241.荒地
殺到する機械化兵を見て、アキオはライフルを二輪に収納した。
近接戦闘において、長尺火器は、銃剣を使用しない限り使い勝手が悪い。
それに、ライフルの残弾も残り少なくなっていた。
彼のような歴戦の兵士になると、いかに敵味方が入り乱れる乱戦になっても、ショット数とマガジン内残弾数及び残マガジン数は常に把握している。
アキオは二輪のAIに命じた。
「アカラ、避雷器を出してくれ」
「アイ・サー」
パニガーレの深紅のカウルが開いて、がっしりとした造りの避雷器がポップする。
アキオは光沢のあるスティックを掴むと、一振りしてアカラに告げた。
「少し無理をする」
「アイアイ」
なぜ、地球の海軍式の返事をするのかは今度シジマに聞くことにして、アキオはアクセルグリップを捻って、パニガーレを急発進させた。
先頭集団の硬化外骨格兵1個分隊に向けて突進する。
兵士の直前でハンドルを切り、腰を入れてパニガーレを横滑りさせ、タイヤを使って、全員を薙ぎ倒した。
避雷器で地面を突いて車体を起こし、加速しながら、隣の分隊の足をスティックで払って横倒しにする。
「アカラ、榴弾」
命令に応じて、開いたカウルから飛び出す手榴弾を空中で掴むと、表面のボタンで起爆時間を最短に設定して敵集団に投擲する。
トルメア由来の機械化兵に電磁爆弾は通用しないので、爆風で敵を吹き飛ばす攻撃手榴弾にしてある。
I兵士には、ほとんど効かないが、硬化外骨格兵なら、緩衝装置の許容範囲を越えた衝撃で行動不能にできるかもしれない。
派手に吹き飛ぶ硬化外骨格を横目で見ながら、パニガーレを迂回させ、攻撃集団の後方にいる魔法部隊に向かった。
激しく横滑りする前後輪を、騙し騙しコントロールしながら、大きなRを描いて魔法使いの集団に近づいていく。
早い時期に、後方支援を叩くのは戦闘の定石だ。
が、それを阻止しようと素晴らしい速さでI兵士が突進してくる。
あらかじめ彼の攻撃パターンを予測して配置されていたのだろう。
敵の現場指揮官もかなり優秀なようだ。
進行方向からも、魔法使いが放った特大の雷球が迫ってくる。
アキオは、走行しながら避雷器を地面深くに突き刺し、それを軸に、凄まじい膂力でパニガーレを急旋回させた。
同時に、スティックを巨大な雷球に触れさせて地面に放電、無力化する。
あまりに急激に旋回したパニガーレを見失った巨大兵士は、たたらを踏んで立ち止った。
それを、アキオの単分子ワイヤーが細かく切断する。
硬化外骨格兵やI兵士に内臓されている戦闘用補助脳は優秀だ。
およそ人の取りえる動きを瞬時に予測して、それに対する最適な行動を補助してくれる。
だが、そこに内蔵されている攻撃パターンは、あくまで一般的な動きにしか対応していない。
アキオのように、人間の能力を大きく逸脱した動きをする敵には、即時対応できないのだ。
もちろん、同じことを数度繰り返せば、彼らも学習して対応してくるだろう。
要は、常に見たことのない動きを見せて、それに慣れられる前に倒すのが機械化兵との戦いのコツなのだ。
その点で、アキオは戦場慰問団の奇術師に似ていた。
タネを見破られないように、さっさとワザを見せて、二度と同じ演目はやらないように心がける――
アキオは、飛び交う雷球を、パニガーレの能力を全力に使ってかいくぐり、飛び越え、避雷器で接地させて、魔法使いに近づくと、二輪に乗ったまま手足を使って殴り蹴り倒していった。
女性や年少者の割合が多いようだが、そんなことはまったく斟酌しない。
戦場で敵対行動をとれば、子供でも敵だ。
強化兵が魔法使いを守るために走り寄るのを見て、アキオは前輪ブレーキを強く握りしめて、急激にアクセルを開けた。
パニガーレはその場に停止したまま後輪をスリップさせる。
ナノ・スパイクが埋め込まれたタイヤは、激しく荒地の泥をはね上げ、それらは魔法使いを直撃した。
彼らのほとんどが、顔を泥だらけにして行動不能になる。
雷球は、目視で敵を確認できないと攻撃できないのだ。
アキオは、再びパニガーレを駆って、次の機械化兵集団に向かう。
荒野を見回したアキオは、唇の端を吊り上げた。
相当数の兵士を戦闘不能にしたはずだが、まだ半数以上が残っている。
ロボット兵を数にいれれば、10分の1も倒していないだろう。
だが――アキオは崖の上を見上げた。
彼の目的は敵の殲滅ではない。
データ・キューブが手に入ったら、そのまま戦線離脱すればよいのだ。
あと少し――もう少し敵兵力を削ることができれば、崖を登ってキューブを奪取できる。
問題は、彼の動きに機械化兵が徐々に慣れてきたことだ。
ニューメアの戦闘用補助脳は思った以上に優秀らしい。
その時、アキオは、敵の第2波が崖を下りてくるのを見た。
灰色のロボット兵だ。
おそらくアルメデとキイが話していた、雷球を撃つロボット兵、グレイ・ガーディアンだろう。
その数はこれまでの敵の比ではない。
9万体近くはいるだろう。
どうやら早めに崖の上を目指した方がよさそうだ。
そう考えた時、パニガーレの前輪に電撃針の直撃を受けた。
敵の予測が、彼の行動に追いつき始めたのだ。
アキオは、二輪と共に空高く吹っ飛んだ。
何とか体重移動でパニガーレの体勢をコントロールし、タイヤから着地しようと試みる。
「前輪スポーク破損、通常走行が困難になりました」
アカラの声が響いた。
心なしか申し訳なさそうだ。
「補助輪で自走できるか」
「アイ」
地面が近づく。
「呼ぶまで自走して防御していろ」
「アイアイ」
着地すると同時にアキオは、パニガーレから離れて崖に向かって走り出した。
だが、その行動は読まれていたらしく、崖際に潜んだ残り僅かな機械化兵が彼に殺到してくる。
その背後には無数のグレイ・ガーディアンの姿があった。
アキオは、張り替えた単分子ワイヤーを使って、I兵士を切断した。
同時に、飛び来る雷球を避雷器を使って消滅させる。
4体目を倒したとき、背中に雷球が命中した。
ナノ・コートのアーシングによって地面に電気が流され事なきを得るが、動こうとした瞬間、十数発の雷球が連続で命中する。
2、3発なら凌ぐことができるが、ナノ・コートは、雷球の連続攻撃には耐えられない。
ついに、アキオの身体は高電圧にさらされた。
体内のナノ・マシンがダメージを受け、彼は膝をつく。
アキオは、荒野を見渡して敵戦力を把握し、崖を見た。
そろそろ行けるようだ。
アキオは、アーム・バンドを確認した。
かつて、ミストラとヴァイユを救うために戦った時は、魔法使いの雷球でブラックアウトしたが、その後の改良で、この程度の電撃では落ちないようになっている。
I兵士が彼に襲いかかるのを見て、アキオは命令を発した。
「NMC起動」
ディスプレイに『了承』の文字が浮かぶと同時に、コートの中で複数のパイプが彼の背中に突き刺さる。
ナノ・コートの裏面全体に絶縁処理して収められていた液体金属とナノ・マシンが高熱を与えられて、一気にアキオの体内に流れ込んだ。
コンマ数秒で、金属が体内に浸透し、心拍数が毎分500以上に跳ね上がり、顔を銀色の被膜が覆っていく。
アキオは凄まじい速さで立ち上がると同時に、I兵士に、制限をかけずに蹴りを放ち胴体を両断した。
そのまま、後方の機械化兵に向かって行くと、恐るべき攻撃力で、たちまち複数のI兵士が行動不能になった。
躊躇なく、アキオは崖へ向かう。
NMCには活動制限時間がある。
彼の持ち時間は少ないのだ。
このまま崖を登って、キューブを手に入れ離脱する。
だが――
素晴らしい速さで崖を登るアキオは、突如激しい衝撃を受けて意識が遠のき、次の瞬間、崖下にゆっくりと落ちて行った。
何者かに、おそらく砲撃されたのだ。
落下しながら、苦労して目を開き、自分を攻撃した敵を見る。
それは、反対側の崖を崩して現れた、幅150メートルはある、要塞のような巨大戦車だった




