旦那様は添え物です
誰もが羨む結婚をした筈なのに、数年で破綻してしまった。
───何がいけなかったの?
「私、仕事も家事も全力投球で頑張って来たのに·····」
「あなたの頭の中身は95%が仕事と自分のブランディング、旦那様のことは5%未満」
政府要人やセレブの顧客を持つという有名な盲目のサイキック占い師ジョセフはそう告げた。
「そ、そんなことはっ······」
「君はセレブ達が大好きだ。旦那様よりもずっとね」
「······悪い?」
「いいや。だが旦那様はそれが不服だった」
私はセレブ向けのネイルサロンとヘアサロンを数店舗経営している。
結婚してから三年でここまで大きくしたのだ。
「どうして結婚したの?全然結婚モードじゃないのに」
「結婚適齢期だったのよ」
「······それはナンセンスだね」
この盲目の占い師は手厳しい。
アジア系アメリカ人の私を馬鹿にしているのだろうか。
「あなたはセレブ達にもこんなに厳しいの?」
「もちろん。ズバズバ言わないのに見料取るなんて詐欺だからね」
私は舌打ちしたくなったが堪えた。
「······それで、私は再婚はできるのかしら?」
「君はもう二度と結婚はしない」
「何ですって?!」
「君は結婚には向いていない」
「どうして?」
「旦那様よりもセレブ達との付き合いを優先するからね」
「仕事のためなんだから、しょうがないじゃないの!」
「それだと大抵の男性とは上手くいかないよ。特に家庭を大事にする日本人男性はね」
私の別れた夫は日本人男性だった。
エリート銀行マンとしてアメリカ支社にやって来た彼をゲットした。
一流の人達に囲まれた彼は輝いて見えた。
セレブとの接点もできて仕事は順調だった。
「俺の給料だけではそんなに不満か?」
「えっ?そんなことはないけど」
「何でこんなに店舗を増やそうとするんだ?」
「今がチャンスなのよ!」
「仕事をするなとは言わない。でも、君はやりすぎだ」
夫は家に帰ってこなくなった。
「夫婦の時間が足り無さ過ぎなんじゃない?」
「仕事は子育てが一段落してからでも良くないの?子どもは産めるうちに産んでおいた方がいいわよ」
「お金に困っていないなら、もう少し仕事をセーブしたらどう?」
私は意地を張って、友人やまわりの意見には耳をかさなかった。
私は仕事もちゃんとやりたいのだ。
夫から離婚届が送られて来て、やっとことの重大さを思い知った。
───どうしてこんなことに······。
私だって夫と幸せになりたかったし、夫のことは愛していたのに。
「君にとって、旦那は添え物なんだよ」
「······添え物?」
「アクセサリーやおまけみたいな、あってもなくても大差ない軽い存在なんだよ」
「そんな······!ちゃんと愛してるわ。離婚して落ち込んで鬱にだってなったわ。自殺だって考えたのよ!」
ジョセフは、肩を竦めた。
「君にとって夫は自分の理想の生活に花を添える、ほんの一部のパーツでしかないよね。普通の夫婦はそうじゃない」
「そんなの、わからない······」
何でこの人は、こんな酷いことを言うの?
「いっそ年下のヒモくらいが、丁度良いかもね。でも君は仕事のできるスパダリがいいようだけどね」
ヒモなんて嫌に決まってるわ······!
「セレブと結婚すればいい。君が本当に求めているのはそれだよね?」
「······っ」
セレブとお近づきになるのは無上の喜びだ。
でも、結婚までは······。
「私、二度と結婚はしないんですよね?」
私はジョセフを睨んだ。
「まあね。それは君次第だ」
彼の目がサングラス越しに笑っているような気がした。
年齢非公開のアイルランド系アメリカ人。顔色も健康そうで顔立ちも悪くはない。
上質なスーツに身を包む彼自身もセレブだ。
白杖が手放せないようだが、専属のスタッフ達に手厚くお世話されているのだろう。
「素直じゃないのがダメなのさ。本当はセレブと結婚したいのに、自分はそんな願望などないみたいに振る舞うから、結婚しなくてもいい添え物男に引っ掛かるんだよ。君が大好きなセレブが旦那なら、間違っても添え物なんかにはしないだろ?」
ドリンクのお代わりを断って、私は彼のセッションルームを後にした。
わ、私がセレブと結婚?
そ、そんなことをしてもいいの?
子どもの頃から焦がれるほど憧れてきたセレブ達。
私もセレブの仲間入りになれるの?
なれるのならば、なってみたい。
心のつかえが取れて呼吸が楽になったようだ。
「楽な道では無いけどね」
ジョセフのその忠告は、今の私にはどうでも良かった。
陽光差し込む海辺のテラスで、明るい未来を予感しながら、私は大きく伸びをした。
私はセレブの妻になって見せるわ!
瞬発力だけは誰にも負けない。
後はなるようにしかならないのだから。
(了)




