第1話:気がついたら、麻呂の息子になっていた件
──どうやら俺は、死んでしまったらしい。
かすかに俺が覚えているのは、どこにでもある公立の中学と高校を出て、ごく普通の文系大学を卒業し、なんとなく一般企業に就職して毎日ペコペコ頭を下げていた、そんな「どこにでもいる会社員」としての記憶だけだ。
自分の名前や、自分がどうやって死んだのかも、今となっては全く思い出せない。
そんな俺が次に目を覚ました時──なんと、昔の日本(武士っぽい刀の人がいるから戦国か?)に生まれ変わっていた。
正直言って、文系の世界史専攻だったせいで、大河ドラマの主人公の名前がなんとなく分かる程度の日本史の知識しか覚えてなかったので、生まれ変わったここが日本のどの辺りで、今が何時代とかも全く分からず、最初はパニックになってしまった。
しかし、生まれ変わってもう5年たったので、今ではこの時代や周りの環境にもすっかり適応し、慣れてしまったのである。
「龍王丸様、お食事にございます」
お世話係の白髪混じりのいかついおっさん──通称『じいや』が、恭しく頭を下げて豪華な食事を運んでくる。
自分の新しい名前が「龍王丸」だと知った時は、正直「なんか中二病っぽい名前だな……」と苦笑したものだが、生まれ変わった先の環境は。正直言って最高としか言いようがなかった。
まず、スマホもテレビもないけれど、とにかく部屋がバカみたいに広い。
さらに、侍女やじいやがいて、まさに至れり尽くせりのお坊っちゃま生活。
毎日三食、おやつ付きで美味しいご飯も食べられる。
まぁ、前世の記憶の料理とは、若干見た目や感じが違うが、素直に美味いと思えるのは、この幼児の体がここの環境に適応したからだろうか。
あと、外に出ることは暗殺や誘拐の危険があるとかで固く禁じられているが、前世で満員電車に揺られて社畜をしていた俺からすれば、ここはホワイト企業どころか、一生働かなくていい不労の楽園(ニート天国)そのものだ。
「じいや、うちの名字って『今川』っていうんだよね?」
「ははっ、さようにございます。駿河の国において、我が今川の名を知らぬ者などおりませぬ」
(駿河??それ何処? まぁいいや、これだけの屋敷だし、かなりの金持ちなんだろうな。じゃあ一生安泰だね!)
今川?
うん、どっかで聞いたことがある。
そういえば、前世で『今川焼き』とかいうお菓子があったような気がする。
きっとこの地域で、ちょっとしたお菓子ビジネスか何かで成功した大金持ちの地主の家に違いない。
なぜか父親とはちゃんと会って話をしたことがないけれど、まあ、昔の大家族なんてそんなものなのかな?
普段の生活でも、大人みたいに理路整然と話をしたり、読み書きや簡単な計算(ただの九九や暗算)をしてみせるだけで、じいや達が、
「龍王丸様は、もしや神童の生まれ変わりでは……!」
と涙ぐんで感動してくれるので、居心地はすこぶる良い。
まぁ本当は、もっとなんかすごい能力とか欲しかったが、まあ、大人の分別とそれなりの知識が最初からあるだけでも、かなりのものだ。
そんなある日。
あまりにも暇すぎた俺は、部屋に転がっていた「鞠」という革製のボールを足元で突いてみた。
前世では、中学まではサッカー部で、まぁ普通の幽霊部員だった。
大して上手くはなかったはずだが、この幼児の体でも、リフティング程度なら出来るだろうし、暇潰しくらいにはなるだろうと思ってやってみたが、これがかなり楽しかった。
「お、インステップ……インサイド……。お、首でトラップ。
うわ、このボール、クソ軽いから前世より全然リフティングしやすいじゃん。
ちょっと100回位目指すか」
ちょん、ちょん、ちょん、とリフティングを始め、ヒールや膝、果ては肩まで使って楽しそうにボールで遊ぶ俺。
しかし、それを障子の隙間から覗き見ていたじいやは、ガタガタと全身を震わせ、完全に腰を抜かしていた。
「な……なんという事だ……! 龍王丸様、まだ五歳(※数え年)であらせられるのに、あの扱いにくい鞠を、まるで足に吸い付くかのように自由自在に操っておられる……!
見たこともない奇妙かつ洗練された神技……!
天才だ、我が若君は、今川の血を引く蹴鞠の神童だーーーっ!!」
翌日。
その「神童の噂」を聞きつけたらしいこの家の主──つまり、俺の実の父親が、数ヶ月ぶりに俺に会いに来るという。
連れて行かれたのは、バカ広い大広間だった。
そこには、大河ドラマの映像で見たことがあるような、いかつい鎧を着た強そうなおっさんたちが左右にズラリと並び、ガチガチにシリアスな空気を醸し出している。
(ひえっ……武士ってマジでこんな空気なんだ。
怖っ。まぁ、俺はただの地主のモブ息子だし、後ろの方で縮こまってよう……)
恐怖に身をすくませる俺の視線の先。
大広間の最奥、一段高いところに座っているのは、おしろいを塗り、眉をちょんと描き、お歯黒をした、いかにも高貴で威厳のあるおじさんだった。
その瞬間、取次の家臣が、地響きのような大声で格式高く叫んだ。
「今川治部大輔義元(いまがわ じぶたいふ よしもと)様、お成りーーーっ!!」
ピシッと、俺の全身の血が凍りついた。
(……いまがわ、よしもと……?、なんか聞いた事あるな……
えーと、えーっと、なんだったっけ……思い出せ……
………
………
戦国時代………織田信長……オケハザマ……イマガワヨシモト………
今川義元!!!???
え、あの、織田信長に奇襲で首獲られて、攻め滅ぼされてた、馬鹿大名の、あの今川義元!!?
えっ??じゃあここ ガチの戦国時代??
とゆーことは、俺ん家は地主どころか、大名じゃねえか!!!)
脳内で、現代人のうっすらとした歴史の常識が、ガチリと最悪の形で噛み合う。
日本史に詳しくない俺でも、常識として、織田信長が桶狭間で今川義元の首をとった事くらいは知ってる。
パニックで冷や汗が滝のように流れ、泡を吹きそうになっている俺をよそに、義元パパが優雅に、しかし圧倒的な威厳をもって微笑みかけた。
「うむ、龍王丸。面を上げよ。
お前の聡明さと蹴鞠の才、我が耳にも届いておるぞ。
さすがは我が最愛の息子。
──お前が、この今川家を継ぐ者じゃ」
(……いま、なんて言った? 継ぐ者? つまり、俺が跡継ぎ……!?)
(待て待て待て!!!
今川が信長に攻め滅ぼされるってことは、『今川のトップ(当主)』になる俺が、一番最初に信長にブチ殺されるってことじゃねえか!!!)
モブのニート息子だと思って油断していた。
俺はモブどころか、数年後に始まるデスゲームのメインディッシュ(生贄)の特等席に座らされていたのだ。
(嫌だあああ! 会社行きたくないどころの騒ぎじゃねえええ!!! 死にたくねえええ!!!)」
「若君ーーーっ!?」「龍王丸様っ!?」
あまりのショックと未来への絶望に耐えかね、五歳の俺はそのまま白目をむいて、バタリと畳の上に倒れ込むのだった。
一応戦国物です。
転生チート等はなく、史実からは外れない予定です。
若干コメディ要素ありです。
Geminiさんとの話し合いのスレをまとめて小説ぽくしています。
これから毎日20時くらいに投稿予定ですので、よろしくお願いします。
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お読みいただきありがとうございました。




