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ビニール傘と金属バット【外伝】~変人たちのクリスマス(その6)

こんにちは! ワセリン太郎です!


とうとう二月がやってきますね! この時期にクリスマスのお話しを書いているのは、世の中広しと言えども僕ぐらいのものではないでしょうか?(白目

 ツリー最上部へ設置する為の星飾りを握り、それを納得のいかない様な表情でじっと見つめる天狗の娘。


 彼女は現在サンタクロースへプレゼントの要望を出す為、いつも寝泊まりしているミストの部屋ではなく、ロキと一緒に太郎の部屋へと上がり込んでいるのだ。


 これはレア達に気付かれる事なく鶴千代の欲しいものを知る為、ロキによって考案された作戦である。もしそれを彼女達に知られてしまうと、当然何かしらの騒ぎを起こされ、またロクでもない事態へと発展するであろう事は想像に難くない。


 箱から出したツリーへ、説明書を読みながら装飾や電飾の類いを取り付けてゆく鶴千代。


「のうロキや。ウチは“これ”がどうも腑に落ちぬのじゃが……」


「なに、どうしたの?」


 そう言われたロキは、彼女の手の内に握られた物へと視線を移した。星飾りを両手で持ち、難しい表情で首を傾げる鶴千代。


「うーむ。このつりー(・・・)先端の“星”というものがじゃな、どうも星とは呼べぬ奇妙な形をしておるのじゃ。じゃがしかし……この説明書きにはこれが“星”と呼称してある」


「ああ、それね」


「実はの、星というものは最新の見解において“球体”であるとの説が正しいとされておるのじゃ。それが何故このような面妖な形に?」


 ロキは布団を敷きながら、悩む少女の疑問に答える。


「まあ言いたい事はわからないでもないんだけどね。それは、あくまで人間が“星に対して持つイメージ”を表現してるの。ほら、夜中にお星様を見てたらさ、チカチカッって瞬くでしょ? アレよアレ」


 彼女は微笑みながらそう言い、就寝に備えて長い金色(こんじき)の髪を肩口へ集めシュシュで束ねる。それから鶴千代の背後に座ると、その艶のある黒髪を優しく櫛で()かし始めた。


「そういえば“昔の人類”って、大地は真っ平らで海の果ては巨大な滝になってるとか、大真面目に考えてた時期があったわね……アレ、学者達が真剣に議論をしてるのを見て、笑うのを我慢するのが大変だったわ。天界の規則的にも、『人間が自己発見するまで教えちゃいけない』って決まりだったし」


「ウチもお山を降りるまではそう思うておったのじゃが、それは大きな誤りであった。この地球はまん丸なのじゃな!」


 珍しくマトモな事を言い出した鶴千代を見て、少し驚いた様子のロキ。


「鶴千代、アンタどこでそんな事を覚えたの? いやまあ、ちゃんと勉強してて偉いんだけど……」


 彼女に髪を梳かされながら、エッヘンと平らな胸を張る天狗の娘。


「ナショナル〇オグラフィックの番組で見たのじゃ!」


「ああ、ミストの部屋って有料放送が引いてあるんだっけ? 贅沢な……てか天狗がナ〇ョジオを見る時代かぁ。でもあの手の番組って、アンタみたいに浮き世離れした子が現代常識を学ぶにはうってつけなのかも知れないわねぇ」


 パソコン机の前で家計簿とにらめっこをしていた太郎が、少し困った様な表情で笑う。


「どうせ俺の部屋には有料放送なんて贅沢なものは御座いませんよ。てかナ〇ョジオチャンネルってさ、昔大家(しげる)さん()で夜な夜な見てたんだけど……科学的な番組に加えて、怪しげなオカルト番組とかもちょくちょく混ざるんだよなぁ。あれって制作的にどういうスタンスなんだろ?」


「そんな怪しい番組もあるの? 意外、真面目なのばっかだと思ってたわ。あと太郎、大丈夫よ、アタシの部屋にも有料放送とかそんなの無いから。贅沢は敵よ!」


 シギュンの部屋だろ……等と思った太郎だが、薮蛇(やぶへび)という言葉を思い出し、それ以上余計な発言をするまいとその件については口をつぐむ。


「それがあるんだよ、オカルトな番組。怪奇現象とか幽霊とか未確認生物とか……昔はあの手の番組を放送されるとさ、大家(しげる)さんと俊一さんが真に受けて大変だったんだよ。『ビッグフットを探すぞオラ!』とか言い出して、真夜中のスキー場まで連れて行かれて凍死しかかった事もあったな……」


「……バカじゃないの?」


「ホント。他にもあの人達さ、河川敷にいた蛇に無理矢理ラグビーボールを丸呑みさせて、それを“ツチノコ”とかいって売りさばこうとしてた事もあったなぁ。結局蛇が食べようともしなかったんだけど、何でも昔ツチノコに多額の懸賞金が掛かってたとか何とかで」


 それを聞き、『ああ、ツチノコ懸賞金とかあったわよね』などと答えようとしたロキであったが、なにぶん年代的なハナシを避けたいお年頃でもある。よってそれ以上この話題に反応する事はなく、何も言わずに鶴千代の髪へと視線を戻した。


 そうこうする内に、鶴千代の組み立てていたツリーが完成する。


「うーむ、この箱に描いてある様には上手くいかぬものじゃの。しかし折角()うてくれたのじゃ、一度源爺(げんじい)には見せてやらねばなるまいの」


「そっか、源爺(げんじい)が買ってくれたんだ。良かったな鶴千代、ジイさんが出来たみたいで」


 鶴千代は、その頂点へと星飾りを差し込みつつ、太郎の方を向いて頷いた。


「うむ。あの“材木泥棒共”を皆で成敗した後、その褒美にとほーむせんたーで()うて貰ったのじゃ!」


「へぇ、あの爺さんも良いとこあるじゃん……」


──知らない方が良い事もある──


 途中の“材木泥棒を成敗”等という聞き慣れない言葉にハッとし、徐々に胃が痛くなるのを感じる太郎であったが……考える程に胃酸の濃度が上がると気付き、それを己の保身の為に“聞かなかった事”と決め込んだ。


 当然、ロキにも先程の話しが聞こえぬ筈はない。だが彼女も太郎と似たような事を考えたのだろう。いつもであればガミガミと一言(ひとこと)言いそうなものであるが、一度大きく溜息をついたのみで……この後、その件について一切触れる事はなかった。


「はいおしまい! さ、寝るわよ鶴千代。ほら、太郎も家計簿は明日にして」


「うむ、かたじけない!」


 川の字に敷いた布団へ潜り込むロキと鶴千代。


「わかったよ。それじゃあ俺も休むかな……っと、そういや鶴千代、サンタさんへの願い事はちゃんと書いたか?」


 布団の中でニカッと笑う天狗の娘。


「うむ! 既に書き記してくそします(・・・・・)のつりーの隣へ置いてあるのじゃ」


 あれ、いつ書いたのだろう? と不思議に思う太郎。


「ふふふ、何をお願いしたの?」


 寝転び頬杖をついて微笑むロキへ、彼女はこう答えた。


「うむ。先ずはこれまでウチの所へ一切来ぬかった件についての恨み辛み。その事についての釈明と謝罪をし、場合によっては潔く腹を召せ、と。それに加え、今回所望する物品についても書き記してあるのじゃ」


「せ、切腹……」


「そ、そうなの……」


「うむ! 二十四日の当日には、つりーの隣へ“清めの済んだ短刀”も置いておいてやらねばならんの! 無論、その際はウチが介錯つかまつるよって、後の事は全て心配御無用とも書いておいた!」


 少女の為にと善意で始めたクリスマス。それが何故かこじれて“腹を召せ”という話に。


 机の引き出しに家計簿を仕舞いつつ、引き攣った顔で訪ねる太郎。


「プ、プレゼントは何をお願いしたんだろうなー? きょ、興味あるなー」


 台詞にしては棒読みだ。


「駄目じゃ、それは如何に太郎であろうと断じて教えられぬ! あれはウチとサタン(・・・)めの間で取り決めが行われるものじゃと聞き及んでおるのでの!」


「そ、そうなんだ。あと、その“恨み辛み”ってのは微妙に怖いから、さっさと水に流そうな?」


「否! 断じて許さぬ!!」


「あらら……サンタのオジサン、可哀想にね」


 太郎はクスクスと笑うロキをジトリと睨み、ガックリと肩を落とす。そう、この天狗の娘が抱くサンタクロースへの“恨み辛み”を、当日その一身に受ける可能性があるのは彼自身なのだから。


 しかしサンタの正体が鶴千代にバレては元も子もない。太郎は夢を壊さぬ様、とりあえず今はそっとしておき、鶴千代が寝た後にそっと“お願い”を確認するか……と考えた。彼はロキへと目配せし、彼女が頷くのを見てから電灯の紐へと手を掛ける。


「じゃあ二人とも、電気消すぞ?」


「うむ!」


「お願い」


──カチン、カチン!


 灯りが消え、暗くなった部屋の中で横並びに天井を見上げる三人。真ん中の布団で横になる鶴千代が、隣に居る太郎とロキを交互に見回し、嬉しそうにこう言った。


「昔、おっとう、おっかあと一緒に、こうして川の字になって寝たものじゃ」


「ふふふ。言われてみればこの状況、まるで“家族”みたいね」


「うむ、まるで頼りにならん父親じゃの」


「やかましいわ。あ、あと鶴千代」


「なんじゃ?」


「お前ちゃんと寝てないと、サンタさんがお願いを書いた紙を回収しに来ないからな?」


「承知した! しかし、それは太郎とロキも同じなのかえ? サタンの奴めとは旧知の仲じゃと聞き及んでおるのじゃが」


「そうだよ、サンタさんは皆が寝静まった頃にそっとやって来るんだ」


「なんと! 家人が寝静まらぬと入って来ぬというのは誠であったか……ほんに空き巣の如き輩じゃの!!」


「おま、何つーこと言うの……」


 二人のやり取りを横になって聞いてきたロキが『プッ──』と吹き出す。


「そういえば鶴千代。レア達に『今日の事を言っちゃ駄目』って約束、ちゃんと守ってるでしょうね?」


 暗闇の中、ロキの方へと寝返りを打った鶴千代はこう答えた。


「それは当然じゃ! お主とした約束を違えぬ様、言われた通りに答えておいたでの!!」


「そっか、それならいいわ。ふふ、良くできました。それじゃおやすみ」


 悪神はそっと手を伸ばし、まるで我が子を慈しむ様に彼女の頭をやさしく撫でる。


 鶴千代はこう思う。


 『こうして眠る時、人の手の温もりを感じたのはいつ以来であろうか?』……と。


 就寝中に寝返りを打ったレアやミストの足、及び裏拳が飛び交うのはいつもの事であり、朝起きたら彼女達の脚や手が腹の上に乗っているなど日常茶飯事のお互い様。それもそれで“群れ”の様であり、決して悪くはないと感じているのだが、今夜のそれは……どうも何やら、懐かしい感情を無性に掻き立てる。


「うむ! ゆっくりと休むが良い!」


 暗闇の中、天狗の娘はくしゃくしゃの笑顔を見せた。それを夜目の効く“女神”が見逃す筈もなく……


「おいで、鶴千代」


 ロキはそう言うと彼女を己の布団へ招き入れ、そっと優しく抱きしめた。人肌の温かさにしがみつく鶴千代をチラリと眺め、薄暗くなった天井を笑顔で見上げる太郎。


(本当のご両親の代わりにはなれないかも知れないけどさ……)


 そうして小さな部屋の夜はゆっくりと更けて行くのであった。



 だが彼等は知らない。太郎の部屋に来る少し前、鶴千代がミストの部屋のちゃぶ台の上で“サンタさんへのお願い”をチラシの裏へガリガリと書き込み、挙げ句の果てにそれを全て二馬鹿娘(あんぽんたんず)から見られていた事を。


 その際、レアはこう言った。


「鶴千代、それは一体何を書いているのだ?」


 にぱっと笑い、答える鶴千代。


「うむ! これはくそします(・・・・・)の際、サタンの奴めがウチに献上する品の希望目録を書いておるのじゃ。尚、これを書いた後にウチが何処へ行くのか、『一切他の者へ他言してはならぬ』とロキと約束してしもうたでの、残念ながらそこから先はお主等にも言えぬ。でないとサタンが来なくなってしまうのじゃ!」


 もちろんロキが“教えるな”と言った内容はそこではない。彼女は“サンタさんへプレゼントをお願いする事自体”を秘密にしておけと鶴千代に約束させたのだ。当然、その約束は天狗の娘の理解力の問題で脆くも崩れ去ってしまったのだが。


「なるほど。何か良くわからんが、それはタイヘンだな!」


「うむ、よってウチは忙しいのじゃ!」


 そう言った鶴千代は、恨み辛みとプレゼントのお願いがびっしり(・・・・)と書かれたチラシを内側に向けて見えないように折りたたみ、手刀でサッと“呪いのこもった”印を切る。それからジャージの袖で垂れてきた鼻をグシグシとやると……


「では二人共、ウチがこれから何処へ行くのかについては一切教えられぬが……なに、心配は要らぬ。用件が済み次第、明日の朝には戻るでの。ではすまぬが留守を宜しく頼む!」


 そう言い、敷き布団を押し入れから引き出し始める天狗の娘。


 それから彼女は、ミストへ『すまぬがミスト、ちと玄関の扉を開けてくれんかの?』と頼み、己の身体より大きな敷き布団を担ぎ上げると、布団が通り抜けるまで玄関を開けてくれている彼女の目の前で……そのまま太郎の部屋へと入って行ってしまったのだ。


 それからその後も、掛け布団や枕を取る為にミストの目の前を数回往復する事となる。


 枕を抱え、バタバタと忙しく玄関を出て行く小さな背中。


 それをポテチの袋に手を突っ込みながら見守るレアが……不思議そうな表情でミストへ問うた。


「ミストよ、鶴千代は一体何処へ行くのだ?」


「うん、フツーに太郎の部屋に入って行ったぜ?」


 そう聞くと、油まみれの指を顎に当てて思案するアホの子一号。


「むっ。ということはもしかして、サンタの奴は太郎の部屋に来るという事か??」


「そういやつるっち、サンタのオッサンに何か要求するとか言ってたよな? てかアタシも何か欲しいんだけど。どうする? 姉さん」


「そんな事は決まっている。そもそもサンタの奴、“もう大人になったから”等というワケのわからん理由で、私にプレゼントを持って来なくなったのだ。絶対に許せん。子供の頃からの付き合いがある以上、普通は大人になっても毎年欲しい物をくれるのが筋というものであろう?」


 レアの理屈を聞き、腕組みをしたままウンウンと頷くミスト。


「そっか! よくわかんないけど、普通そうだよなー」


「そうだ、これはまさに差〇と言っても過言ではない! しかしサンタの奴め、太郎の部屋に鶴千代のお願いを聞きに来るという事は……もしかすると太郎だけが贔屓され、大人になってもプレゼントを貰い続けているのかも知れないな!」


「マジかサンタ、何て野郎だ!!」


「もし未だに太郎の所へサンタが来ているというのであれば、恐らくそれは……チ〇コが子供の様なサイズであるのが原因で間違いないぞ! 何か大家(しげる)がそんな事を言ってたからな!!」


「さっすがレア姉さん、ちょー物知り!」


 ちなみに大家(しげる)は太郎へ、『おうケンベン! 親切な俺様がよ、今年こそはオメーの“粗チンを使う機会が来ます様に”ってサンタの野郎に祈っといてやったから感謝しろや! そして昔から“感謝の気持ちは現金”でって言うだろ? つーワケでさっさとカネ払えや!!』などと毎度の如く理不尽な要求を突きつけていただけである。


 当然、レアがその会話の流れをマトモに記憶している筈もなく……


「うっし、何かよくわかんないけどさ、とりあえずクリスマスの日にサンタのオッサンを捕まえてやっちまおうぜ! あっ、そうだ! プレゼント袋ごと強奪とかかなりヤバくね??」


「それはヤバいな! それでミストは何が欲しいのだ?」


 しばらく考えてから手を挙げ、元気良く答えるアホの子二号。


「はいはい! カイエン! カイエンが欲しい! あと青山! 青山に土地とか超ヤバくね!?」


 当然、意味がわかって言っているワケではない。


「はっはっはっ! ミストよ、その快便(かいべん)アオヤマとかいうのが何か良く分からんが、心配は無用だ! 泥舟に乗ったつもりで全て私に任せておけ! さあサンタの奴め、良くわからんが覚悟しろ! 絶対に逃がさんぞ、今年こそが貴様の命日だ!!」


「うわぁ、アタシも良くわかんないけど頑張ろう……ビッグになろう」


 こうして来たるクリスマス当日、太郎の身へと理不尽な危機が迫る事となってしまったのだった。




「んじゃ二人共おやすみ……」


 太郎がそう言って目を閉じ、それからどれ程の時が過ぎただろう? 


──んごおおごごごごおおおぉぉぉぉぉ……


 すぴいぃぃぃぃぃぃ……


 ぴゅるるるるるるるる──!!


 凄まじいイビキに耳を塞ぎ、アタマを抱えるロキと太郎。彼等は眠る鶴千代を挟み、“一応”彼女を起こさない様にと必死に小声で言葉を交わす。


(ちょっと太郎、何なのこれ? これ本当にイビキなの!? アタシこんなの聞いてないんですけど──!?)


(お、俺だってまさかここまで(・・・・)とは思ってなかったよ! でもウチのアパートの壁なんて、薄っぺらくて“在って無いようなもの”だと思ってたけど……いやいや、実は壁一枚の存在ってこんなに意味のある有難いものだったのか!!)


──ギリギリギリギリ──


 鶴千代の強烈な歯ぎしりが、二人の脳髄へと強烈に追い打ちをかける。


 更に布団で横になったまま膝を抱え、アタマを掻きむしるロキの背後からは……壁を突き破って耳を(つんざく)く、レアとミストの大イビキが。


 それはまるで、深夜に近所の公園で芝刈り機でも振り回しているかの様な、我慢の限界を超えた激しい異音の二重奏。


(太郎、アンタ毎日こんな状況の中で寝てるの!? ほんっと信じらんない!)


(ふ、普段は鶴千代も居ないし、流石にここまではないからさ。ホラ、鶴千代のイビキを無視して壁の音だけに意識を集中させると大丈夫……じゃないな、コレ)


(無理! アタシ絶対無理! もし自宅がこんなんだったら、間違いなくストレスで十円禿げが出来る自信があるわ!)


(わかったわかった! それより……)


 そう言ってノソノソと布団から這い出し、クリスマスツリーの根元を手で探る太郎。


(あ、あった!)


 そうして目当ての物を見つけた彼は、枕元に置いてあるスマホを手に取りライトを付けると、裏に書かれた文字を見る為、そっとチラシに光を当てた。


 ロキもゴソゴソと立ち上がり、鶴千代を起こさぬ様とに太郎の元へ移動する。二人は額を寄せ、鶴千代の願いを叶えてやろうと……その手の中を覗き込んだ。


(ねえ、何て書いてあるの? うえ、何か“呪詛”みたいなのがビッチリ書いてあるんですけど……)


(マジかよ、これ呪詛なの!? てか鶴千代も妙な能力(ちから)を持ってるし、この呪い、本当に“効果”があったりしないよな??)


(そりゃ“ある”わよ。でもそんなに強いものじゃないし、一応(ジジイ)の加護が掛かってるアンタには大した意味は持たないわ。鶴千代はレア達と違ってその辺は加減するし……って、それより“お願い”は何て書いてある?)


 太郎とロキは暗闇の中、チラシに書かれた文字を追いかけ……眠れる少女の“願い”を探す。


 ぴー……ぎゅるぎゅるぎゅるぎゅる……


 布団を被った鶴千代から、まるで通信中のファクシミリの様な音が響き始めた。


(あった。もしかして……これか? てか何つーイビキだ)


(いやでも待って、何なのこれ)


 首を傾げる二人の視線の先には……『さたん(・・・)へ、貴殿へあじを所望す。鶴千代』の文字が。アタマをポリポリと掻く太郎。


(う、うーん? 『あじを所望す』って……ロキ、“あじ”って何だ??)


(そりゃ、あじって言えば……魚の“アジ”なんじゃないの?)


(魚の!? よりにもよって(なま)ものかよ……まあ鶴千代らしいと言うか何というか。で、どうしよう、本当に魚のアジをプレゼントする?)


(アンタねぇ……流石にそれはないわ。逆に常識的な事を教える良いチャンスかも? でも書いてた物が貰えないってのもアレよねぇ。とりあえず“アジの開き”なんかと一緒に、別のプレゼントも用意してあげればいいんじゃない? 何が良いかは明日以降に考えるとして……)


(うん、それがいいかも知れないな)


(それよりコイツらのイビキ、ほんと洒落にならないわ……大体何なのこの音、本当にイビキ? 工事現場みたいな音がしてるんですけど! アタシ明日の朝、目の下に隈が出来てる自信があるわ)


 ぐぉんぐぉんぐぉんぐぉん……


 ドッドッドッドッドッドッドッドッ……


 壁の向こうから削岩機の様な音が響く。当然、レアとミストのイビキだ。何か周波数が共鳴を起こしでもしたのか、それは強力な音波と化してロキの頭蓋を締め付けた。


(ま、まあいつもの事と言えばいつもの事なのかな。流石に今日は、鶴千代が部屋にいる分だけ間違いなく強烈だけど。あっ、でも俺、少しだけ慣れてきたかも??)


(これもう無理ぃ……マジで無理ぃ……)


――キュイィィィィンッッツ!!


 レア達に負けじと電動丸ノコの様な轟音を発する鶴千代。その顔面へと枕を押しつけ、必死に耳を塞ぐ悪神。当然彼女は、太郎の様に深夜の騒音に慣れていない為、彼の様に“思い切って全てを諦める”事が出来ないのだ。


(それはご愁傷様。さて、鶴千代のメモも見たし……とりあえず寝るかな)


「無理! こんなん絶対寝れないっつーの!!」


 そうして深夜のアパートへ、ロキの悲痛な叫びが木霊したのだった。

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