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王太子、姉さまに会う

 レイは、先程ドアにぶつかってしゃがみこんだのを思い出した。

 とにかく痛い。体を支えるヘンリーを表情のない目で見上げる。父の頭にたんこぶが出来ている。

 ぶつかったのは自分であるのになぜだ?と疑問に思うが、痛みが邪魔をして頭が回らない。


「父上・・・」

「なんだ!どうした!!」


 ヘンリーは生気のない目をしているレイに、打ち所が悪かったのか心配になった。

 レイは壁をじーっと見つめている。


「父上この壁一面に我が国の紋章が並んでいますね」


 ヘンリーは急に?この見慣れた部屋の壁の模様の話?と益々心配になった。

 あぁ。一先ず返事をするヘンリー。


「この紋章は、丸い水の球を聖女が見つめていますね」


 紋章は、水色の球を見つめる聖女の横顔が描かれている。

 キャサリンに目で合図するヘンリー。息子は何の話をはじめたのかと訴えるが、キャサリンはあんたが息子の頭を打ったからじゃない!と言わんばかりに人差し指をヘンリーに向けた。もちろん顔は鬼の形相である。ヘンリーはびくっと体を強張らせ、首をすくめた。きっとこのまま話を聞いてやれ、ということだろうと思いレイに相槌を打つ。


「よく見ると奥に手がある。これは聖女の夫にあたる人なの?」


 紋章には聖女の背後に両手を差し出す絵が描かれていて、掌は聖女同様、水の球に向けられている。


「違うよ、この手は国を指しているんだ。聖女と手を取り、共に平和な国を作っていこう。という意味だ」

「聖女とは昔から平等だったようだけど、この紋章は契約の意味もあると聞いたわ」

「契約・・・結婚とか?」

「いや、それも違うよ。うちは代々聖女と国王、王太子は聖女と国の強化の為に結婚していたが、キャサリンは聖女ではない。私たちが政略結婚でないことはお前も知っているだろう?」


 キャサリンを見つめるレイ。母は困ったように微笑んだ。でも二人の子どもであるセレーネ、レイは聖女の力を発動した。しかもレイに至っては男なのに聖女の力が発動した。よく分からないと思いながらレイはうっすら発光しているようにも見える、自分の手を見つめた。ご飯を食べながら薄々感じていた体温の高まり、ただの回復でない力の漲り、僕は聖女になってしまった。レイは痛感した。でも僕が本当に気になっているのは、


「僕は結婚出来るの?」


 ヘンリーとキャサリンは息子の質問の意図が分かり、動きがぴたっと止まった。


「もちろんだ!お前が気に入った人がいれば。」

「そうよこの国は婚姻の自由があるのよ!素晴らしいでしょ!」

「聖女の力を持つ僕を気に入ってくれる人がいれば、の話だよね・・・」

「大丈夫よ!」 

「そうだ!誰が反対しても私が許す!」


 キャサリンは焦って話を逸らそうとレイの力を調べていた時に置きっぱなしにしていた古文書に目をやる。それを取り出し開き始めた。大昔、聖女と魔術師の争いがあったの。国全体で云々一通り話したところでドアがノックされた。

 セレーネの侍女がセレーネ様の検診が終わりました。と伝えに来た。キャサリンはなんて良いタイミング!みんなでセレーネに会いに行きましょう!と皆を誘った。

 レイはタイミングって、話を切り上げたかったんじゃないかと、誰も想像つかぬ自分の将来を不安に思うのだった。


 レイは緊張した面持ちでセレーネの部屋の前に立った。

誰かが話している声がする。


「大丈夫よレイ。中に入りましょう」

「いつものことだ」

「どういう事?」


 レイはドアを開け、部屋を見渡した。天蓋のベッドで眠っているセレーネの近くには医者が立っていた。姉は倒れた時のままか?いや、姉の髪の色は金髪から茶色に変わっていた。


「姉さま!!!」


 レイはセレーネに歩み寄った。

 セレーネは時折苦しそうに顔を歪ませ、額に汗をかき、顔色は真っ赤だ。何かの夢を見て苦しんでいるように見える。姉上は眠りながら微笑んでいたのではないのか?苦しそうにしては落ち着いて少し微笑んですーっと静かに寝息を立てた。

「これがいつも?」

「そうよ、苦しそうにしては落ち着いて、微笑むの。そして私たちには分からない話をしたりするの、何語か分からないのよ」


 キャサリンはハンカチを取り出して涙ぐんだ。今日の検診内容を医者と確認するヘンリー。やはり魔力の回復はまだだが、苦しむ程の体の不調は診られないという。原因を探るため一刻も早く外交官に何語か確認させるよう務めよと伝令を出しているという。

 またドアがノックされマリーが花の香りがする桶とタオルを持ってきた。セレーネの湯あみの時間だ。

 ヘンリーと医者は部屋から出て行った。レイも出ようとするとキャサリンに呼び止められ、腕や手を拭いてあげてと言われた。


「陛下、しようせ術はなぜセレーネ様が知っていたか分かったのですか?」


医者のコックはヘンリーに尋ねた。


「コック!!こんなところであの術の話をするんじゃない!!誰かに聞かれたらどうするんだ!」


ヘンリーは辺りを見回しながら小声でコックを諫めた。コックは申し訳ありませんと額に汗をかき平謝りした。

 横をすーっと通り過ぎるマリー。ぎょっとする二人。マリー、今の聞いていたのか?と問うヘンリーに対し、え?何のことですか?と急ぎ足で廊下へ消えるマリー。

ほらみろ!などとまたコックを睨むヘンリーであった。

 マリーは二人が見えなくなるところまで歩き、急いで替えのタオルを用意した。マリーの心臓は早鐘を打っている。

 セレーネ様が使用聖術を・・・。人を殺める術をレイ様に託した・・・。


「間に合わなければ・・・」


 マリーは一人そう呟くと額から汗が落ちた。




 

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― 新着の感想 ―
レイが聖女の力を得て、ヘンリーとキャサリンとレイの家族の戸惑いがすごく上手に描かれてると思う。少し気になるのは、使用聖術が人を殺める術だということを、なぜマリーは知っているのか、それとも誰でも知ってい…
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