の正面に立つ。
握り締めた竜鱗の剣にイングリスの霊素が浸透するが、今のところ破壊される様子は無い。
どれ程の強度を発揮してくれるか――? 威力のほうは――? これも楽しみ過ぎる。
「さあ、どこからでもかかって来て下さい!」
イングリスは身の丈程もある竜鱗の剣を軽々肩に担ぎ、いつでも打ち込めるように構えを取った。
「くくく――今更お前如きが機神竜と戦いたいだと……!?」
「はい! 決して損はさせません――!」
「身の程知らずが――ッ!」
機神竜の肩の主砲を除いた全身の砲門から、光弾が一斉に打ち出された。
ドガガガガガガガガガガガ――――――ッ
圧倒的な数がイングリスの周囲に着弾し、雪や土を舞い上げて視界を覆い塞ぐ。
だが図ったようにイングリス自信には着弾して来ない。牽制目的なのは明らかだった。
ただの牽制でこの威力。嫌が応にも期待は高まり、そして――
視界が晴れて、イングリスが前を見ると――
機神竜の姿は遥か遠く――高い空に消えて行こうとしていた。
「え……!? あ、あの――!? どうしたんですか!? 何処へ――!?」
「天上領に帰るんだよ! 言ったろう!? 機神竜は大公派の連中から教主様をお守りする盾――貴重な戦力なのさ……! 単なる雑兵であるお前となど、戦っていられるか! こちらに何の得も無いんだよ! 身の程を知るがいい――!」
先程身の程を知れとイーベルが言ったのは――機神竜となり気が大きくなって、今の自分の方が強いと誇りたかったのではなかったのだ。
どうやら戦う価値が無く、そのつもりも無いという意図だったようだ。
イングリスとしては、イーベルの性格から前者だと思い込んでいたが――まんまと裏をかかれた。
「ず、ずるいですよ……! わたしの手出しだけ封じて、戦ってくれないなんて――!」
「知った事か! そんな約束などした覚えはない! 悔しがるお前が見られて、こちらは気分がいいよ! はーっはっはっはっはっはっはっはっ!」
イーベルの高笑いが尾を引くように残りつつ――
その姿は遥か高く、雲の中に消えて行ってしまった。
「ううぅ……そ、そんな――せっかく作った剣の試し切りはどうなるんですか……?」
イングリスはしゅんとして、その場にがっくりと膝をついた。
ラフィニアは星のお姫様号を降り、イングリスの横にすっと近寄った。
「あーあ。あいつの言った通りになったわね――」
「え?」
「お前の顔を恐怖と絶望に染めてやる――って。少なくともクリス、いい感じに絶望してるわよね? まあ元気出しなさいよ、よしよし」
今日は珍しく、ラフィニアがイングリスの頭を撫でて慰めてくれた。
「……ラニ、わたし――生き方を間違えたかもしれない……」
「いや、知ってるけど――? 今さら気づいたの?」
「ある程度偉くないと、相手してくれないっていう場合もあるんだね――あの機神竜と戦いたかったら、自分の国を作って天上領と戦争するくらいしないとダメなのかも――少なくとも騎士団長にはなっておくべきだったのかな……?」
「こらこらこら――根本的な間違いがそのままだから、それは。止めなさい」
「うぅぅぅ……じゃあ、ラニが偉くなって機神竜と戦わせてくれる?」
「いやいやいや――だったらラファ兄さまと結婚して侯爵夫人になればいいんじゃない? 兄さまの方が偉くなってくれるわよ?」
「やだ! わたしは結婚とかするつもりはないから――」
そこへ遅れて、レオーネとリーゼロッテがやって来る。
「ま、まあとにかく――あの様子だと戻って来そうにないし、これはこれで悪くない結果だったんじゃない? もう食料も大分蓄えられているし、暫くは大丈夫だわ」
「ですわね。イングリスさんの言う通り、あの竜の影響でこの土地の気候が厳しいのでしたら、いずれはここから引き離す必要がありましたし――」
「そうよね。あのままならクリスが連れて帰って飼うとか言い出しかねなかったし――竜さんは可哀想だったけど、これで良かったのよ。この先リックレアが復興して、土地も暖かくなって作物がいっぱい取れるようになったら、イアンくんも浮かばれると思うわ」
「ええ。きっとそうね――」
「それが、あの方の一番の望みのはずですものね……」
ラフィニア達はしんみりとした雰囲気で、機神竜の飛び去った空を見つめている。
その様子を見ていると、これ以上何も言えない。
イングリスはただ深く大きくため息をつく。
「はあ……戦いたかったなあ――機神竜……」
「まあまあ、もう行っちゃったんだから諦めなさいよ。ほら、プラムの様子も気になるし、戻るわよ! 憂さ晴らしにその後いっぱいお肉を食べればいいじゃない! 嫌な事は美味しいごはんで忘れるのよ!」
「……そうだね――そうする! もう容赦なく食べて食べて食べまくるから!」
「うんうん! あたしも付き合ってあげるわ!」
その様子を見て、レオーネとリーゼロッテはひそひそと話し合う。
「いつも容赦なんてしてるのかしら――?」
「さ、さあ……あの二人のお腹の事は、わたくし達には分かりませんから……」
ともあれ、イングリス達は野営地へと戻る事にしたのだった。
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