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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第十章 幼子の終わり

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3話 刃写理山水

 鈴鹿がのんびりと視聴者たちと会話を続けていると、一風変わったエリアにたどり着いた。


「いかにもって感じだな。エリアボスはどこにいるかわかりやすくて助かるわ」


 3層5区は高い連峰を越えた場所に広がる神秘的なエリアだ。立山のみくりが池が有名な室堂や、長野の千畳敷せんじょうしきカールのような美しい景色が広がっている。そんな3層5区で、鈴鹿の眼下には樹々が広がっていた。他の場所なら火山湖になっているようなぽっかり空いたすり鉢状の盆地に、樹々が密集しているのだ。まるで小さな森の様である。標高の高さから低木を想像しがちだが、普通に平地のような高さのある樹木が生えている。


「真ん中に白い樹が生えてるな。そこかな?」


【相変わらず無計画に突き進む狂鬼さん】


【逆に安心するよね】


 コメントの言う通り、鈴鹿は特に警戒もせず森の中へと入っていった。


 ふらっと入っているように見えるが、きちんと気配察知や魔力感知を使用しているため不意打ち対策はきちんとしている。とはいえ、踏み込んだら最後の迷いの森とかであれば気配察知も魔力感知も意味がないのだが、その辺はその時考えればいいだろと突き進む。


【森というか、密林っぽいね。3層1区みたい】


【3層1区は高温多湿の熱帯だから、探索するのきつそうだよね】


【俺は3層2区の方が嫌だったわ。霧とかスコールとかでびっしょびしょで動きにくいし、不快でしょうがなかった】


「ここは標高高いからか涼しいよ。けど植物の感じは3層1区ぽいよね」


 先ほどから気配察知をしているが、密林にはモンスターがいない。てっきりモンスターの大群と戦闘になるかと思ったが、そういうわけではないようだ。


 どんどん進んでいけば、密林の中央にモンスターの気配を感じる。まるで周囲の樹々が恐れて避けたように、ひらけた広間があった。その中央に、立派な樹が鎮座している。それは上から見たときに見えた白い樹であった。


 その樹に葉はなく、白樺しらかばのように白く美しい樹皮に覆われている訳でもない。その正体は白骨化した大樹であった。樹齢1000年は超えているであろう立派な巨木であり、雄大でいて荒々しい。曲がりくねった葉も無き枝が、周囲を威圧するように横へ上へと伸ばされていた。


刃写理山水じんしゃりさんすい:レベル192


「これはまた……花の次は樹が相手か」


【え、この枯れ木がエリアボス!?】


【3層5区クラスになると、うちのギルドじゃ資料もないんだよな】


【このレベル帯だと、一級ギルドでもよほど上位じゃないと資料なんてないよな】


「刃写理山水だって。レベル192だし、エリアボスだね」


 刃写理じんしゃりから薄っすらと脈動するような魔力が感じられる。あの樹がエリアボスとみて間違いないだろう。


「これだけ立派な樹を倒すのは気が引けるけど、しょうがない。落雷で派手に燃やしてやるか」


 そう言いながら、雷魔法でどんな攻撃をするか考える。


 今日はヨキと約束した通り、雷魔法だけで倒す予定だ。灰ヶ峰は闇魔法を鍛え、ヨキは火魔法の練習をする。鈴鹿もそれに合わせ、雷魔法の練習である。雷鳥戦以降あまり使ってこなかったため、さび落としにはちょうどいい。


【あれ、雷魔法? 水魔法の特訓はしなくていいの?】


【おい、ばか! 空気読め!】


【そうだぞ! 魔蝶蘭の宝珠が全然スキルレベル上がっていない水魔法が当たって落ち込んでた人に言うセリフじゃないぞ!】


「お前らうるさい! あれはもう過去の事だ。俺は忘れたんだ。水魔法なんてそもそも発現してない。そうだな?」


 コメントの言う通り、鈴鹿が前回倒した魔蝶蘭の宝珠では、レアスキルでも高レベルスキルのレベル上げでもなく、スキルレベル3の水魔法が4になっていた。水魔法は後で上げよう後で上げようと思い、後回しにしてきたツケが回ってしまった。


 レベル4なんて簡単に上げることができるのに、貴重な宝珠がそんなことに消えた。後生大事に取っておいた無料のアイテムでソシャゲのガチャを回し、やっと出たレア枠がすでに持ってるやつだった並みに心が折れる。


 普通の探索者は全てのスキルが高レベルなんてことはない。そのため、かつて5区で活動していた探索者たちは、今回鈴鹿が直面したような悲しいことが多発していた。5区が流行らなくなる理由もわかるというものだ。


 とはいえ、宝珠からは神のスキルが発現することもある。それだけで、挑む価値は十二分にあるだろう。


「今日は雷魔法メインで戦う予定なんだ。水魔法は知らん。あれは宝珠でレベル上げする」


【めっちゃ気にしてて草】


【それにしても、このエリアボス動かないね】


 そうなのだ。鈴鹿はすでに開けた広場に侵入しているし、気配遮断も解いている。だというのに、刃写理は動かない。


「先手はくれるってか? なら、遠慮なく」


 そう言うや、鈴鹿は魔力を丁寧に練り上げる。魔力操作レベル10と雷魔法レベル9もあれば、ノータイムで高火力の魔法を放つこともできる。しかし、相手が時間をくれるというのなら、その時間を有意義に使わせてもらおう。


 身体を巡る魔力が、どんな風に雷魔法として出力されるのか。それをしっかり意識する。


 魔蝶蘭戦で魔力の重要さを理解した鈴鹿は、魔力を使えばスキルの再現ができることを掴んだ。では、魔法とは魔力をどのように扱えば再現できるのか。それを知るために丁寧に魔力を操る。雷魔法だけでは掴みきれないその感覚も、魔力操作がアシストするように扱い方を教えてくれる。


 魔力が万能ならば、その魔力を操る真髄を会得できる魔力操作こそが最もチートなスキルなのかもな。……ヨキって魔力操作もレベル10になってなかったっけ。あれ、もしかしなくてもヨキってかなり強いのか?


 横道に逸れる思考を頭から追い出し、鈴鹿は雷魔法を放った。それは青天雷鳥せいてんらいちょうに止めを刺したレーザービームのような雷魔法。本来ならば範囲攻撃ともなりうる規模の攻撃を、何重にも圧縮して一点に集中させた魔力操作のみょう。そんな魔法が、刃写理じんしゃりを襲う。


 雷魔法が刃写理に衝突した瞬間、あろうことか魔法が反射し鈴鹿へと襲い掛かった。


「嘘だろ!?」


 とっさに高密度の雷球を生成し、反射された雷魔法の盾にする。しかし、鈴鹿がじっくりと練り上げた魔法と咄嗟に生みだした魔法の威力が同じなわけがない。なんとか足りない分を補う様に魔力を注ぎ威力を押し上げた鈴鹿だが、そもそも鈴鹿が放った雷魔法はそんな生半可な魔法を貫くために圧縮し収束させた魔法である。雷球は反射された魔法の威力を減衰することに成功するものの、呆気なく貫通され鈴鹿をも貫く。


「痛ぇ……。自分の魔法ながら馬鹿威力すぎるだろ。死ぬかと思ったぞ」


 咄嗟に雷魔法に右手を添えて逸らすことで直撃は避けたものの、右腕はズタボロで稲妻状の火傷が走っている。毒手を使えば防げただろうが、今日は雷魔法の日なので毒手は発動しない。


 ブスブスと煙を上げながら肉の焦げる匂いのする右腕に意識を集中し、魔力で回復を試みる。魔蝶蘭戦では聖神の信条並みに高速で回復を行えたが、今はそこまで集中できていないからか自己再生を少し早める程度しか効果がなかった。


 この辺も要練習だな。エリアボス相手なら頻繁に怪我するだろうし、いい訓練にはなるか。


 どんなことをするにしても、教師がいるのといないのとでは大きな差が生まれる。自己再生という魔力を消費して肉体を再生するスキルのおかげで、どのように魔力を使えば回復できるのかを鈴鹿は知ることができた。


 今までは魔力の流れなど全く意識してこなかったが、今ならば体内で蠢く魔力を知覚し、不慣れで不格好ながらも再現できる。それは魔力という後付けの力を第六感としてモノにしつつある証左であった。


『魔封じの藕糸ぐうし』によって聖神の信条を封印している鈴鹿にとって、自己再生が唯一の回復手段である。魔力による回復はまさに生命線に直結するため、ぜひものにしたいところだ。


 鈴鹿のボロボロの腕が回復している中、刃写理が動く。巨大な船や鉄骨が風にあおられきしむように、刃写理から悲鳴のような音が鳴った。


 鈴鹿の雷魔法を跳ね返した刃写理だったが、そっくりそのまま反射できたわけではない。あまりに強すぎた魔法は反射しきれず、刃写理を穿うがち内部を雷撃が破壊していた。まるで鈴鹿の右腕のように、刃写理の枝も爆ぜて砕けていたのだ。


「おいおいおい、威力高すぎたか? しゃんとしてくれよ。なんたってお前と戦うのは面白そうなんだからさッ!!」


 鈴鹿の周囲に無数の雷球が出現し、刃写理へと放たれる。高速で迫る雷球に対し、刃写理は動かない。動く必要もないとばかりに、巨木はただたたずむ。


 雷球では刃写理の反射を貫通できないのか、全ての雷球が反射された。まるで逆再生かのように鈴鹿へと迫りくる雷球だが、辺り一帯をのたうつ落雷によって霧散させられる。落雷は雷球を消すだけでは終わらないとばかりに、続けざまに刃写理を飲み込む程の雷が轟音を響かせ刃写理へと落ちた。


「これもかよッ!」


 鈴鹿がそう吐き捨てながら、頭上から落ちてくる雷を回復したばかりの右腕で受け止める。身体を突き抜けるように進む落雷が鈴鹿の身体を破壊し、直撃した右腕のいたる所で筋肉が弾け再度ズタボロにされてしまう。雷撃によって筋肉が痙攣を起こすことで意志とは関係なく動こうとするが、それを身体操作で封じる。そのせいで全身をったような痛さが襲いかかるが、鈴鹿に痛みを気にする余裕はなかった。


「はぁ~、目から鱗だ。これが魔法耐性の効果ってやつか? 絶対魔力が動いてたぞ。俺自身に対して」


 ブツブツと鈴鹿は言葉を溢す。雷撃によって体内が焼かれたのか、吐く息に煙が混じっている。しかし、それもすぐに魔力でブーストされた自己再生が、壊れた右腕ごと鈴鹿を治していった。


「もう一回だ」


 黄金に煌く鈴鹿の瞳は、いつの間にか瞳孔が縦に長くなっていた。額からは一本の角が生え、一匹の鬼へと生まれ変わる。


 存在進化を解放することで、身体を巡る魔力がより鮮明に感じられるようになった。その状態でもう一度。


 鈴鹿のリクエスト通り、刃写理へ降り注ぐ落雷は反射され、鈴鹿の身を焦がす。先ほどの再現。刃写理へダメージを与えている様子はなく、まるで意味のない攻撃。自傷行為とも取れるその攻撃は、しかし鈴鹿自身が求めたモノであった。


【こいつ、狂鬼さんの攻撃跳ね返してないか!?】


【魔法の反射!? 狂鬼さんクラスの魔法なのに!】


【いや、一発目はちゃんとダメージ与えてたはずだ。どんな魔法でも跳ね返せるってわけじゃなさそうだぞ】


【それより、何か前より狂鬼さんの回復遅くない? それだけ深いダメージってことか?】


 コメントが考察を重ねるが、鈴鹿の耳には入らない。気が付けば、鈴鹿の意識は刃写理にのみ向けられていた。


「魔力の膜? いや、それは違う気がする。魔力を消費した感じじゃないんだ。でも魔力が……」


 ブツブツと呟きながら、鈴鹿は再度雷撃を降らせる。意味がないと言わんばかりに魔法が跳ね返り、鈴鹿を焼いていく。そして、ようやく刃写理じんしゃりが鬱陶しい害虫に標的を定めた。


 広場一帯に張り巡らされた刃写理の根が、地面を突き破り鈴鹿を刺し貫かんと伸ばされる。鈴鹿は自身の落雷に焼かれながらも、迫る根っこに雷撃を放った。しかし、根っこも枝やみき同様に、雷撃が触れるや否や問答無用で反射されてしまう。


 だが、それは鈴鹿も予期していたことだ。反射された雷撃に対し、鈴鹿は準備していた。迎撃のではない。受け入れる準備をだ。


 避けることもせず、雷撃が鈴鹿の身体を蹂躙することを受け入れる。全身を駆ける雷撃がその爪あとを誇示するように火傷の痕を刻み付けてゆく。筋肉や内臓の電気信号が異常をきたし、過剰な収縮を強要されることで呼吸すらおぼつかなくなる。


 そして攻撃はそれだけではない。伸ばされた根っこは、まるで槍のように先端を尖らせ鈴鹿へと突き込まれた。


 鈴鹿は痙攣して言うことを聞かない身体を無理やり動かし、高速で迫る根っこを掴み取る。毒手でもない手では強度が足らず、根っこの勢いを殺しきれないどころか、手のひらがヤスリをかけたように削られてゆく。鈴鹿を刺殺せんと突き進む根っこだが、ボロボロの手のひらに構うことなく握り締める力をさらに増すことでようやく停止した。


 鈴鹿の血に染まる根は、僅かでも動けば刺さってしまうほど目と鼻の先で止まった。それを、鈴鹿は凝視する。


「どうやったら魔法を反射なんてできるんだ? お前の特性か? それともこれも魔力の影響なのか? それなら、俺も真似できたりするのか? なぁ、教えてくれよ」


 ブツブツ呟きながら、実験をするように掴んだ根っこに雷魔法を行使する。まるで撥水コートでもかけているかのように、根の表面で雷魔法が弾かれてしまう。そして、弾かれると同時に魔法の主導権を奪われ、雷撃が鈴鹿へと跳ね返されるのだ。その雷撃も、鈴鹿は痛みなど気にせず受け入れる。


 雷撃が身体を巡るたびに、鈴鹿は深く深く体内の魔力に意識を傾ける。雷撃の威力を弱めるために、魔法耐性のスキルが効果を発揮する。完全に魔法を無効にできずとも、魔法耐性が威力を減衰してくれているのだ。


 では、それはどうやって行われているのか。スキルの動きを魔力で再現できるというのなら、それもまた魔力で再現できるのではないか。自己再生を強化しているように、魔力で魔法を打ち消せるのではないか。


 魔力の使い方。スキルレベルに依存しないスキルの拡張。そして、スキルに頼らないスキルの再現。その可能性を知ってしまった鈴鹿の興味は尽きることなく湧き上がる。それは今まで通り当たり前のようにスキルを使っただけでも、見る視点が変わることで疑問が次から次へと溢れてくるのだ。


 ギギィィイイ。重厚な音を響かせ、刃写理が鈴鹿に捕まった根っこを取り戻すために力を込める。そうはさせまいと鈴鹿も抵抗するが、鈴鹿程度のステータスでは刃写理の力を押さえつけることはできない。


 刃写理を倒すだけならば、鈴鹿は瞬殺することだってできるだろう。強力なスキルが揃っている鈴鹿にとって、レベル200にも満たないエリアボスを倒すなど造作もない。だが、ステータスは別だ。鈴鹿のステータスは同レベル帯では最上のステータスであるが、それは他の特級探索者でも言えること。むしろ、二回目の存在進化を終え各種装飾品でバフをかけている特級探索者の方が、ステータスだけで見れば上だろう。その程度のステータスで、同レベル帯のエリアボスを押さえつけられるわけがない。


 鬱陶しく鈴鹿の手を振りほどこうと暴れる刃写理の根。ステータス的にはとっくに振りほどかれていてもおかしくないはずが、未だ根っこは鈴鹿の手中にある。魔法を反射する方法を知るために、鈴鹿は間近で見ていたいのだ。そんな知識欲を満たすために、鈴鹿は知らず身体強化に全力を注ぎ刃写理の抵抗に抗ってみせた。


 ただ、それだけでは足らない。刃写理の力を押さえつけるために、いつしか鈴鹿の皮膚が灰色へと染まっていた。鬼神纏い。神の名を冠するこのスキルは、あの狂天童子きょうてんどうじと同じ高みへ鈴鹿を押し上げる破格のスキル。


 ビタリと、根っこが動かなくなった。刃写理はなおも暴れているが、鬼神を纏った鈴鹿の手から脱することはできない。


「ん? なんだよ、自切したのか」


 これは無理だと諦めた刃写理が、根っこを自ら切り捨てる。そして、恨みをはらさんと無数の根が鈴鹿を刺し貫くために地中から姿を現した。


「あ、反射してる。切った後も反射してるってことは特性なのかな? ねぇ、どうなの? 教えてよ」


 灰色の鬼と化した鈴鹿に迫る魔法を反射する根っこたち。だが、その行く手は天から落ちる白雷びゃくらいによって阻まれる。あたりを白く染め上げる稲妻が降り注ぎ、一拍遅れてけたたましい雷鳴が轟いだ。


「ああ、やっぱりこのレベルだと反射も無理なんだ。まぁ、3層のエリアボスだしね。反射されたらどうしようかと思ったよ」


 根っこは一本を残し、粉々に砕け散っていた。残る一本も鈴鹿の手中にある。初撃の雷撃がすべて反射されず刃写理にダメージが貫通したことから、強力な魔法であれば反射しきれないと鈴鹿は踏んだ。初撃は雷鳥を倒した時と同程度、雷魔法レベル8相当の攻撃だ。だが、今の鈴鹿は雷魔法レベル9。練り上げた魔力で放った最高火力の雷魔法は、刃写理の反射すら許さなかった。


 新しく掴んだ根っこに鈴鹿は雷魔法を放ち、反射される様子を興味深げに観察し、反射された雷魔法を全身で味わい尽くす。そんな戦闘中とも思えない鈴鹿の態度に刃写理が苛立ちを感じたのか、掴まれた根っこを早々に自切し全身を軋ませて怒りを露わにする。


 先ほどの倍以上はある根っこが勢いよく地中から出現し、まっすぐ鈴鹿へと襲い掛かった。それと同時に、刃写理は大きく広がるうねる枝を引き絞り、鈴鹿へと叩きつけるために振り下ろされた。


 しかし、それも白雷が駆け抜ければ木っ端微塵に砕かれる。白く美しい木片が陽光を反射し、キラキラと周囲を舞っていた。


「お前防御特化か? 随分攻撃がぬるいじゃないか。もしかして、俺の気が済むまで観察していいよってことかな。なら、遠慮なく」


 そう言って、鈴鹿は刃写理じんしゃりへと近づいてゆく。


 まるで鈴鹿を嫌うように地中から根が出現し襲い掛かり、距離をあけさせるために巨大な枝が振り回された。だが、そんな直線的な動きで鈴鹿の歩みを止めることはできない。足元から出現する根っこだろうとも、鬼神となった鈴鹿は気配察知すら使う必要もなく、地上に現れたと同時に側面を蹴り砕く。鈴鹿のやわい身体であれば足にもダメージを受けただろうが、鬼神となった今では傷一つ負うことも無い。


 白雷が破壊の権化となり、刃写理の攻撃をことごとく破壊する。その様子を見ながら、鈴鹿は雷魔法のその先を考える。


「雷魔法レベル9。その先たるレベル10には何が必要なんだろう」


 レベル10に至ればスキルの自由度が増え、解釈によって多くのことができるようになる。では、雷魔法の自由度とは何か。鈴鹿はすでに身体強化の禁忌にすら手を出している。では本筋であろう雷の攻撃はどうか。雷撃や雷球、落雷などスタンダードと言える魔法を行使するが、応用らしい攻撃はしていない。


 応用というのなら、磁界を発生させ対象を磁化させるなんてことが思いつく。しかし、悲しいかな鈴鹿はそれにそそられない。そそられないことを為せるほど、鈴鹿は才能を持ち合わせてはいない。面白いからこそ、鈴鹿は全力全開で全てのリソースを捧げ進むことができるのだ。


「単純にさ、滅茶苦茶強い攻撃ができるってだけでもいい気がするんだよね。何でもかんでも自由度自由度言ってたら、逆に不自由じゃない?」


 刃写理に語り掛ける。そんなの知らんと刃写理は枝を振り下ろすが、鈴鹿に届く前に砕け散る。


「自由度を上げればスキルレベルアップ!なんて法則あるわけない。もしそうだとしたら、気に喰わない。それなら10にこだわる必要もない」


 雷鳴に声がかき消されながらも、鈴鹿は言葉にすることで整理していく。どうすれば雷魔法を押し上げられるのだろうか。検証するように、鈴鹿は雷撃を放つ。


 凄まじい魔力が内包された雷撃が枝に直撃し、刃写理の堅牢な枝をいとも容易く粉砕する。


「単純に魔力量が必要なのか? う~ん、近いようでいて遠い気もするなぁ。そんなゴリ押しでもないと思うんだよ」


 刃写理はもはや何もできなかった。枝を振ろうにも振る前に砕かれ、全方位から根っこを使った攻撃を試みるも簡単に対処されてしまう。


「威力を高めるにも、もっとやり方があるんじゃないか? 何か……もっと画期的な何かが……」


 悩むが簡単には答えが出ない。例えエリアボスが相手であっても、ここはまだ3層5区。低層ダンジョンなのだ。少し考えた程度でたどり着けるほど簡単な道ではない。長い月日をかけ、死闘を演じ、ようやくたどり着ける境地。必要に駆られたわけでもない状態で、スキルが応えることは無い。


「待てよ。俺は知ってるじゃないか。魔法の真髄を。神の如き魔法を……!!」


 鈴鹿に発現した最初の神を冠するスキル、聖神の信条。これは不死を与えるだけでなく、聖神ルノアが築いた聖魔法を授けるスキルでもある。そして、鈴鹿はその魔法の数々を知っていた。幾重にも重ねられた複雑怪奇な魔法たちを。


「そうか。あれは答えだ。ルノアの研鑽の果て。レベル10を超え、更にその先へ進んだ者の答え」


 魔法を極めた果てがあの魔法の数々。狂鬼の攻撃すら防ぎ、死者すら蘇らせる聖魔法の極み。鈴鹿はそれを知っていて、扱うことすらできる。


「けど、それはルノアが出した答え。じゃあ俺は……俺はどんな魔法を求めてるんだ?」


 ルノアは攻撃できないという縛りを自分に設けた。その結果、仲間の支援に全てを注ぎあれらの魔法を生み出した。それこそがルノアの求めた魔法だから。


 では、鈴鹿が求める魔法とは何か。


「……わからない。俺は雷魔法で、何をしたいんだろう。ただ、敵をぶっ飛ばしたいだけなのかもしれん」


 刃写理が狂鬼のような強敵であれば、また違ったのかもしれない。面白いエリアボスであることは認めるものの、魔法縛りを設けたところで倒すことに苦労しない相手。スキルのその先を渇望しなければ倒せぬような相手ではないのだ。それでは、鈴鹿のギアが上がらない。これ以上の解を出せなかった。


 刃写理が鈴鹿の雷撃に焼かれる中、状況を打開するために刃写理が動く。刃写理が鈴鹿にならい雷撃を放ったのだ。枝の一本一本から放たれた雷撃が鈴鹿を襲う。


 しかし、それらは鈴鹿が行使する白雷に飲み込まれ、跡形もなく消し去られた。


「今のは初っ端のビームか? 白雷が再現されないってことは、反射出来た魔法だけ使えるとかかな? どうなのよ、刃写理」


 刃写理が答える様に、鈴鹿へ落雷を落とす。その結果に鈴鹿は興味を失った。ここは3層5区。もうとっくに、鈴鹿は適正を超えた強さを持っていた。


「そっか。ありがとう刃写理。いろいろ学ぶことができた。最後に、魔力を込めまくったらどうなるのか確認させてくれ」


 ただただ魔法の威力を求めるのならば、魔力を注ぎ続ければレベル10と遜色ない威力になるのではないか。その仮説を検証するために、鈴鹿は全ての魔力を注ぐ。


 鬼神種となり鬼神を纏う鈴鹿の全魔力の雷撃。魔力操作のスキルが悲鳴を上げながらなんとか制御しようと試みるが、漏れ出た魔力が周囲の樹々を破壊し地形を変えてゆく。空間が歪み、余波だけで周囲を破壊する魔法。刃写理が軋んだ音を上げた。それは抵抗の表れか、はたまた悲鳴の鳴き声か。


 何も考えずに全魔力を込めた鈴鹿の雷撃が解放される。それは刃写理を即座に煙へと変え、それだけでは飽き足らず背後の森を喰らい尽くし、すり鉢状になだらかに登ってゆく地面に衝突した。それでも雷撃は止まらない。地面に衝突するや、あまりのエネルギーに地面が融解し深いクレーターを造り出した。さらに雷撃のエネルギーによって熱せられた空気が暴風となって樹々を吹き飛ばし、暴れ足りないと本流から離れた雷撃がのたうち破壊を振りまいている。


 そして何より、耳をつんざく轟音が3層全域に響き渡った。鈴鹿のいる3層5区には他の探索者はいない。しかし、3層で活動する探索者は大勢いる。結果、高知ダンジョンで未知なるユニークモンスターが誕生したのではないかと警戒され、ダンジョンが封鎖されたのはまた別のお話。



Tips:刃写理山水じんしゃりさんすいの攻略方法

 刃写理山水は魔法を反射する特性を持つエリアボスであり、非常に戦闘が困難なエリアボスである。また、その特性から探索者をふるいにかける役割を担った存在でもあった。


 まず、刃写理に生半可な魔法は通用しない。枝も幹も根もすべてが魔法を反射するため、魔法を使うたびに自分たちに降りかかってしまう厄介な性質を持っている。では、魔法を封じて近接戦闘が良いかと言われると、それは正解であり不正解でもある。そもそも刃写理自体が堅牢であり、斬ることが至難の業であることが挙げられる。大剣やハルバードのような叩き斬る武器や、戦槌せんついのような打撃武器が効果的であった。


 そうなると打撃武器をメインとした近接のみで刃写理と戦うのが正解なのではと思われるが、それこそがトラップであった。刃写理を近接戦闘のみでダメージを与え続けた場合、周囲に広がる樹々すべてが刃写理の一部となり、白骨林と化す。刃写理自体は魔法を反射する性質と堅牢性から攻撃に特化している訳ではないが、森全てが刃写理となれば数の暴力でなす術もないだろう。


 刃写理の攻略の大前提は、スキルレベルが8以上の魔法を有する事である。刃写理はスキルレベル8であれば、魔法を上手く反射できずダメージを与えることができる。これにより、白骨林のルートから脱することが可能となるのだ。とはいえ、魔法でダメージを与えた場合、刃写理は反射出来た魔法を自身に写し取ることで好きに行使できるようになる。これは『反射出来た魔法のみ』行使できるという特性を逆手に取り、パーティメンバーの魔法に合わせた耐性防具を揃えることで対処することができる。


 魔法で削りながら、近接戦闘で止めを刺すのが刃写理の攻略方法である。また、近接戦闘もスキルレベル8となれば斬りつけることが可能になる。魔法・近接戦闘、共にスキルレベル8を要求されるのが刃写理であり、レベル200に挑むに足るかを選別するエリアボスでもあった。

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― 新着の感想 ―
狂天童子戦以降、ずーっと鈴鹿の舐めプ戦闘か手加減戦闘しかしていない件。 作品初期の面白さが打ち消されてしまってる たまには同格かそれ以上との熱いバトルとかやってくれませんか…。 レベルや敵と、鈴鹿の強…
現状に満足せずに向上心がある鈴鹿さん、素敵です 話は変わりますが3日に一度となっていますが他の執筆者みたいに曜日指定にしても良いのでは?とは思います
今回の戦闘でエリアボスの根っこを奪い取った感じだけど、強奪の対象になるのかな?
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