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薄幸要素が足りなくて捨てられました

「君はとても素敵な人だ。でも、それだけなんだ」

「ど、どういうことでしょうか?」

「薄幸要素が足りない」

「······は?!」


婚約者に、君は薄幸さが足りなくてつまらないと言われ婚約を破棄されてしまった。

既に意中の薄幸要素強めの令嬢がいるらしい。


「そんなの理由になるかっ!」


父も兄も弟も激怒した。


「顔以外に取り柄の無いおつむの弱い男はいらないわ。意味不明な婚約破棄ですもの、沢山慰謝料をいただかないとね」


不敵な笑みを浮かべる母は強かった。


この婚約は双方の先代、お祖父様同士の遺言によって結んだものだ。両親はこの婚約を元々良く思っていなかった。


確かに恋愛小説や大衆劇では、薄幸ヒロインは人気だ。

でも、薄幸キャラ、 薄幸そうであることが、ここまで婚約者の関心を惹くものなのだということを私は知らなかった。


それよりも、デビュタント直前で婚約破棄された私は不幸ではないのかしら?

薄幸そうじゃないからフラれたという好奇の目に晒されるのは、不幸ではないの?


既に薄幸ではなくて不幸なんですけど?!


「薄幸ではない」という、私を全否定するかのような呪いの言葉にジワジワ蝕まれ、夜も眠れずに時々過呼吸に陥るようになった。



今年のデビュタントは見送って、親戚の別荘で療養することにした。

従兄弟達にも婚約破棄されたことはもう知られており、婚約破棄の理由に呆れられていた。


「ロザリー、薄幸じゃ無いなんて、こんな強みはそうそうないぞ」

「そうだよ、薄幸成分が無いなんて最強だよ」

「見る目の無い男と縁が切れて良かったじゃないか」


慰めてもらえることはありがたいけれど、それでより落ち込んでしまうという負のスパイラルにハマってしまったみたいだ。


私ってこんなに脆かったの?



女の敵は女というように、四歳上の従姉妹は私をいい気味だと嘲笑った。


「私が良い殿方を紹介してあげるわ、私のお古で良かったらね、ふふふっ」


よくこんな性格で結婚できたものだなと思っていたら、度重なる浮気がバレて婚家から追い出されている最中らしい。


「ジル、お止め!弱っている者をいびるなんてみっともない。私はそんな娘に育てた覚えはないよ。なんなら修道院へ行儀見習いに行かせるわよ!」


他人の不幸は蜜の味のような人は、大抵自滅するものだ。


「ロザリー、ごめんなさいね」

「いいえ、伯母様。私は大丈夫です」



「デビュタントもまだなんて、どうするつもり?」


ジルは伯母のいないところで私に突っかかって来る。

獲物にたかる禿鷹やハイエナみたいだ。


「どうもしません。来年にずらしただけです」

「婚期を逃すわよ」

「それで構いません」


私がへこみ、嫌がる顔を見たくて仕方がないのだろう。

子どもの頃から彼女はそうだった。大人のいないところで私にちょっかいを出してくる迷惑な人なのだ。


「ねえ、あなたの婚約者にあの娘を紹介したのは私よ。私達は古い知り合いなの」

「······そうですか」


彼女のご主人は人格者で有名な伯爵なのに、その人に対して不貞を働くなんて、どれだけ面汚しなのだろう。

不貞を犯すということは、実家と婚家の両方に泥を塗ることになるのがなぜわからないのだろうか。

そして他者の結婚の妨げになるのは犯罪行為にあたるというのに。

友人に犯罪を犯すように仕向ける令嬢って何なのかしら。それは友人ですらないのでは。



「それから、私もあなたの元婚約者とは寝たこともあるのよ」

「······それは、とてもお似合いのようですね」


あの男とジルはおつむと品性が同じなのだ。

従姉妹の婚姻の邪魔をする毒婦なんて相当詰んでいる。


こんなことを暴露されたら、社交界ではもう終わりだと気がつけないなんて。


私は両親にジルとの会話を録音した魔道具を添えて火急の伝書を送った。

母が嬉々として対処してくれるだろう。慰謝料上乗せは間違いない。元婚約者は廃嫡かもしれない。

ジルの離婚は確定し社交界は追放、修道院がお待ちかねだ。



「あんたって、どうして薄幸じゃないのよ?」


終始淡々としている私にジルは苛立っている。


「私はきっと守護が絶大なのでしょうね

。だから不幸になりたくてもなれないのです」


私はなぜだか自分で口にしたことで、吹っ切れた。


私はもしかしたら、幸せにしかならないかも。


根拠はないけれど、この時そんな気がしたのだ。



まっとうな家族の元でまっとうに育つ、まっとうな家族ではなくてもまっとうに育つ


それはなんて強運なことなのだろうか。


完璧ではなくても及第点ならばそれだけでもうかなり幸運なのだ。


折角まっとうな家族に囲まれていたにも関わらず、本人がまっとうに育たない


それこそが不運と不幸の始まりだ。


ジルも元婚約者も、そこから間違えている。だから自分だけでなくて、他者の不幸も呼び込むのだ。



「伯母様、お世話になりました」

「懲りずにまた遊びにいらっしゃいね」


私は予定を繰り上げて実家の侯爵家に戻った。


既に元婚約者は廃嫡され、お相手の薄幸令嬢の実家は没落していた。

ジルは夫の逆鱗に触れ、離島の修道院に幽閉が決まった。



後年、その監獄のような修道院から脱走し、ジルは女海賊ジーラになるのをまだ誰も知らない。


その事が隣国の公爵家へ嫁いだ私を大層驚かせることになるのだ。


従姉妹が脱獄犯で女海賊なんて令嬢はそうそういない。


夫の公爵は王位継承権があったために、王家に不幸が重なり、望んでもいなかった王位に就く羽目になった。

それで私もあろうことか王妃になってしまった。



領海を荒らし、金品を強奪、人命も奪った女海賊ジーラは処刑された。


ジルが私に助命を乞わなかったのは、この国の王妃がまさか私だとは気がつかなかったからだ。



国母ロザリンドが、薄幸ではないことはとても良いことだ。


幸運を振り撒く賢母は、聖女並みに人気を博し、私の母国までその名を轟かせた。



(了)

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