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3―2・少女の違和感

 



 絶望の毎日に光りが差すことはないと、知っている。

それは沈痛だと理解しているのに何処か割り切れないのは、何故だろう。





 そう思い、風花の、眸は闇を落とした。










「最近はどうですか」



「……………普段と変わり………」




 ません、と言う筈だったのに。




 其処で風花は言葉を詰まらせた。

ちらりと見た医師は変わらず、真剣な面持ちを変えない。


 医師の目には、漆黒の瞳が、

顔色も生気を失った少女は人形の様に見えた。




 しかし何かがあると確信し

強い眼差しで見た医師の顔色を伺い見た、

その顔色を窺い見た風花は一瞬、息を飲み、共に躊躇ったが




(………言うしかない)



 と改めた。




「………ありました」

「そうですか。では___何がありましたか?」

「………発作です。過去が夢に現れて過呼吸になりました」

「そうですか」




 抑揚のない淡々とした声音は、闇に佇む。

医師は風花の訴えに、冷静に観察し

冷静沈着に言いカルテに事項を淡々と書き込んでいる。






 風花は心療内科に通っている。

それは幼い頃からずっと欠かさずに通院していた。

それは北條家当主にもお忍びという形で、ジェシカの主導権の元、

成り立っている。




____きっかけは“過去のある出来事”だ。



 “その出来事”は、風花を変えた。



 医師の目には、凛とした少女は、儚く脆く映った。

幼少時から少女の事はよく知っているが

年を重ね成長し物事を悟る度に、特に少女は変わってしまった。

最近は自棄で危うく___見るだけで消えてしまいそうな雰囲気に思う。


 医師にとって、少女は儚く脆い存在だ。

担当医は彼女の表情と心情を察しながらも医師として、その心情は隠した。






「フラッシュバックだと思います」

「……………はい」




 無気力的に俯いたまま、か弱く風花は呟く。

担当医の前では、その後に薬を服用したこと

それからその夜は一睡も出来なかった事を素直に話した。


















 葬儀の準備は整えられた。

今回は家族・近親者のみの密葬であること。

相手は闘病の末に短い生涯を閉じた5歳の男の子だ。




 死者の眠る棺に

足を向けると圭介は見詰めて暫し肩を落とした。

棺の中で眠る人物は安らかな顔をして、永遠の眠りに着いている。


 病と闘った末のこと。

病から闘病から解放されたその姿は余りにも儚くも何処か安らかな表情だ。









「もうすぐ遺族の方が、御到着致します」

「そうですか」



 担当者が風花に駆け寄り、そう伝えた。











(………生きたくても、生きれない人は沢山いる)

 




「…………」



 心情が変わった意味や理由は分からない。

今でも何処かで諦観が根付いていて、呆然としている自身が居る。

けれどもそれを言葉に言い表せれるか、と言えばまだ未熟な気がした。



 それは、様々な死を遂げた人々を見送る立場になり、

その命の重さや尊さに立ち会い、目の当たりにしてからかなのか。



 生きて来た道や証などを直視する様になってから

概念が変わり、自分勝手で今まで自分本意だったのだと気付かされた。






(………俺は、自分自身本位に生きてきただけだけだ)






…………自死を望む心はもうない。





 自身は生きれる命。

それを手放してはいけないと思い始めた。






 遺族が到着し、風花は挨拶に回る。






「担当者の北條です。この度は______」






 遺族に対して風花は、頭を深々と下げる。

圭介もフィーア揃って深々とお辞儀をする。



(常に平常心である様に)



 そうで無ければ

心が壊れてしまわぬ様にと自分自身を奮い立たせて。






「貴女が北條さんですか。

まあ親切にして頂いて…………。それで………息子は」

「あの場所に………」




 母親らしき人物は風花に礼を言った後で、

娘を連れて棺に向かい亡き息子の姿と対面した。

嗚咽しながらも



「……………」

「おにいちゃん…………」




 母親の傍に居たのは、妹だ。

幼い少女が兄の姿を見て名を呼ぶ。

彼女はまだ死というものを理解出来ていないのだろう。

涙を流しながら息子を、不思議そうに兄を見詰めるその母娘の姿を見ていた刹那。










(………………違う)






『………どうして、どうして?』






 袖の奥に控えていた風花の心が、地震の如く揺れる。

そして脳裏に浮かぶのは“あの光景と声”____。



 視界が暗転した。



 思わず、突き落とされた様に

心が揺れて、脳裏に深く焼き付いた光景が目の前にある。


 地に足を付けていたのに、

いつの間にか身体の軸は失われ、崩れていく。

それはまるで人形の如く、倒れかけたものの、

風花の身体を、辛うじて圭介が受け止める。




「大丈夫?」

「……………」










 喉元を抑え、風花は頷くのみ。

冷水を浴びた様に急激に顔色が悪くなっている事を

圭介不思議そうに(いぶか)しんだ。



「____風花」



 凛然とした声音。

いつの間にか袖に居たフィーアも出て来ていた。

その表情は何かを決心したような、そして何処か怒っているような顔だ。


 普段、温厚な彼女が浮かべる表情は珍しいものだ。






 けれど次第に心配そうな表情に変わり、

フィーアは落ち着いた声音で、風花に言った。




「風花、少し休むべきだと思うわ」

「……………仕事よ」  

  


 フィーアは威厳を崩さない。



「式はこれからよ。例え1分でも休憩になるでしょう。

それに____今のうちに静養して心の整理を着けて」



 何か言いたげな表情の風花だったが、(やが)て首を縦に振る。



「……………分かった」




 まるで姉の様にフィーアは、 

厳しくも何処か優しく風花に諭していた。

風花は視線を伏せてから圭介に礼を言って、袖の向こうへと消えて行く。

着いて行こうとする圭介に対しては


「ひとりにしてあげて下さい。____そのうちに戻りますから」


 少女の様子が普段と

少し違うのが圭介は気になったが、

その理由が問える雰囲気ではなかった。


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