24話 西の激震
灰ヶ峰によって狂鬼の死の連絡を受けた翌日、ギルドで西成を待っていたのは不機嫌さを隠しもしないギルドマスターである天満であった。
「そない不機嫌そうな顔せんといてや、天満。あれはタイミングが悪かったやろ」
「言い訳か? ウチ、狂鬼連れて来いってはっきり言うたはずやで」
天満は同じキチガイ同士狂鬼をぜひ仲間にしたいと息巻いていた。西成をスカウトに行かせたくらいだ。その本気度もうかがえる。
そもそも、狂鬼に神の名を冠するスキルが発現しているならば、狂鬼が西に付いただけで目的は達したと言えただろう。そうなれば東西戦争などやる意味すらなくなる。
2層5区のエリアボスを瞬殺した様子からも、確実に狂鬼は神の名を持つスキルが発現しているはずだ。喉から手が出るほど西が求めた人材。日本を巻き込んだテロすら起こしてまで手に入れようとした人材。それが狂鬼であった。
「無理やって。呪言は効かへんし、猛虎伏草のブランドにも靡かへん。加えて東と友好結んでんねんで。西には絶対来んし、天童と結ばれる方がアカンやろ」
「知らんそんなん! ウチは連れて来い言うたやろ! 部下なら代表の望みくらい叶えんかい!!」
「そんなん無茶苦茶やんけ」
他のギルドメンバーも苦笑いだ。天満の駄々こねは今に始まったことじゃない。あとでなんか美味い物でも持っていけば機嫌も直すだろ。
「災難やったなぁ、西成」
「ほんまやで。九条のおっちゃんも言うたってぇなぁ。あのタイミングで殺らんかったら次どうなってたか想像もつかんわ。あれはアカン、強すぎたわ」
存在進化の影響を受け青紫の肌をした九条というベテラン探索者が、天満に責められる西成をねぎらう。
2層5区のエリアボスすら瞬殺して見せるタガが外れた強さ。3層5区のエリアボスすら終始余裕を持って対処する始末。次会ったときにはどこまで強くなってるかもわからないし、ノコノコ西に来る機会もないかもしれない。
渇望していた人材ではあるが、東に取られるリスクが高いならば手折るしかない。雨道とのパーティを拒まれたのなら、生かしておく必要もないのだ。
早計かもしれない思いもあったが、やらぬ後悔よりやる後悔。あそこで踏み切ったのはきっと英断だったはずだ。
「ちーす。久しぶりやなぁ」
そう言いながら幹部級のみが入れるこの部屋に、新しい人物がやってきた。珍しい人物であり、今世間を騒がせている人物でもある。
「あれ、堺やんけ。なんでここおんねん? 今横浜動いとるとこちゃうんか?」
「せやからやって。なんかあった時、俺らおったら言い訳立たんから言うて、外されたんや。せやから久々にこっち来たんや」
横浜のランドタイガーを任されている堺の手には、高級そうな紙袋が握られている。こいつはチャラくて聞かん坊だが、天満には従順だ。惚れた女の頼みならとめんどくさい仕事も引き受けてくれる便利な男である。天満が美味い物が好きなことも理解しているため、きっと東で流行ってるスイーツか何かが入っているのだろう。
これはしめたものだ。西成が動かずとも天満のご機嫌取りをしてくれるなんて、なんと都合の良い男なのか。
「堺かい。お前からも西成に言うたれや! こいつヘマして狂鬼死なせたんやで!」
「そないペットみたいに言いよってからに。ほら堺がええとこの菓子買うて来てるで」
「西成のためちゃうわ。天満さんへの土産や」
「おお! なんやなんや! 堺はわかっとる男やなぁ!」
途端に機嫌をよくする天満。わかりやすくて助かる。これで天満の方は放っといていいだろう。変わりに、灰ヶ峰が何をやろうとしているのか確認でもしておくか。もうすでに昨夜から半日近く経っている。何か動くには十分な時間だろう。
「今回は何買うてきたんや!」
「ええ、今回は―――」
西成が席を外そうとしたとき、後ろで凄まじい音が響き渡る。即座に振り返れば、堺が天満に襲い掛かっているところであった。ナイフを片手に襲う堺だが、天満の顔に浅い切り傷を付けることしかできていない。
「【止まれ】や!!!」
西成の呪言が堺を捕縛する。一級探索者である堺を完璧に制御できるわけではないが、動きを阻害するには十分な効力を発揮してくれる。気づけば堺は存在進化を解放し、完全臨戦態勢をとっていた。しかしそれは天満をはじめとしたこの部屋にいる者たちも同様であった。
天満の背には純白の翼が生え頭には光る輪っかが浮かび上がる。穢れなき純白な髪、透き通るような白い肌。一式防具を展開することでプラチナに輝く美しい防具に身を包んだその姿は、まさに天使。存在進化先が天使である天満の存在進化の解放は、神の使徒と呼ぶにふさわしい神々しさをあたりに振りまく。
しかし、銀色に輝く瞳は肉食獣のようにギラギラと熱を帯び、犬歯をむき出しに笑うその顔は天使とはかけ離れたものだった。
「なんや堺ッ!! そないナイフじゃかすり傷しか―――」
天満がそう吠えた途端、声にならない絶叫を上げる。即座に天満が聖魔法を使い自身の周りに強固な結界を施し、自身に聖魔法をかけた。あの光は回復。たった一筋の切り傷で使うようなものじゃない。あの天満が膝を屈して動けないほどの攻撃。それが意味することは容易に想像がつく。
「毒や!! 堺殺せぇえ!!」
西成が言葉を言い終わるよりも先に、堺が真横に吹き飛んだ。部屋の壁を破壊しながらも堺に襲い掛かるのは難波。狼の存在進化を開放した難波は、革鎧の一式防具を解放しながら自身の武器である双剣を使い堺へと連撃を繰り出していく。
しかし、堺もやられてばかりではない。例え難波がレベル200超えの化け物であろうとも、堺も一級探索者。それなりの死線を潜り抜けてきた力がある。堺の存在進化は鳥。数ある鳥の中でも速さに特化しているのが、堺の存在進化である。1対の翼が堺から出現し、狭い室内を恐ろしく器用に飛び回り難波の猛追を躱していった。
難波の持つ双剣から熱波が吹き荒れ堺を抑え込みにかかるが、堺の纏う風の鎧が炎の威力を減衰し決め手に欠けている。
「【魔力を乱せ】ッ!! 覚悟しぃいや堺ッ!! 何をとち狂うたか知らんけど、うちの大将に手ぇ出して生きて帰れる思うなやッ!!」
西成は呪言によって、辺り一帯を吹き飛ばすような大規模な魔法を封じることに成功する。それでも風の鎧程度なら維持できているのは、さすが一級と言えるだろう。
西成の眼が複眼となり堺を捉える。西成の存在進化は蛾。頭からは触覚が生え、辺りには鱗粉が舞っていた。その鱗粉に強烈な麻痺の力を籠め、毒魔法による範囲攻撃が仕掛けられる。
視界を遮るほどの鱗粉。しかし、堺は風魔法を得意とする魔法剣士である。鱗粉とは別に展開された無色透明の毒霧すらも、纏う風の鎧で跳ね除ける。難波の猛攻と西成の麻痺の鱗粉すらも掻い潜り、堺が再度天満への攻撃を敢行しようと身体を反転した直後、麻痺の鱗粉から巨大な盾が出現する。
西成は堺が風魔法を扱うことを当然知っていたため、毒魔法が通らないと理解していた。あえて使用したのは堺の視界を防ぐことが目的だったからだ。鱗粉から姿を現したのは蛸の存在進化を経た九条というベテランの探索者。蛸のように瞳孔が横長となり、口元から下は幾本もの触手となって蠢く異形頭。その九条が堺の進路上に盾を構え、堺を待ち受けた。
「おいたがすぎるわ、堺」
九条の愛剣は刀身が波打つフランベルジュ。それが振り下ろされ、堺の片翼が根元から斬り落とされた。それでも堺は止まらない。九条の脇を掻い潜るように進路を取るが、そこには難波の双剣が待ち受けていた。
横なぎに振られる双剣。避けねば致命傷を負うコース。回避しようとも双剣から噴出す炎が丸焼きにしてくれると燃え盛っている。
難波も九条もガチガチの前衛職だ。だからこそ、相手がどう動くかを予想し、その手を潰すために一手先の行動を取ろうとする。
だが、それがいけなかった。彼らは前提が抜けているのだ。堺は生き残るための行動をとるだろうと、窓から飛び立たせないために翼を潰そうと、そう行動してしまった。しかしここは猛虎伏草の本拠地。優秀な探索者がひしめき、特級探索者に囲まれた天満をこの場所で襲ったのだ。それはつまり、生き延びることなど念頭にない捨て身の行動。死兵の行動であった。
死兵がたかが翼がもがれただけで、たかが致命傷を負わせる攻撃が目の前に迫っているだけで、引くわけがない。
「なッ!?」
難波が振り抜く双剣に突っ込むように、堺は前へと踏み出した。練り上げた魔力によって発生する風の鎧によってわずかに軌道を逸らしながらも、炎噴き出る双剣が右頬深くから顔面を抉るように削り取り、右肩を深々と切り裂いた。残る一振りも片翼を切断し、堺へ十分な致命傷を負わせることに成功する。
だが、堺の目的は生き残ることではない。天満を殺す事。堺は瀕死の傷を負いながらも、九条と難波を躱すことに成功した。
圧縮した空気が爆発し、翼を失ってもなお飛ぶように天満へと迫る堺。未だ結界の中で膝をつく天満へと命がけの突撃を敢行する。
「……二度もうちの大将に近づけるわけないやろが、ボケが」
だが、堺の奮闘はそこで終わる。手を伸ばせば届く距離。しかし、堺の手が天満の結界へと触れることは叶わなかった。
西成が持つ脈打つ片刃の剣が、深々と堺の心臓を刺し貫き動きを完全に封じていた。傷口から流し込まれるは西成謹製の猛毒。動きを封じる麻痺と命を蝕む毒が大量に流された堺は、その場から一歩も動くことはできなかった。
「ゴパッ」
内臓損傷による大量の吐血。毒の影響か、西成が剣を抜いた後も彫像のように固まって堺は動かない。
「最後になんか言い残すことは無いんかい、ワレ」
斬りつけられた傷から大量に血が流れる堺は、止血することもかなわずこのまま死ぬことになる。何故こんな蛮行に及んだのか。言い訳の一つでも聞いてやろうと情報を抜き出すつもりで西成は告げた。しかし返ってきた言葉は見当違いのもの。
「きょ……うきに…は、手ぇ……出すな……」
何故ここで狂鬼の名前が出るのか、単語の意味が解らず複眼となった眼を訝しむように歪めた直後、異変が起きる。
堺が動いたのだ。
天満に襲い掛かる訳でもなく、逃げるわけでもない。手に持つ毒の滴るナイフを持ち上げ自分へと向けている。自殺をするつもりか。それを止めるつもりはない。情報を得るために生かすつもりもなければ、放っておいてもどうせ死ぬのだ。すぐに死ぬか数秒生きながらえるかの違いしかないだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。問題は西成の毒を直接注入されたにもかかわらず動いているという事実だ。
堺のスキル構成では西成の毒を防ぐことはできない。事前に西成の毒対策として上級ポーションでも口に入れていたというのだろうか。はたまた、西成の毒すらも凌駕する何かが堺の体内で働いているのか。
答えはわからない。何故ならば堺は自分自身をナイフで刺してしまったからだ。特級探索者である天満すらも膝を折らせるほどの劇物が塗られたナイフで。大量の出血、西成の猛毒、そして謎の毒。それらが合わさった結果なのか、堺の死に顔は凄まじいの一言に尽きた。
西成はその顔を知っている。恐怖と憎悪と絶望に染められた歪んだその死に顔は、痛みだけで作り出せるものではない。底なしの悪意に曝された者だけが垣間見せる、全ての救いを断ち切られた者の顔。
何故堺がその顔をするのかがわからない。天満を殺せなかったことに対する絶望なのか。たかが死の恐怖で作り出される顔とは次元を画す壮絶な顔。
それに刺す箇所も異常であった。堺がナイフで刺した場所は左目。深々と自身の左目を刺し貫いている。恐らく脳みそまで届いているはずだ。死ぬだけであればもっと別の場所があったはずである。にもかかわらず、痛みを少しでも感じるためとでもいう様に目を貫き絶命した。
「言うに事欠いて狂鬼やて? あいつはもう死んどるんや。死人に怯えてこんな訳わからんことした言うんかいな」
謎が謎を呼ぶ。だが、死んだ者のことをいつまでも考えている暇はない。
「天満、大丈夫かいな」
すでに難波や九条が天満の様子を確認しているが、様子は芳しくなかった。
「目ぇ覚める毒やったで。自分より強い毒なんとちゃうか?」
「強がってんと、はよ治しぃや」
未だ結界を解除しない天満。つまるところ、全快にはまだ至っていないということだ。聖魔法のスキルレベルが9もある天満がすぐさま取り除けない毒。そんな劇物を堺はどこで手に入れたというのか。6層7層あたりのエリアボスからのドロップ品である可能性が高いが、いったいこの襲撃の裏にはどれほどの組織が絡んでいるというのか。
「とりあえず、ウチは蜥蜴使うて情報集めるわ。堺寝返らせたんや。この襲撃で終わるとは思えへんな。天命と明星は集結させとけ」
「六甲は呼び戻すか?」
「いらん、探索させとき。まだ状況が掴めへん。千年一剣に声かけて警戒させとくわ」
あの堺が裏切った。この件がたったこれだけで終わるわけがない。次はこのビルごと爆破するなんて可能性も捨てきれない。
「東かいな?」
「わからん。ただ手口が東京とは思えへん。怒り狂った横浜が一線越えたんか、政府か、他国か。……まぁ、ええわ。うちらに牙向けたんや。けじめはきっちり取らせなあかん」
持てる力を総動員し喰い殺す。そのためには情報が必要だ。蜥蜴や部下に指示を出すために西成が携帯を取り出した時、扉が開けられる。そこにいたのは血相を変えた西成の部下だった。蜥蜴とは別の軸で諜報活動をさせている者である。
「何がありました!?」
「おお、ちょうどええとこ来たな。仕事頼みたいんや」
堺との戦闘で部屋は滅茶苦茶である。難波が発生させた火はすでに鎮火されているが、台風でも通り過ぎたのかとツッコミたくなる惨状だ。
「堺が裏切ったんや。裏にいる奴見つけ出すで」
「堺さんが!?」
まさかの身内の裏切りに衝撃を受ける部下。それはそうだろう。内部で裏切り者をつくりだし組織をぐちゃぐちゃにするのは西側の手口である。まるで横浜の意趣返しのような行為を猛虎伏草が受けるなど、到底容認できない。
「ん? 意趣返しやて?」
西成の中で何かが引っ掛かった。身内の裏切り。代表への危害。当てつけのように横浜に行ったことを返された形である。
意趣返し。それを猛虎伏草に実行できる者。一体何が敵に回ったというのか。
「わ、わかりました。ですが、私からも報告がございます」
「なんや?」
「狂鬼チャンネルがとてもまずいことになっています」
そう言って、部下がノートパソコンを部屋にあった巨大なテレビへと接続するために動く。テレビは土埃が被ってはいるが、画面は割れていなかった。電源系統が生きていれば使えるだろう。
「ああ、すまんすまん。まだ情報まわしてへんかったな。狂鬼は昨日死んだで。灰ヶ峰が有効活用する言うてたから、その一環とちゃうか?」
狂鬼の死を灰ヶ峰が利用すると言うので、情報漏洩のリスクも鑑みまだ部下にも話していない内容だった。電話では灰ヶ峰が何かすると言っていたが、それが狂鬼チャンネルを使った何かなのだろう。それならインパクトは凄まじいはずだ。あの狂鬼すら殺されるとなれば、西に逆らう多くの者の心をへし折れることだろう。
「違います! これを見てください!!」
そう言ってディスプレイに表示された映像には、灰ヶ峰が映っていた。何が違うんだ、そうツッコミを入れられたらどれほどよかったことか。
灰ヶ峰の隣には狂鬼がいた。死んだはずの狂鬼が、にこやかに笑いながら配信をしている。
「は?」
『お~い、見てるか? 西で活動している探索者諸君。猛虎伏草のメンバーよ。俺はお前らが売った喧嘩を大枚叩いて買ってやるぞ。だから楽しみに待っててくれ。蜥蜴潰したら遊んでやるから』
黄金に輝いていながらも濁って見える鬼の眼を下手くそに歪め、画面に向かって狂鬼は言う。まるで西成に語り掛ける様に、次はお前の番だと狂鬼が言う。
「は? 待てや。どういうことやねん」
狂鬼の隣には灰ヶ峰がいる。それも機密中の機密事項をベラベラと電波に乗せて垂れ流している始末だ。
死んだはずの狂鬼が生きており、狂鬼が死んだと報告した灰ヶ峰が組織の告発をしている。そこから導き出されるのは一つ。
灰ヶ峰が裏切った。
それは思いつく限りで最悪の裏切り。灰ヶ峰は蜥蜴の次期代表であり、闇に葬り去られてきた数々の情報すらも熟知している。今灰ヶ峰が話している通り、西の各ギルドも、警察組織も、探索者協会も、はたまた政界や各国とのつながりまで灰ヶ峰は知っている。
その情報があれば大義ができてしまう。西のギルドを潰すに足る大義が。そうなれば西がなりふり構わず川崎を潰してまで東を誘発した意味が無くなってしまう。三日天下であろうとも西が日本を統べる青写真に大きな亀裂が入った。
「灰ヶ峰……何しとんねんアイツ」
「わからへん。ただあいつは狂鬼と手を組んだ。それだけは事実や」
画面に映る二人がいるのは尾道組の事務所。それはつまり、尾道組がすでに潰されたということに他ならない。堺の裏切りをはじめ、どこまで蜥蜴の連中が灰ヶ峰に従っているかはわからないが、尾道組でこんな堂々と配信をしても横やりが入らないところを見ると、ほとんど灰ヶ峰に掌握されているとみていいだろう。
長い年月をかけて用意周到に準備された謀反。そう思えるが、疑問もある。何故灰ヶ峰は自分の不利となるような情報も隠すことなく話しているというのか。猛虎伏草を始めとした西のギルドの失墜を望むならばその情報だけを出せばよい。蜥蜴の現代表を排したいなら人知れず殺せばよいだけだ。
何が目的なのか。その全容が掴めない。
それに、西成は灰ヶ峰含め多くの者に呪言を使用している。呪言は対象を洗脳するような使い勝手の良いものではなく、吐いた言葉に力を込められる程度のスキルである。先ほどの堺との一戦で見せた様に、動きの阻害などが主な使い方だ。味方に使えばバフの様に能力向上もできるため、使い勝手は悪くない。
言霊を宿らせるこの能力は、上手く使えば深層心理に刷り込みも行うことができる。思考の誘導が可能なのだ。それを西成は多くの者に施している。当然灰ヶ峰だけでなくその周囲にも行っているため、謀反の兆しを見逃すとは思えなかった。
『狂鬼に手を出すな』
西成の脳裏には堺が死に際にこぼした言葉が繰り返される。だが、西成の常識がそれを否定する。あの状況で狂鬼ができることなどなかったと。これは灰ヶ峰が先導した裏切りなのだと。
先手を取られた現状、下手に動くことはできない。動画が本当にリアルタイムの様子ならば、二人は広島にいる。だが、そこにどんな罠が待ち受けているかは読めない。守りを固め情報を集めることしか、彼らにできることは残されてなかった。
「なんやねん、これ」
ただ、ただただそう一言、西成は絞り出すだけだった。




