表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/38

第五章(5)

 翌日の早朝。すでに準備を終えた民と共に、リーファも広場へと来ていた。

 残っていた原初の一族はこれで最後。ここにいる全員が逃げれば国はもぬけの殻となる。

 昨日の偵察で、結界が破られるのもあと少しだと分かった。時間としてはギリギリだ。はちあう可能性も高い。

 後はレイアとマルファスが来れば。そう思っていた矢先、マルファスが城の方からやって来た。走ってはいるが、焦りのようなものは見えない。


「リーファ殿、たった今召喚獣から連絡が」

「え?」

「どうやらアフィルメスの軍の動きが少し変わったらしく、雪原の方へ向かった者が数名いるとのことです。人数はそれほどでもありませんが、不安はあります。そこで、アフィルメスの動きが読める貴方に、一足先に出てもらいたいのですが……」


 沈鬱な声でそこまで言って、マルファスは躊躇った。リーファを先に一人で行かせることに不安があるのだろうか。

 目線を下げるマルファスは、ここ数日でずいぶんと老けたように見える。


「それは構わない。安全なルートに魔力痕を残して……雪原の途中で待っていれば良いか?」

「は、はい……お願いできますか?」

「分かった。あ~、じゃあ、レイアのこと……」

「もちろんです」


 頷くマルファスを認め、リーファは杖を握って北に向かった。

 ちらりと城に目を向ける。今日はレイアとすれ違って挨拶を交わしただけ。今彼女を置いて行くことに心配は残るが、逃げるルートを潰されては意味がない。


 リーファは頭を振り、余計な考えを追い払った。レイアと一緒にマルファスもディルスもいる。心配することなど、何一つない。

 そう自分に言い聞かせて、リーファは霧が立ち込める森へと足を踏み入れた。




   ※ ※ ※ ※ ※




 マルファスは祈りの間へと急いだ。

 リーファを行かせてから数十分後、残りの民達もそれぞれのルートへ向かわせた。最後に残っていたディルスは何か言いたげだったが、メラの存在を促すことで行かせた。


 もうこのアレネス国にいるのは、自分と、彼女のみ。


 大扉に手を突き、力を込める。何の労力もなく、扉は内側へと開いた。

 もう見慣れてしまった壁画。暗い雲に覆われた空を見せるガラスの天井。代わり映えのしない祭壇。そしてそこに――


「レイア様……」


 呼びかければ、彼女はすぐに振り向いた。

 旅の装いをしたマルファスとは違い、白を基調としたドレスに身を包んだレイア。黒と赤と青で裾や袖に刺繍が入り、一目で何か特別な時に着るのだろうと分かる物だった。

 そして彼女は、装飾品も見につけていた。


 普段は祭壇に置かれている物。黒の宝玉がついたサークレット。赤い宝玉のついたペンダント。青の宝玉がついたブレスレットは右手に、白の宝玉がついたブレスレットは左手に。

 原始の王を表すそれを、彼女はしっかり身につけていた。


「魔王と神王がおいでに?」


 床に散らばった黒と白の羽根。それを見ながら問いかければ、彼女は悪戯っ子のように無邪気に笑う。


「うん、ちょっと頼みたいことがあったから」

「そうですか……先程全ての民を行かせました。もう、この国にいるのは私と貴女だけです」

「そっか。ありがとうマルファス。じゃあ、貴方も……」


 言いかけたレイアを遮って、マルファスは大きく手を叩いた。そして、極力明るくなるよう、いつもより大きな声で笑いかける。


「さ、レイア様も早くご準備を。急がなければディルス達に追いつけませんよ」

「マルファス……」

「何、外に出ても上手くやっていけますとも。皆そう考えています。レイア様がいれば」

「マルファス」


 静かな、だが強い声で名前を呼ばれ、マルファスは口をつぐんだ。

 祭壇の上から、困ったようにレイアがこちらを見ている。


「貴方にも頼みたいことがあるの。本当はお願いって言いたいんだけど……マルファスは聞いてくれそうにないから……」


 穏やかな声。彼女が赤ん坊だった頃から見てきた自分には、分かってしまった。


「これは女王としての……最後の命令です」


 レイアは絶対に決意を覆さないのだ、と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ