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白と黒の物語  作者: あると


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プロローグ

白と黒の世界――。

そこには、まるで陰陽の図案のように、二つの国が寄り添うように存在していた。

「白の国」の人々は、病に伏せがちなほどに脆くか弱い身体の代わりに、万物を操る“魔法”という神秘の力を宿していた。

対する「黒の国」の人々は、魔法こそ使えないものの、素手で岩を砕き、疾風のごとく駆ける強靭な肉体を持っていた。

互いに持ち得ぬものを補い合い、支え合う。それがこの世界の、長い伝統であり穏やかな調和の形だった。

その両国の境界線に位置する、小さな辺境の村。

ここでは一年に一度、伝統を称える大きな祭りが開かれる。白と黒、それぞれの国から選ばれた“最強”の若者が、己の技と力を競い合う記念碑的な果し合いだ。

今年の黒の国の代表は、十七歳になる直情径行の少年だった。

そして白の国の代表は、彼より一つ年上の、十八歳の少女。

彼女が舞台に上がった瞬間、観客席からは溜息が漏れた。誰もが思わず振り返るような、透き通るような美貌。しかしそれ以上に、彼女は圧倒的に強かった。

少年は少女を指さし、不敵に胸を張って吠えた。

「今年こそ勝つからな、お前!」

四年前、十二歳の頃から村のガキ大将として負け知らずだった少年。だが、この目の前に立つ白い髪の少女にだけは、ただの一度も勝てたことがなかった。

少女はくすりと小さく笑い、柔らかな白い髪をさらりと揺らした。

「ふふ、また同じこと言ってる。……じゃあ、こうしましょう」

彼女は少しだけ腰に手を当て、悪戯っぽく微笑む。

「私に勝ったら、言うことを一つだけ聞いてあげる。なんでもね」

その声音は挑発的でありながら、どこか鈴の音のように甘い響きを含んでいた。

少年の心臓が跳ねる。熱くなった頭のまま、彼は地面を爆発的な脚力で蹴り崩し、一気に少女の懐へと飛び込んだ。

「いっくぞおおお!」

「はぁ……ワンパターン」

少女は小さくため息をつくと、優美な動作で指先を軽く振るった。

その刹那、少年の足元の地面が瞬時に凍りつき、目の前にそびえ立つような分厚い氷の壁が立ち上がる。

「うおっ!?」

バイーンッ!

間抜けな衝撃音とともに、少年は勢いのまま氷壁に正面衝突した。哀れにも鼻血を噴き出しながら、仰向けに地面へとひっくり返る。

少女は氷の壁の向こうから、ひょいと顔を覗かせ、呆れたように肩をすくめた。

「ほんと、いつもと同じね」

だが次の瞬間、少女の視界から少年の姿が掻き消えた。

「……え?」

「もらった!」

頭上から降ってきたのは、確信に満ちた声。

少年は衝突の反動を利用して上空へ跳び上がり、死角である少女の真後ろを取っていたのだ。空中で身を翻した少年は、背後から少女の額へと、その大きな拳をそっと優しく当てた。

そして、勝ち誇ったように満面の笑みを浮かべる。

「俺の勝ちだ!」

しかし、少女は動じなかった。ただ目を細め、静かに、そして冷ややかに呟く。

「それで?」

「えっ?」

異変に気づいた時には遅かった。少年の首から下の感覚が、一瞬で消失する。見れば、首元から足先までがガチガチの氷塊に包まれていた。

「うおおおおお!? ズルいだろそれぇ!」

「勝負は最後まで諦めないこと。はい、今年も私の勝ち」

少女は再び肩をすくめ、氷漬けになって身動きの取れない少年を見下ろした。だが、その瞳には柔らかな光が宿っている。

「……でも、約束は約束よ。一つだけ、言うこと聞いてあげる」

負けは負けだが、健闘を称えての慈悲か。あるいは彼女なりの、別の意図か。

少年は凍えながらも、一切の迷いなく叫んだ。

「じゃあ――結婚してくれ!」

「なっ……!」

少女の顔が、一瞬で耳の裏まで真っ赤に染まった。あまりの直球に、先ほどまでの余裕が嘘のように狼狽する。

「そ、そんな……急に……。でも……約束、だもんね……」

少女が視線を彷徨わせ、もじもじと指先を弄んだ、その時だった。

突如として、世界の音が消えた。

昼間だったはずの空が、生気を失ったように暗転する。村全体が底なしの影に飲まれるように沈み込み、大気が、空間そのものが、ガラスが割れるように激しく歪み始めた。

不穏な裂け目から、現実感を無視した巨大な男の影が姿を現す。

『――我は創造神。暇つぶしに来た』

その声は地響きとなり、人々の魂を震わせるほど重く、そして絶対的な冷酷さを孕んでいた。神の視線が、地上の二人へ注がれる。

『今からお前たちに殺し合ってもらう。互いに“器”を与えた。壊し合え。壊れた国は滅ぼす。一年経って器が壊れていなければ――両方滅ぼす』

不条理な宣告とともに、神の手から狂おしいほどの光が放たれた。

「やめろっ!」

「いやっ!」

抗う術もなく、二人の身体は白光に包まれる。光の中で肉体の輪郭が崩れ、溶けていく。

少年と少女は互いに手を伸ばした。必死に、引き裂かれまいと指を伸ばす。しかし、あと数センチというところで、二人の指先が触れ合うことはなかった。

『楽しませろ』

創造神は、それだけを言い残して闇の裂け目へと消え去った。

後に残されたのは、ただ互いの名を叫びながら、光の渦の中へと消えていく少年と少女の絶叫だけだった。

世界の崩壊を賭けた、最悪の一年が幕を開ける――。

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