あれから
不定期とは言え、2週間以上開けてしまいました。ごめんなさい。<(_ _)>
今回は前回の後日談になります。戻ってきた理由について、雅哉なりに結論を出そうとしますが・・・
あの一件以来、文也は父親の、由美乃は母親の、それぞれの部屋に移された。両親の部屋は工場の事務所などを兼ねている上、ともに19時近くまで働いているので、平日の下校後は常に親と一緒にいることになる。加えて、文也の登下校は常に父親が車で送迎することになった上、土曜の午後や日曜祝日は野球教室に通わされるようになった。要するに、文也は常に誰かの監視下に置かれることになったわけだ。そんな状況下では、文也が由美乃に手を出せるはずもない。
そして、文也の父は、俺にも釘を刺してきた。あの後、俺は文也の父に呼び出されて、由美乃を含めた3人で話し合う場が設けられた。
「まーくんがおばあちゃんに話してくれたお陰で、大事に至らなくて済んだよ。文也のことは聞いたかい?」
「野球教室に通うって? 文也、結構野球上手いからいいかも。」
「分かってると思うけど、もう文也とは遊べなくなるよ。」
まあ、それは仕方ないだろう。俺が文也の行動をばらしたようなものだから、気まずいのはお互い様だろうしね。
「それで、まーくんにこんなことをお願いするのは、ちょっと違うかな、とも思ったんだが・・・」
「誰にも言ったりしませんよ。由美ちゃんに嫌な思いさせたくないから。」
「ありがとう。いや、それはそれとして、まーくんを信用しないわけじゃないんだが、やはり親としては心配なんで、由美乃と少し距離を置いて欲しいんだよ。」
ああ、そういうことか。まあ、逆の立場だったら俺だって心配するよ。実際、前の俺は文也と同じことをしたわけだし、これからそういうことをしたって不思議じゃないってことだよな。
「それってどういうこと? 私、まー兄と遊んじゃいけないってこと?」
「由美ちゃんのためには、その方がいいんだよ。まさか文也があんなことをするなんて考えられなかった。悪いけど、まーくんだって・・・」
「おとうさん、ひどいよっ! 私、絶対に、嫌だからねっ!」
父親の、由美乃と俺との接触を避けたいという意向は理解できなくはない話だったが、それを聞いた当の由美乃が泣きながら拒んだ。先日は俺の方から由美乃をなだめるために抱き締めたが、今回は由美乃の方が俺の胸に飛び込んで来た。どうやら、俺に対して恋愛感情・・・7歳の女の子にそういう感情があるかどうかは正直言ってわからなかったが、そういうものを持たれているらしいと感じた。
「いや、これはまいったな・・・」
父親の目の前で娘を抱き締める度胸は俺にはない。だが、この状況で何もしないわけにも行かない。俺は由美乃の肩をそっと抱いて、父親に向き合った。
「生意気かもしれませんが、今回のことは文也のせいで、由美ちゃんは何も悪くないですよ。何も悪い事をしてないのに、日常が奪われるって、おかしくないですか?」
父親は俺のその言葉を聞いて唖然としていたが、しばらくすると我に返った様だ。
「君は、本当に10才か?」
まさか、60才です、とは言えないが、さすがに普通の小学生が言うようなことではなかったようだ。少しは自重しないといけないな。
結局、2人だけには絶対にならず、常に京子達と一緒に行動するという条件がついたものの、ほぼこれまで通りということになった。もっとも、由美乃を俺から遠ざけようとすれば、京子達とも距離を置かざるを得なくなるが、自宅で工場を経営している以上、引っ越して転校させるなんてこともできないから、所詮は無理な話なのだが。
「お袋が言ってたのとはだいぶ違う気がするけど、あのまま同じことを繰り返していたとしても、由美ちゃん、俺のことを思っててくれたってことなのかな・・・?」
由美乃が、文也に嫌々させられていたことを、俺なら大丈夫だ、と最初の時に言ってたのを思い出した。あれこそが由美乃の本当の気持ちだったのなら、その後、俺との接点がなくなってしまった由美乃がどんな気持ちでいたのかは、想像に難くはない。やはりここに戻ってきたのは、由美乃とやり直すためだったのだろう。
60才の俺は、ここから大人の女性として成長していく由美乃を知らない。だが、今の7才の由美乃は、あの頃感じたことがないくらいに輝いて見える。60才の俺は決してロリコンではない。10才の俺から見て3才年下の女の子が魅力的に見える、と言うのはむしろ自然なことではないだろうか?
「最近のまーくん、なんか由美ちゃんばっかり構ってる。コンヤクシャの私をさしおいて、酷くない?」
前よりも京子がアプローチしてくる回数が増えたような気がする。しかも決まって由美乃がいる時にだ。俺としては、そういうつもりはないのだが・・・
60才の俺の記憶では、由美乃と「触りっこ」をしてからは、小学生のうちはやはり由美乃を意識していたらしく、同じようなことを京子に言われたことがあったのを思い出した。でも今回は「触りっこ」はしていない。ただ、由美乃が泣き止むまで抱きしめただけだったが、そのことが「触りっこ」よりも強く心に残っていたのも事実だ。
「えーっと、そんなことないと思うけど・・・」
はぐらかそうとしたが、由美乃がとんでもないことを口にして状況が一変した。
「まー兄、私をギュッとしてくれたんだよ。いいでしょう?」
「な、なんですって? 本当なの? まーくん?」
「いやいや、それは違う・・・ いや、違わないけど、文也だってやってたでしょ? 別に深い意味があったわけじゃ・・・」
京子がジト目で俺を見てくる。まあ、それはしょうがないだろうけど、なんで由美乃まで同じような目で見てくるのかな?
「修羅場ね?」
「ふーん、これがしゅらばってゆーの?」
初美とさつきが余計なことを言い出すし・・・
2人の視線に耐え切れなくなった俺は、自宅のトイレに逃げ込んだが、それでは何の解決にもならないってことはよくわかっていた。
* *
なんだかんだで、その後、1年半が過ぎ、俺は中学生になった。女の子達はまだ京子と初美が5年生なので、相変わらず一緒に登校していたが、中学校には、俺と英治に加え、お袋と仲の良い中島さんの息子の健太と3人で登校するようになった。小学生の時は健太の家が俺達の通学路から離れていたせいで一緒には登校していなかったが、中学は健太の通学路上に俺達の家がある位置関係から、健太が俺達を迎えに来るようになったのだ。京子や初美は健太とは面識がなかったようだが、由美乃とさつきは健太を知っていた。
その日は、健太が少し早く迎えに来て、栄治が出てくるまで少し時間があったので、さつきを待っていた京子達と少し話をしていたのだが・・・
「由美ちゃん、中島くんのこと知ってたの?」
「弥生ちゃんのお兄さんだからね。」
「弥生ちゃんって?」
「さっちゃんと仲良しの同級生だよ。」
健太に妹がいることは、お袋から聞いたことがあるが、由美乃やさつきの同級生だとは思わなかった。だが、どうもそれだけではないみたいだ。
「まー兄、まー兄にだけ教えてあげるけど・・・」
由美乃がさりげなく近づいてくる。何故かドキドキしてしまう。
「さっちゃんって、健太くんのこと、好きみたい。でもこれ、内緒だからね。」
由美乃が耳元で囁く。耳がこそばゆかったのと、由美乃の髪の匂いに刺激され、俺は一瞬我を忘れた。何故か「好きみたい」という言葉が、頭の中で何回も再生されてしまう。俺は今の自分が完全に由美乃の虜になってしまったことを自覚した。
だが、俺はやらかしてしまった。
「お、俺も好きだよ! 由美ちゃん!」
次の瞬間、その場にいた全員が、俺を見た。な、なんだ、この空気・・・
「おいおい、雅哉、お前が誰を好きになろうが構わないけど、俺はごめんだぞ?」
一瞬、健太が何を言ってるのかわからなかった。だが、この場にいないさつきと栄治以外は、由美乃が俺に話したことを聞いていたのだ。俺は「好きみたい」というフレーズだけに反応してしまったわけだから、そりゃ誤解されても当然か。
「い、いや、そうじゃない、俺が好きなのは・・・」
「好きなのは?」
京子がめちゃくちゃ近づいて来て問い詰めようとしている。俺は壁を背にしていたので逃げられない。
「いいよ、まー兄が男の子好きでも、女の子の中で1番なら私は構わないよ。」
由美乃さん? あなた本当に9歳なんですか?
「まーくんは男の子とケッコンはできないから、コンヤクシャの私が1番だよね?」
この状況、いったいどうしたらいいんだろうか?
タイムリープ前は考えもしなかった展開で、雅哉の気持ちが由美乃に傾いていきます。巻き戻る前は、恋愛経験がほとんどなかったこともあって、振り回されてばかりですが・・・
ちなみに、「好きみたい」を誤解した話は、作者の実際の経験です。相手は全く違う別人でしたけどね。(^^;)




