表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/35

その32.娘さん、困ったときはどこに行く?

 崖に近づくと発生する、都と道化師の白昼夢イベント。

 無事ムービーを視たライランは、もう一度崖を飛び降りようとした。俺は予想してたけど、アルディウスの中の剣藤さんはわりとガチあせりしてた気がする。声、珍しく焦りが出てたもんね。今のアルディウスは基本表情を見せない状態なのに。

「真っ白だったの。町もお城も。あれはいったいどこなんだろう。道化師さんが印を配ってるなら、止めなきゃ」

「真っ白ですか……白の都で思い出すと言えば、レイルダムアですかねえ?」

「レイルダムア?」

 ライランにこくりとうなずいて見せる。

「ですが、おとぎ話かと思っておりました。白の都レイルダムア。百年前に滅んだという、悲劇の都です」

 ライランが目をまんまるにした。アルディウスは腕を組み、表情のないまま、そんなライランをそっと見ている。


 今後、剣藤さんが演るメインストーリーのアルディウスを見れるんだよな。

 結構、わくわくしている。普段はヒロインときめかせることに腐心する俺達だけど、メインのシリアスなシナリオを剣藤さんと演れる。剣藤さんってやっぱ上手いんだよね。ホンドウには悪いが、アルディウスの理解は剣藤さんが一番に決まってるし(すでにさっきお嬢さんに素で驚かされてた気もするが)。

「滅んじゃった……? じゃあ、あれは過去……」

 ライランは口元を隠しながら、左下を見る。考えるときにやる癖のひとつ。

 ふと顔を上げ、アルディウスを見た。

「アルディウスさんは、なにかご存じありませんか。レイルダムアについて」

 じっと見つめる。ライランにしては、不躾に。

 アルディウスはその目を受けて、そのまま返す。

「いや。知らないな」


 少しの間、見つめ合う。

 先に外したのはライランだった。

 チェリヤに戻り、情報を集めることを選ぶ。


***


「どうしてこんな、全然、誰もなんにも知らないの!?」

 これも予想はしてたんだよ。この人、何かイベント起きるたびにNPC全員に聞いて回るタイプ。

 頃合いを見て、決めていた台詞を出すことにする。だって、チェリヤの人達はレイルダムアを知らないのである。

「困りましたねえ……あ、そうですよライラン! 『娘さん、困ったときはどこに行く?』」

 ライランは、あ、と口を開いた。


――――――――――――――――――


 ラナトーラ大知院。

 大陸中の知を集めた、ラナテルデス最大の学術機関。書物や記録だけでなく、古代の遺物や観測器具、用途のわからない装置まで、変人……もとい学者様方によって集められている。

 ゲーム的には『詰まったら行くとこ』。ある程度フラグ集めると、ここの重要情報が解禁されるので、どのストーリーでもだいたいお世話になる。


 チェリヤから大陸中央に戻った俺達は、このラナトーラ大知院にやってきた。

 ここ、中央図書館と研究棟とあって、俺達がやってきた中央図書館はでっかい城。濃淡の異なる灰色の石を積み上げて築かれていて、曰く「学術は灰であるべし」。学術は白黒つけず一生疑い続けろってことらしいんだが、マオカさんすぐ難しいこと言う。


「こんにちは」

「おや、ライランさん。お久しぶりですね。今日はどうされました」


 玄関入ってすぐ、にっこり笑って出迎えたのは占い師のお兄さん。進行なり攻略なり、とりあえずこのお兄さんに聞けば、ここらへんいいかも~ってかなり具体的に教えてくれる。でもってこの男占い師のお兄さんこそ、ユーザーから攻略させろって要望第1位のNPCである。もうね、無駄に美形にするからだよ。


「エルファディさん、レイルダムアについてご存じありませんか? 真っ白なお城と、町を探してるんです」

「レイルダムアですか」


 エル兄さん(愛称である)は、綺麗な眉を上げた。


「それでしたら、私が案内できますよ」

「え、エルファディさんがですか?」


 驚くライランに、にっこり笑って見せる。流麗な目元は泣きボクロつき、冷たそうな外見のくせに、実際は親切で世話好きなのである。


「私は星読みの占い師。生まれは違いますが、レイルダムアは私の師なのです」

「それじゃ……レイルダムアは、おとぎ話じゃないんですね?」

「ええ。もちろん存在していました。でも、突然の魔族の襲撃によって滅ぼされてしまった。

 そして、灰が降るようになったんです」


***


 エル兄さんは、俺達を数ある研究棟のひとつに案内した。


「不浄の灰は生きているものを拒み、レイルダムアの森を魔性に変えました。

 森を満たす悪しき魔力は百年を経た今も衰えることはなく、魔性の森は少しずつ北部に広がり続けています」


 灰石の四角い研究棟は、城のような中央図書館を囲むようにいくつも並んでいる。導かれるまま柱の並ぶ回廊を渡り、西の一棟へと入っていく。

 入り口の左右の壁には、深い緑の旗が重たそうに垂れていた。


 この場所も好きなんだよな。落ち着いてるし、ちゃんと博物館みたいに見て廻れて、読み物もたくさんある。お嬢さんの行動履歴にもよく出る場所。


 ライランは、不浄の灰、と繰り返した。


「それはもしかして、灰積もる森のことですか……?」


 エル兄さんはうなずく。

 あのときゴドワス爺が討伐を依頼してきた木喰い樹。あいつが正常な樹を喰って、魔性の森を拡大していくのである。


「灰は絶えず降り続け、レイルダムアへの道は閉ざされてしまいました。今はもう、都があった場所へ行くことはもうできません。だから、人々はかの都を忘れ始めています」


 たどりついた部屋は、壁という壁がすべて本で埋まっていた。床には入りきらない本が積み重なって山を作っており、だがこの研究棟ではこれが普通の光景なわけである。

 エル兄さんはライランを見ると、微笑んだ。


「ですが、レイルダムアはおとぎ話なんかじゃない。ちょっと待ってくださいね」


 部屋を照らす、花のランプを次々に消していく。

 窓のない部屋が一瞬真っ暗になったかと思うと、天井から薄青の光が降ってきた。


「わあ……」


 お嬢さんが感嘆の声を上げる。

 見上げると、天井いっぱいに淡い星の光が広がっていた。金属の輪が静かに回転し、その間を縫うように小さな星がゆっくり巡っている。わずかな機械音と光だけが、静かな部屋の中で時を刻むように響く。


「これは、レイルダムアが残した天象儀の再現です。

 レイルダムアは、星見術の祖なんです。太古の昔から人々は星を見ましたが、最初に記したのはレイルダムアの若者でした。

 彼は優れた星見で、季節の移り変わるときを細やかに読みとり、星が降る日をぴたりと言い当てたそうです」


 禍の重たさでずっと悲壮をしょってたライランだけど、今は、知恵が作った星空に魅入られて、目を輝かせている。


「レイルダムアにとって星は信仰でしたが、彼らが残した星を読み解く術は『祖にして永遠の学問』と位置付けられました。

 ラナトーラ大知院には旗があります。緑の布に描かれる紋様は、星を記した本。

 これは、星見の青年が書いた最初の言葉に由来しているんです」


――僕らは星に届かない。だから星を記すんだ。


「一般の人々は覚えていなくとも、レイルダムアは素晴らしい術を残したんです」


 アルディウスを見ると、彼も天井を見上げていた。

 表情のないまま、途方に暮れたように。


「……じゃあ、レイルダムアは……灰積もる森にあるんだね」


 ライランがこぶしを作ったかと思うと、俺に話しかけてくる。


「ケロタニアン。ゴドワスのお爺ちゃんに灰避けの魔法をかけてもらったから、私達なら進めるよね?」

「灰避け? あの不浄の灰を避けることができるのですか?」


 驚くエル兄に、ライランは灰積もる森での出来事を説明する。


「なるほど……それなら皆さんは、あの森を進めるのですね」

「あれ、でも、灰避けは私達以外にもかけているって話だったような……それでもレイルダムアは見つからないのかな?」


 ふむ、とエル兄さんは少し考えた様子を見せる。


「レイルダムアが襲撃されたとき、逃げのびた人から報を受けて、交流のあったジークジュルスとトゥエルブタウンは救援へ向かおうとしたそうです。

 ですが、森に降る灰が危険で進めなかった。後日、高位の治癒士を大勢連れて再度向かったのですが……森は異常に深く生い茂り、道は積もった灰で消されていました。詳しい者がなんとか進もうとしても、決してレイルダムアにたどりつくことはできなかったそうです」

「そんな……じゃあ、やっぱり灰避けの魔法だけじゃだめなのかな……」

「ライラン、少し失礼します」


 そう断ると、エル兄さんは片目を手で覆い、残った片目でライランを見た。これがエル兄さんのカッコイイ占いである。星見てないじゃんって言わない。


「あなたにはすでに導きがついているようです。一度、灰積もる森へ行かれてはいかがでしょうか?

 ただし、灰積もる森は危険な場所ですから、準備だけはしっかりして下さいね」


――――――――――――――――――


「ライラン!」

「え、ロコナさん?」


 中央図書館に戻ると、ロコナ王女が俺達を待っていた。ライランを見つけるなりぶんぶん手を振って、肩を組んでくる。


「チェリヤを出るなら、言って欲しかったよ。あたしは船に乗るしかないから、追いつけないかと思った」

「ロコナさん、チェリヤを出ても大丈夫なの?」

「ライランが禍について調べてくれてるのに、これ以上大事なことはないよ」


 にこりと笑う。ちなみに中身はホンドウである。多分ひたすら暇なんだろう。男前美女のイケメン笑顔、なかなか様になってんじゃん。


「なにか手がかりは見つかったのかい?」

「うん……レイルダムアを探しに、灰積もる森に行こうと思っているんだけど」

「だけど?」


 お嬢さんは、きっとケロタニアン(俺)を見た。


「準備を、しなきゃ……!」


***


 俺は今、ギチギチのフルアーマーを着せられている。in防具屋。


「……カエル殿、前見えるか?」

「見えまふぇん」


 そりゃカメラ設定変えたら見えますけどね。中世騎士のバケツひっくりかえしたみたいなヘルムなんで、カスみたいな視界なわけである。そして、ケロの頭はカエルだから、横幅でっかくてバケツじゃなく謎のタライになっている。よくこんなの置いてたね。


「そ、そっか……前を見えないのは危ないよね……でもこれ、ケロタニアンが装備できるやつで、一番防御上がるんだよ……?」


 防御が上がる代わりに、命中と回避が下がる。低ランク装備にありがちな、謎のリアリティ防具である。

 名残惜しそうなライランを尻目に、ロコナ王女が苦笑しながらケロタニアンから防具を外してくれる。ホンドウ、おまえキャラとしてなら人の心があるように演じられるんだなあ。


「動きにくいのは頂けないね、ライラン。そんなに心配しなくても、あたしがみんなを守るから大丈夫だって」


 力こぶを作ってみせる。実際、ロコナ王女は高ステタンク。メインで必ず仲間になるタンクだから、男じゃずるい(アクター目線)ってんで女キャラになった経歴の持ち主である。


「け、ケロタニアンもタンクさん……だし……」


 ごにょごにょ言わせてなんかごめん。しかし今のライランは、ケロのへっぽこステをちゃんと理解しているあたり、成長が感じられますな。


「大丈夫でございますよ、ライラン。わたくし、攻めるは少々不得手でございますが、ライランを守ることはできますゆえ!」

「それ、かばって大怪我するだけだよね!? だめって言ってるよね!?」


 ははは。つっこみありがてえー。仲間が増えたから、やっぱケロやりやすくなった。俺がふざける余裕がある。

 ライランはまだ店主になにやら聞いたりしているが、そもそもケロは伸びしろが用意されてない。おともNPCのステータスは成長しないから、強いNPCを見つけて交替させていく。

 ただ戦闘の難易度は低いから、もし気に入ったNPCが弱くても、他の仲間が強ければ、十分に連れて歩ける。そこらへんで自由度出してる感じ。実際、病弱な攻略対象とかいて、仲間に加えて守る、みたいなクエストもある。


「うう……せめて頭だけでも……」

「ゲコッ」


 ライランはまたあのタライをケロにかぶせてくる。めっちゃ押してくるけど、お嬢さん、それ以上入らんて。ケロの頭のでかさをなめないで頂きたい。

 ロコナ王女が苦笑する。


「なんでそれにこだわるんだい」

「だって……ケロタニアンの出てるところって顔だけだから……」

「ええ?」


 なんの話?


「ケロタニアン、顔以外は全部服を着てるでしょ? だから、もしあの印を配ってる道化師さんに会ったとき、顔も隠れてれば、印をつけられないようにできるかもしれないと思って……」


 なんだっけ、そんな怖い昔話あったな。隠しそびれて耳とられちゃうやつ。


「でも確かに、見えないのは怖いよね」


 諦めてケロからタライを外してくれるが、ライランの顔から不安は消えなかった。

 俺ら3人はつい、顔を見合わせる。

 お嬢さん、鋭いねえ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます!アカツラとライランたちにまた会えてとてもうれしいです! 印の真相が近づいてくる気配にそわつきつつ、防御を固められるケロタニアンに思わず笑ってしまいました。劇中劇のメインストー…
更新だわーい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ