露天風呂
木製で出来た通路を歩くハヤトはヴェスナー、セゾン、クシュに露天風呂でのマナー的なルールを説明する。
「入る前に全身洗うこと。走ったり、泳いだりしないこと。特にセゾンは」
「えっ! 俺っすか!?」
「セゾンは子供だから」
「歳は一緒すよ!」
「はいはい、セゾン行くぞ」
散々な言われようで落ち込みながらとぼとぼと歩き始めるセゾン。
「ハヤトのせいっすよ……」
「ごめん、ごめん。今度なんか美味しいの奢るよ」
「約束っすよ!」
そんな話をしていると曇りガラスで出来た横スライド式の扉の前に到着する。
「あ、そうだ。一つだけ言い忘れていたことがあった。男性陣は腰にタオルに巻いて、クシュは邪魔だと思うけど身体にタオル巻いて入ってね」
「そうなの? なくても平気なのに」
頭を傾げて尋ねるクシュ。
「う、うん。ルールだから巻いてね」
「……わかった」
クシュは渋々なようだがどうにか納得させてホッとするハヤト。
「じゃあ先クシュ入って。俺たちは後から入るよ」
「? わかった」
「脱ぎ終わったら籠があるからそこに洋服いれて、先湯舟に浸かってて」
「うん」
がらがらと音を立てて脱衣所に入るクシュを見送るハヤトは壁に寄り掛かる。
「あのさ、ハヤト。さっきから気になっていたんだけど」
「な、なにを?」
「ハヤトってもしかしてクシュと入るの嫌だった?」
よく観察しているなと内心で思うハヤトは諦めて正直に言う。
「嫌っていうか……その、女性と入らないていうか、入ったことがないから……く、クシュの事は嫌いじゃないよ? 嫌いじゃないけど……なに言ってんだろう俺……」
「ルールは?」
「混浴の場合だけど間違いじゃない」
「了解。俺も後で奢れよ」
「俺も、俺も!」
「わかったよ」
その時、脱衣所から扉を開く音が聞こえた。セゾンが中に入り確認する。
「OKっすよ!」
セゾンの合図で脱衣所に入ったハヤトたちは脱ぎ始める。腰にタオルを巻きハヤトたちは露天風呂に続く扉を開ける。
「遅い」
足だけ湯舟に浸けているクシュはハヤトたちに顔を向かる。ちゃんとタオルを巻いていてほっとしたハヤトだが濡れたタオルのせいでクシュのスタイルがはっきりと分かり、思わず顔を背けるハヤト。
「どうしたの?」
「いや、なんもないよ。身体洗ってくるから先入ってて」
「うん」
そう言い肩まで浸かるクシュは「気持ち……」と小声で言う。
洗い場に行くとヴェスナーとセゾンがにやにやしている。
「な、なんだよ」
「いんや~別に~なぁ~セゾン」
「そうっすね~にやにや」
「あーもう、からかうなよ!」
湯舟でまったりしているクシュはハヤトたちが聞き取れないぐらいの小声で「子供……」と呟いた。
身体を洗い終わったハヤトたちはゆっくり湯舟に浸かる。
「はぁ……気持ちいい……」
「だな……」
「幸せっす……」
湯舟に肩まで浸かると三人はそれぞれ思ったこと言ってまったりする。
「ハヤトには感謝だな」
「うん。それに月が綺麗……」
特殊な技術で映し出される夜空にクシュはうっとりする。
「オーロラさんに聞いたんだけど機密事項だって言われた」
「ふーん」
しばらくのんびり楽しんでいるとヴェスナーが言う。
「じゃ俺たち先に出てるぞ」
そう言いセゾンの肩を組むヴェスナー。
「え、俺もすか!?」
状況に追いつていないセゾンは困惑したがヴェスナーが耳打ちするとセゾンが頷く。
「そ、そうっすね、俺も先出るっす」
「てことで、あとは二人でごゆっくり」
ウィンクしたあとセゾンと一緒にヴェスナーは露天風呂から出る。急に二人され何を話せばいいか悩むハヤトだったが先にクシュが話始める。
「明日、何時から行くの?」
「氷帝様のところ?」
「うん」
「えっと……あ、聞いてないや。迎えの馬車が来るみたいだから、その時かな」
「一日中、宿にいるの?」
「そうなるね」
「ふーん。なら私もいる」
「え、いいよ待ってなくて。皆で回ってきなよ?」
「ハヤトも一緒じゃないと嫌!」
そう言い顔を近づけるクシュ。膨よかな部分から目を向けそうになるが踏ん張って目を逸らすハヤト。
「く、クシュ顔近いって! わかった、わかったから皆で回るから!」
「約束だよ」
いたずらが決まった子供のような顔してクシュは離れる。だが、ハヤトは目を逸らしていたため気づかなかった。
「じゃ私も出るね」
「あ、うん」
そう言いクシュは立ち上がるが足を滑らし後ろに倒れる。
「クシュ!」
ハヤトは慌てて立ち上がりクシュを庇うが抱きかかえる形に一緒に倒れる。
「いてて、クシュ怪我は?」
「うん、怪我はしてないけど……」
「けど?」
「その……ハヤトの手が」
そう言われ手を確かめると柔らかい何かをハヤトは掴んでいた。
「わ、わあああ! え……わわあああごめん!」
倒れて際にどうやらクシュが巻いていたタオルが取れてしまいハヤトはクシュの身体を直視してしまう。謝りながらクシュを離し後ろを向くハヤト。耳が真っ赤だ。そんなハヤトの姿が可愛いく思うクシュだった。
「ふふ、ありがとうハヤト先出るね」
クシュが扉を閉めるを音を聞いてハヤトはゆっくり振り返る。静かになった露天風呂で落ち着くために夜空を見るハヤトだが手の感触を思い出してしまい結局落ち着かないハヤトは頭で浸かる。
「ぷはー。はぁ……はぁ……疲れた」
ハヤトは夜空を眺め、ようやく露天風呂を出た。部屋に戻るとヴェスナーとクシュはいなくセゾンはベットの上で寛いでいる。リルは動かずベットの上で寝ている。
クシュと顔を合わさなかったことを安堵するハヤト。
「お帰りっす、ハヤト。どうだったすか?」
無言でセゾンを睨むハヤト。何も言わずベットにダイブする。
「もしかして怒ってる?」
無視し続けるハヤトは気持ちよさそうに寝ているリルに抱きつく。
「無視っすか! どうすれば……」
「セゾンうるさい」
怒った感じの声で言われ慌てて口を閉ざすセゾン。一瞬でその場は静かになった。
ハヤトはむくりと起き上がり「水……」と言い冷蔵庫らしき魔道具に入っている氷をグラスに入れ、蛇口のような魔道具から水を出し一気に水を飲み干す。
再びベットに戻り黙っているセゾンを見る。
「いつまでそうしてるんだよ」
「もう、怒ってないすか?」
恐る恐る尋ねるセゾン。
「怒ってないよ。ただ、疲れただけ」
「ごめんなさいっす……」
悪乗りしてしまったことに心底から謝るセゾン。
「ほんとに怒ってないから。それじゃ先に寝るね」
「ハイっす。おやすみなさいっす」
「おやすみ」
ハヤトはリルにもう一度抱きつく。先ほどあったことを忘れるように。そして明日普通にクシュと話せるようにと思いながら眠りに就くのだった。




