4話 アイテム整理
3層5区に点在する火山湖の畔。そのすぐそばで鈴鹿たちは野営の準備をしていた。鈴鹿が料理を、灰ヶ峰がイスやテーブルの設営、ヨキが火の当番だ。
「とても綺麗な場所ですね、鈴鹿様。星が降ってくるようです」
「そうだろヨキ。3層5区は野営するのにもってこいなんだよ! 朝日も綺麗だから、明日は早起きしようぜ」
「ぜひ! とても楽しみです!」
探索者が野営をする場合、普通は活動しているエリアと一つ下のエリアの狭間で行う。エリアの境界付近はモンスターが出現しにくいためだ。こんなエリアのど真ん中で野営なんてすれば、寝る暇もないほどモンスターに襲われることだろう。
確かに風光明媚で野営できるならば素晴らしい地だが、決して野営にもってこいなわけがない。そう灰ヶ峰は思ったが、鈴鹿といると野営時に一度たりともモンスターに襲われることがないため何も言わない。
灰ヶ峰は気が付いているが、鈴鹿は野営時に聖魔法による結界を張っている。鈴鹿一人ならば気配遮断でなんとでもなるが、パーティとなると安全を考慮して結界を張る必要があったのだ。モンスターを寄せ付けない結界であり、聖神ルノアが生み出した魔法のため、3層5区のモンスターでは破ることなど不可能である。
今まで鈴鹿たちは2層4区で野営をしていた。ヨキが2層5区のエリアボスに挑んでいたためだ。しかし、今日ヨキは最後のエリアボスである夢遊猫を倒したため、鈴鹿たちと同じ3層5区へと活動場所を移動することになったのだ。
「それにしても、ヨキも自分の魔法で自滅してたからびっくりしたよ。俺も自分の魔法で死ぬかと思ったし、やっぱ魔法は難しいね」
「お恥ずかしい限りです……」
鈴鹿の手を煩わせたことに対する申し訳なさでうなだれるが、鈴鹿も同じ失敗をしてお揃いだったので尻尾はフヨフヨ左右に揺れているヨキ。
鈴鹿は刃写理山水を倒した後、自分が撃った魔法のあまりの威力に余波で吹き飛ばされ散々な目に遭った。本当に全ての魔力を捧げた結果、鬼神纏いも存在進化も解除され、身体強化もままならず、まるで枯葉のように宙を舞って泥だらけになりながら停止したのだ。ステータスは健在だったため無事だったが、ステータスが低ければそれだけで死んでいたかもしれない。
当然見えざる手も解除され、スマカメも一緒に宙を舞った。鈴鹿が倒れて停止した頭に衝突した時は止めを刺されたかと思ったが、スマカメも鈴鹿も無事。何とか生きていた。流石100万円はするプロの探索者御用達のカメラである。
そんなボロボロの泥だらけになったが雷魔法は結局スキルレベルも上がらず、ただ地形を破壊し自滅しただけに終わってしまった。さらに魔力切れになってしまったので魔力ポーションも使ったのでマイナスですらある。
一方ヨキも似たようなものだった。今日は火魔法でエリアボスを倒すと気合を入れていたヨキ。鈴鹿の予想通り『干渉断絶』のスキルが付与される『鍵尻尾の守護』を装備すれば、夢遊猫の初見殺しは無効化できたようだ。初見殺しを封じたとはいえ、エリアボスである夢遊猫が弱い訳ではない。ヨキが戦斧を使えば一方的な戦いになるだろうが、慣れぬ魔法だけで戦えば激戦必須。
地獄の業火のような蒼い炎を操りながらなんとか夢遊猫を追い詰めたヨキは、これで止めだと魔力を振り絞り、夢遊猫を跡形も無く消し去る勢いの魔法を行使した。あの断崖絶壁に囲われた閉じた空間で。
結果、鈴鹿同様に自身の魔法で吹き飛ばされ勢いよく壁に叩きつけられてしまった。夢遊猫に散々ダメージを入れられていたヨキはそれが決定打となり、鈴鹿が来て治療するまで気を失っていたのだ。
「灰ヶ峰はどうだった? 倒せそう?」
「ああ、イメージは固まってきた。明日はやれる」
灰ヶ峰も魔法の練習をしているがこちらはエリアボスを倒すには至らず、今日も何度も鈴鹿の蘇生のお世話になっていた。灰ヶ峰が最もエリアボス討伐が進んでいるので、気にせず魔法の特訓をしててもらいたい。それに、灰ヶ峰がやれると言うのなら大丈夫だろう。
「さ、飯できたぞ。今日は火炎牛のステーキだ! 特にヨキはたんと食べなさい」
「ありがとうございます! これ美味しかった奴ですね!」
「ありがとう」
宝箱からゲットした葉物野菜のサラダと市販のパンも出して、食事にする。お肉もサラダも味付けは個々人の好みにできるよう、灰ヶ峰がテーブルにドレッシングや調味料を並べてくれている。鈴鹿はガーリックソースとわさび、灰ヶ峰は塩とわさび、ヨキはこの前買ったシャリアピンソースでお肉をいただく。一人だと調味料がなかなか減らないため数を買っても余らせてしまうが、人数がいるといろんな種類が買えてよい。
ダンジョンの中だとは思えない優雅な晩御飯を食べながら、今日のエリアボスの話や明日からの話をした。
「明日から私も3層5区のエリアボスですよね? その前に一度、鈴鹿様が戦っている様子を見てみたいです」
当たり前のようにエリアボスに挑もうとするヨキは、すでに鈴鹿に毒されているのかもしれない。
鈴鹿はヨキの戦いを見たことはないが、それはヨキも同じである。ヨキは敬愛する鈴鹿の戦闘をずっと見てみたいと思っていたのだ。
「おお、いいよいいよ。じゃあ、明日のエリアボスはヨキも観戦するか。灰ヶ峰はどうする?」
「俺も見学させてもらおう」
「おっけー。ならさ、エリアボスのもとに向かう途中に出てくるモンスターと、二人も戦ってくれない? 灰ヶ峰の戦闘は見てるけど、俺もヨキの戦い方は知らないし見ておきたいんだよね」
ちょうど視聴者からも二人の戦いを見たいと声が上がっていた。エリアボス戦はどうなるかわからないため見せるべきか悩みどころだが、通常モンスターなら問題ないだろう。ヨキは2層5区のエリアボスを単身で倒せるほど強いのだから。
二人から配信することの了承をもらい、明日の予定が決まった。
「ごちそうさま。片づけしたらさ、ヨキの戦果確認してもいい?」
「戦果ですか?」
「そうそう。ヨキは2層5区のエリアボス全部倒したし、どんなアイテムゲットしたとか見たいんだよね。もちろん俺のも見せるよ」
「そういうことですか。もちろんです」
パパッと片づけを終え、お湯を沸かしお茶を入れる。鈴鹿は甘いカフェオレ、灰ヶ峰はブラックコーヒー、ヨキは紅茶だ。お茶請けはミレービ〇ケットを出す。
「さて、じゃあまずは宝珠から確認しよう!」
「はい。これですね」
ヨキが夢遊猫の宝珠を取り出すや、すぐに使用した。相変わらず宝珠のありがたみを感じさせないヨキである。
「干渉断絶のスキルが発現しました」
「おお! おめでとう! 干渉断絶は当たりじゃないか?」
「当たりだな。少なくとも俺は聞いたことがない」
灰ヶ峰が聞いたこともないとなれば、ユニークスキル相当だろう。あの2層5区最悪のエリアボスである夢遊猫の初見殺し技すら封じることができるスキルだ。破格の性能である。
干渉断絶は夢遊猫の装飾品を装備すれば発現できるスキルであるが、装飾品を必要としないのはかなりのアドバンテージである。特に洗脳系は初見殺しがえぐすぎる。それが断絶できるというのは、心情的にもかなり安心感を持てるスキルであった。
これで宝珠5個分を消費したヨキは、2層5区を経てここまで成長していた。
名前:福山桐子
存在進化:混成竜種(幼)
レベル:143⇒152
体力:1240⇒1293
魔力:758⇒785
攻撃:1056⇒1142
防御:1228⇒1279
敏捷:709⇒776
器用:913⇒958
知力:745⇒763
収納:534⇒570
能力:戦神、武芸の心得、剣術(8)、斧術(9⇒10)、盾術(7)、体術(2)、身体操作(7⇒8)、身体強化(6⇒7)、魔力操作(9⇒10)、見切り(7)、火魔法(9)、吸収、挑発、気配察知(6)、気配遮断(4⇒5)、干渉断絶、魔法耐性(8)、状態異常耐性(6⇒7)、精神耐性(5⇒6)、自己再生(3⇒5)、痛覚鈍化
「なぁ灰ヶ峰さん」
「なんだ?」
「ヨキさん斧術がもうレベル10ですって」
「ああ、そうだな。それに戦神もある。どうなっているんだ? 狂鬼、お前だけが異常というわけではないのか?」
珍しく灰ヶ峰が動揺している。しかし、それもそうだろう。灰ヶ峰は1層から5区の探索を行い、仲間を全滅させるほど追い詰めた探索をしていた。鈴鹿とパーティを組んだ後は淵の番に何度も殺されながらもスキルと向き合い、ようやく掴んだのが剣術スキルレベル10である。
片や、ヨキはついこの間探索者になったばかりの、まだまだ初心者と言っても過言ではないレベルだ。鈴鹿の珍妙な魔道具によっていきなりレベルやスキルが備わったとはいえ、それでも経験は伴っていなかった。それなのに、もう斧術がレベル10。
灰ヶ峰は天を見上げた。空には一面の星たちがきらめいており、灰ヶ峰を励ましているようである。だから、一口飲んだコーヒーがいつもより苦く感じたのは、きっと気のせいだろう。
「すごいねヨキ! いつのまにかめっちゃ強いじゃん!」
「ありがとうございます。ですが、私はまだ2層を終えたばかりですので……」
「いやいや、多分それだけ強かったら3層もサクサク進むと思うよ!」
「そうでしょうか。私も精進して鈴鹿様に追いついてみせます!」
これ以上精進したら灰ヶ峰が壊れちゃう。そう思いながらも、ヨキがどんな風に戦うのか楽しみで仕方ない鈴鹿。
とはいえ、鈴鹿は灰ヶ峰の戦い方も好きだ。まるで淵の番のようにすべての攻撃に意図を込め、何重にも策を張り巡らすような灰ヶ峰の戦いは、鈴鹿にはない戦い方だ。ヨキという異常な成長を遂げる仲間に触発され、ぜひ灰ヶ峰にももっと強くなってもらいたいところである。今でも十分強いが。
「では、次はゲットしたアイテムですね。ここに並べていきますね」
そう言って、ヨキがテーブルや地面にアイテムを置いていく。収納の中身は本人しか確認することができないため、申告制となるのだ。探索者によってはアイテムをちょろまかす奴もおり、それが問題で揉めて解散するパーティもいたりする。しかし、ヨキがそんなことをするはずがないため、鈴鹿は安心して取り出されるアイテムを見て楽しんでいた。
ヨキが2層5区で獲得したアイテムをまとめると、こうである。
■辰砂大鬼
鬼戦隊の指揮棒:秘宝
一式防具:秘宝
鬼殺しの耳飾り:遺物
鼓舞の角笛:秘宝
■泥濘戦機乙型
一式防具:秘宝
這いずる腕輪:秘宝
宝箱 泥濘顎:遺物
■青天雷鳥
青天たる魔導書:秘宝
召雷戦弓:遺物
一式防具:秘宝
宝箱 収納袋:秘宝
■二叉尾棘蠍
双魔の刺剣:秘宝
蛇蝎の雲隠れ:秘宝
棘の冠:遺物
収納袋:遺物
宝箱 中級体力ポーション:秘宝
■夢遊猫
一式防具:秘宝
鍵尻尾の守護:遺物
安眠を求めて:遺物
武器5種、一式防具4種、装飾品5種、アイテム3種、収納袋2つ、その他素材となる。素材は多いし使い道も鳴鶴に渡すくらいしかないので、出さないでもらった。
2層5区は秘宝だけでなく遺物のドロップ品も得られるため、かなり貴重なアイテムたちだ。遺物は裏社会のボスであった大久野が装備していた等級であり、ギルドが保有する最高等級のアイテムである。
ちなみに、鈴鹿の2層5区のアイテムは、武器6種、一式防具4種、装飾品9種、アイテム3種、収納袋2つ、その他素材だ。比較すると鈴鹿の方がドロップ率がよく感じる。とはいえ、ヨキは宝珠から神のスキルを発現していることを含めると、トータルではヨキに軍配があがるだろう。
「装飾品も俺のと合わせると結構な数になってきたな。この辺りは3層攻略したら装備割り振るか」
最初は装飾品を付けることで成長に悪影響を与えるんじゃないかと思い、極力外していた鈴鹿。しかし、最近はスキルについて考え方が変わってきたため、装飾品があっても無くてもどっちでもいいのではと思うようになった。むしろカッコいいので、そろそろ装飾品も解禁していきたい。
「収納袋が増えたのはありがたいね。パーティになったし、収納袋はあるだけ助かる」
「こんなに贅沢に収納袋を使っているのはお前くらいだぞ」
鈴鹿は大型の収納袋を多く保有しているため、キャンプ道具を詰めたり薪や炭を詰めたりと好き放題に使っている。とはいえ、二人の分も折り畳みの椅子やテーブルなどを追加したので、収納袋が圧迫されていたので助かった。
「鈴鹿様は今日はどんなアイテムをゲットしたんですか?」
「俺はねぇ、宝珠からは魔法耐性が発現して、3層のアイテムはこんな感じ」
そう言って、鈴鹿もヨキに習ってアイテムを取り出した。
■練燐淵の番
練魂斧槍:遺物
淵割の剣:遺物
一式防具:遺物
番人たる証:遺物
淵への通行手形:遺物
■魔蝶蘭
魔花の戦棍:秘宝
魔蝶の加護:秘宝
増殖する魔力炉:遺物
一式防具:秘宝
宝箱 収納袋
■刃写理山水
一の枝の大盾:秘宝
捷疾羅刹の業:遺物
反魔の護符:遺物
一式防具:遺物
宝箱 上級魔力ポーション
まだ3層5区のエリアボスは2体残っているが、今のところ武器が5種、一式防具3種、装飾品4種、アイテム1種、収納袋1種、その他素材だ。ヨキの戦神の例があったため宝珠に期待していたのだが、刃写理の宝珠は魔法耐性と悪くは無いが目新しさもない結果であった。
この中で特筆すべきアイテムは二つ。『淵割の剣』と『捷疾羅刹の業』だ。これはどちらも強奪スキルが発動して強化された武器である。『捷疾羅刹の業』は、根っこを何本か自切させたのが強奪スキルによって武器に変わったと思われる。鈴鹿と一緒に吹き飛ばされていたため、見つけられたのは幸運であった。
「あ、そうだ。灰ヶ峰これあげるよ。淵の番倒したお祝い」
「いいのか?」
「うん。俺のスキルで強化されてるから多分強いと思うよ」
そう言って灰ヶ峰に『淵割の剣』を渡す。灰ヶ峰は剣術のスキルがあるので十全に使ってくれるだろう。鈴鹿が持っていても宝の持ち腐れのため、パーティに分配した方がいい。
鈴鹿から『淵割の剣』を受け取った灰ヶ峰は、礼をいい自分の収納に入れる。すぐに取り出すと、『淵割の剣』の姿かたちが変わっていた。さきほどまでは白金の光沢を帯びた両刃の剣であった。美しい剣で、宝剣として美術館に飾られていてもおかしくないほど威厳に満ちた武器のデザインをしていた。しかし、今は静謐な夜を彷彿とさせる色合いへと生まれ変わっている。鍔の付近は深い闇のように昏く、剣先や柄頭は凍てつく冬の夜更けのように青白く透き通っていた。美しさは変わらない。しかし、こちらは宝剣というよりも魔剣と言った方がしっくりくる見た目に生まれ変わっていた。
そんな『淵割の剣』を確認するように、灰ヶ峰は二、三度振った。
「……凄いな。ありがたく使わせてもらう」
「収納に入れるとそこまで見た目変わるんだ。初めて見たわ」
「等級が高いほどその性質が顕著になる。ここまで変わるということは、遺物の中でも上位の武器だという証左だろう」
ダンジョン産のアイテムは、同じアイテムでも収納に入れた者によって姿かたちが変わることがある。同じサイズの収納袋でも、人によっては巾着になり、人によってはポーチになったりする。柄もまちまちだ。武器や防具も収納の持ち主に合わせたサイズに変化するため、ギルドでは同じアイテムを多くの探索者が再利用して使い続けることができるのだ。
「ヨキは3層では武器変えるの?」
「いえ、明日戦ってみてですが、『猪首狩』でまだ戦ってみたいと思います」
ヨキには狂鬼からドロップした戦斧も渡している。とはいえ、狂鬼の武器は特級品だ。成長に影響しても面白くないため、ヨキには鋼纏山鯨からドロップした戦斧を渡していた。
「今ならあの斧も振れる気がするのですが、もう少し自信を付けたいです」
『猪首狩』は秘宝の等級のため、3層5区でも通用するだろう。ヨキが頑張ると言うので、鈴鹿は素直に応援した。
「そう言えば、鈴鹿様はどんな武器を使っているのですか?」
「ん? ああ、ヨキは知らないか。俺は武器使ってないんだよ」
「武器を使わない? 魔法使いということですか?」
「ん~ちょっと違くて、こんな感じで手を堅くして殴ってるんだよ」
鈴鹿が毒手を発動し、両手を打ち付ける。とても拳と拳がぶつかった音とは思えない硬質な音が響いた。
「モンスターを殴るですか……さすがです鈴鹿様!」
「俺もそれは気になっていた。武器を使わない理由は武神と関係があるのか?」
キラキラと瞳を輝かせるヨキとは対照的に、灰ヶ峰が疑問をぶつける。
「なんで武神?」
「お前は1層3区まで舎弟狐からドロップする『舎弟の嗜み』を使っていたな。それにお前の過去からも格闘技に精通していたとは言えない。1層4区以降で『腕を堅くする』というスキルが発現したとして、そこまで武器を使い続けてきた人間が武器を手放すとも思えない。つまり、武器を手放しても良いと思えるほどのスキルが発現した。そう考えられる」
灰ヶ峰が当然のように鈴鹿の過去を知っている件について。まるで料亭で支配した時のようだ。
「そのスキルが武神だと想定していたのだが、その反応を見るに違ったか」
「うん。武神は発現してるけど、もっと後だね」
そう言って、鈴鹿は『魔花の戦棍』を手に取った。先端が魔蝶蘭の蕾のように膨れたメイスである。
「武器を使わないというよりは、使えないんだよ。こんな感じで」
そう言って鈴鹿が『魔花の戦棍』を振れば、手からすっぽ抜けて明後日の方向に跳んでいった。それを見えざる手で回収しながら、鈴鹿が説明する。
「なんか超強いスキルゲットしたんだけど、そのせいで武器使えなくなっちゃったんだ」
「武器が使えない? メリットがデメリットにもなりうるスキルは存在するが、武器が使えないなんて明確なハンデを持つスキル……そんなスキルが存在するのか」
「特殊だとは思うけどね。もちろん恩恵もあるから今じゃ気にしてないけど、発現した時は大変だったよ。なんせモンスターを倒すのに武器使えないから殴るしかできなくてさ。散々な目に遭ったよ」
聖神の信条のおかげで今も鈴鹿は生きているが、そのせいで当時は何度拳を壊したことか。猿猴に殺されまくる日々であったが、あれがあったからこそ今の鈴鹿がある。聖神の信条が発現したことは、間違いなく鈴鹿にとってのターニングポイントであった。
とはいえ、今ではそんな聖神の信条を『魔封じの藕糸』で封印して戦っている。封じているのはエリアボス戦の時だけだが、一番必要と感じるエリアボス戦で封印しているのは相変わらず頭が緩い。強くなるために不死という絶対的なアドバンテージを封印する行為は、果たして勇気か蛮勇か。
「あれ……そう言えば封印してるな。封印してるよな? ってことは武器って使えたりするのかな」
そのとき、鈴鹿に天啓が訪れた。不死という強すぎる力と均衡を保つために武器が封じられている。ならば、不死を含め聖神の信条を封印するのであれば、武器を持てないというデメリットも消えるのではないか。
逸る気持ちを抑え、『魔封じの藕糸』で聖神の信条を封印する。すでに発動したからか、この辺りに張っている結界は聖神の信条を封印した後も持続してくれていた。
鈴鹿は震える手で『魔花の戦棍』を握り、振り下ろす。
「今度は飛んでいきませんでしたね」
「ああ、何かしたのか?」
ヨキと灰ヶ峰が問うが、鈴鹿はそれに答えない。ただぽつりとつぶやいた。
「武器……持てるわ」
聖神の信条が発現してから約半年、鈴鹿はまた、その手に武器を持つことができるようになった。




