シンデレラは、もうとっくにやめたので
両親が亡くなり、未婚の叔母に引き取られ···ではなく、押しかけて来て家を乗っ取られた。
女性でも爵位を継げる国なので、次の当主に叔母が収まった。
私が爵位を継げる歳になるまで代理を務めるのは表向きで、私は学園こそは通わせてもらえたが、使用人のような扱いで飼われている。
それでも、亡き父よりも領地運営は良好でリュネヴィル子爵家は潤った。
それから八年、過度な贅沢をするでもなく、愛人に溺れるようなこともなく地道に叔母は当主の務めを果たした。
使用人のような扱いを受ける私を誰が言ったか知らないけれど「シンデレラみたい」と噂されるようになった。
私はシンデレラの物語は、読んで知っていたけれど、自分がそう言われるのはなんだか凄く癪だった。
だから私はシンデレラと言われてしまわないようになろう、シンデレラみたいな人生はやめようと決心した。
家事労働はそれほど苦ではなく、嫌いでもなかったけれど、もっと自分の勉強時間、自由になる時間を作ろうと思い、家事は全て魔法で済ますことにした。
もちろん他の使用人達の仕事を奪わない程度に。
空いた時間で今までできなかった淑女教育に力を入れ、学業も身が入って成績も格段にアップした。
自分に自信が持てるようになって来たのが嬉しい。
物語のシンデレラは、優しい魔女に魔法で助けてもらっていたけど、私には親譲りの魔力も、人並み以上の魔法のスキルもあるから、自分が魔法使いになれば良いだけだった。
家事に費やす時間から解放されたら、身体も心も軽やかになったみたい。
「お嬢様、なんだか最近凄く綺麗になられましたね」
侍女らから絶賛されるようになった。
学園でも、みんなの私を見る目が変わったように思う。
デビュタントがもうすぐとなり、荒れた手肌も元どおり、髪艶も良くなって、思った以上の仕上がりになった。
「お嬢様行ってらっしゃいませ」
私は自分で用意したドレスと靴で、この日のために頼んでおいた特別乗り心地の良い素敵な馬車に颯爽と乗り込んだ。
困ったことは魔法をひとふりすれば、なんとか解決できた。
それから、私は玉の輿とか王子様を狙ってはいない。
叔母と上手く渡り合える、身持ちの良い優しい旦那様を見つけられたら十分なの。
「さあ、参りますわ」
虹色のメタリックな靴に合わせた、同じく虹色のシャイニーなドレスとアクセサリーが、私のデビュタント用の戦闘服。
そうそう、淑女に欠かせない扇子も忘れてはいけないわ。
これを自在に使いこなせるレディになるのが目標よ。
えっ?それだと悪役令嬢みたいですって?
ふふ、まさか。
物語のシンデレラは、よい子かもしれないけれど、聖女ではないわ。
それに、私はシンデレラじゃないの。
シンデレラは、もうとっくにやめたので。
令嬢に必要な処世術を磨いて、魔法を使わなくても、素敵な旦那様を見つけてみせますわ。
王子様からの求婚を無難に回避し、理想的な旦那様を得た私は、リュネヴィル子爵家を継ぎましたの。
叔母は今でもご意見番として我が家を取り仕切っているけれど、悪役令嬢と聖女のような令嬢の二つの顔を使い分けて、良好な関係を築けておりますわ。
これこそが、シンデレラをやめた私の
めでたし、めでたしなんですの。
(了)