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騙せる嘘、見抜かれる嘘

 快里とメイが本間病院の駐輪場についたときには、午後5時を回っていた。この時間になると、兄はだいたいコンピュータを触っていることが多い。顔パスで裏門から入ると、二人はそのまま精神科まで直行した。小さな会釈(えしゃく)をしながら会計でならんでいる患者さんの間を通り抜ける。精神科の受付の看護婦さんが目配(めくば)せをして、克之が診察室ではなく、研究室にいることを教えてくれた。


 コンコン。


「はい、どうぞ」

 克之の声が聞こえるとすぐに生芽衣が戸を開ける。

「やっほ」

「お!やっぱりメイちゃんも一緒に来たんだ」

 笑顔で克之が二人を迎えた。

「僕たち、連絡したっけ?」

「メル友だからね」

 克之は楽しそうに快里に答えた。

 えへへと笑いながらメイが克之が座っていたハーマンミラーの黒いメッシュの椅子に座った。メイはこの椅子がとても気に入っているようで、克之の部屋に来ると必ずこの椅子に座り、伸びをする。それを知っている克之は、メイが来ると必ず椅子を譲る。本棚の隙間からパイプ椅子を2つ取り出すと、一つを快里に差し出し、一つを自分で開いて座った。

 冷蔵庫を開けて、ペットボトルの麦茶を3つ出して、メイと快里に1つづつ渡した。

「で、リーシャは?」

 ペットボトルを開けながら、快里が尋ねた。

「あぁ〜幼稚園児ぐらいかなぁ」

「なにそれ?」

「いや、多分、幼稚園児ぐらいじゃないかなと」

「まだ、一晩しか過ぎてないけど?」

「今日は午前中、ずっと(しゃべ)ってたからね。でもすごいよ。話しているとどんどん言葉を覚えていって、成長していくんだ」

 克之は本当にうれしそうだ。

「リーシャってそんなに頭、良いんだ」

 メイは暫く麦茶を開けようとしていたが、もらった麦茶のペットボトルのキャップの方を克之の方に向けた。

「頭良いって言うべきかは、わからないけど。上手くプログラミングできていることは確かかな」

 メイからペットボトルを受け取り、キャップを開けてからメイに返す。小さい頃から面倒を見ている若いパパと、娘のような関係だ。

 そして机の上のコンピュータに向かって、入力をし始めた。


 >おともだちがきたよ。リーシャ。

 Leasure>おともだち?

 >そうだよ、おともだち。ぼくとリーシャとか。

 Leasure>カツユキとリーシャ。なかよし?

 >そうそう。

 Leasure>だれ?

 >カイリとメイ。

 Leasure>カイリとメイがなかよし?

 >リーシャとカイリがなかよしになるんだよ。

 Leasure>リーシャ、カイリとなかよしになれるよ。

 >メイは?

 Leasure>リーシャ、メイとなかよしになれるよ。

 >メイと()だろ?

 Leasure>リーシャ、メイともなかよしになれるよ。

 >えらいなリーシャ。


「すごいね、人間の子供みたいだ」

「さすがだな、快里。これをわかってくれるのはお前ぐらいだよ。本当に良くできてるだろ?」

 自信満々の顔で克之が話す。

「兄ちゃんこれさ。ネットには繋がらないの?」

「おいそりゃまだ、早いだろ」

「いや、そういうじゃなくて、外から話ができるようにさ」

「あぁ、そういう意味なら昨日も家から触ってたよ。お前を呼ぼうと思ったけど、寝てたみたいだったからさ。じゃ、アカウントを発行しよう。鍵ファイルはいつものやつを入れてあるから、いつもの秘密鍵でログインすればいいよ」

「秘密鍵?パスワードとはちがうの?」

 麦茶を飲みながら話を聞いていたメイが突然尋ねる。

「パスワードのもっと厳格(げんかく)な方法だと思ってれば良いよ」

 快里はあっさりとした説明した。

「なにその言い方、ちゃんとおしえてよ」

 メイは何となくあしらわれたのが気に入らなかったらしい。

「えっと……そうだなぁ」

 快里はめんどくさい説明をすることになってしまったことを若干後悔しながら、あきらめて説明を続けた。

「公開鍵暗号ってのがあってね。自分の秘密鍵と公開鍵をペアで作るんだ。普通の暗号のパスワードは、暗号化する時も、複合化するときも同じパスワードをつかうだろ?」

「ふんふん、それで?」

「でも、公開鍵暗号は鍵がペアになってて、片方の鍵で暗号化したものは、もう片方の鍵でしか復号できないんだ」

「それ、なににつかうの?便利?」

「たとえばメールとかに使えば、メイの秘密のメールは、メイの秘密鍵でしか暗号化できなくて、あらかじめメイの公開鍵をもらった人はそれを見ることができるわけさ」

「公開してる鍵で見られちゃ意味ないじゃん」

「いやいや、メイしか暗号化できないんだから、そのメールは確実にメイが書いたといえるでしょ?」

「あーあー!なるほど。じゃ、公開する方の鍵を、届けたい人にだけ渡してあげれば、鍵を貰った人しかみれなくなるのね」

「そ。でもだから、鍵は大切なのさ」

 快里は難しい言葉を使って説明すれば、メイが食い下がるかと思って説明してみたが、意外にもメイががんばって話しについてきているのに感心しながら話した。

「なーるほどねぇ」

「まーつまり、せっかく大切な人工知能だから、クラックされて変なことたたき込まれちゃしょうがないってことさ」

 克之が苦笑いをしながら、話に割り込んだ。

「つまり……カツユキの説明の方がわかりやすかったかな」

 苦笑しながらメイがしどろもどろに答えた。

「兄ちゃんは、暗号の説明してないんだけど……」

 快里はそう言いながら、ログインすると、リーシャと話をし始めた。

 快里はキーボードを打つのが早い。快里は身長が高く、同じように手も大きいが、手のひらが大きいのではなくて指が長いのだ。細くて長いからなのか、小指がパタパタと動く。

「ねぇ。アタシにも話させて」

「じゃあ、メイのIDと鍵も作ってあげるよ」

 克之がキーボードを借りてメイのアカウントを作り始めた。終わるとすぐに、メイは奪うようにして克之からキーボード取りあげ、キーを叩き始めた。

「メールで言ってた顔文字は?」

「あぁ、もう対応してるよ」

 メイは言葉(ことば)(じり)にいろいろな顔文字(フェイスマーク)をつけて、赤ちゃんをあやすように話しかける。

「これってさ、ケータイから話せるようにできないの?」

「ケータイ?」

「そうすると授業中に暇なときに、リーシャあやしていられるじゃん」

「お前、学級委員って言ってなかったか?」

「そだよ」

「いいのかよ」

「関係ないよ。学級委員とは」

「はいはい。怖いよその目。じゃあアクセスできる仕組みを作ったら、メールするよ」

「やった!……ふふ」

 結局、この二人の組み合わせでも主導権はメイが握る。兄貴はどうもメイには弱いらしい。メイにとって兄貴はメル友というよりは、叔父みたいなものなのだろう。

「それにしても、すっごい覚えるのが早いよね。リーシャって」

 メイはリーシャとチャットしながら麦茶を飲んだ。

「結構楽しいだろ?教えたことをすぐ覚えてくれると」

「うん」

「親っていうのは、こういう時期から子供に触れてるんだぜ。子供のことが大事に思うに決まってるだろ。メイちゃん」

「親の気持ち?カツユキ、まだ結婚もしてないじゃん?何、言ってんの」

「俺は、快里を立派に育てたという自負があるからな。15才も離れていると、親みたいな気持ちになるぜ。親父がむちゃくちゃ忙しいから、参観日だって行ったしな」

「そういえば、来たよねぇ。一人だけ若いおじちゃんが」メイが椅子をくるっと回して振り向きながらはなす。

「おじちゃんはないだろーよ?だけど快里はもっと可愛かったんだぜ。ころころしててさ。あのかわいい笑顔はどこいっちゃったんだってかんじ。頭も良くてさ。なんでもすぐに覚えるし、悪さも普通の子供の何倍もしたんだけどな」

「そんな悪さしてたっけ?」

 ぶっきらぼうに聞く快里。

「お前、覚えてたらそれこそ驚異(きょうい)だよ。家にあったリトマス試験紙を見つけてさ。片っ端からいろんな物のpH(ペーハー)測って全部ダメにしちゃったりとか、おぼえてねーだろ?」

「ぺーはーってなに?」

「いまは、ピーエッチって教えるね」

 快里が答える。

「あー。あの色が変わる紙?」

「そうそう、家に帰ったら(いた)る所にリトマス試験紙が刺さってるんだぜ?柱の間とか、植木の中とかにも」

 人差し指で家中の色んな所を指すようなジェスチャーで克之が話す。

「なにかを差し込むってのが面白かったのかな?」

 快里が頭をかきながら話す。

「色も変わるしな。あの紙。とりあえず見つかった紙は全部回収して。もちろんぜんぶだめになっちゃったから捨てたけどな。それでも1年ぐらい後に何気なく横になったりすると、ビデオデッキの中とか(たたみ)(たたみ)の間とかさ。子供しか目につかないような所に結構隠されてるんだよ、これが。まだひょっとしたら1枚ぐらいどっかにあるかもしれないぜ?せっかくだからどこが酸性でどこがアルカリ性だったのか、メモっておけば良かったよ。全部除去されるのに、いったい何年かかったんだろうな」

「へぇ」

「ま、むちゃくちゃ可愛かったけど、何回も窓から捨てようかと思ったね」

「快里、良かったねぇ、捨てられなくて。捨てられてたら今ここにいないね〜」

「はいはい」

「メイちゃんもネイちゃんも小さいころ、ころころしてて可愛かったもんな」

「えぇ?克之ってひょっとしてロリコンだったの?」

「おい。そうじゃないだろ?誰だよ。こ〜んなちっちゃいときに、俺のことおじちゃん、おじちゃんって言って寄ってきたやつは」

 克之は手で身長を表すジェスチャーをする。

「だって、父兄参観日に来てたから、快里のお父さんかと思ったんだもん。あの時、カツユキ何歳だったの?」

「俺と快里が15才離れてるから、お前らが小学校1年生の時、22才かな。まだ医大生だったんだぜ。俺」

「22才っていったら、7歳児からみたら十分オヤジじゃん」

「そりゃぁ世の中の22才以上の人がショックだろ。そういえばメイちゃんさ、小学校、何年だったかな?1年か2年の時に『かけっこ(50メートル走)』で()ろんで大泣きしただろ?あの時、消毒してあげたの、俺だったんだぜ?覚えてるか?」

「カツユキ、それアタシじゃないよ。ネイだよ」

「あれぇ。そうだっけ?そういえば、そんな気がするなぁ。ごめん」

「じゃあ、クラス対抗リレーで、バトン渡すときに落としたのはどっちだか覚えてる?」

 と、悪戯(いたずら)っぽい顔をする。

「え?確か、ネイちゃんもメイちゃんも二人ともリレー出てたんだよね?」

「そだよ。どっちかがスターターでどっちかがアンカー」

「あぁ、思い出した。足の速い子が2回走ってるって。観客席で文句を言ってた人がいたんだ。俺、二人は双子だって説明したんだった」

「そ。アンカーはバトンもらうだけだからね。落としたのはスターター。さてスターターをやったのはどっちでしょう?」

「そういう話をするってことは……メイちゃん?」

 克之が困った顔をする。

「違うよ、兄ちゃん。メイじゃないよ、ネイだよ」

「あれぇ。覚えてないもんだなぁ。小学生の時はそっくりだったもんなぁ、二人とも」

 ばつが悪そうな顔をする克之。

「だけど、医大生だってだけで保健室に呼ばれちゃってさ。治療方法なんて全く知らなかったから困ったんだよ」

「それは兄ちゃんが、病院の息子だったってのも、あったんだと思うよ」

「そういうもんか?もちろん、今だったらそのぐらいどうってことないけどな。そうか。あれから10年たつんだもんな。22から32まで、なんか一瞬だったなぁ。あんな子達がこんなに大きくなるはずだよなぁ」

 克之はしみじみと考えながら言っているようだった。大学を卒業してインターン期間を終え、必死で仕事をしてやっと板について来たかと思ったころには、弟とその同級生達は小学1年生から高校2年まで成長しているのだから。

「あ……そだ、ちょっと……」

 メイが診察室の外に出て行った。快里の目の前でメイの両方で縛っている2つのおさげが揺れ、シトラスの香りがふわっとした。

 扉が閉まることを確認すると、真剣な顔をして克之が快里に話しかけた。

「そういや快里、昨日も、どっかに行ってたろ?」

 行ってた。つまり快里が瞑想をしていたということだ。

「気がついてた?」

「少し相談しようと思ってな。呼んだんだけど、全く返事がなかったからさ」

「それでも昨日は、そのまま寝てしまいそうだったから、布団に入って考え事してたんだけどな」

「寝てるだけなら起きるからな。完全にあっちに行ってるときの顔つきだった。なんか考えないとならないことがあったのか?」

「たいしたことじゃないんだけどね。例の新任の女の先生のことをね」

「珍しいな。女のことでお前が考えるなんて」

「何言ってるんだよ。兄ちゃん。そんなんじゃないよ」

「何にも言ってないだろ?」

「で、昨日はなんの相談があったの?」

「あぁ。瞑想中と寝てるときのお前の脳波を取ろうと思って、機材だけは家に持ち帰って、用意はしてたんだ」

「あぁ、その話か。僕はいつでも良いけど」

「あれから考えたんだが、お前が集中して瞑想するときは、かなり特殊な状態になっていることは間違いないと思うんだ。お前は集中しているときには五感が完全になくなるよな。子供の時から集中すると話しても全く答えなかった。その程度なら、特に男の子には確かにあるんだよ。だけど集中力はどんどん増していった。中学ぐらいから集中すると、目を開いたまま視点が定まらないとか、あるいは目を閉じたままとか。話しても答えないどころか、叩いてもわからない。よほど強く体を揺すってみて、やっと気がつくという感じだ」

 克之は一気に話した後、少し思案して言葉を選ぶように再び話し始めた。

昏睡(こんすい)状態と言うべきかな。昏迷(こんめい)状態とも違う。その証拠に、お前が気を失っているときは周りで起きてることがわからないし、お前に対して喋りかけたことを完全に聞いてないからな。そうなると昏睡(こんすい)が疑われるわけで、痛みを与えるために針で少し突くと、多少の反射こそしても、それだけで終わり。JCS(Japan Coma Scale)でいえば、III-200。ただ昏睡(こんすい)は、一般的には脳に障害が起きてる状態だから、そんなにすぐには戻ってこれないからそれとも違う可能性は高い。とはいえ、本当に昏睡なのか、脳の働きを調べて見る必要があるんだが……」

 じっくりと思案しながら喋る克之に快里は少しだけ感心した。

「やっぱ、兄ちゃん、お医者さんなんだな」

「当たり前だ……とはいえ、お前の体で起きてることは、俺が知ってる医学の範囲ではよくわからないんだよ。全く脳と体が完全に分断されてる感じか。いや一般的な言い方をすれば、どこかに行ってしまったという感じが一番しっくりくるぐらいの状況なんだ」

「そうなのかなぁ。どこかに行っちゃうとは言っても、よく本で見るような幽体(ゆうたい)離脱(りだつ)みたいな奴とは違うような気がするな」

「そんなオカルトみたいな意味じゃ無いけどな。実際には脳が生命の維持の一部を(にな)っているわけだから、脳と体の生命(せいめい)維持(いじ)活動が完全に分断(ぶんだん)されることはあり得ない。だから小脳や視床(ししょう)下部(かぶ)、大脳の一部も動いているんじゃないかと想像できる。そうなるとあれは脳が意識的にやっているんだろうと考えられる。つまり、脳には外の情報が入っているが、体の情報をどこかでブロックして、意識下へ伝えてないんだろうな。あるいは意識が分離していて、思考側と制御側が分離してるのか……。いや、ここまでくると推定だよな。詳しくはわからない。ただ人間の脳ってのは色々な事がおきるからな。DID(Dissociative Identity Disorder、解離(かいり)(せい)同一(どういつ)(せい)障害(しょうがい))みたいなことも起きるんだから、人間の脳はなにが起こるかは、さっぱりわからん。問題は対外的に昏睡状態になる集中力を、どんな拍子に、何のためにおまえが身につけたのか?多くの解離性障害は、自分の心を守るための必然から生まれるからな……」

 克之は急に悲しそうな顔をした。

「俺としては……な。俺とお前は年が離れすぎてるし、ただの弟じゃないんだよ。弟でもあるが、半分は育ての親にでもなったような気もするぐらいだ。もし、お前が何らかのパーソナリティ(人格)障害と同じメカニズムだとすれば、やっぱり環境の影響のこともちゃんと考えないとならない。環境のパーソナリティ(人格)障害との関連性は、必ずしもあるとは言い切れないんだけどな。とはいえ、お前に障害が起きるほどのストレスを俺や親父が与え続けたのだろうか?って思う時がある。こういうことは直接患者には聞くべきじゃないんだけどな。なんとなく、お前には包み隠さず何でも話したほうが良い気がしてな」

「兄ちゃん。色々気遣ってくれてありがたいけど……僕はストレスを感じたことは本当に無いんだけどな。だいたい解離性障害とかシゾも含めて、こういう精神障害が周りの責任とは言い切れないじゃないか。遺伝的要素もあるだろ?」

「いや、だとしても……」


 ガチャ……。


 扉が開いてメイが入ってきた。

「で、兄ちゃんは、今日の帰りは?」

 何事も無かったかのように快里が克之に話しかけた。こういう切り替えができるのも快里の特徴かもしれない。

「あ、あぁ。昨日、速攻で帰ったのが親父にばれちゃってさ。今日は資料書くのを手伝えって、さ」

 克之は焦りながらその場を取りつくろうとした。快里にそれができても、克之にできるとは限らないから。

「父さん、困ったんじゃないの?昨日」

 快里は質問をすることで克之の気を落ち着かせようとした。

「ま、まぁな。でも、逃げたおかげでネイちゃんが作ったご飯が食えたしな」

「私も何品か作ったんだよ」

 メイが口を尖らせて言う。

「いや、もちろん。メイちゃんがつくったおかずもおいしかったよ」

 メイは強引に話を持っていくタイプなので、こういう時に助かる。克之はいつもながらに思っていた。

「もう、何を私が作ったんだか知らないくせに……」

「いやいや」

 苦笑する克之。

「父さんも、もう少しコンピュータ触ればいいのにね」

 快里はメイに追いつめられそうな兄貴を思って、なにげに助け船を出した。

「全くだよ。いつも必要なとき以外触らないからな」

「この類の物は、趣味にするぐらいじゃないと覚えないからね。ちょっと興味があるだけじゃ、わからないことの方が多いし。ま、いいや。飯は外だね」

「悪いな」

 克之は取りつくろえた事に安堵した。

 メイは特に何も気がつく様子も無く、何かを話そうとしてたようだ。会話が小休止したところで、突然話し始めた。

「快里ぃ、久しぶりに今日は家に食べに来たら?」

「え、悪いよ。おばさんに」

「ネイが喜ぶよ」

「ネイだけ?」

 快里は怪訝な顔をして答えたが、しばし考えて言う。

「つまり、メイが英語を教えてほしいと?」

「ご名答。ねぇ。教えてよ。ネイばっかりずるいよ」

「別にメイに教えないって行ってないだろ?わかったよ。おばさんが問題ないっていうなら、お言葉に甘えてそちらにおじゃまするよ」

「さっき電話したら良いって言ってたから、だいじょ〜ぶ!」

「準備良いなぁ。最初からそういうつもりだったんだな」

 克之があっけにとられた顔をしながら言った。

「いいなぁ、快里。二日連続、ネイちゃんが作ったご飯が食べられるのか」

「失礼だね。カツユキは!私だってちゃんと手伝ってるんだよ」

「わかった、わかったから!」

 なだめるように克之が言った。

「んーと。英語教えるのか。それじゃ、あんまり遊んでられないからそろそろ帰るかな」

 快里は腕時計を見ながら言う。

「それじゃ、俺は明日には帰るから。親父は多分無理だと思うけど」

「了解、父さんには無理して体を壊さないようにと言っておいてよ」

「もう60すぎてるしな」

「そうだね。じゃ、またね」

「バイバイ。克之。また遊びに来るよ」

「気をつけて帰るんだぞ。メイちゃんまた遊びにこいよ」

 メイは少々オーバーに手を振りながら、克之の研究室を後にした。


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