ビニール傘と金属バット【外伝】SIDE : Catherine episode.02
こんにちは! ワセリン太郎です!
今日も一日、汗臭かったです!!
「オメーさぁ、アタシ前に『今時、ポルターガイストとか流行んねぇから止めろ』って言ったよな?」
頭を抱えたまま、もごもごと口ごもる髭のオッサン。
「だってワシ……ここの家の真下に“石棺”があるって前も言ったじゃんよ」
あー……“古墳”ってヤツだっけ? コイツ、確か前回ブチのめしかけた時にもそんな事言ってたよな。
要はここ周辺の地区、“このオッサンの古墳の上”を造成して住宅街を作っちまったって事らしい。てか、どんだけメーワクな規模のデカイ墓作ってんだよ。
「アタシにんな事を言われてもよぉ。大体、神丘市ってさ、いつも“産業遺産”みてーな貴重な文化財を華麗にブッ潰してさ、でっけぇパチンコ屋をオッ建てちまうような、非常に民度高めな住民が多数住んでる土地柄なワケよ。んな事たぁオッサンだって知ってんだろ?」
拗ねた様な態度の悪霊。
「そんな事言われても……ワシ、そういうヒドイ事してないもん」
「てか大体がオメーらの子孫だろーが、ここの連中!」
「そりゃそうじゃけど……」
「んじゃどーすんの? まーたポルターガイストとかして、前田さんに迷惑かける? もしそのつもりなら……アタシ、今度こそアンタを“ブッ祓す”しかないんだけど」
「あの、キャサリンちゃん、あまり乱暴な事は……」
まーた、このおばあさんは。
てか色々と干渉が過ぎたのか、どうやら前田さんにもこのオッサンが“視えてしまってる”様子。マジかよ。
実は前回、この地縛霊を対悪霊用サブマシンガンで蜂の巣にしようとしたアタシを止めたのも……この女性だ。『幽霊さんにも何か事情があるのかも知れないから、話を聞いてあげて』と。人が良過ぎだろ。もうサクッといっちまおーぜ、サクッとよ。
「でも前田さん。このバカ、まーた同じ事やらかしますよ?」
「ワシのことバカって言うんじゃない」
「バカだろーが、テメーは」
「ごめんなさいね。私もこの歳になって、ここしか家がない以上、立ち退くわけにはいかないのよ。豪族さんには本当に気の毒な事なのだけれど……」
どうやらこの“豪族”とかいう髭モジャ。コイツの眠る棺の直上に前田さん家が乗っかっているらしく、何かと重くて息苦しいらしい。だから暴れる、と。
「もういっそ息の根止めちまうかぁ?」
いや幽霊だから息の根止まっちゃってるんだけどさ。
「こら、ダメよキャサリンちゃん。豪族さん、可哀想でしょ」
もー、オバーチャン、どっちの味方よ。
「なんと前田さん……ありがたや、ありがたや」
手を合わせ、必死に彼女を拝み始めるゴーゾク。
「おま、散々迷惑掛けた相手を何、拝んでんの」
「ワシの気持ちをわかってくれるのは、彼女だけじゃもんよ。キャサリンちゃんイジワルじゃ」
「そうかそいつぁ良かったな、それじゃあ思い残す事もねーだろ? うし、今からサクッと成仏させてやんぜ」
「キャサリンちゃん、暴力はダメ!」
「はい……」
しかしどーすんのよこれ。祓魔師を呼んどいて、悪霊をお祓いしたらダメとか……あ、そーだ。ちっとばかし面倒だけど、役所のエイルに掛け合ってみっか。
「あのさゴーゾク」
「なんじゃろか?」
「オメーさ、正式な“土地神”になる気ねえの?」
このオッサン、一応は豪族というのも名ばかりではなく、昔はこの辺り一帯を支配していたエライ奴なワケだ。
それがもし古墳を住宅地用に造成されず、永きに渡って住民に祀られていたのなら……もしかすると今頃は既に土地神となり、地域を見守る存在になっていた可能性も低くはない。まあ土地神って言うと大層な聞こえだが、要はご近所の守り神。
コイツもテキトーに何かそれっぽい“お仕事”を与えときゃぁ、そうそう騒ぎも起こさなくなんだろ……多分。いや知らねーけど。
「えっ……ワシ、土地神になれるの??」
突然の提案に随分と驚いた様子。
とりあえず役所が動いて慰霊碑みたいなモンを作り、このオヤジをソッチに憑依させれば、あるいは……
「まあ……なれん事もない……のかも?」
「なんと! 信じがたい……」
いや実はアタシも、そこんとこのシステムにはあんま詳しくねーんだけどさ。
本来であれば、ゴーゾクの“お社”が建つ筈の場所には“前田さん宅”が乗っかっており、あたりめーだが今更動かせない。
いっそのこと、一室まるごと使ってそこに祭壇作っちまうか? ばーちゃん一人暮らしだから部屋は余りまくってるし……
いやいや、個人宅で地域住民の信仰を集めるのもムリがあるか。それにもし自宅の一室で“神社始めました”みたいな事をやりだしたら、それこそ前田さんのバアチャンがご近所から“やべー奴”認定されちまう。そいつはダメだ。
加えて言うと、そんな体裁の整ってねぇ御社なんぞにに地域の連中が集まるワケねーし。
うわキモ!? ちょ、このオッサン、なに目ぇキラキラさせてんの!
いやいや、アタシもなんとなくの知識でテキトー吹いちまったな。あんま大きく期待されても困るし、とりあえず予防線を張っとくか……
「たださ、今の時点で単なる“地縛霊”である以上、色々と障害になる点が出てくるとは思うぜ。まあちょっとその件は詳しそうな知り合いに相談してくるわ」
「ええ……ワシが土地神……?」
聞いてんのか……?
「おい、あんま過剰な期待はすんなよ? 聞くだけは聞いてやる。でももし無理だったら……その時は潔く諦めてスパッとあの世逝け」
「ええ……どうしよう……ワシ、土地神になっちゃう……?」
クソ、マジで聞いてねぇ。まあいっか、どうしようもなくなったら……その時はサクッと“始末”すんべ。
「では前田さん。今回もご要望通りに……まあその、“保留”ということで」
「ごめんなさいね。家がガタガタしている時は怖くて貴女を呼んじゃったんですけど、いざ豪族さんの境遇を思うと……」
ホントいい人だよな、このバアチャン。ダメだ逆らえねー。
アタシは髭モジャを睨み付けた。
「おいゴーゾク。テメーもう前田さんに迷惑掛けんじゃねーぞ? もし次やったら……」
そう言って、奴のアゴ下からサブマシンガンを突きつけた。
「わかったわかった! 善処するよって!」
「なーにが善処だ、バカヤロウ。それじゃあ前田さん、もしまた家が揺れたらすぐに呼んでくださいね? その時は問答無用でバッサリ祓っちまいますんで」
「いつもごめんなさいね、キャサリンちゃん……」
「それでは失礼します」
玄関を出て仕事着を脱ぎ、荷台のボックスへ仕舞い込む。それから運転席に座ってエンジンをかけ……こちらへ手を振る前田さんに会釈してから車を出した。
暫く、住宅街を走る。
窓を開け、煙草に火を付けたアタシは……助手席に座る“ゴミ”に向かって悪態をついた。
「おい髭、テメー何しれっとアタシの車に乗ってきてんの? 何これ取り憑いてんの? 祓うぞ?」
シートベルトを締めながら答えるゴーゾク。
「あんねキャサリンちゃん。ワシね、改心して土地神を目指す事にしたからよって!」
あーもう、勝手に目指してろ。
「へぇ、ソイツは御立派な心がけだ。で、その土地神様が何でアタシに憑いてきてんの? あんま幽霊が祓魔師ナメてっとマジで後悔すんぞ?」
軽い脅しには一切動じないゴーゾク。
「いやいや、今からその知り合いの方ん所に相談しに行くんでしょ? そんならワシも他人事じゃないけん、真っ先に御挨拶しちょこうと思うてな!」
「は、やめろよ?」
「いやいやワシもね、元は一角の人物とも囁かれた身! だいたい人として、そういう事はキチンとしちょかんと!」
うわ、マジ面倒くせえ。ハナシ聞いてきてやっから、前田さん家で大人しくしてろよ……
「おま、帰れよ!?」
「嫌じゃ。ワシ、どうあっても付いていくもんね!」
「会ってどーすんだよ……」
そういやエイルの奴、祓魔師やそれに類する人間でもないのに“コイツ等”が視えるんだよな。希にいる生まれつきの特殊体質か? だからまあ、裏で“教会”とかの出先みたいな事してんだろうけど。てかアイツ、実はもしかして人間じゃなかったりしてな……はは、なーんてあるワケねえか。
それよりこの髭オヤジ、どうすっかな……
「そういやキャサリンちゃん。ワシの生きた頃はね、おなごが煙草吸うとかそんな習慣なかったからね、ちょっとばかし驚いちょるんじゃけどね、でもまあ最近はコンビニとか見に行くとね、みんな電子煙草を吸いよるもんねぇ。あれ美味いの?」
何で古墳の地縛霊が電子煙草を知ってんだよ。
「うるせぇなぁ、今の時代“男女平等”なの! アンタ今どき男だ女だ言ってっとさ、フェミ集団とかに祓ッコロされっちまうぜ? あの連中の方が、幽霊なんかよりよっぽど怖ぇぞ」
「なんと恐っとろしい世になったもんじゃねぇ……ワシ怖いわぁ」
……あれ?
「おい! ちょっと待てオッサン! アンタ何でコンビニ行ってんの!? 地縛霊じゃねーのかよ!?」
確か前田さんのバーチャン家からは、最寄りのコンビニでも……ざっと2キロ以上は離れていた筈。どう考えても、土地に縛られた霊魂の移動出来る距離じゃあない。
「いやぁ、よくわからんけど。たまに立ち読みとかねぇ」
「はぁ……? 立ち読み? 独りで?」
「そりゃアンタ、徒党を組んで立ち読みもなかろうて。そんなんお店に迷惑じゃろうが」
一体どういう事だ? ワケわかんねぇ。地縛霊なのに誰かに取り憑いて移動してんのか? いや、そんな事例、聞いたこともねーぞ。
方針変更、このオヤジをエイルに診せてみよう。アイツ、アタシら祓魔師でも知らない様な事を知ってたりするし。何かわかるかも。
それから暫く走り、アタシ達を乗せた軽トラは市役所の駐車場へと辿り着いた。
「キャサリンちゃん、ワシさっきから気になっていたんだけども」
「……なに?」
「これ、何ね?」
そう言って、唐突にスピーカーのスイッチを入れるクソ地縛霊。
「さーおや~……さおだけ~。もーのほし~ふとん~ざお」
「ちょ!? 触んな──!!」
「さーおや~……さおだけ~。もーのほし~ふとん~ざお。物干し竿を……」
突然、役場の駐車場で開催される展示即売会。丁度外に出て来ていた役所の職員から……怪訝な顔で睨まれた。慌ててスイッチをオフにし、ドアハンドルをキュルキュル回して窓を開ける。
「いやー、すんません。間違えてスイッチ入れちゃって……」
ヘコヘコしつつ、助手席のアホを睨んだ。
「テメ、何してくれてんの!?」
「いやぁすまん、ワシこれが気になっちゃって」
「てかゴーゾク、アンタ物に触れんのかい!」
「そりゃあ少しの間、実体化して立ち読みしたりするけんね。雑誌が宙に浮いてたら怪しかろ?」
「マジかよ……」
あ、そーいやさっき普通にシートベルト締めてやがったっけ? 何か自然過ぎて全く気にしてなかったわ。
それより冗談だろ? この両サイドにナスビ括り付けたみてーなアタマで立ち読みしてんのかよ……
「それにホレ、今日もキャサリンちゃんとやり合った時に雨戸閉まってたじゃろ?」
「ああ、あれね」
「あれも自分で締めて、鍵まで掛けたんじゃから」
「はぁ、あれもセルフなのかよ!?」
「そらそうよ」
「ゴーゾクさぁ、霊体なんだからもちっとこう、“念力”みたいなので閉めるとかさ……あんま夢壊すなよ」
「いやいや、アンタが言う“ぽるたーがいすと”? 実はワシら、アレをやんのも中々気力を使うのよ。ほんと大変なんじゃから」
「じゃ、やんなよ」
車を降り、横断歩道を渡って庁舎の玄関に立つ。
「おいゴーゾク。アンタ頼むから役所の中で変な事すんなよ?」
「あんねキャサリンちゃん、ワシこう見えてもなかなかに常識ある男よ?」
「言ってろポルターガイスト。あ、ちなみに今から会う奴、アンタの事がフツーに“視える”から」
「おお、それは何と頼もしい! 嬉しいのう」
それから市民課に行き、ボタンを押して自動機械から順番待ちの札を取った。
「遅っせーな、チンタラしてねーであくしろよ……」
「キャサリンちゃん、順番は守らんとだめよ」
へいへい。
「うっせーな、わかってるってば」
そうこうしていると。
「385番でお待ちのお客様、3番窓口までお越し下さい。繰り返します、385番でお待ちのお客様、3番窓口まで……」
呼ばれた。
あ、やべ。無関係の知らん職員を引いちまった……
役場の担当者なんてランダムだし、こういう事も当たり前っちゃあ当たり前か。くそ、慌ててアポ無しで来たからエイルの奴、こっちに全く気付いてねぇし。せめてラインか何かしてから来るべきだったか。どうすっかな……
(おーい、おーい! エ・イ・ル! 気付けー! ク・ソ・チ・ビ! コッチ見ろー)
大きくボディランゲージで気を引こうとするが……ダメだ、見てない。仕方ねぇ。アレやるか。
目の前で怪訝な顔をする担当の職員に、エイルを指差しながらこう伝えた。
「すみません。あそこの“無乳のチビガキ”呼んでください」
突如、座っていた椅子をハジキ飛ばして立ち上がるエイル。
「なんだと──!? 誰だ今、無乳のチビって言ったやつはぁぁぁぁ! 相手になるぞ、表に出ろ!!!」
それから暫く経ち……
三秒。スゲーなおい、三秒でカッ飛んで来やがった。どんだけ“特定の単語”に対する地獄耳なんだよ。しかも自分の職場のカウンターの上によじ登って襲いかかって来るとか、マジやべえ。イカレてるぜこの女。
多少落ち着きを取り戻し……いや、相当にイライラした様子でメガネをずり上げるオチビちゃん。
「で、何の御用で? それよりキャサリンさん。貴女、今度こそ依頼した案件を完全に解決して来たのでしょうね?」
ポリポリと頭を掻き、エイルから目を逸らす。
「いやぁ……なんつーか、ちょっと想定外な事態が起きたっつーか。なぁ? ゴーゾク」
アタシはそう言って背後を振り返った。
笑顔のオッサン。腹が立つほどニッコニコだ。
「いやいや、これはどうも! お初にお目に掛かりまする!」
もう一度、前を向く。そこには……ずり落ちたメガネであんぐりと口を開くエイルの姿が。あー、わかる。気持ちはわかるぞ。
「……」
おうおう流石だハナシが早いぜ。どうやら彼女、アタシの背後に立つオヤジの存在を、一瞬で正確に把握したらしい。いや助かるわー。
「あ、あ、貴女、キャサリンさん! 一体、何をしてるんですか──!?」
再び振り向き、ゴーゾクと二人で首を傾げる。そりゃまあ、真っ昼間の役所に“地縛霊”連れてきたら誰でもビビるわな。
「えっと、なんつーか……まあ、このオッサンの“生活保護受給相談”……かな」
目の前のチビが、顔面から机に突っ伏した。




