3―4・少女の存在は秘密裏のままに
表記が間違えておりました。申し訳御座いません。
何故、自身が後継者に選ばれたのだろう?
どうして、あの時に庇えなかったんだろう。
年を重ねても、
その答えの出ない自問自答をしては虚無感に消えままで
それでも繰り返して、そして無に終わる。
葬儀を終えてから、
フィーアの計らいもあって、風花は休暇を貰っていた。
基本的に風花は通信制過程の名門女子校に通う学生で、
学校に通学する日、その他の休暇日はない。
____そんな表向きの事実を盾にした。
自責の念と罪悪感。
あの葬儀の中で絶えない、
フラッシュバックの感覚がしてトラウマが蘇り続ける。
トラウマになった光景が脳裏に焼き付いて浮かびながら考えない様にしても
思考は止まなく巡り続け、どうしても脳裏に思い出してしまう。
そんな避けて来たフラッシュバックを浮かばせながら
安静に出来なくともベットに横になりながらひたすら、
自分自身を悔いていた。
_____________クライシスホーム、事務所。
整理整頓された、必要な物だけがある事務所。
デスクだけではなく休憩所の間取りもちゃんと取られている。
そんな休憩所にある、
機械で淹れたコーヒーを壁に背を預けて嗜みつつ、
ジェシカが戻ってくるのを、圭介は見ていた。
大学の講義も休み、
男手がいないこの事務所の、荷物係として出勤している。
仕事もだいぶ慣れた。
ただ一つ出来ない事を挙げるなら。
「あれ? 風花は…………?」
「風花なら今日は休みです。ジェシカさん」
風花の姿が見えない事に気付いて、
ジェシカはフィーアに問うと目の前の資料に目を通していた
彼女は冷静に答えを言って、話題をあっさりと済ませる。
彼女は何時も風花に対して執着気味としている、
ジェシカはどうしてかと聞くと思っていたが___
「……そっか。そうよね」
何故か、彼女の答えはあっさりとしたものだ。
だからこそ何故か拍子抜けしてしまう。
風花に対しては過保護気味のジェシカが
それで黙る筈も無いと思ったが、今回ばかりは、静かで意外だった。
(何故?)
そんな会話を
聞いていた圭介は、心の中では疑問符が浮かんでいた。
先日の葬儀では普段、凛然とした風花の様子が
何処か可笑しいと感じさせるばかり。
あの日、見るからに普段の風花ではなかった。
それは、まるで何かの螺子が外れてしまった人形の様に。
更に疑問に思ったのは
フィーアとジェシカの会話では、その理由を深入りしていない事だ。
二人共、彼女の事があれば辛辣な態度を取る事さえあるというのに。
それを秘密裏に理解していると見えた。
(何かあるのだろうか?)
人の領域を、土足で踏み込む様な真似はしたくない。
そんな軽々しい行動を誰よりも軽蔑しているのは圭介自身だ。
人間は噂話が好きで、その家庭に影があると
野次馬根性で、身勝手に土足で踏み込みたがる。
(…………うんざりだ)
ただ、風花がいない以上、
圭介の“与えられた役割り”である
責任者の監視と教育、護衛が出来ず。居ても意味がない。
最近は親しくなってきたせいなのか、
それとも自身のの役割りへの責任なのか、
彼女を見れば一安心していた。
束縛するつもりは無いが
謎の多い彼女を見つけるのは難易度は高く
『見守れば良い』とフィーアは言ったけれど、
先日の事が脳裏に過り
風花の身に何かあるのか気になってしまう。
「さてと、
風花が居ないのならじゃあ私は夜勤に浸るとするわ」
「申し訳ないです。お願い致します」
「いいのよ」
冬の夕暮れは早いからと、揃って口を揃える二人。
「フィーアさん」
「なんでしょう?」
帰宅の身支度を済ませたフィーアに、
圭介は身を乗り出した。
「あの、風花に、伝言をお願い出来ますか」
「……ほう、それはいいですね。なんとお伝えしましょう?」
「微力ですけど………進路や勉強でも、なんでも………。
あ、ですが、風花は嫌………ですよね」
(でしゃばりたがり)
あまり深く関わろうとすると、
風花は嫌だと言ってたか。きっと干渉すると彼女は逃げてしまう。
そんな圭介の表情にフィーアは
「そういえば、圭介さんって、
大学では学業優秀賞を受賞された、お方ですよね」
「何処でそれを耳に………」
くしゃり、と髪を掴む。
大学で優秀な成績を納めても此処では身にならない。
形だけのものだ。何か形になるものを取らないと、祖父母は納得しない___そんな惰性からだった。
暫し考え込んだ後、フィーアは
薄く微笑んで伝えておきます、とだけ言った。
その帰り道。
突如にして、携帯端末の着信音に気付く。
相手はフィーアからだった。
「はい」
『圭介さん、今、よろしいでしょうか』
「はい大丈夫です。帰り道なので」
『そうですか………落ち着いて聞いて下さいね』
____風花が、消えた。
その言葉だけに、愕然する。
フィーアによれば、
少女は仕事と通学以外は、基本的に家から出ないらしい。
買い物するにしても一緒か、何か連絡してから行くという。
だからこそ、こんなに唐突的に____。
携帯端末も家に置いたままで、
彼女だけ何処かへ行ってしまったのだ。
信濃 直哉 享年5歳。
夜風が肌に触れる。
けれど風花はそれも構わずに、罪悪感混じりに微笑した。
風花とフィーアがルームシェアしているマンションは、
クライシスホームより少し下に下った近くにある。
比較的徒歩で生きる距離だ。
圭介はフィーアと合流する。
辺りは夜闇に包まれていた。
「こんな事無いんです。でも…………」
そう言いかけて、フィーアは言葉を飲み込む。
きっと今回の事がキーパーソンとなっているのだろう。
起因は、あの日の出来事に関連している事だ。
あの以来の変わってしまった彼女の様子。
だとしたら風花は風の様にふらっと"あの場所"へ行ってしまったのかも知れない。
時々、風花が足を運ぶあの場所。
フィーアは口許を抑えながら、圭介を見る。
(少し、貴方を試させて頂こうかしら)
風花に対して、どう出る事が出来るのか。
守れるのか、逃げるのか。それが例え卑怯で姑息と思われても構わない。
あの少女は破天荒で自由人だから
帰って来るとは思うが、たまには青年を、
北條家の戯言に巻き込む形で試すのも有りかも知れない。
(___元々、彼は風花の為に雇い拾った人でもあるし)
「不味いですよ、夜は物騒ですし、何かあったら」
「あの………」
フィーアは目を伏せて、呟く。
「心当たりならあります。
きっと風花は其処にいるのかも知れない」
「何処ですか………」
「……………心当たりを、場所を、今からメールで送ります。
そして私からのお願いです。
いいえ、これは貴方の仕事の役割りでもある。
心配に思うならなら風花を今から、捜して貰えませんか?
きっと、その場所に風花は入る気がします」
何をするか解らない、あの少女。
心配なのは変わらない。フィーアの言う通りだろう。
自分自身のの役割りは、
少女の監視人兼教育係、護衛_これは仕事でもあるのだろうと思う。
だが、緊急事態は、これは仕事ではない。
フィーアは上司だ。
それに誰よりも風花を心配する、彼女の頼み事を断わる理由はない。
「……分かりました」
フィーアの願いを受け入れた。




