氷の神獣
木々は大きく揺れ徐々にこちら近づいてくる。
「二人とも警戒して」
「「はい」」
二人に警戒を促す。ミンシアさんは魔導銃を、ロイドは弓を構えた。
そして全貌が見えてきた。太陽に照れされた毛皮は銀色に輝き、金色の瞳の大きい狼だ。大きさは五メートルはあるだろう。
『やっと見つけたぞ。我の名を呼びし者よ』
狼は直接頭に話しかけくる。
『ん? そこの小童、我を鑑定するな。ただでは済まぬぞ!』
小童?……ロイドのことか!
ロイドを見ると瞳が赤くなっていた。
「あああああああああああああ!」
「ロイド!」
「ロイド君!」
突然ロイドが苦しみだし絶叫しながら頭を抱えうずくまった。俺とミンシアさんは心配になり駆け寄った。
『遅かったか。早く小童を気絶させろ! 壊れてしまうぞ!』
そう言われても……気絶させる方法なんて……あった!
「気を失わせればいいのか?」
『それでも構わん』
「わかった」
俺は【無限収納】から光芒の杖を取り出す。ロイドに向けて睡眠魔法と治癒魔法を唱えた。
「安らかな誘い。癒しの光」
「あああ……ああ……あ…………」
光がロイドを包み込む。苦しみから解放されたのか穏やかな顔して眠っている。
ミンシアさんがロイドの身体を支えた。
何が起こったのか狼に尋ねた。
「何が起こったんだ?」
『簡単な話だ。情報量が多すぎて小童が耐えれなくなっただけだ』
「そんなことがあるのか……」
『我は神獣だぞ! そこら辺の魔物とは情報量が桁違いだ。未熟な者がみたらああなるだ』
薄々感じていたけどやっぱり神獣だったか! あれ、世界の知識では神獣達は争いを止めない人間たちに愛想を尽かして神獣武器を女神に渡し眠りに就いたはず。
「フィンブルリル……だよね?」
『いかにも! 我は氷獄の銀狼、フィンブルリルだ!』
ドヤ顔で狼ことフィンブルリルは名前を告げた。
「俺はハヤト。フィンブルリル、お前たち神獣は眠っているはずだがいつ目覚めたんだ?」
『リルでよい』
「え、でも……」
『我がよいっと言っとるだろうが!』
「わかった……リル。これでいいのか?」
『うむ』
名前を呼んだら尻尾を振っている。長らく眠っていたから呼ばれてうれしいのかな?
「それでいつ目覚めたんだ?」
話を無理矢理に戻し尋ねた。
『ハヤトが我と共鳴した時に目覚めたのだ』
え、共鳴したから目覚めたってこと? てことは他の共鳴した……リルを含めてフレムニクス、トルメンタニア、ゴルドシンバ、タイダルディックも目覚めたってことになるのか! てか共鳴したら目覚めるって聞いてないんだが……
「あのさ、リル」
『なんだ?』
「リルの他にも共鳴しているんだけど、そいつらも目覚めたの?」
『わからぬ。だが我が目覚めたのだ、他の者も目覚めているのだろう』
そうなのか。今度教会行くときクレアに聞いてみるか。
後ろから泣声が聞こえる。振り向くと何故かミンシアさんが涙を流してる。
「ど、どうしたんですか!」
「申し訳ありません……神の存在の神獣様に会えて嬉しくて」
うれし涙のようだ。ミンシアさんは神に仕えるシスターだ。嬉しくない訳ないか。
ロイドはいまだに寝てる。ロイドを背負い移動することになった。
「あ、そうだ。ミンシアさん。薬草は取らなくっていいんですか?」
「……忘れていました。でも今はロイド君を一刻も早くちゃんとした場所で休ませましょう」
「そうですね」
『なら我の背に乗るがいいぞ』
リルが背中に乗せてくれるみたいだ。お言葉に甘えて乗ることにした。ロイドを背負いリルに跨る。その後ろにミンシアさんが乗る。流石に重いかな。
「平気か?リル」
『我を誰だと思っておる!』
「うお!」
「きゃ!」
リルが急に立ち上がったからバランスを崩しそうになったがロイドが落ちなくてよかった。
『しっかり掴まっておれよ!』
リルは風を切るように走り出す。絶叫系の乗り物に乗っている感覚がして若干怖かった。絶叫系は苦手だ!
無意識にリルの毛を強く握っていた。ミンシアさんはきゃーと言いながら楽しんでした。まじか。
リルのおかげで早く森を抜け村の門が見えてくる。リルの背中を叩いて止まるように指示した。
「リルここで止まった」
『何故だ?』
「急に魔物が来たら村の皆が驚くだろ?だからここで待ってほしいんだ」
『我は魔物じゃないぞ!』
気にするところそこかよ……それにプライドが高いな!
「ご、ごめん」
『分かればよい。さっさと行け』
「わかった。直ぐ戻ってくるから待ってて」
門を抜けロイドの家に急いで戻る。アンネさんは外出中のようだ。ロイドを自室のベットに寝かせた。顔色は良さそうだがまだ心配だ。念の為にもう一度治癒魔法をかけた。
「あら。玄関が開いてるわ。ロイド、ハヤトさん。帰ったの?」
玄関からアンネさんの声が聞こえた。