高級宿
「おい、お前たち! ここで何をしている!」
入り口近くで困惑しているハヤトたちを見つけた衛兵は尋ねる。ハヤトたちはビクッとなり衛兵の方を恐る恐る振り向いた。
「冒険者か?」
「は、はい! 氷帝様にここを、紹介されて……」
すかさず鞄から手紙を取り出し衛兵に見せるハヤト。衛兵は訝しげに手紙を受け取り内容を確認したとん目を見開き小刻みに震えだす。
「こ、これは! 大変失礼いたしました! 只今オーナーに確認してまいりますので、中でお待ちください!」
そう言われ中に入るハヤトたち。
「うわーすごい」
「まじか……」
「これ夢っすか? 誰か頬を抓ってほしいっす」
「うるさい!」
クシュが思い切りで抓る。
「いたい、痛いっすよ!」
余りの痛さに涙目になるセゾン。頬は真っ赤になっていた。
宿の中は絢爛豪華になっており、天井には煌びやかな特大のシャンデリアが存在している。
「では、こちらのソファーでお持ちください」
明らかにふかふかのソファーを勧めて立ち去る衛兵。
「なぁ、ハヤトここに泊まっていいのかな? 落ち着かないんだけど……」
「ヴェスナーも? 俺も落ち着かない。明日にでも別の宿にしない?」
「賛成。セゾンもクシュもそれでいいか?」
「俺も賛成っす。胃が痛くなってきたっす……」
お腹をさすり始めたセゾン。それをみていたハヤトとヴェスナーもなんだか胃が痛くなった気がしてきたのかさすり始める。庶民派の三人には辛い場所だった。
「む……ここがいいけど。皆に合わせる……」
渋々と納得するクシュ。その時、近づく足音が聞こえ振り向く。
「皆様。孤高の銀狼亭へようこそ。私はオーロラと申します」
スラっとしたスタイルに白く透き通った艶かしいまでに美しい顔の女性が現れる。
「は、初めまして! ハヤトと言います!」
「お、俺は銀の槍のリーダーのヴェスナーです!」
「セゾンっす!」
「クシュです」
オーロラの美しさにハヤト、ヴェスナー、セゾンの三人はかなり緊張して自己紹介をする。薄っすらと額から汗が垂れる。クシュはいつも通りだ。
「ふふふ。話は妹から聞いてます」
「妹?」
頭にクエスチョンマークを浮かべるハヤトは尋ねる。
「あら、聞いてなかったのですか? 現氷帝は私の妹ですのよ?」
「「「「ええええええええ」」」」
今日一番の衝撃の事実に声を重ねて驚くハヤトたち。手で口を隠し微笑むオーロラ。
「ふふ。では、部屋にご案内しますね」
そう言われオーロラの後ろをついて行くときにハヤトはリルの事を尋ねる。
「あの、オーロラさん。リルも一緒の部屋でもいいですか?」
振り向くオーロラはハヤトの足元にいるリルを見た後顔をハヤトに向けて言う。
「本当は出来なのですが、今回は特別に許可します」
「ありがとうございます」
オーロラから許可をもらい、白くて長い廊下を歩きで部屋まで案内される。やがて部屋に辿り着くハヤトたち。案内された部屋は十人以上は入るのじゃないかと思うぐらい広く、煌びやかだか何処か落ち着いた雰囲気になっている。それにキングクラスのベットが二つもある。
「こちらと隣の部屋がハヤト様たちの部屋になります。部屋にあるこの扉で行き来が出来ます」
そう言い他とは色が違う赤い扉に近づき説明するオーロラ。
「それとこちらの扉がこの部屋に隣接している露天風呂に繋がる扉です」
「露天風呂あるの!?」
オーロラの言葉に物凄い勢いでくいついたハヤト。
「え、ええ。ありますよ。こちらに」
案内された露天風呂はとても広い。特殊な技術を使っているのか、何故か星空が見えている。
「いかがですか?」
「はい、もう最高です! 他のお客さんとかいないみたいですが……」
「この露天風呂は各部屋にございますのでのんびりと楽しめるようにしております」
「そうなんだ」
露天風呂を後にし部屋に戻るとセゾンが拳を掲げていた。どこかで見た光景だと内心で思うハヤト。
「セゾンが勝ったの?」
「ハイっす! ハヤトと一緒の部屋っす!」
嬉しそうに言うセゾン。後ろを見ると悔しそうに床を殴るヴェスナーとチョキの手を眺めてぶつぶつ言うクシュ。リルはベットの上で丸くなっている。
「では、私はこれで。何か御用の際はそちらのベルを鳴らしてもらえばスタッフが参りますで」
「わかりました。ありがとうございますオーロラさん」
一礼してオーロラは扉を閉めて出ていく。
「よし、皆。露天風呂入ろう!」
入りたくてうずうずしているハヤトはヴェスナーたちを急かす。
「ハヤト待って。俺たち露天風呂って知らないんだけど」
ヴェスナーの言葉で頷くセゾンとクシュ。
「風呂も?」
「風呂ってあれだろ金持ちが入るっていう奴だよな?」
「うん。それの外の景色を見ながら入るお風呂の事を露天風呂って言うんだ」
ハヤトは分かりやすく説明をする。
「へー、そうなんだ」
「細かいルールとかあるけど、それは行った時に話すよ」
「おう」
移動し始めるハヤトたちだが、何故かクシュもついてくる。
「えっと、クシュは隣の部屋の露天風呂の方が……」
「なんで?」
「お風呂は裸になるんだよ? 嫌じゃないの?」
クシュは腕を組み天井を見ながらしばらく考えた。
「小さい時にヴェスナーとセゾンとよく一緒にお湯で洗っていたか平気だよ」
「そ、そうなんだ……ヴェスナーとセゾンは?」
混浴だけは避けたかったハヤトはすがる思いでヴェスナーとセゾンに尋ねる。
「俺は構わないぜ」
「俺もっす」
どんだけ仲がいいんだよと内心で愚痴を溢すハヤト。
「一緒に入るのダメ?」
そしてクシュからも悲しそうな眼差しで見つめられハヤトは回避できないと思い諦めた。
「はぁ……わかったよ」
「わーい! ありがとう、ハヤト」
はたしてのんびりと入れるのだろうかと不安しかないハヤトだった。




