5ー2・柔らかな嘘
北條家の使用人や親族は皆、知っている。
華鈴が本当の娘で、風花は貰われた孤児の娘だと。
無論。彼女達も
既に物心は着いており、周りの雰囲気や意見は知っていた。
特に遺児となり天涯孤独の身と化した風花に対しては、
表向きは当主に媚び諂い(へつらい)良い人を装いながら、
裏で陰口を言われているのを気付いていた。
北條家の血筋に拘る者は余所者の風花を相応しくないと言い
また華鈴の代わりに
生きる事になった風花を下手に同情したりするものもいた。
本家と分家の婚姻を勧め、なるべく他者を寄せ付けない____その前提があったのだろう。
『なんでも器用にこなすのだけが取り柄よね。
北條家の人間でもないのに』
『大体、あの子薄気味悪いじゃないの。
人間味がなくてロボットみたい。北條家に来てから益々、酷いわ』
『でも。可哀想よね。華鈴様が跡を継げないからって
人生のレールを敷かれて、勝手に人生の立場を決められて災難よね』
『厳造様の操り人形よ。
血族を守ってきたものを壊れされた気分だわ。』
次第に、北條家の使用人や親族の中で
密かに付けられた風花のあだ名は『北條家の操り人形』。
風花は子供だから、
子供はまだ意味を知らないと
勝手に思い込み、皆、影では言いたい放題。
けれど表向きになると、
ジョーカーをひっくり返した様に自分自身に媚を売る。
次期当主に気に入られなければ、という自分可愛さから皆
北條家の人々は裏表を上手に使い分けが激しくも上手だった。
幼心に容赦なく刺さる硝子の破片は、
風花は益々、人間不信へと陥れて。
そして厳造も、あからさまに華鈴を可愛がる。
人間味に求められていないのだ、跡継ぎの器、として興味を示さない。
自身はただの次期当主として求められる
北條厳造の操り人形でしかないのだから。当たり前と思ってきた。
あれから風花は、ずっと一人を好んできた。
孤独と共存する事を腹を括れば、誰も嫌味も責められる事もないのだから。
そして“あるきっかけ”を気に、もう此処には居られないと
北條家という牢獄に抜け出したのは、3年前のあの日だ。
「お祖父様」
この日は華鈴が、厳造の部屋に来ていた。
何時もの華鈴なら先日受けた仕打ちを祖父に告げ口し
泣き付くのだが
あの少女の恐ろしい狂気を目の当たりにし、
誰かに言って仕舞えば、本当に自分の命はないと悟り我慢した。
けれど今日は、ある決心を言おうと祖父の前に来たのだ。
「お願いがあるんです」
「ほほ。なんであろうか?」
厳造は、本当の孫娘の華鈴には甘い。
彼女の言う事は大概 何でも聞いて受けれてしまう。
だからいつだって上機嫌だった。華鈴は祖父に可愛がられる術を知っているからである。
孫娘の願い事なら聞いてやろうと本気で思っていた。
"この時までは"。
「風花を完全に追い出して、あたしを当主にしては貰えないでしょうか?」
厳造は固まった。
恐る恐る何故だと問うと、いよいよ華鈴は身を乗り出す。
「だって不本意でしょう…!!
本当の北條家の娘は、お祖父様の孫娘はこのあたしなのに。
それなのに、よそ者の風花は当たり前な顔をして
当主の座に居座ってる。
あんな奴は所詮他人なのに!!
お祖父様、あたしは風花に孫娘の立場を奪われて悔しくてならないの。
他人の小娘に本来、
あたしが居るべき立場を取られて………不公平だわ!!
この際、元の形に戻して仕舞えば良いの。本来の形だった立場に__」
憎悪、嫉妬、羨望。
自身の事は棚に上げて、華鈴の叫びは大きかった。
しかしヒステリックに叫ぶ華鈴に、厳造は怒鳴る。
「我に返らんか!!」
「……っ」
華鈴の瞳に涙が滲む。初めて祖父から怒鳴られた。
それに大きく驚くと同時に、溺愛されてきた華鈴はショックだったのだ。




