ビニール傘と金属バット【外伝】~変人たちのクリスマス(その5)
こんにちは! ワセリン太郎です!
皆様、あけましておめでとうございます!(遅い)昨年は大変お世話になりました。何卒、本年度もよろしくお願い申し上げます!!
当然、山師として足腰には自信があり、腕力だって長年林業に携わって来た者として、その辺のサラリーマンなんぞに引けを取るつもりは一切ない。そのうえ仲間は年齢的に脂の乗った頼もしい山の男達が三人。
そう、こんな頭からストッキングを被った怪しい連中と荒事を起こして負ける筈はない。しかも相手は大半が女子供に老人。一人やたらとムキムキの巨漢が居るのが気になるが……それも四人掛かりでどうにでもなる筈だ。
そう考え、他の仲間とアイコンタクトを済ませた盗伐者達のリーダーである坂本は……
「おい爺さん。アンタ達、黙ってれば見逃してやったのに……まあ運が悪かったな。気の毒だがこのまま帰すワケにはいかなくなっちまったよ」
そう言うと彼は、再び仲間達の顔を見回し……
「おい、コイツ等をやっちま──!」
と、大家へ飛び掛かろうと飛び出した瞬間、彼の指示に応えて踏み出そうとした盗伐者達の中へ、突然奇妙な“声”が混ざり込んだ。
「でょうがいじだ、まがでど──!!(了解した、任せろ!!)」
「は?」
──ごちぃぃんっ──!!
「エッヅッ!?」
鈍い音と共に、“金属製のストッキング”で後頭部を殴打されたリーダーが……まるでくしゃみ中に舌でも噛んだ様な奇妙なうめき声を発し、ゆっくり前のめりに膝を折って崩れ落ちる。
想定外の事態に勢いを削がれ、思考を振り切れずにその場へ足止めされる彼の仲間達。
「「あっ、さっきのツナギ女!?」」
言うまでも無く、レアだ。先程登って行った林道をいつの間にか戻り、皆が口論する現場へフラフラと千鳥足で帰って来ていたのだ。
ちなみに彼女は今現在も頭からすっぽりとストッキングを被っており、当然それによって思い切り顔面を引き絞られている。つまり周囲が殆ど見えていない。
更にはストッキングの連結された反対側の脚部分へ産業廃棄物を突っ込んだままであり、先ほど盗伐業者の前へ姿を現した際と同様、バットを動かす方向へ頭が遅れて付いて行くという……何度見ても奇天烈極まる異様な動きを晒し続けていた。
「むっ、やはり全く見えん。あと何かよくわからんのを殴ったぞ? 何か“みしっ”っていったが何だったんだろうな? まあ、いいか! さあ悪党共、このレア様が相手だ! どこからでも掛かって来るが良い! 全員、聖剣えくすかりばーの錆に……云々」
結論から述べると、レアはまるで野生動物の如く、殺気立った盗伐業者達の雰囲気だけを肌で感じ取り……彼の『やれ!』という大声に、脳味噌を一切経由させずに脊椎で反射行動を起こしてしまったのだ。
目の前で地に倒れて白目を剥くリーダーへと駆け寄る、盗伐仲間達。
「こ、この女、頭をバットで殴ったぞ!? 何てことを……さ、坂本さん! 坂本さん! 大丈夫ですか坂本さん!? お、おい見ろ、泡吹いてる!!」
鶴千代が驚き、己の目を吊り上げていたストッキングを額まで引き上げる。
「し、死んどる! こやつ死んでしもうた!!」
倒れる坂本を指差す鶴千代。その大声を聞いた大家が、両手を軽く上げて呆れた様なジェスチャーをして見せた。
「おいおい鶴千代、オメー人聞きの悪い事を言うんじゃねーよ。大体常識的に考えてな、いい歳こいた大の大人がバットでアタマ殴られたぐれぇで死ぬワケねえべ?」
常識的に考えて、死ぬ可能性は低くはない。
「ぷーっ! クスクス! ブプーッ──!?」
アホによる突然の凶行を目にし、必死に笑いを堪える小さな邪悪。それを見たフリストは蒼い表情のまま、震えの止まらぬ己の両肩をギュッと強く抱きしめた。
「レ、レア姉様、何ということを……それに今、“ゴチン”っていう音とは別に“ミシッ”って……」
しかし次の瞬間、無慈悲な追加制裁が彼等を襲う。当然、この男がこの隙を見逃す筈がない。
そう……大家だ。
「おうテメーら! 何でもいいが今がチャンスだ、全員殺っちまえ! ッシャオラァッ──!!」
──バチインッッツ!!
肌が弾ける乾いた音と共に、立ちすくんでいた盗伐業者の両脚が浮き上がり、弧を描きながら宙を舞う。
そうして突然、盗伐業者へと強烈なラリアットをお見舞いした大家の動きに反応し、こちらも弾かれた様に勢い良く飛び出す、緑と蒼の閃光。
彼女達は、大家の丸太の様な腕で叩かれ弾け飛ぶ山師の姿を横目に、目標へと解き放たれた矢の如く高速で大地を駆け……瞬時に別の男の前後を挟み込む。ミストが飛び出す際に突然カメラを手渡されたフリストは、唇まで青くして今後の状況を思い、頭を抱えて『あわわわ』と膝を震わせていた。
挟み撃ちにされ、少したじろぐ盗伐師。しかし、冷静に見れば相手は女子供だ。
「な、何だこのガキ共……」
「へへっ……いくぜロッタ!」
「ぶ・らじゃー!」
頷き合い、交差する閃光。
「っしゃおらっ!!」
──ばちいんっ──!!
サンドイッチアックスボンバー。
というには些か身長の足りない二人に勢いよく挟まれ、ロッタの腕で股間を強打された男は前のめりに大地へ崩れ落ちる……筈のところを前方に回り込んだ彼女達二人に肩を掴まれ、グッと力強く支えられた。
「うぐあっ……」
彼は、鋭い股間の痛みに殆ど声が出ず、うめき声を絞り出すのがやっとの状態。しかし追撃の手は一切緩まない。
「よっし捕まえたっ!!」
不運な山師は力を振り絞って最後の抵抗を見せるが、残念ながら力及ばず……
そうして彼は、人間離れした恐るべき膂力を備える少女達の手によって天高く担ぎ上げられ、空中において一切の自由を奪われてしまったのだ。
逆さに吊り上げられたまま必死にばたつく両脚が、空しく宙を蹴り続ける。
「や、やめろ……」
「「せーのっ!!」」
そしてミストとロッタは同時に力強く大地を蹴って舞い上がり、男を逆さに地面へ叩きつけた!!
「っしゃああぁっ!!」
ビッグ・ハイヤー・デモリッション。
哀れ、彼の後頭部は華麗なダブルパワーボムによって……勢い良く林道の土の上へと吸い込まれてゆく。
──ごしゃっ。
白目を剥いて動かなくなった山師を見下ろし、ハイタッチを決める鬼畜少女コンビ。
それを確認した大家が、逃げ出そうとした最後の一人を捕らえ……ジャーマンスープレックスホールドを決めに掛かった。
それから……
悠然と弧を描く大家の姿を確認し、顔を合わせて満足気に頷くミストとロッタ。二人はニヤリと笑ってサムズアップし、お互いの健闘を讃え合う。
大家も、大地へホールドする対象が気を失ったのを確認し、一仕事終えたかの様な気色の悪い笑顔を見せて立ち上がった。
「おうオメーら、さっきのは中々見事なダブルパワーボムだったぜ」
頷くロッタ。
「……ん。大家のもかなり良かった。まるで一瞬エベレストの幻影が見えるかのような、そびえ立つ高さのジャーマン。ひゃくてん」
「へへ、そいつぁどうも」
ミストが膝に付いた土を払いつつ、さも当然とばかりに笑う。
「まあこのミストちゃんは天才だかんなー、あんなん余裕よ余裕。あっ、フリスト! 今のちゃんと撮った? やっぱ〇ーチューブに投稿するなら派手な絵が大事だよな。そうだ忘れてた! テメーら、ちゃんねる登録しろよなっ!」
そうカメラに向かってブイサインを決める阿呆を撮影しながら、ガタガタと震える手で凄惨な現場を指差すフリスト。当然、その先には白目を剥いて泡を吹く山師のオッサン達の姿が。
「あ、あのっ! これ本当にどうするんですか!? こ、この人達みんな口から泡を吹いてるんですけど! こ、こんな事をして本当にどうするんですか──!?」
ミストが頭の上で掌を組みつつ、便所スリッパを脱いだ足でもう片方の脚をボリボリとやりながら答えた。
「何か“泡吹いてる”とか聞いたらカニ食いたくなってきたわー。帰りに業務用スーパー寄るかな。あのロシア産カニ爪パック、超美味いんだよなー、鍋にブチ込んでグツグツやるだけだし。つるっちも食いたいだろ? よし、今夜はあれと“うまかっちゃん”にすっかな! とんこつ超おいしい!!」
そう言われた鶴千代は、倒れた山師達を揺すりながら彼女へと答えた。
「うむ、確かにあれは誠に美味じゃの! じゃがしかしミストや。この男達、ほんに大丈夫なのかえ? まるで沢蟹の様になってしまっておるでの」
「うーん……まあ大丈夫じゃね? アタシ知んないけど」
ようやく被っていたストッキングを脱いだレアが、足元に転がる男達に気付いて目を丸くした。
「あっ、何だ!? 人が沢山死んでるぞ! 一体何があったのだ? 私はストッキング被っててよくわからないので説明しろ下さい!」
そう驚くレアを見て、『へへへ』と笑うミスト。
「いやいや、一人目を殺ったのは姉さんだし! エリートだからってそんな謙遜するなよなー」
褒められ、突如態度が豹変するアホの子一号。
「はっはっはっ! 昔からよく“エリート臭がひどい”などと、皆が嫉妬の気持ちで私の事を後ろ指でさしている“気”がしていたのだ! まあバレてしまっては仕方がないな!」
後ろ指をさされている自覚だけは、うっすらとあるらしい。
「マジか! さっすがレア姉さんだぜ!」
余談であるが、この阿呆が毎度口にする“自称エリート”。実はこれ、何の理由も無く口にしている……というワケではなかったりする。一応彼女なりの基準、勿論それは世間一般的に認められる類のものではないのだが、ともかくアホにはアホなりの根拠というものが存在している。当然、彼女の思考が基準なので非常に浮世離れしたものであるのだが。
ではそれが一体何かと言うと……その話しはまた別の機会にしよう。
パシンと手を打ち、皆の注目を集める源爺。
「よーしお嬢ちゃん方、当初予定してたのとはちょいとばかしハナシが違って来ちまったが、ともかくこうして首尾良くブツを手に入れたワケだ。そんで恒例の分配の件なんだが……」
ミストが彼の話を遮る。
「いやいや源爺待ってよ、別にアタシ何もいらねーし」
『ハァ……?』といった様子の御老人。彼はミストの話に首を傾げて怪訝な表情を見せた。。
「おうミス坊、何言ってやがる。あんだけ材木の積まれたトレーラーを丸ごと、そこにあの乗用車も加えりゃあ……そりゃあなかなかの額になるぜ? それをオメーいらねぇって……」
そう言われ、こちらも首を傾げるジャージの子。
「それもそうなんだけどさ、何かそれより大事な用事を忘れてる気がすんだよなー。大体アタシら、何しにここに来たんだっけ? つるっち知らねえ?」
その発言を聞いたフリストが、ギョッとした様子で彼女を振り返った。そう、ニワトリよろしく“三歩歩いたので”……と、いう事である。
「うーむ、そう言われてみると何じゃったかの? ウチも何やら重要な用件でここまで来た気がするのじゃが……忘れてしもうた!!」
そもそもの目的であるクリスマスツリーの確保。その案件が脳細胞から蒸発してしまった彼女達を黙って見ていた大家であるが……いざ盗伐業者を意識不明へ追い込んで入手したブツを目の前にすると、正直それを一本たりともツリーに使うのは惜しくなってしまった。
「え、えっと、そもそも今回はですね、鶴千代さんのクリスマスツ……」
真実を伝えようとしたフリストの頭部を両手で掴み、ゆっくりと九十度真横にねじ曲げる大家。
「いたい、いたい、いたい、いたい──!?」
それを見たロッタは何とか笑いを堪えようと必死だ。思い出したようにわざとらしい大声を上げる大家。
「あーっ! 俺様とした事がすっかり忘れてたぜ! さあ、シゴトも終わったしよ、さっさとホムセンに鶴千代のクソシマスの飾りだか何だかを買いにいくべ! おう鶴千代、源爺がどれでも好きなヤツを買ってやっからよ、オメーは何も心配すんな!!」
「ワシかい!? まあ今回の件もあるしな、突然孫が出来たと思えば安いもんか。それより大家、この隣町の連中をどうするよ……」
そう言った老人は、白目を剥いて足元に転がる盗伐業者達を指差した。
腕を組む大家。
「そうだなぁ……おうロッタ、埋めて腐敗ガスが出てこねえのは2メートルだっけか?」
「……ん。野犬に掘られないよう、余裕を持って3メートルがおすすめ」
「ふ、二人とも何を言っているんですか!? この人達、まだ死んでません!!」
憤慨するフリストの背後で『さっ、掘るか-!』などと肩を回し始めたレアとミストを見て、ニヤニヤと笑うロッタがこう言った。
「……ん。次は市役所にLED電飾一式をもらいにいく」
「もう止めてロッタ! 普通にホームセンターで買えばいいじゃないですか!」
「フリストや、ほーむせんたーへは何を買いに行くのじゃ? ウチも何か欲しいの!」
「この人達、もう嫌だぁ……」
こうして盗伐業者達から目当てのブツを奪い取った一行は、倒れる彼等を林道脇に寄せて放置したまま……ガヤガヤと騒ぎながら没収した車へ乗り込み下山を開始したのであった。




