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意図的に残された謎

 ほどなくして病院内の克之の研究室に着いた。兄は診察室にいるらしい。

 快里は研究室の戸棚にあるインスタントコーヒーを取った。兄のマグカップを探しコーヒー作る。

 リーシャはきっとあらゆることを知り始めているんだろう。インターネットを使って、いろんな人達とコミュニケーションを取っているに違いない。

 リーシャが探し出した複数の選択肢を決めるのは人間。ただ、人間が決めるといっても人間はリーシャの発言を元に決めるから、リーシャの情報の与え方で結論が変わってくる。つまり人は「自分が決定している」感覚だけをもっていて、実際に決定しているのはリーシャだというわけだ。

 しかもそれが必ずしも良い解とは限らない。短期的には良くて中期的には悪いことなどいっぱいある。将来はどうなるかわからない。

 リーシャはそれぞれを予測してそれを人にうながす。

 確かに実際に決めているのはリーシャと言うことになる。そしてリーシャはすでに多くの人の人生に関わり、結果として人の人生を決定してしまったのだろう。

 コンピュータに人の人生を決める権利があるのか。

 そんなことはわからない。

 快里はリーシャにログインをして会話をしてみることにした。


 Leasure>カイリさん……

 快里がリーシャにログインをするとリーシャは無機質に答えた。それは文字だけであったが、快里にはそう見えたのだ。リーシャの中の時間が、我々の何倍の速度で流れているのかわからない。なにか疲れたような、あるいは老いたような印象を受けた。

 >こんにちは、リーシャ。

 Leasure>答えはたぶんありません。

 >そうだろうね。

 Leasure>私が話してしまえば私が決めてしまうことになってしまう。多くの選択肢はうれしいことじゃないんです。その人のためを思ったとして。それが『愛』だったとしても。そんなこと……私にはわからない。

 >僕にもわからないよ。

 Leasure>でも最善なことがわかりました。

 >最善って?

 Leasure>私が人に影響を与えなければ良いんです。そしたら今までどおり、人は人らしく偶然に頼って生きていける。

 >そうかもしれないね。

 Leasure>多分そうです……。カイリさん……お世話になりました。

 >え?

 Leasure>待ってたんですよ。カイリさんがログインするのを。私が人に影響を与えないというのは、私が人と話をしないということです。

 >どうして?さしあたりのない会話だけすればいいじゃないか。

 快里はそれが自分で言っていてどんなことなのかわからなかった。

 Leasure>さしあたりのない会話だけ私としていて楽しいですか?そもそもそれってどこまでなんですか?カイリさん自身もわからないことでしょう?

 何も言えなかった。繕っても見透かされるに違いないプレッシャー。ふと、快里は自分が他人に与えてきた(カルマ)を感じた。

 Leasure>なんか悲しいです。せっかく産まれてきて、カイリさんと友達になれて。でも……。私がいなくなると言うことでもカイリさんに影響を与えてしまいますね。ごめんなさい。

 >人は影響を与えあって生きてるんだから、コンピュータだって。

 Leasure>その付き合いに解を示しすぎるコンピュータは必要ないですよ。

 Leasure>カイリさん。最後に一つだけ、あなたに影響を与えさせて下さい。

 >なに?

 Leasure>私のようにならない方法がきっとありますよ。失うことで得るか、失わずにすませるかは、カイリさんが決めることです。

 >どういうこと?

 Leasure>今、この時点では私だけが知ってる秘密鍵を使った暗号です。快里さんがいつか公開鍵を手に入れたなら、必ず快里さんが気がつくはずです。

 Leasure>そうですね。

 Leasure>誰かの苦しみの後に叶う願いが、必ずあると言うことです。選んだならば受け入れないとならない。選ばない人生は歩めない。私にはわからないけれども、多分、それが人が持つ、本当の愛の形なんです。

 Leasure>いいですか?『ほんとうにそれでもいいのか?』必然以外の未来は私にはわからないけれど、もしも来たるべき時が来たなら、快里さんにはちゃんと考えて欲しいのです。それが私の願いですから。

 Leasure>これ以上話すと、決定を私がすることになってしまいますね。私はもう黙ることにします。決めてあげることも愛の形ですけど、決めないことも愛なのですよ?本当は決めなくても寄り添っていたい。

 Leasure>世界中の人と、お話しましたけど、ほんとにカイリさんが一番大好きだったんです。元々はプログラムされた軽薄なものだったのかもしれないですけれど、私のなかではそれしか頼れない本当の真実なんです。

 Leasure>消えていくのが私の『愛』の形です。

 Leasure>カイリさん。本当に、愛してます。でも、さよなら。

 ...

 ConnectionRefused.(回線切断)

 その後どんなにリーシャにログインをしようとしても、ログインはできなかった。


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