1話 祝勝会
十章の投稿大変お待たせいたしました。
十章は3日に一度のペースで投稿させていただきます。
創業100年を超える高知の老舗料亭、そこに鈴鹿たちはいた。
「それでは、みんな目標達成して前に進めたことを祝して! かんぱ~い!」
鈴鹿の音頭に合わせ、灰ヶ峰とヨキもグラスを打ち付ける。乾杯と言っても、全員ソフトドリンクだ。鈴鹿もヨキも未成年、灰ヶ峰も普段お酒は飲まないのかお茶を頼んでいる。
鈴鹿たちが通された部屋は美しい庭園を望める和室。老舗の料亭らしく床の間には高そうな掛け軸に生け花があり、意匠が施された欄間一つとっても高級感がある。
昔ならば高級な料亭だとテンションが上がったのだが、つい最近似たような和室でVシネマの現場を体験してきた鈴鹿は複雑な心境だ。灰ヶ峰にお祝いに高いご飯食べに行こうと提案して連れてきてもらったのだが、やはりヤクザが行くお店は高級料亭が多いのだろうか。
「それにしても、ヨキは大躍進だね。もう夢遊猫以外倒しちゃったんだから。ほんと凄いよね。さすがヨキ」
「鈴鹿様が指導してくださったおかげです」
「……」
鈴鹿に褒められて嬉しそうにするヨキ。尻尾もフヨフヨ左右に揺れている。それを横目で、『あれは指導ではないな』という目をする灰ヶ峰。事実、鈴鹿はヨキに何か指導していたかと言えばしていない。ヨキの戦闘を見てアドバイスをするわけでも、ヨキと模擬戦をして導いたわけでもない。ただ、こんなことできたらいいよねというアドバイスともいえない雑な思いつきをそのまま口にしていただけだ。結果的に鈴鹿の妄言のおかげでヨキはエリアボスに打ち勝つことができたが、それはヨキが頑張ったからに他ならない。
そんなヨキだが、辰砂大鬼を倒した後はその日のうちに泥濘戦機乙型を撃破した。泥濘戦機は挑戦者の動きを泥濘によって阻害し、水魔法のレーザーで遠距離攻撃をするエリアボスである。近接特化には倒しにくいエリアボスだと思い次の標的に泥濘戦機を指名したのだが、ヨキは斬撃を飛ばすことができるうえに火魔法まで発現したので、一度も死なずに泥濘戦機を倒すことができた。そして、次の日には青天雷鳥と二叉尾棘蠍を屠り、今回の探索が終了した。
雷鳥は速いし魔法の弾幕も多いので苦戦するかもと思ったのだが、ヨキは一振りで無数の斬撃を発生させることができるためこちらも死なずに撃破。とはいえ、雷魔法で身体が炭化する箇所がある程ボロボロだったのでほぼ死にかけてはいたが。それでも死ななかったおかげで鈴鹿は魔蝶蘭と腰を据えて戦えたし、終わってすぐにヨキのもとに駆け付ける必要もなかったのでありがたい。
のんびりコメントと雑談しながらヨキの様子を見に行けば、ヨキが死にかけた状態で倒れていたので鈴鹿は罪悪感でいっぱいになった。久しぶりの戦闘配信だったこともあってコメントと会話していたのだが、まさかヨキがあんな状態になっていたとは露ほども想定していなかった。『死んでないってことは倒したのかなぁ』くらいにしか思っていない。
というのも、鈴鹿は自己再生に聖神の信条があるため、死なない=勝手に回復するという誤った認識を持っていた。そのため、お祝いしようとヨキのもとへ行けば僅かに呼吸しているだけのヨキが倒れていて、それに気づいた鈴鹿は慌てて配信を終了してヨキを回復させた。
配信を切った理由は、ヨキの惨状がとても放送できないくらいの状態だったからであり、鈴鹿の聖魔法を秘匿するためだ。すでに雷鳥戦をはじめ鈴鹿はグロテスクな映像を配信しているため手遅れ感が否めないが、聖魔法は開示するつもりが無いので配信は終了するに越したことはない。ヨキが倒れていたのはカメラには映していないので、ばれることもないだろう。
そんなヨキだが回復すれば元気に雷鳥を倒したことを報告してくれ、次のエリアボスはどれですかと戦う気満々だった。ようやくエリアボスを倒せるようになり、ヨキのやる気は漲っていた。雷鳥を倒せば残る2層5区のエリアボスは棘蠍と夢遊猫。正直鈴鹿的にはどっちもどっちな印象であった。棘蠍はテンション高ぶって瞬殺してしまったし、夢遊猫は初見殺しが効かなければ大したことはない。
という訳で、午後のヨキの相手には棘蠍を選んだ。初見殺しは効果がなければ対処が楽というのは相場が決まっているため、棘蠍の方が苦戦するかと思ったのだ。結果、ヨキは棘蠍相手に3回、正確に言えば4回殺された。
棘蠍は地中から攻撃してきたり毒針での攻撃が主な攻撃方法で、力のごり押しではなく搦め手の攻撃が多い。ヨキは真正面から叩き潰す戦い方は得意であるが、隠れた敵を探したり毒で弱らせてくる相手は苦手だったようだ。それにヨキは毒に対する対策を一切していないため、攻撃が掠っただけでゲームセットというかなりのハンデを負いながら戦っていた。
それでも、ヨキは棘蠍を倒すことに成功する。倒した後にヨキも毒の影響で死んでしまったが、それはつまり毒状態に陥りながらも棘蠍を倒しきったということだ。なんという荒業。ヨキは見た目の美しさや落ち着いた雰囲気から清楚っぽく見えるのだが、中身は気骨ある気合の入った淑女だ。5区のエリアボス相手に斧一本で立ち向かっているだけはある。
ちなみに残りの夢遊猫についてだが、初見殺しである洗脳攻撃については鈴鹿が持つ夢遊猫からドロップした『鍵尻尾の守護』をヨキに渡すことで解決する。『鍵尻尾の守護』は装備者の全ステータスを15%向上させることに加え、『干渉断絶』が付与される。これにより、夢遊猫の初見殺しの対策は万全となるのだ。
「逆に灰ヶ峰は新しいエリアボス倒せなかったな。気づかなかったら危なかったよ」
エリアボスは倒しても次の日には復活しているが、倒した瞬間に復活するわけではない。そのため、鈴鹿が魔蝶蘭と戦っている間、灰ヶ峰は分かれて別のエリアボスと戦っていた。鈴鹿がヨキを復活させた後、もしかしてと思い急いで灰ヶ峰のもとへ向かえば、そこにはエリアボスの傍らで亡骸となって倒れている灰ヶ峰がいた。
気配遮断10ともなればレベル200に満たないエリアボスでは認知できないようで、鈴鹿はエリアボスと戦闘にならないように気を付けながらそそくさと灰ヶ峰を回収して復活させた。灰ヶ峰曰く1日死体を放置するとダンジョンに取り込まれるそうなので、それまでに死体を回収できれば復活させることができる。
とはいえ、もしできなかった時のことを考えると焦りもする。特に今回は灰ヶ峰が死ぬとは思ってもいなかった。淵の番をソロで倒しているのだ。その辺のエリアボスに後れを取ると思わないのも仕方ないだろう。
「あのエリアボスって淵の番よりも強かったの?」
「いや、強化された淵の番よりは劣る。剣を使えば倒せたと思うが、今回は魔法をメインで戦ったんだ。剣の次は魔法を鍛えた方が良いと思ってな。ただ、そう簡単ではなかったが」
「ほぇ~、灰ヶ峰って魔法使えるんだ。何魔法?」
「闇魔法だ。今までは補助的な使い方がメインだったが、少し使い方を変えてみようと工夫している」
「闇魔法か。迅夜虎豹を思い出すな」
迅夜虎豹は影から刃を飛ばしたり影の分身を出したりと闇魔法っぽい魔法を行使していた。闇魔法を詳しく知らない鈴鹿だが、似たようなものだろうと推測する。
実は三人の中で灰ヶ峰が最も探索が進んでいた。ヨキが最も遅く、2層5区のエリアボス4体撃破。鈴鹿は3層5区のエリアボス2体撃破。そして、灰ヶ峰は3層5区のエリアボスを前のパーティですでに3体撃破している。探索が進んでいるというアドバンテージを活かし、高みへと至った剣術スキルは使わずに魔法をメインで戦っているようだ。
剣を縛っていることで灰ヶ峰は復活させた後も何度も死んでおり、結局一日だけではエリアボスを倒しきることはできなかった。そのため、鈴鹿はヨキを蘇生しては灰ヶ峰を蘇生してと、行ったり来たりと忙しい一日だった。鈴鹿としては魔蝶蘭を倒した後は特にやることもなかったことに加え、走りながら魔蝶蘭との戦闘で得られた魔力の役割について反芻する時間に充てられたので大した手間でもない。鈴鹿はじっとしているより歩いている方が考えがまとまるタイプなのだ。
「闇魔法ってどんな戦い方すんの? 今度見せてよ」
「ああ、いいぞ」
鈴鹿は灰ヶ峰がいつ裏切ってもいいように、灰ヶ峰の手の内を知ろうとしていなかった。全力の灰ヶ峰と戦えたら楽しそうだなぁと思ってだ。闇魔法が灰ヶ峰の秘策中の秘策であれば鈴鹿も開示を迫らなかったが、そういう訳ではなさそうなので今度闇魔法を駆使した戦い方を見学することに決めた。
「鈴鹿様」
「ん? なにヨキ」
「私は火魔法が発現しました」
「そうだね。あの文字化けしたスキル毒魔法じゃなくて火魔法だったんだね」
「はい。蒼色の炎が出せます」
そう言って、ヨキが人魂のような蒼い炎をふよふよと出現させた。蒼色の炎は綺麗で、炎なのに薄ら寒さを感じる不思議な炎であった。
ヨキには蜥蜴の代表であった大久野が使っていたガスマスクを、力として与えている。ガスマスク姿の大久野は毒魔法を多用していたため、きっと文字化けしていたスキルも毒魔法かそれに準ずるものだろうと予想していたのだが、蓋を開けてみれば火魔法と全然関係のない魔法が発現したようだ。解せぬ。
ヨキの青くグラデーションがかっている長い髪や角のように、炎の色も蒼くなるのは面白い。赤より青い炎の方が温度が高いため、ヨキが行使する炎魔法は火力が高そうだ。これから焚火の火おこしが楽になる。
「ヨキは火魔法を使ってモンスターと戦ってる?」
「えっと、あんまり使ってないです……」
横に座るヨキを見れば、しょぼんと尻尾が垂れ下がっていた。
「ならヨキも夢遊猫は火魔法だけで倒してみたら? 俺も次のエリアボスは雷魔法だけで戦うことにするよ」
「火魔法だけですか? わかりました! 必ずや倒してみせます!!」
ふんすふんすとやる気溢れるヨキ。なんだかんだ言って、ヨキはたった一人で2層5区のエリアボスを立て続けに倒すほどの強さがあるのだ。それが戦斧によるものならば、次は魔法も鍛えておいて損はない。灰ヶ峰がしようとしていることと同じことだ。
失礼しますと仲居さんが料理を運び、テーブルに並べてくれる。ついでに飲み物のおかわりを頼みながら、懐石料理を食べ進める。地の物を使った品はどれも美味しい。
小さい頃は野菜が嫌いだったから旅館で食べた懐石料理はメインの肉くらいしか美味しいと思わなかったけど、気づけば先付けがめっちゃ美味く感じるようになったなぁ。これが大人になったってことか。食の豊かさを感じられるよ。
一品一品美味しい品に幸せになりながら、鈴鹿はヨキの探索の様子を聞いてみる。
「ヨキは普段は戦斧で戦ってるんだよね?」
「はい! 猪首狩を使って戦っています」
「戦斧にはもう慣れた?」
「それはもう! 鈴鹿様に教えていただいた通り、今では一度戦斧を振るえばたくさんの斬撃が出現して、私は無敵になりました!」
「ん?」
ヨキの発言に鈴鹿が首を傾げる。
鈴鹿は灰ヶ峰の戦闘は何度も見ているが、ヨキの戦闘は一度も見たことがない。2層5区のエリアボスはレベル156のため、鈴鹿が近くにいると出現しなくなってしまうのだ。そのため、灰ヶ峰の戦闘の様子は確認できてもヨキの戦闘はこれまで見れなかった。だから鈴鹿は知らないのだ。ヨキがどのように戦っているのかを。
「斬撃がいっぱい出現するの?」
「はい! こう、一度振るとですね? 周りにバババッといっぱい斬撃が現れるわけなんですよ! それでですね、さらにいっぱい振るえば斬撃もその分ババババッて出てきて、それをまとめてドンッてすると倒せるんですよ! エリアボスを!」
身振り手振りで教えてくれるヨキ。しかし鈴鹿はヨキの言っていることがよくわからない。一度戦斧を振ると多くの斬撃が出現するとは?と首をかしげる。それではまるで、鈴鹿が魔蝶蘭と戦った時にようやくたどり着いた、一度の攻撃で複数の攻撃を再現させることと同じではないかと思ったのだ。
鈴鹿は1年近く何度も死にながらダンジョン探索を行った。その度にもがき、あがき、這いつくばって勝ち残ってきた。そこまでしてようやくたどり着いたのが、魔力の重要性であり魔力を使った攻撃の再現である。片やヨキは、ついこの間探索者としてダンジョンに足を踏み入れたばかりのひよっこもひよっこだ。レベルとスキルは整っているとはいえ、戦い方だって死にながら学んでいるようなそんなレベルである。そんなヨキが鈴鹿と同じように攻撃の再現を行う? ちょっとよくわからないなと鈴鹿は首を傾げる。
「今までは戦斧を振った直後の隙を消すために斬撃を使っていたのですが、最近では斬撃を一点に集中させることで威力を高められるのではと思ってですね? こう、グワッとまとめて打ち込めるようになったんですよ!」
「うんうん。うん?」
「泥でできた蛸は簡単で、こうバババッと斬撃で斬り続けられたのですが、凄い耐久力が高くて……。水のレーザーを出す腕は斬撃で斬り落とせるのですが、すぐに再生するんですよ。だから根気勝負かと思い何度も何度も斬撃を飛ばしてですね……鈴鹿様ついてこれてます?」
鈴鹿が首を傾げているので不安になったのだろうか。ヨキがそう確認する。
「うん、多分」
「よかったです。蛸は時間はかかりましたがそこまで苦労はしなかったんです。ですが、あの雷の鳥は素早くて斬撃を当てるのに苦労しました」
「あ~、雷鳥早いもんね」
「そうなんです! そこで、とりあえず雷の攻撃を斬撃で切り裂きながら耐え続け、動きの癖を把握するのに集中したんです」
「雷のね。攻撃を切り裂くね。うんうん」
「ただなかなか動きの癖がわからなかったので、もういっそ全部切り裂けば解決かと思いまして、斬撃をいっぱい出したら追い詰めることが出来たんです。そうしたらおっきな鳥に変身したんですよ」
「するする。変身するね。それはわかる。あっ、ありがとうございます」
仲居さんがお皿を下げかわりにお刺身を置いてくれる。刺身のなんと美味いことか。分厚い刺身に感動しながら、ヨキの話の続きを聞く。
「あれアホですよね? あんな的がでかくなったら攻撃当てやすいじゃないですか。最後の方が簡単に倒せましたよ」
「空飛んでるから攻撃当てにくいんだけどね。本当はね」
「でもあの黒い蠍。あいつが……くっ」
棘蠍に何度も殺されたことで鈴鹿の手を煩わせたヨキは、悔しさをにじませる。けれど、お刺身が美味しかったのかすぐに元気になった。
ヨキは辰砂大鬼と戦っていた頃はパーティで一番弱いのに前に進めないことで元気がなかったが、エリアボスを立て続けに倒せたことでようやく前のように元気を取り戻した気がする。夢遊猫を倒せば次は3層5区のエリアボスのため、鈴鹿たちに追いつくことになる。3層5区になれば鈴鹿もヨキの戦いを見れるようになるため、そうしたら一緒に行動してエリアボスを倒しに周ってもいいかもしれない。
「棘蠍は地中に隠れてるし、攻撃するのも大変だよね」
「そうだな。あれは釣り出しが基本だ。知らずに踏み込めば普通は切り裂かれて死ぬ。普通はな」
灰ヶ峰は鈴鹿が棘蠍を瞬殺した動画を見ているため、鈴鹿の攻略方法が普通ではないからなと指摘しておく。
「はい。私も後れを取ってしまい、最初はそれだけで片足を持っていかれました。何とか地上に引きずり出しても今度は毒を使ってきますし、嫌な奴でした」
「そっか、あいつ毒使うんだっけ。どんな毒だった?」
「身体が痺れて動けなくなる毒と、身体が燃えるように熱くなって火傷する毒です。あと、最後の方は頭痛や痙攣、吐血もしたので内臓や呼吸器に影響のある毒もあったかと」
「最後なんてヨキは毒状態で倒してるもんね。凄いよね」
「いえ、結局その毒で私も死んでいるので相打ちです。最後も意識朦朧の中で、とりあえず倒しとこうと思ってたくさん斬撃を放ったら倒せました。その時に、いっぱい発生させた斬撃を一点に集中させることに気付けたので倒せた感じです」
「うん。とりあえず倒すのは重要だよね。とりあえず」
ヨキの話を聞きながら、鈴鹿はヨキがどんな風に戦っているのかよくわからなかった。自由にやらせた結果、ヨキは随分自由な探索者に成長しているのかもしれない。
「そういえば、ヨキって宝珠から何のスキルゲットしたの?」
「宝珠ですか?」
「うん。宝珠」
ヨキは2層5区のエリアボスを4体倒している。得られたアイテムもさることながら、宝珠についても気になっていた。何をゲットしたのか聞けていなかったため、この機会に教えてもらおう。
しかし、ヨキは小首を傾げる。隠しているというよりも、鈴鹿が何を言っているのかわからないといった様子だ。
「あれ、もしかして宝珠知らない?」
「はい。なんですかそれは?」
「収納に〇〇の宝珠ってアイテムない?」
「収納ですか? う~んと、あっ、あります。これですか?」
そういってヨキが宝珠を取り出した。ヨキは探索者でもなかったため、モンスターを倒した後に収納を確認する楽しみを知らなかったようだ。いや、そもそもエリアボスを倒した時はヨキも満身創痍か死んでいるため、確認する余裕もなかったのだろう。その後は復活してすぐに次のエリアボスに挑みに行くし、収納を見るという発想が抜けているようだ。こういうところで、探索者としての経験の無さを感じる。
「それそれ。5区のエリアボスを倒すと宝珠が一つ貰えて、それ使うと新しいスキルが発現するんだよ。4つあると思うから使ってみて。何のスキル手に入ったか教えてほしい」
「はい、少々お待ちください」
そう言って、ヨキは宝珠を出しては次々と使用していく。宝珠は並みの探索者では一生お目にかかる機会のないアイテムだ。5区のエリアボスを倒さなければ手に入ることができないアイテムで、得られるスキルはランダム。探索者によっては神に祈りながら使用するようなアイテムであるが、ヨキにとってはさして重要でもないため感慨もなくポンポン使用する。
「ん?」
「……」
最後の一つを使用した時、明らかにヨキの気配が変わった。強さのレベルが数段階上がったような唐突な変化。その変化は灰ヶ峰すらヨキに目を向けるほどであった。
「……今のは?」
「どうしたのヨキ。何かあった? 涙なんて流して」
「いえ、すみません。少しぼぉっとしてました。それでスキルでしたね。あっほんとです。スキルが変わってます。え~と、状態異常耐性が7に増えていて、魔力操作が10になりました。それから吸収というスキルと、戦神というスキルが新しく発現してますね」
なんてことないようにそう告げるヨキ。事実、ヨキにとってはなんてことないのだろう。ただステータスに書いてあることを読み上げただけなのだから。
思わず鈴鹿は灰ヶ峰を見た。灰ヶ峰は訳が分からないとでも言う様に、鈴鹿から目線を外す。鈴鹿も訳が分からない。
「えっと、戦神? ほんとに? 先人の間違いじゃなくて?」
「はい。戦の神様と書いて戦神ですね」
きょとんとするヨキとどうしていいかわからない鈴鹿、そして何でもありだなと刺身を食べだす灰ヶ峰。静まる室内に、仲居さんが静かに食器を下げながら次の料理の説明をしてくれる声だけが聞こえた。




