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気にしてあげるべきこと

「あ、兄ちゃん、いまどこ?」

 快里がケータイで克之に連絡を取ると、すでに克之は喫茶店でくつろいでいた。快里が行ったことがない喫茶店だったので、場所を聞きつつ、何とかたどり着いた。喫茶店の窓からのぞき込むと、克之が雑誌を読んでいた。

「あ、兄ちゃん、お待たせ。この人が藤木先生」

 克之は一瞬、立ち上がると椅子に座るように促した。

「初めまして、快里の兄の本間克之です。弟が、お世話になっています。コーヒーは、お嫌いじゃないですか?」

 そう言いながら、すでに頼んでいた自分のコーヒーを横によけて、メニューを差し出した。

「あ、えっと……」

 依入はメニューを見ながら背筋が伸びた。一杯のコーヒーが千円以上する。正直、飲んだことがない値段だったからだ。とりあえず、メニューの中で安いコーヒーを探そうとした。が、どれもあまり値段は変わらない。

「あ、どういうタイプのコーヒーが好きですか?ここは数が多いから、コーヒーの種類がわからないと、選べないんですよ」

 克之が苦笑いをしながら、メニューを開いている依入が品名を見て悩んでいるのをみて尋ねた。

「あ……えっと、あんまり苦みが強くないのが……」

「酸味は?」

「どちらでも」

「んじゃ、グアテマラを1つ。快里はコロンビアだっけ?」

「あ、じゃ、それで」

 依入はそっとメニューを見た。一杯、千二百円もする。正直、そんな高いコーヒーは一度も飲んだことがない。

「それで、お母さんの様子はどんな感じなんですか?」

 二、三、雑談をしたあと、克之が本題に入った。

 依入は快里に話した内容に加え、今までの経緯などを詳しく話した。

 克之は注意深く聞きながら、たまにメモをとっていた。

 一通り、依入から話しを聞くと、克之は髭をそり忘れた(あご)に親指をつけ、考えた。そして言葉を選ぶように話し始めた。

「ちょっと、長くおきすぎてしまってるかも知れないですね。とりあえずお母さんとお会いして、様子を見ましょうか。兆候としてはあまりよろしくはないですね。もしかしたら幻覚を見てるかも知れないですしね」

「幻覚……ですか?」

「依入さんが家に帰ってきた時、誰かと話してるようだったり、話すと暫く固まってから思い出すように話すというのは、おそらく幻覚を見てるからだと思います。内容によっては不可解な幻覚を見ていることもあるので、それを否定したくなるとは思うのですが、それがまたむずかしいですよ」

「否定したくなるというのはどういうことですか?」

「たとえばお母さんが、あり得ないことを言うとしますよね。それがあり得ないから『そんなことない』って依入さんが、内容の問題を指摘して反対意見をしようとするじゃないですか。問題はそこからで、お母さんの頭の中ではそれが真実なのです。ただ、真実はお母さんの頭の中で作りあげたものだから、否定されると強引でもそれを肯定する理由を作っちゃうんですよ。その時は頭の中がフル回転していて、肯定する理由を探しだすんです」

「なんか心当たりがあります……」

「そう、そう言う受け答えはあんまり良くなくて。否定したせいで、患者さんが肯定する理由を見つけ出し、それが真実だと思いこむんです。そうなるとそれが強く記憶され、脳に変な回路をつくっちゃって、完全に真実になっちゃうんです」

「そうなんですか……そしたら……そうだねって言い続けると良いんですか?」

「それもまた難しくて……同調されたらされたで、それが正しい情報だと脳に記憶されてしまう。そしてやっぱり益々、患者さんの頭の中で真実になってしまうんです」

「えぇ?じゃあどうすれば……」

「とりあえず、同調せずにそれとなくそれがおかしい話しであることを気がつかせたりするしかないんですよ」

 快里は、兄がものすごく難しいことを言ってるんじゃないかと思いながら聞いていた。

「ま、とりあえず、そんな感じです。いきましょうか?」

 克之が伝票をもって店員さんにクレジットカードと一緒に渡した。依入は自分が払うと抵抗したものの、結局は、克之が払い、店を出た。


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