7ー12・抹消
クライシスホームに、足を向い出た。
気付いたら、身体が動いていた。
廃墟同然の地下室。
最初に連れて来られた時の悪寒を感じないのは
慣れ切ってしまったせいか。
入口に進むと
其処は立ち入り禁止の札が貼られていて、
『テナント物件、募集』と無機質な文字で書かれている看板。
当然ながら、足を踏み入れる事も出来ない。
無人と化した場所は、
今度こそ本当に寂れてように見え、圭介は絶句した。
___もう、何処にもないのだ。
何処かアットホームな穏やかだった場所。
力仕事で万年筋肉痛じみた事すら懐かしい、思い出。
怒涛のように短いものが、本物なのか、
それとも自身で創り上げた記憶なのか分からなくなる。
少女からの衝撃的な贈り物を貰ってから、数日。
少女からの贈り物なのか、それとも置き土産なのか。
かと言えど感謝を述べる間も与えられず
圭介は風花の申す通りに従い、
北條家の本社へ就職を決めた。
「長野圭介さんですね。
なんとも、
以前は風花お嬢様のボディーガードをしていらしたと
お聞きしております」
「…………はい」
本社の面接官も、圭介の事を知っていた。
長野圭介の存在も、
青年がクライシスホームで何の役職に就いていたかも。
北條風花のボディーガード、付き人、
会う人によっては様々な意見が割れる。
(___でもそれは所詮、名前だけだ)
“北條風花の”と言われる度に、肩身が狭い。
確かに役職はそうだ。人生を終えようと決めた日に、
少女に連れて行かれ、彼女の親友からそうなるように
任命された。
けれど、それは役の名前だけで、
その中身や役目を果たしたのかと聞かれればNOだ。
時に流されただけで己は何もしていない。
何をしたかと言われれば最終的に、
傷心の少女に、傷を増やしただけだった。
かと言え、臆病だ。
北條家に向かうのも、気が引けた。
彼女に合わせる顔は何処にもない、ただ彼女からの恩恵を
素直に此処で返すべきだと思う。
(きっと、風花は怒っているだろう)
暴言を吐いた相手に
に会いたくも、その顔すらも見たくないだろうに。
青年は傷を増やした事を
深く引き摺り、少女への感謝の代わりに平静を装った。
(____ごめんなさい。風花)
圭介の中にあるのは、懺悔だけだ。
夕方。
空は、茜色に染まる夕暮れ。
不意に線路の方へと足を向い、寸前で立ち止まる。
あの日は凄く切迫感とともに身近に感じていたのに、
今はなんだか無性に遥か遠く感じた。
西へ沈む琥珀色の太陽が見えて、
手で遮りながら目を掠める。
此処は忘れもしない。己ご、己である事を捨てようとして
終わりを求めた、場所だ。
線路、遮断機の前に立ち止まった瞬間
“あの日”の記憶がデジャウとなって襲い、脳裏を占領した。
(___)
あの時、少女はなんと呟いたか。
何故なのか、思い出せない。
謎めいた少女に付いて行ったあの日。
振り返ってみれば無性に、懐かしく感じる。
けれど
もう、少女はいない。
此処に、居るのは自身だけだ。
第一章、終了です。
お付き合い頂きまして有難う御座いました。
新装版は少し、辛辣だったのかなと思います。
これからの
第2章もよろしくお願い頂けますと幸いです。




