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六話

今週は一日一投稿で頑張ります。

後は……できるだけ頑張ります!

「あ……何でここに?」

 満身創痍のくせに、強気な瞳だけは健在のイリーナ。

「お前を助けに来たに決まってんだろ!」

 敵兵の剣戟を鎧越しに受け――でも、それなりに痛む背中を無視して、ニヤリと笑う。

 こんなにカッコイイ登場の仕方をしても、彼女から憤慨の表情は消えない。

「そ、そんな……で、でもテイルさんはテイルさんで! 白馬なんて乗ってないんですから!」

 心労のためか?

 訳の分からないことを口走るイリーナ、心なしか顔も赤い。

「まったく! お前の言うことしか聞かない奴らをまとめるのに、俺がどんだけ苦労したか……。まぁ、お前を助けるためって言ったら、予想以上の働きをしてくれたのも確かだが……」

 なんでイリーナの人気が高いか、分かった気がした。

「で、これからどうするんですか? テイルさんが助けに来てくれたのは、うれし……ゴホゴホ……百歩譲って、もしかしたら、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しいかもしれませんが……。テイルさん一人でこの数の敵を倒せる秘策があるんですか? 私はもう指一本動かせられませんから!」

 なんかいきなりキレ気味に口を尖らせ、そっぽを向くイリーナ。

 そんな我侭なお嬢さんに、俺は胸を張って堂々と答えてやる。

「まったく無い! お前を見つけるまでに考えようとしたけど、全然思いつかなかった!」

「なにやってんですかあなたは!」

「どはぁ!」

 正直者の俺は、俺の登場に呆然としていた敵兵を巻き添えに、彼女の回し蹴りで吹っ飛んだ。

「お前、指一本も動かせなかったんじゃないのかよ!」

 敵兵がクッションになってくれたので、すぐに体を起こし反論する俺に、

「今、少しだけ復活したんです! それに足は動かせないなんて言っていません!」

 なんて苦しいい言い訳だ!

「いてて……でも、今ので良いこと思いついた」

「そうですか。ならもっと蹴ってあげましょうか? そうすればもっといい事思いつくかもしれませんね!」

 なんでさっきから顔を赤くして怒っているのか知らんが、これ以上は俺の身が持たないので、彼女の蹴りを丁寧に辞退して、さっさと敵兵の方へ向き直る。

「ごほん。さて、あんたがこの部隊のボスかい? なら、腹を割って話そうじゃないか」

 咳払いをして気を取り直し、部隊長らしき人物に向き直る。

「はは! 面白い冗談だな。この状況でお前たちと何を話すってんだ?」

 肩で剣を担ぐ、部隊長の余裕の笑顔を俺も笑顔で返す。

「あんたも分かっているんだろ? この状況……。そっちもそれほど優位じゃないって事」

 その言葉に部隊長は微動だにしないように見えたが、わずかに頬の筋肉がヒクリッと動いたのを見逃さなかった。

「まず一つ、あんたらが手ご……捕虜にしようとしているこの娘は、確かに魔王軍第十二兵団の副長だ。しかもこいつは兵士全員から聖母のように慕われていて、もし酷い目に合わす奴がいたら、二千の魔物が個人的な敵になる」

 ヒクリッと、今度は誰にでも分かるように動揺する部隊長さん。

 そもそも戦争ってのは、国同士の喧嘩であって兵同士には恨みは無い……はずだ。

 でも個人的に恨みを買ったら、戦争が終わったとしても安全ではなくなる。

 人間は魔物がどこにでも潜んでいると思っている。

 散歩に丁度いい森林。

 人気のない空き家。

 はたまた自宅トイレの中。

 かくいう俺もそう思っていたが……今はそれを利用させてもらう。

「二つ目、さっき見たとおり、こいつにはまだ余力がある。俺も少しは剣を使える。俺たちを殺すにしろ生け捕るにしろ、俺もこいつも命がけで抵抗するし、長引けば援軍が来る」

「そ、それがどうした! お前らがくたばるのはかわりねーだろ!」

 不安をかき消すように、声を荒らげる部隊長。

 だがその表情は明らかに動揺していた。

 他の敵兵も俺の話に聞き入っている。

 どうやら上手く行きそうだ。

「最後に、この戦争はもうすぐ魔王軍の勝利で終わる。その時、敗残兵になったあんたらの処分は、イリーナ大好き十二兵団に委ねられる……この意味分かるよな?」

 ニコニコした俺と、正反対に青ざめる敵兵士たち。

「でも、本当に俺たちの国が負けるのか?」

 さすがに敵の情報を鵜呑みにしない、疑問を持つ奴がでてくる。

「理由は…………」

 俺はわざとらしく、自分の耳に手を当てる。

「イリーナ様を助けるために…………」

「一人、十殺してでも、前に進め……」

「死んでも前に進め……イリーナ様のために!」

 前言撤回。

 頼んでいたのよりよっぽど怖い怨嗟の声が、聞こえてきた!

「…………えっと、ごめん、なんか俺の手には負えない気がしてきた」

「どういうことだ! 大人しく降伏したら助けるって話じゃなかったのかよ!」

 さっきまで降服しようか迷っていた敵兵が、ポリポリ頬をかく俺の言葉に真っ青になり、俺を攻め立てる。

 いや、でも、アレはもうしょうがないだろ?

 言いくるめるなら最後までと思うかもしれないが、俺の作戦の中にはイリーナ教の狂信者は入って無い。

 そこに。

「大丈夫ですよ! この人たちも心から悪い人じゃなさそうですから……きっとみんなも分かってくれます」

 傷つきながらも天使のような声をかけるイリーナ。

「え? 俺たち、さっきまであんたの事……」

「間違いは誰にでもあるものです!」

 ぱぁっと花咲くような彼女の微笑に、敵兵が魅了されるのが手に取るように分かる。

「私が崇める神を信仰すれば、あなたたちの罪も浄化されるでしょう!」

 なぜだろう?

 神の名を口にした途端、彼女が瞬時にして天使から邪悪な何かに変わったように見えた。

 笑顔、声の調子も変わらないのに、瞳の光りが無くなっただけで、どうしてこんなに印象が違うのか?

「お……俺! 入信します!」

「俺も!」

 あれ? こいつら気付いてないのか?

 そして彼女の信仰する神は、新たな信者を手に入れた……。


少しづつ増えていくブックマークに一喜一憂してます!


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