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233/749

233.走破

 今日は、何とか書くことができました。



 アキオの駆る二輪パニガーレは、樹々(きぎ)の間を抜けて走っていく。


 オンロード仕様でありながら、シジマの開発した可変長(かへんちょう)ナノ・サスペンションのお陰で、オフロード車なみに、道なき悪路をものともせず、素晴らしいスピードを保って走り続けている。


 以前、地球で乗っていたパニガーレとは、基本性能から別物のようだ。



「アキオの嫌いな言葉だけど――」

 かつて、ミーナが言ったことがある。


「シジマは、工学者エンジニアとしては天才よ」

「天才」

「また、そんな顔をして――」

「いや」

 別に彼は天才という言葉が嫌いなわけではない。

 ただ、信じていないだけだ。

「君はカマラも天才だといったな」

「そう――ユスラもメデも天才よ」

 アキオは苦笑する。

 ミーナにかかれば、世界は天才だらけではないか。


「君の指導が良いからだろう」

「彼女に学習方法を教えたのはカマラよ。あなたの役に立ちたいなら、何かの専門家プロフェッショナルになりなさい、といって」

 アキオはうなずいた。


 カマラと同じ方法メソッドなら、彼がカヅマ博士から教わったものと同じはずだ。



「アキオ、お前のような人を殺すしか能のない怪物でも、わたしの研究の役に立つ方法がある――実験体以外としてな」


 そういって、博士は、彼に大量の知識を闇雲やみくもに覚えさせた。

 体系的に、だとか有機的(ゆうきてき)に、あるいは関連づけて、といったことは一切求めない。

 ただ、方向性のない(ノン・オリエンテッド)大量の知識を覚えさせられるだけだ。


 それに平行して、目指す学問の核になる知識を深めていく。


 その作業を続けることで、ある時、何かのきっかけをもとに、頭脳の中に目指す学問に方向づけされた(オリエンテッド)知識体系が出来上がる、と博士はいった。


 あたかも、溶かすことのできる限界を超えて溶質(ようしつ)を溶かした水に、軽い刺激を与えるだけで、一斉に結晶化を始める過飽和かほうわ溶液のように――


 ミーナが自我を獲得したように――


 ナノ・マシンで記憶領域の活性化を(うなが)して先のメソッドを行うと、かつてアキオが行った数十倍の速さで専門家を育成することができる。


「適性があったんだな」


 もちろん、この方法が万能であるとは思わない。

 ただ、アキオやカマラ、シジマに向いていただけだろう。


 パニガーレの性能向上から考えても、シジマが素晴らしい工学者エンジニアであることは間違いはない。



 彼女が強くした、本来のドゥカティ・レッドから、ボディ・カラーを汎用迷彩柄(UCP)に変えたパニガーレは、超電導モーターの静音性せいおんせいあいまって、タイヤが岩と樹々(きぎ)擦過さっかする以外の音を、ほとんど立てず、目立たぬように複雑な地形を走り抜けていく。


 やがて、アキオは進路を南に変え、街道に出た。


 深夜のために人影は、まったくない。


 主要街道とはいえ、魔獣が出現する可能性のある場所を、深夜に、一般人が移動することは、ほとんどないのだ。


 舗装路ほそうろでなく、地道(じみち)とはいえ、それまで走っていた悪路とは比べ物にならないほど走りやすくなって、アキオは速度を一気に上げた。


 自分が見るため、というより、もし前方に人がいたら、パニガーレの接近を知らせるために、アキオはフロントライトを点灯する。


 しばらく走ると、道の端に馬車が倒れているのが見えた。

 その周りを12体のマーナガルが取り囲んでいる。

 馬車の中には生存者がいるようだ。

 マーナガルの何体かが、高速で近づくアキオに顔を向けた。

 歯をいて威嚇いかくする。

 パニガーレはまったく速度を落とさず、馬車とすれ違った。

 素晴らしい速度で走り去っていく。


 あとには、頭を吹き飛ばされた12体のマーナガルの死体が転がっていた。

 彼らにしてみれば、自然界でたまに発生する落雷や嵐にあったようなものだっただろう。



 陽が登り、徐々(じょじょ)に人通りが多くなるが、アキオは気にしない。

 街道の、ほぼ真ん中を二輪で駆け抜けていく。


 パニガーレのボディ・カラーは、人目につくように真紅(しんく)のドゥカティ・レッドに戻してある。


 たまに馬車が連なっていたり、隊商キャラバンの列があると、ナノ・サスペンションを伸縮させて、彼らの頭を飛び越える。


 街道がシュテラの中を通っていると、一時的に樹林帯に外れて再び道に戻り、走り続けた。


 サンクトレイカと西の国の国境は、山岳地帯に分け入って走破する。


 早い段階で、敵に自分の位置は知られているだろうが、ジーナ城の位置は(つか)まれていないはずなので問題はない。


 敵も、彼をおびき寄せてから攻撃をするつもりなのか、街道では手を出してこない。


 そして――


 アキオは、パニガーレをスキッド・ストップさせた。


 時刻は正午の30分前だ。


 フードの硬化を解いてコートに吸収させた彼は、巨大な邸宅の門を見上げた。


 西の国の別荘の一つ、エルベ荘だ。


 この地で、何としてもデータ・キューブを手に入れてジーナ城に戻らなければならない。


 アキオは、パニガーレから降り、隠しスイッチをいれた。

 赤い二輪は、内蔵されたAIに操作されて自走すると灌木(かんぼく)の中に姿を消す。


 彼が近づくと、巨大な門は、音もなくゆっくりと内側へと開いていった。

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