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第9話 お返しに

<第9話>


「うう・・・」


 凛は朝から胸の高鳴りが止まらなかった。

 いや、正確には前の晩からだろうか。


「お母さん、髪の毛とか変じゃない?」

「大丈夫よ。今日も可愛いわ。私の自慢の娘だもの!!」


 甘やかしすぎである。

 とはいえ、凛は今日も凛々しく、そして可愛らしい。


 今日は3月14日。

 要するにホワイトデーなのだ。

 これまた日本の製菓メーカーの陰謀だなどと野暮なことを言ってはいけない。


「じゃ、じゃあ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃい。ファイト!」


 いつものように隣家にすむ敬を迎えに行く凛。

 実に甲斐甲斐しい。


「おはよう、凛ちゃん」

「おはよう、敬」


 交わされるさわやかな朝の挨拶。

 二人にとっての変わらない日常。

 すでに熟年夫婦の貫禄すら見えそうだ。


「すっかり春めいてきたねえ」

「そ、そうね・・・」


 確かに三月も半ばで、日差しはだいぶ春めいてきた。そこかしこに緑色が見えるようにもなってきている。

 だが、凛にはそんなものは見えていない。


「落ち着くのよ、私。まさかこんな朝から、しかも登校途中にくるわけなんてないんだから・・・」


 表情だけは平然としたものだ。さすが乙女の表情筋である。

 二人は穏やかな日差しの中、通学路を進んでいく。

 本人達のあずかり知らぬところで些細な不幸を回避していたことは記録しておく。具体的には空からの爆撃であるとか、風に乗った虫であるとか、爆撃によりハンドル操作を誤った迷走する車であるとか。


「きりーつ、れーい」


 週末の金曜日。子どもたちもいまいち勉強に身が入らない。

 六年生は卒業を控え、下級生は卒業式に向けての取り組みが始まっている、年度末の理由のない何となく騒然とした雰囲気。

 校内のあちらこちらでひっそりと幼いカップルが。また義理チョコ、友チョコの群れが大胆に今日というイベントを思い思いに楽しんでいる。


「そうかあ、ホワイトデーなんだねえ~」

「そ、そうよね。ホワイトデーよね!」

「うふふ」


 そう言って敬は意味深に笑うだけ。

 凛は気が気ではない。


「ううっ! これが噂に聞くじらしプレイってやつなの!? そうなの!?」


 もはや凛の頭の中はしっちゃかめっちゃかだ。

 それでも学校生活に支障が出ないところは面目躍如だろうか。


「ふふふ~。ホワイトデーだね~」

「そ、そうね!?」


 敬は楽しげに笑うばかり。


 時間は瞬く間に過ぎていき、下校時刻となった。


「まだ動きはない・・・。前みたいに下校途中で? それとも夜までお預け?」


 敬と並んで廊下を歩きながらも、凛の頭の中はそのことばかり。

 平静を装う凛の横を歩く敬の顔には、なんだか楽しげな笑みが浮かんでいた。


 いたずらを仕掛けて、その結果を待つような。


 ついに児童玄関へ。

 靴箱が自然と並んでいる様はいっそ異様でもある。


「ふう・・・」


 小さくため息をつきながら凛が靴箱の扉を開く。


「・・・え?」


 きちんと並んだ自分の外靴の上にのせられた封筒と包み紙。


「え?」


 呆けた顔で隣に立つ敬を見つめる凛。

 にっこり笑ってその瞳を見つめ返す敬。


「ホワイトデーだねえ」

「ここにサプライズ!? じらしプレイ終了!?」

「よくわかんないけど、いつもありがとう」

「敬くんマジ天使!!」


 理性を失った凛が敬に抱きつく。

 幸い誰も他にはいなかったようだが・・・。




 ハッピーホワイトデー?




 爆発するといいね。

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