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狂鬼の鈴鹿~タイムリープしたらダンジョンがある世界だった~  作者: とらざぶろー
第九章 修練の3層5区

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202/204

閑話 紋別汐里

 札幌ダンジョンを拠点とする一級探索者ギルド。そこに、紋別もんべつ汐里(しおり)は所属していた。


 札幌ダンジョンは中層ダンジョンにカテゴライズされており、雪山や火山などが広がる4〜6層までの階層を行き来することができる。そのため、札幌ダンジョンを拠点とするギルドには特級はいないものの、準一級や一級ギルドが活動していた。


 紋別が所属するギルドは一級ギルドのため、ギルドに所属する一級探索者たちは6層の探索がメインとなっている。6層1区に出現するモンスターのレベルは138~170であり、レベル150以上が条件である一級探索者に相応しい階層と言えた。


 そんな中、紋別が探索するエリアは5層2区。5層は火山地帯であり、紋別が探索している5層2区は出現モンスターレベルが122~150と、準一級探索者相当だ。それなのに紋別は一級探索者の資格を経ている。理由は、4層3区のエリアボスを討伐しているからである。


 4層3区のエリアボスはレベル156であり、討伐の記録を提示することで一級ライセンスを得ることができるのだ。当然紋別達のレベルは150を超えており、名実ともに一級探索者の実力を兼ね備えている。


 紋別達が所属するギルドでは4層3区のエリアボスを倒し、5層からは通常モンスターをメインで戦う方針が取られていた。パーティの強さが上振れていた時のみ5層1区のエリアボスを倒すこともあるが、そこまでだ。5層2区からは通常モンスターに切り替えていき、6層をメインに活動することになる。


 そんな中、紋別達は5層1区のエリアボスをすでに倒しており、今はギルド初となる5層2区のエリアボスを倒すために努力しているところであった。


 しかし、その雲行きは怪しいものとなっていた。


「5層2区のエリアボスだが、正直かなり厳しいものになるだろう」


 紋別達を見回しながら、ギルドの代表が告げる。ここには紋別のパーティメンバーだけでなく、ギルドの代表や探索スケジュールを策定する部署の長などが集まっていた。


「それは当然です。厳しい戦いでなくては、成長することもできません。成長できなければ、その先へも進めませんからね。承知の上です」


「紋別の言い分は最もだ。5層2区のエリアボスに関する情報は、まぁ手に入る。対策装備も十分ある。エリアボスのレベルが180もあってかなり強いことが問題なくらいだな。そして、それが一番の問題でもある」


 エリアボスのレベルは出現するモンスターの上限が高くなればなるほど、通常モンスターとのレベル差が広がるように出現する。1層1区では通常モンスターの上限10に対し、エリアボスは12。一方5層2区では通常モンスターの上限150に対し、エリアボスは180とレベル30も差があった。


 紋別達は5層1区のエリアボスを倒してレベル上げをしているため、現在のレベルは165前後。5層2区の通常モンスターでは倒してもレベルが上がらないため、レベル165で180のエリアボスに挑む必要があった。


 どんなエリアボスなのか情報は入手出来ているため、どんな装備で挑めばよいかもわかる。しかし、強力なエリアボス相手では対策装備をしていようとも命の危険が伴うものだ。それも限りなく高く。


「エリアボスが強いのは問題ではないですよ。むしろ望んでいます。その戦いに挑んでこそ探索者。乗り越えてこそ次を目指せるんですから」


 紋別は狂鬼チャンネルを見て、天啓てんけいを得ていた。


 死ぬかどうかのギリギリの戦いでもがき続けることで、ようやくスキルは成長する。


 こんなこと、探索者ならば理解していることだ。一級探索者である紋別ならば、何度も死にかけた経験をしているのだから、他の探索者よりもより理解している。だが、狂鬼が雷鳥と戦っている配信を見た時、脳天をかち割られるほどの衝撃を受けた。


 ここまで必要だったのか。スキルを成長させるためには、命がけなんて生ぬるく、命を差し出す必要があるのか。そう紋別は学び取った。


 紋別たちのステータスは、ギルド内では最上のステータスである。ステータスだけで見れば、特級を目指すことが無謀ではないと言える程度には、ステータスが盛れている。それは紋別達だけに限った話ではない。一級探索者の中には、それくらいステータスが盛れている者もいる。ただ、彼らが特級へと至れないのはスキルが備わっていないからだ。スキルを成長させられなければ、特級へは至れない。


 故に、紋別は強敵を求めていた。死と隣り合わせの戦いで、なんなら片足くらい死に突っ込んでいるくらいの戦いがちょうどいいんじゃないかと思う程度には、紋別は覚悟が決まっていた。特級という名のいばらの道を進む覚悟が。


「紋別、気持ちはわかるが、うちのギルドでは5層2区は未知のエリアボスだ。リスクも高すぎる。ギルドの判断としては、育成部門が死ぬ確率が高いと判断した戦いにギルド員を送り出せないぞ」


「またまた、面白いことを言いますね、代表。むしろ逆でしょう? 私は安心しましたよ。5層2区のエリアボスがちゃんと死ぬリスクがある相手であるとわかって」


 紋別はいつからか考え方が変わっていた。いや、いつからなんて不確かなものではない。狂鬼と青天雷鳥との戦いを見た日から、じわりじわりと侵食されるように思考が変化していた。


 成長することとはリスクを取ること。その神髄を垣間見た紋別は、リスクをデメリットと考えず、むしろ成長の要因として捉えるようになっていた。昔であれば『ギルド初のエリアボス戦……入念に準備して、しっかりと倒せるかどうか吟味しないと』なんて思ったことだろう。だが、今の紋別は違う。『良かった……。ギルドでも死ぬ可能性が高いって判断するなら、それに勝てれば絶対成長できるはず!』そんな危険を求める狂人のような思考に変わっていた。


 当然ながら、紋別と同じ考えを皆が持てるわけではない。紋別だって、狂鬼チャンネルを見る前であれば、今の紋別を見たらただ引くだけだろう。勝利を確証できない戦いに挑むのはただの蛮勇だよ、と。そんな正常な考えの持ち主が、紋別だったのだ。つまり、彼女とパーティを組んでいたメンバーもまた、紋別と同じような正常な思考の持ち主でもあるということだ。


汐里しおり! 強くなりたいのはわかるけど、さすがにリスク高すぎるよ! 元々5層2区のエリアボスとは戦わない予定だったじゃない!」


「そうだぜ。狂鬼に触発されたのはわかる。同じ探索者として、狂鬼の強さは尊敬する。だがな、あれを目指すのは違う。探索者ならわかるだろ。狂鬼の強さは次元が違う。あれは目指してなれるもんじゃない」


「当然でしょ。狂鬼さんに影響を受けているのは隠す気もないけど、あの人と同じ強さを手に入れようとは思っていないわよ。さすがに分別くらいつく」


 紋別を諭そうとするパーティメンバーの勘違いを、紋別は正す。


「私が求めてるのは特級まで。レベル200、二回目の存在進化、探索者の頂点。そこに立てる可能性があるのなら、私は捨てられない。自分の限界を知るためにも、私は5層2区のエリアボスと戦いたい」


 それは紋別のいつわらざる本心。何度も夢見て、その度に諦め手放した夢。それが特級探索者だ。そのいただきに立てるのならば、紋別はリスクある探索を許容する。


「リスクが成長に繋がるのは当然だけどな、許容できるリスクとそうじゃないリスクがあるだろ! 5層2区のエリアボスは死ぬ可能性が高いんだぞ! 死地への探索に向かうのはプロとして違うだろ!!」


「それでも前に進むから、特級に至れるのではなくて?」


「狂鬼に毒されすぎだ。あれは神でも何でもないんだぞ? あいつの真似をしたって、特級にはなれない。その剣だって、大枚たいまいはたいて買ったところで所詮は3層5区で得られるアイテムだぞ。秘宝ユニークのアイテムは貴重とはいえうちのギルドでも保有しているし、お前だって使っていただろ? 狂鬼の武器を所持したから強くなるなんてことは無い。このまま2層5区のエリアボスに挑めば、待っているのは死のみだ」


 紋別はこの前行われた探索者協会主催のオークションにて、狂鬼が出品した『叢雲むらくもつるぎ』を競り落としている。その価格は7億5千万円。3層5区で得られる武器とはいえ、等級は秘宝ユニークだ。狂鬼の出品ということでプレミアム価格が付いたような武器である。そんな武器をなりふり構わず競り落とした紋別に、パーティメンバーは危うさを感じていた。


 その直感が現実になろうとしている。パーティメンバーは紋別に冷静になれと制止するが、そんなパーティメンバーに紋別は問う。


「皆は特級になりたくないの? 目指したくないの? かつて夢見た景色が見られるかもしれないんだよ? 自分がどこまで強くなれるのか、見極めてみたくはないの? 自分の可能性を、信じてみたくは無いの?」


 紋別のパーティは、探索者高校時代に結成したパーティのままだ。あの頃、紋別達はたしかに目指していたはずだ。札幌ダンジョンで初となる特級探索者になってみせると。そう誓い合ったはずだ。


 たしかに、現実は厳しかった。レベル150を超えてからの伸び悩み、5層1区のエリアボスとの激戦。紋別だけじゃなく、パーティメンバー全員が強く死を意識した戦いだった。それでも、紋別達は生き残って成長した。しかし、次の5層2区のエリアボス相手では誰かが死ぬかもしれないという、確信にも似た予感を皆が覚えたはず。


 だからこそ、今まで紋別は悩んでいたのだ。自分たちが成長するためには、次に進むためにはどうすればいいんだろうかと。そんな時、狂鬼が教えてくれた。死地でこそ探索者は成長することができると。


 昔は当たり前に理解していたはずだった。だからこそ、紋別達は1層の頃から死に物狂いでエリアボスに挑んだはずだった。それなのに、いつの間にか凝り固まっていた頭が、生きて帰ってこその探索者という常識に縛られていた。その常識のおかげで紋別は今も生きているのかもしれないが、その常識のせいで紋別の成長は止められていた。


 ギルドに所属する探索者としては、生きて帰ってこそというのは正しい在り方なのだろう。しかし、探索者という人間の目線で言えば、それはぬるま湯に浸かった探索者(もど)きと言われてもしょうがない。高みを目指すならば、流氷溢れるオホーツク海のような凍てつく死の気配にかってこそ成長できるのだ。


 だが、あの日誓い合った戦友たちは紋別から視線を逸らした。慌てて取り繕おうとするが、それだけで紋別には彼らの本心が伝わった。当たり前だ。どれだけ彼らと共に戦ってきたと思っているのか。紋別にとって彼らは友達ではない。同僚とも違う、ましてや親兄弟のような間柄でもない。彼らは戦友なのだ。命を預け合った戦友。そんな彼らを、紋別は無理やり死地に連れていくことはできない。


「わかった。わかりました。みんな、代表、今までお世話になりました。私はどうしても、先に進んでみたい。特級へ至るチャンスがあるのなら、手を出さずにはいられない」


 パーティメンバーだって、各々の生活があるのはわかっている。皆大人になったのだ。自分の事だけを見て生きている訳じゃない。


 親を残して死ぬことを良しと出来る者は、そういない。パーティメンバーの中には結婚している者だっている。守るべき者がいるのに死地に行こうなんて、そんな身勝手な行動は出来ないのだ。


 ましてや、彼らは一級探索者。探索者としてすでに成功しているのだ。エリアボスに挑まず、通常モンスターと戦う方針に変更すれば、安全に6層を探索することだってできる。無論、100%安全とは言えないが、それでもエリアボスと戦うことに比べたら何倍も安心な探索と言える。


 彼らは手にした一級という利益を確定させたいのだろう。特級に挑み死んで全てを失うことを恐れたのだ。きっと、紋別も狂鬼を知らなければ彼らと同じ選択をしたはずだ。だからこそ、紋別は彼らを責めることはない。ただ、紋別は紋別でその先に進みたいのだ。彼女は彼女で、自らのエゴを押し通す。


「今まで本当にありがとう。ごめんね、わがままで」


 そう言って去る紋別を、誰も止めることはできなかった。


 死地であろうと踏み込み前へ進もうとする者に、彼らは憧憬しょうけいの念を抱いたから。探索者ならば、愚直だろうと強さを求める者に憧れや敬意を抱く。特に、その夢を諦めた者からすれば、紋別の姿はとても眩しく映るのだった。




 ◇




 きちんと手続きを踏み、紋別はギルドを抜けた。紋別が抜けたことでパーティは不安定になるだろうが、瓦解するほどではない。彼らならお互いをフォローし合って5層でも活動できるだろうし、このままエリアボスとの戦いを止めれば6層でだって活動できるだろう。


 問題は紋別の方だ。紋別は強くなりたいし、そのためなら死地であろうとも構わず進もうと思っている。だが、別に死にたいわけではない。一人で5層2区のエリアボスに戦いに挑むような馬鹿な真似はできない。


 ならば、自分を受け入れてくれるパーティを探す必要があった。一級ギルド、可能なら特級ギルドへの加入が一番良いだろう。それ以外だと、探索者協会が運営する探索者同士をマッチングさせるサービスを利用する方法がある。


 この探索者マッチングとは、フリーな探索者同士を引き合わせたり、特定のスキルを所持する探索者を臨時でパーティに加える際に使われるサービスだ。このサービスのおかげで、遠征先でもパーティを募集したり、拠点を変えてもパーティを組みやすくなるのだ。それに、探索者パーティはお互いに命を預け合う必要がある。小さな綻びからパーティが解散することも珍しくないため、このようなサービスが運用されていた。


「まずは東京の特級ギルドに打診してみようかな。一応協会のマッチングサイトも見てみてだけど」


 協会のマッチングサイトは望み薄である。当然だ。一級探索者は探索者の上澄みであり、成功者たちだ。今更、新たなパーティメンバーの募集をかけることもない。案の定、軽く調べてみたが良さそうな条件は無かった。


 ただ、マッチングサイトでは自分から募集をかけることができる。特級ギルドに声をかけるのと並行して、募集しておくのも一つの手ではあった。


「っていっても、募集なんてしたことないし、どんな内容だと応募者増えそうかな」


 わからないことは調べればよい。望むのは狂鬼のように、命をかけてでも強さを手に入れまいとする強さへの渇望を持った探索者だ。


「ん? 何このサイト」


 どうするべきかネットでいろいろと検索していた時、一つの掲示板を見つけた。


 その掲示板は狂鬼のシンパたちが集っていた。狂鬼の熱狂的なファンや信者たちが情報交換をする掲示板。当然その中には探索者もおり、狂鬼を信奉しているだけあってリスクを取った探索をしているようだ。その探索の結果なども事細かに記載されており、一級探索者である紋別でも勉強になるようなものだった。


 そんな中、サイトに一つのリンクが張ってあった。『狂鬼様のいる遥か高みを目指す者たちへ』、そんな書き込みと共に張ってあるリンク。怪しいと思ったが、紋別はそのサイトを開いた。


【狂人の集い】


 そんなタイトルのサイトを一目見て、紋別はどんなサイトか理解した。それは先ほど見たばかりのサイト。協会が運営する探索者マッチングサイトのUIに似通っていたのだ。


 サイトのタイトルの下にはこう書かれていた。


『このサイトは狂鬼様に感銘を受け、狂鬼様に少しでも近づきたいと渇望する者たちを巡り合わせるためのサイトである。狂鬼様のお導きの通り、リスクを享受し死地を歩む覚悟のある者は、このサイトを通して同志を見つけてほしい。安寧に抱かれ、探索者の矜持を失った者たちに失望した者たちよ。共に狂鬼様に続こうではないか』


 それは紋別が求めていたものであり、踏み込んだら最後、後戻りのできない狂気の坩堝るつぼであった。

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― 新着の感想 ―
> このまま2層5区のエリアボスに挑めば、待っているのは死のみだ ここは5層2区の間違いでしょうか
うひょー、剣買っちゃったかー。 ペナルティ無しで使えるあれかー。 強くなっちゃうな〜w
ヤバい組織結成されてんの草 でも、これ大阪のあれみたいに勝手に暴走したりしないのかな? まあ楽しみ。
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