逆張り令嬢の観察
一見おっとりした見た目とは対照的に、物凄く頑固、短気、そして何もかも逆張りする癖のある令嬢がいた。
天邪鬼とは少し違い、自分に都合の良いアドバイスは鵜呑みで盲信し、周囲の忠告、耳の痛い助言にのみ逆張りをするのだった。
その結果、「だから言ったでしょ」という目に何度も遇うのだが、改善することはない。
「それはやめておけば?」と言えばムキになってやり、「こうすればいいのでは?」と言うと、それは絶対にやらないということばかり。
それで、上手くいかないとか、失敗するとその尻拭いに人を異様に頼る。
だから周りはもう何も言わなくなる。
「自分の責任であなたのやりたいようにやれば?」としか言いようがない。
下手にアドバイスしたら逆張りするので、かえって彼女が妥当な道を行けなくなるからだ。
至極まっとうな意見には耳を貸さず、その反対ばかりを行くので、何でそうなるの?という人生を彼女は送って来ている。
基本的に考えなし、自分に甘く、浅慮で衝動的にやってしまうトラブルメーカーだ。
しかも、自分の逆張りのせいなのに他人のせいにするので、彼女に相談をされる人を辟易させてしまう。
それならば、人の意見などはじめから求めずに何もかもを自分だけで決めてやればいいのに、依存心は誰よりも強いから厄介でしかない。
相談されると面倒なことになるので、彼女に懲りた人は、他の人に聞いて見ればとか、専門家に相談して見たらと言って、巻き込まれないように避けるようになる。
でも、空気を読まず融通がきかないので、しつこい。とにかくしつこくすれば自分の思い通りになる筈だと信じているのか、ごり押しする。
相手のことは一切考えない自己中の極み。
自分の要求を通すことしか眼中にないので、迷惑も考えずに相手にしぶとくつきまとう。
逆張り以外も、かなり要注意人物だ。
人の忠告はきかないので、勉強もできない、仕事も向上しない、対人関係もトラブルばかりなのだけれど、何も反省しないし何も学ばず成長もしない。
「お前はワンパターンだっていつも言われるのよね」
わかっているなら、自分で気をつければいいのに、それはやりもしないのだ。
「そうだね、ワンパターンだよね」と同意しようものなら、たちまち不機嫌になるので、それは言わないでおこうとなってしまう。
「私って馬鹿なの」
うん、本当にね。これも言わないでおく。キレたら大変だからね。
「そんなことないよ」なんて返答すれば、余計にいい気になってしまうから無言でやり過ごす。
「私ってダメな人間なの」
だったら直せよ。どうせ口だけで直すつもりなんかないよな。
都合の悪いものは誰かに否定してもらおうとするだけなんだ。
「そうではないよ」とか、「そんなことはないよ」と、自分が言って欲しいことを誘導しようとしているだけだ。
根本的な部分がポンコツなんだけど、こういう打算的思考だけはよく働くんだよな。
だから余計にたちが悪いんだよ。
逆張りばかりをする人は、言動不一致なことが多い。
あなたが決めてと言ったのに、こちらがじゃあこれでというと、それは無しよとか言ったりする。
こちらに選択肢を提示しても、こちらの選んだものは全部却下して、結局彼女が決めてしまうなら、こちらにきく意味が全くない。
消去法でなんてわざわざ言わなくても、元からそれにしたいものに、遠回しなやり方をせずにはじめからすればいいだけだ。
とどのつまり、彼女は全てを、何もかも自分の思い通りにしたいだけだ。
選択肢や自由、譲歩をこちらに与えているように見せてはいても、それはポーズでしかない。
彼女は公平でもなく優しい人でも全くない。むしろ恐ろしく横暴な人だ。
そして関わると非常に疲れる。
彼女とは同じ未来を歩きたくはないし、一緒に歩いてはいけない。
例え政略結婚だとしても無理だ。知人の紹介で様子見程度に付き合っては見たが、僕は彼女とは婚約はしなかった。
その判断に間違いはないと思う。
それから彼女は僕以外の令息と婚約と婚約破棄を3度繰り返した後に、ようやく結婚した。上手くいってはいないことが、社交界でも噂になっていた。
しばらくして離婚をしたらしいが、彼女の浪費癖と不倫が原因だった。
「あんなに良い旦那様なのにね」
「彼女はトラブルメーカーよね」
彼女の肩を持つ人はいなかった。
僕の愛する妻も、散々彼女の相談相手として利用されて疲弊した口だったから、結婚してからは彼女とは夫婦で距離を置いている。
彼女は子持ちの子爵と再婚したが、浪費癖がたたり身代を崩し、また離婚に至った。
「あの人はやめておけ」という相手や「それは分不相応すぎるのでは」という相手にばかりすり寄って、浮き名だけは流すが、結婚には至らなかった。
社交界では既に悪名で呼ばれるようになっていて、噂話のネタにするために、みな彼女の動向だけを注視していた。
逆張りする悪癖のある人が人生を誤らない秘訣、人生を成功に導くコツは、今までの真逆を行くことだ。
逆張りをしないことへの逆張りをしてしまうならば、それはもうお手上げだ。
逆張りばかりをする人は、「よせばいいのに」とか「それはやめておけ」ということばかりをしてきた結果、その本人自身が相手や周囲から「あの人に関わるのはやめておけ」「関わってはいけない人」という対象になってしまうものだ。
彼女は男爵夫人から平民落ちしたらしいが、まだまだ社交界では噂が絶えない。
何もかもを逆張りする人は、無駄にプライドが高く自惚れも強いから、60歳を越えた今でも、起死回生をしぶとく狙っているのだろう。
「あのようになってはいけないよ」
今では、淑女教育における生きた悪い見本として名を馳せている。
きっと彼女は死ぬまで話題を振り撒くんだろうね。
(了)