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6ー12・少女の正体




 人生は、時にして酷だ。

それを受け入れるか、目を背けるかは

その当事者しか選択出来ず、それが特権だと言えようか。





氏名:小川芽衣(おがわめい

生年月日:19XX年 5月12日

血液型:A型






 これらが

フィーア・トランディーユの素性だ。


 本名は小川芽衣という。

1歳の頃に亡くなったと思われていたが、

けれど事実は違ったものだった。





 あの事故の日。

この危篤状態で運ばれてきた幼女は治療を受けていた。

安全な病院内で、緊急事態が起こったのは、

彼女が搬送されて数時間後の事だった。


 



『___居なくなったんですか?』



『ええ、事故で重体になった女の子ですよね。


病院内は大騒ぎになり捜したのですが見つからなくて』



 小川芽衣の母……ジェシカは意識不明の重体。

父は病院に搬送された時点で心肺停止だったという。

大事にしたくない病院側の策略で、ある嘘を付いた。


 ジェシカが搬送された病院に問い合わせた所

風花は当時を知る看護師とアポを取る事に成功した。


 北條家と縁のある病院で、名士と名高く権力を持つ

北條家に、その孫娘に当時を知りたいと言われてしまったら

NOと言えず、内部情報も唯一知る事が出来た。

 葬儀の依頼がある度に風花も立ち入っていた為、

最早、病院関係者とは顔見知りだった事に気付いたのは今更だの事だ。


 職権乱用にも似た脅しを使うのは

嫌いだけれどやむを得ない。




あの事故の日。

重体になった幼女はNICUにて治療を受けていたが

安全な病院内で、緊急事態が起こったのは、

彼女が搬送されて数時間後の事だった。


 突然、

目を離した隙に、神隠しのように消えたという。


 警備も厳しい筈なのに。

重体の幼女が病院から消えた事に騒然としたが、

病院内を大捜索しても見つからないままに終わってしまったそうだ。



 マスメディアに騒がれる事を危惧した病院側は

幼女の母親にある嘘をついた。



『この間の事件の報道………ほら、アルビノの……。

実は解雇した職員が、テレビには映っていて驚きまして』


 誰だって自分自身の身が可愛い。

自身を犠牲にしてまで、身を(てい)して守ろうだとか

自分自身が犠牲になってでも、という人間はいないに等しい。




 

 きっと、アルビノの子供達を

監禁していた関係者が拐ったのだろう。



 風花は何処かで察する。

重体になった幼女が自ら自力で消える訳がない。



 同時に小川 芽衣のカルテも見せて貰った。

本来ならば、一定の年月が経過すれば、

破棄するという規則だが事が事だけに保存しているという。



 年齢も変わらなかった。風花より一つ歳上。

フィーアという名前も、便宜上のもので形はない。

名前と生年月日を取り戻せば、彼女は完全に小川 芽衣に戻る。


 自由になれる。



_____北條家と束縛されている自身とは違うのだから。



 フィーア、基もとい

芽衣にはどうやってこの事実を伝えようか。








 忘れもしない。




 寒い冬の日だった。

冬には素晴らしい景色が見える場所に毎年訪れ

今年は、その景色を娘に見せる、家族で迎える筈だった。



 半年間の意識不明。



「駄目ですよ、安静にして下さい………」



 身柄を抑えようとする看護師を、

捨て去るように振り切って夢遊病の如く、病院を彷徨った。







 事故に遭った事は覚えている。




 夫は、娘は、それだけが脳内に駆け巡った果てに、

知った現実はあまりにも残酷で滑稽で、

受け当たれがたいものだった。




「___残念ですが、ご主人と娘さんは………」



「___あ、あああ」




 お亡くなりました。という言葉とともに絶望に落とされる。

事故に遭った時、ジェシカは半年間、意識不明だった。

夫は搬送された時には心肺停止、体力のない娘は

数時間後に。


 目を覚ました後、

夫と娘はいなくなってしまった酷な現実を突き付けられた。



 未亡人。

遺されたのは抉るような、傷だけ。










 圭介は、祖父に視線を落とす。

痩せ細り窶れた祖父は、自発呼吸も弱くなり、

峠だと思って下さいと宣告された。



 眠ったままの祖父に、圭介は語りかけた。



「___どういう意味だったんだ。


“すまない”と呟いたこと」


 回答は返って来ない。

ただ無慈悲な静寂が部屋の中に佇む。



(___答えてくれよ)




 やりきれない感情に

唇を噛み締め、圭介は視線を落とす。

けれどもう危篤状態の祖父は答える事はないだろう。



(どうして最期の最期まで孫を悩ませるものを遺す?)


 どこまでも卑怯だ。





 ぎり、と奥歯を噛み締める。

けれど何処かで、ふと考えが余儀った。



(___孫、でもないか)



 そもそも孫としても、認められて居なかったのだから。

あの言葉に執着して問い詰めようとしても、無理だ。

そう悟ってしまえば、最早、どうでも良くなった。



けれど。

すまないという言葉を祖父が吐いた時

初めて般若の面しか見た事が無かったのに、

何故かその瞬間だけ人間らしい表情をしていた事を思い出した。



___それは何故、だろう。







 若さゆえに、猪突猛進する。

大人になると慎重になる事も、少女だからこそ

まだ稚さ残るが故の行動や言動なのかな、と


 新装版を綴っていて思います。

救われない物語で申し訳ないです。



次回から

第7章、始まります。

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