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8に気をつけて

「8に気をつけて」

同僚と帰宅する方向が同じだったので、同じ電車の車両に並んで座って喋っていた。

発車が近くなると、酔っぱらいなのかフラフラと千鳥足のおじさんが乗り込んできた。

その細身で髪の毛の薄いおじさんが、突然私の前で立ち止まってそう言った。

隣に座る同僚には一瞥もくれずに、両手で吊革を掴みながら私に顔をズイッと近づけて来た。

「お嬢さん、8月生まれとか8日生まれ、8のつく人に気をつけな」

「······」

「わかったかい?」

私は酔っぱらいに絡まれるのは嫌だったので、仕方なく頷いた。

おじさんはそれだけ言うとシャキッとして、別人のようにキビキビ歩いて別の車両へ去って行った。


「何あれ?」

観光地が終点にある路線なので、週末になると酔った観光客が増えるから、ただの酔っぱらいだとこの時は思っていた。

この時隣に座っていた同僚も8日生まれの人だった。


その年の暮れ、彼女は会社のお金を使い込んで退社した。備品等も盗まれていた。


まさか彼女がと、皆驚いた。仲良くしていた人、信頼していた仲間に裏切られ、人は見かけによらないものだということを心底味わった。


その後転職した私は、「8日生まれ」の上司にセクハラを受け、別の「8日生まれ」の同僚に不倫をさせられそうになった。


これは偶然が重なっただけなのか?


それとも、悪い暗示に囚われているだけなのか?


「8に気をつけて」というのは、その後も続いた。


私が28歳になると、祖母が亡くなり、母まで交通事故で入院、私も体調不良になるという災難が続いた時期だった。厄年のようなものだったのかもしれないけれど。


8日生まれ、8歳年上、8歳年下、8年目、8番目など、気にすればキリがない。


過去をふりかえると8歳で付き合いがはじまった人、18歳の時の同級生、小学校時代の18日生まれのクラスメイトは、確かに問題アリの厄介な人物で相当迷惑をかけられた。


それに8に関係なく、嫌な人物、迷惑な人物はいるし、最悪の人は8とは全く関係なかった。


あの電車の中で言われたのは、期限つきのものだったと思う。

当時の直近の、今近くにいる存在への警告だったのだろう。


その人に気をつけて


とは、自分の隣にその人がいる前では言えないからだ。


その人はやめておいた方がいいとは、いつも傍にいるから言いにくいものだというのを私も経験があるからわかる。

問題のある人や、厄介な人ほど、迷惑を被っている人に対してダニのようにへばりついているもだし、自分から身を引くなんてことはまずない。


予想外の敵は、遠くにいるわけではないことの方が多いものだ。

友人や味方のふりをした敵、裏切り者とは、自分のテリトリー内にいるものだからだ。


『ブルータスお前もか』という状態はそういうことだ。


身近な人物にしてやられる、それは昔からそのように相場は決まっている。


8に気をつけてとは、フレネミーに気をつけて、エナジーバンパイアに気をつけてということなのだと解釈している。


それは身近にいるから。



だからといって、8日生まれの人にびくびくするのはやめた。まだ何も起きていないのに、はじめから相手を恐れ、身構えてガチガチになるなんて失礼だし、もったいないからだ。


8のつく人にも、そうではない人もいるものだし、必ずそうなるとは限らない。


私の家族にも親友にも恋人にも8のつく人はいないのは、自然にそうなっただけだ。

8に関連する人を避けたり排除しているわけではない。


それでも、あの酔っぱらいの天使には感謝している。

あの警告を私にもたらしてくれたおじさんを「酔いどれ天使」と勝手に呼んでいる。


私を守護する存在が、一時的に憑依して、あのおじさんの身体を借りただけだとしても。


それは友人や親しい人とは限らない。


全く親しくない人や、通りすがりの人の時もある。

時々、そのように私に必要なメッセージや警告を憑依された人の口から聞かされることがある。


人に限らず、本や映画、他人のブログ、歌だったりすることがある。

世の中のものはビブリオマンシーのようなお告げやサインで満ちている。

自分が意図しなくても、目に入り耳に入るようにできている。

見過ごさずに気がついて、受け取っていくしかない。


私だけでなくて、耳を澄ませば、自分を護り導く人の言葉を聞くことが誰でもできるものなのだから。



(了)

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