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3―1・闇の音




 他者の最期を身を見送ってきた中で、

その度に何度自分自身を葬り去りたいと思っただろう。






『風花、北條の後継者はお前だ。

お前が“葬儀者”としてこの家を家を継ぎ守るのだ』






 厳造は、風花の肩に手を置いて嘲笑う様に言う。

震える心と揺れる瞳で頷いた後、風花はゆっくりと視線を横へ向けた。



___それは幼き少女を絶望へと引き摺り込む言葉。




_____嗚呼、どうして。






(_____________やめて)






 届かない思いが、無の声となり、風花は叫んだ。






 自分自身が選ばれなければ、良かったのに。


 



 どうして自身が選ばれてしまったのだろう。




 そんな疑問は消えない。そして

その運命を恨み抜いて軽蔑しても、拭えない罪を思い知る。

この呪縛は、罪は、この呼吸が終わるまで、消えない。












「…………っ」








 咄嗟に目を覚ました。


まだ瑠璃色が部屋を包み。

カーテンの隙間から差し込む月明かりが僅かに照らしている。


ベットの隣で

深く眠っているフィーアを横目に見る。



あの頃、

恐怖心と警戒心に包まれ煤けた哀傷が漂う表情の面影は何処にもない。

柔く優しげな表情な表情を浮かべ眠る、少しだけ口角を緩めた。



 ただ夜闇は、

彼女の記憶の中では凶器であり恐怖の対象だという。

あの頃を連想させては、恐怖に突き落とされるもので

今でも風花とフィーアはダブルベッドで隣同士で眠っている。



 風花は気付かれない様に、起き上がった。





 心が締め付けられる苦しい感覚を覚えながらも、

風花は思わず無意識的に自身の胸を押さえて、

過呼吸になりそうな呼吸を殺して整える。



 (ルームメイトに気付かれませんように)




 ナイトテーブルに置いたタンブラーと、

枕の下に隠していた薬を取り出し


 錠剤をひとつ取ると

すかさず水を含んで、そのまま飲み込んで一息着いた。

水を飲んだタンブラーを置くとテーブルに置く。




 夜の静寂は、ある意味、狡猾かつ滑稽だ。





 何も意図もなく、静かに俯いて

横になると胎児の姿勢のまま、塞ぎ込んだ。


 (やが)て両手で顔を押さえると、

風花は罪念の心に苛まれ眠れなくなり、一夜を過ごした。










 夕暮れ時。

夕飯の材料を買い込んだ帰り道、

けたたましく鳴り響く遮断機の音が聞こえてふと圭介は立ち止まった。




(______不思議だ)






 此処はあの日、最期を決意してそれを決行しようとした。

あの時、絶望した自身は遮断機を越えようと身を乗り出す筈だったのに。



____それを偶然、北條風花が止めた。



 彼女が声をかけ無ければ

自身はは今はもう此処に居ないだろう。

人の人生は、何処かで変わるか分からない。



 けれど、今でも疑問だ。

あれば本当に"偶然"だったのだろうか。

そもそもフィーアの願いとはいえ、彼女は風花にどう伝えていたのだろうか。



 監視人ならば、身近にいる北條家の人間でもいい筈だ。


 フィーアによれば、風花は基本的に誰も寄せ付けず

加えて北條家に住んでいるのは、当主と孫娘、

それに伴う世話役の人物がひとりずついるという。


 住み込みの、風花の世話役であるジェシカ、

後々から北條家で隠れて暮らし始めたフィーア。

北條厳造の世話役を含めて5人。


 


 なら、顔見知りでない誰かなら、



 誰でも良かったのではないか。



 

 前に、風花に聞いた事がある。




「どうして"あの時" 俺に声をかけたんだ」

「偶然、通りかかって、声をかけただけ」




  風花は感情のない声で淡々と言っていた。

北條風花は一切戯言を答えない。その艶の無い声だけに

ただ偶然的なもので、素っ気ないと感じるけれども

何処となく事情を感じてしまう。


 気にはなるが、逆鱗に触れるようで尋ねるのを辞めた。



 彼女は

何をしても掴めず何も感じさせない存在。

存在そのものが謎だと、接していく内に分かった気がする。




 クライシスホームに来てから数ヶ月。



 風花も圭介と

素っ気ないながらも些細な会話を挟む様になった。

けれども少女は自身の事を固く、言葉を閉じている。








「はい、ではどのように致しますか。


___はい。そうで御座いますか、

承りました。では明後日担当者が__私、北條が参ります」




 がちゃり、と風花は受話器を置いた。


 

次の葬儀の日程の電話だ。

その場の担当責任者である少女は休まる時はない。



 16歳とは思えない大人の対応や振る舞い、言葉遣い。

やはり家を背負う者として設定的に教育を施されてきたのだろう。

その厳しい教えは彼女の姿勢や言動に体となって現れていた。



 一見、冷たい様に受け取られがちだけれど

気心が知れた人物へは若干、覇気が篭っている気がする。

それがごく僅かの限られた者へしか見せない彼女の素とでも言うべきか。



「………後は宜しくね、フィーア」

「気をつけてね。スープでも作って置くわ」


 

 行われる葬儀の

葬儀場の下見に行くというので、

着いていく事になるだろう、と思い圭介は上着を羽織る。


 しかし、フィーアに止められた。




 その間に

風花は、上着を持つと専用の出入り口から出て行った。






「あの僕は、着いていかなくて良いんですか?」

「ええ。今日は違うんです」


「…………? じゃあ待てば良いと」

「そうですね。まあ、時期に戻ってくるでしょう」




フィーアは、圭介の問いに無理矢理、口を濁した。



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