七話
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「テイルさん! なんで助けになんか来たんです! あなたは他者の命より、作戦を重視してたじゃないですか!」
せっかく助けに行ったのに、俺はなぜかイリーナに怒られていた。
でもその声には幾ばくかの、喜びのような安堵のようなものが含まれている気がするのは、俺の希望なのか?
あの後、イリーナの安否を気遣った十二兵団の連中が、予想以上に早く敵を撃破して俺たちと合流した。
敵軍はあっさり撤退。
ラダニアの王は王都ダニアに引き籠り、今は降服勧告の真っ最中。
やる事の無い十二兵団が集まる野営地のテントの中、やっと一息つけるとイスに座った突端、イリーナに噛付かれていた。
「わっちも、ぬしの無茶な作戦変更をこなしたのじゃ、聞く権利はあるじゃろ?」
確かにシオンには、いきなり部隊を合流させたり臨時の司令官にしたりしたのだから、聞く権利はあると思う。
後で何か形あるものでお礼をしないと、後々までたかられそうだし……。
だが俺自身、なんであんな自分も作戦自体も、危険な目に合わせるような行動に出たのかまったく理解できなかった。
体が勝手に動いたなんて言っても、信じてもらえないだろう。
「何でなんですか? はっきり答えて下さい!」
いや、確かに助けた理由に一つだけ心当たりがある。
「なんでもいいだろ、皆無事だったんだから!」
が、その訳を言うのはなんだかカッコ悪い気がして、その話を終わりにしようと席を立とうとして……鈍く光るイリーナの薄い藍色の瞳に戻された。
「なんでですか!」
「しつこいな! それこそ、なんでそんな事にむきになっているんだよ!」
勢いをつけて対抗してみるが、今の彼女は神様の話をする時と似ていて、俺の低く低くの危険察知能力でもわかるほど危険な雰囲気だ。
仕方がないので、俺は無意味な抵抗半分と、恥ずかしさ半分でボソボソと口を開く。
「…………多分、羨ましかったから……かな?」
「羨ましい?」
形のいい眉を寄せるイリーナ。
俺はぐいっと迫る彼女の顔を直視できずに、視線を泳がせ感情的に流れてくる情報をなんとか整理しながら、ゆっくりと胸の内を吐露する。
「イリーナがいつも言ってるだろ? この部隊のみんなは家族だって。俺の両親はいつも忙しそうに働いてて、俺が物心ついて間もなく二人そろって死んじまった」
口角を吊り上げ笑って見せたつもりだが、どうやら彼女らの表情を見る限り失敗したらしい。
でも始めたからには、話を止めるつもりはない。
「だから、俺には家族ってものが良く分からないんだ。二年前。それが手に入ると思ったら殺されかけてここに逃げてきたし……。だからイリーナを慕うこの部隊の連中と、連中を捨て身で助けるお前が、なんだか羨ましかったんだと思う……」
肺の中の空気をため息にして吐きだし、口角を無理やり引き上げ肩をすくめる。
「……ふうん……そうなん……ですか……」
そう言ったままイリーナは黙り込んで、シオンはシオンでなにやら考え込んでしまう。
「まあ、いまひとつ納得がいかないですけど……今回はそれでいいです!」
暫くして、まだどこか納得してないような顔でイリーナが呟く。
安心しろ、俺自身あの時の自分の行動が不可思議でならないんだ。
それに……。
「それにお前、部隊の兵士は全員家族なんだろ? なら、指揮官である俺は長兄なんだから、家族を守らなくてどうするってんだ?」
彼女は俺の言った意味がすぐに分からず、数秒間ぽかんとして、
「べ、別に、テイルさんが、長兄なわけ無いです! 私が……私がこの部隊の長女なんですから!」
顔を赤くしたかと思うと体ごと視線を逸らす。
「……そうだな。ごくろうさん!」
労いの言葉と共に二年前のあの時、あいつにしたように優しく頭に手を置く。
彼女は一瞬驚き、それから少しだけ気持ちよさそうに目を細めて……。
「私は猫じゃないです!」
慌てたようにバシンッと俺の手を払いのけ、しっかりとした足取りでテントから出て行った。
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