由美乃の変化
なんとかギリギリで、1月2回目の投稿です。今回は的場さんが登場しませんが・・・
おそらく、俺の方から切り出さなかったら、由美乃は文也とのことを俺には伝えてこなかっただろう。とは言え、最後まで隠し通せるとは思ってはいなかったはずだ。だいたい、由美乃が雪姉の家に泊まるということなら、隣家にいる俺が気づかないはずがない。由美乃の口ぶりからすると、もしかしたら、その場で理由を説明するつもりだったのかもしれないが。
「でも、由美ちゃんが雪姉んちに来るとなると、うちのお袋が黙ってなさそうだよ?」
前回のループで気がついたのだが、雪姉の母親が入院していることもあって、俺の母親が頻繁に雪姉の家に出入りしていたのだ。由美乃がいるとなると、噂話のネタにしかねない。
「だから、雪姉ちゃんには口止めしてたのに・・・」
由美乃が少し拗ねた感じで俺の方を見てくる。俺は由美乃のこの表情が一番好きなのだが、あからさまに喜んでる場合ではないな。
「由美ちゃん、俺は雪姉からは何も聞いてないけど、何かあったかぐらいは、俺でもわかるよ。」
「どうしてわかっちゃうの?」
「言ったじゃない、俺は由美ちゃんが好きだからだよ。」
「・・・・・」
由美乃が顔を赤らめて俯く姿に、俺は思わず手が出そうになったが、いくら言葉で気持ちを表したとしても、今の由美乃に男の俺の方から手を出すのはやはり問題があるだろう。なんとか自分の衝動を抑え込んだが、由美乃が可愛すぎて辛い。
「あのね、まー兄、文兄が私にどういうことをしてるか、たぶん知ってると思うけど、おとうさん達に何を言われても知らないふりしててくれる?」
「それって、もうご両親には話したってこと?」
「おかあさんだけだよ。」
そうだろうな。現時点で父親がそれを知ったとなれば、俺が今、この部屋で由美乃と2人きりということにはならなかったはずだ。両親に知られずにこの部屋に入っていることは、今の俺にとっては誤解を招きかねない状況だろう。
「わかった。じゃ、今は部屋に行ったけど文也がいなかったから帰るってことにしておくよ。」
「うん、私もまー兄には会ってないことにしておくね。」
「なんか、言葉だけ聞くと、すごい寂しい感じだよ・・・」
「ふふふ・・・」
いろいろあったけど、最後の由美乃の笑顔に救われた気分になれた。
* *
そのまま、祖母の部屋に向かう階段の下を通ったが、そこに文也の父親や的場さんの姿はなかった。そうなると、2回目のようにダービーの予想というか馬券を買うの買わないのという話にはならない。そもそも的場さんとは、この場で競馬の話をしたことがきっかけなのだから、このままこの場を離れれば、1回目と同様に接点がないまま関わらない、ということになるかもしれない。前回、雪姉との関わりが増えたのは、間違いなく的場さんの影響が大きいだけに、由美乃とのことを第1に考えるなら、このまま関わるのをやめた方が良いだろう。
俺はそのまま文也の家を出て自宅に帰ろうとしたが、家の前に英治がいた。
「雅哉、お前、先帰って何処行ってたんだよっ!?」
「別に大した用件じゃないよ。だからすぐ帰ってきただろ?」
「だったら、俺にちゃんと付き合えよな。」
「英治、雪姉んちに行くのに俺をダシにするのはいい加減やめて欲しいんだけどな?」
「何だって? 俺には付き合えないってか?」
「英治が雪姉に会いたいだけなら、俺、必要ないじゃん? それとも一人じゃ恥ずかしいとでも?」
「ば、バカじゃねーの? そんなことあるかよっ!!」
それで俺の頭を思いきり叩こうとするので、咄嗟に躱した方向に、ちょうど帰宅してきた雪姉がいた。俺は勢い余って、雪姉の胸の谷間に自分の顔を押しつける体勢になったが、同時に雪姉が俺の後頭部に両手を回してきたので、身動きが取れなくなってしまった。
「あら、まーくん、今日は積極的なのね?」
いやいや、これは不幸な偶然・・・いや、一般的にはラッキースケベってやつか? 何にしても、雪姉が手を離してくれないと、話すことさえままならない。
「雅哉、お前ドサクサに紛れて雪姉になんてことをしやがる?」
「あら、アタシ、さっきから見てたけど、英治君がまーくんを叩こうとしたのを避けたらアタシにぶつかったのよ? これは英治君のせいだよ?」
「雅哉・・・ いい加減離れやがれ!」
「えーじ、まーくんに何してるのよ!」
そこに京子が帰ってきた。普段なら初美達と分かれてから一人で帰宅するはずなのだが、その日は初美とさつきが一緒だった。
「これはアレね・・・ まーくんをめぐって京ちゃんと雪さんの、よく言う修羅場ね。面白い場面に出くわしたわね。」
「ふーん・・・ こういうのがシュラバっていうのね?」
なんか、前にもこんなことあったよな、と思ったが、考えてみれば時間を戻されているわけだから、当然か。しかし、初美って、なんでいつも楽しそうなの?
「雪姉、雅哉を離しなよ!」
あれ? いつもだと、俺を罵倒してからその場を逃げ出すのが、お決まりのパターンだったはずだけど、登校時といい、今回といい、英治がなんか食い下がってくる。まあ、どちらにしてもこの体勢では窒息しかねない。
「あら、まーくん、ゴメンね。」
雪姉から解放されたのを、少し残念に思う気持ちもあったが、京子達の後ろに母親と一緒に由美乃がいるのに気づいた俺は、めちゃくちゃ焦りを感じた。
「な・・・ なんで由美ちゃんが・・・?」
「雪ちゃん、例の件でちょっと急ぎのお話があるんだけどいいかしら?」
「ああ、ちょうどよかったかも。栄治君、今日はちょっと遠慮してくれるかな?」
「うん、そういうことなら・・・」
栄治が俺の手を取り、そのまま栄治の家に入った。これ自体は珍しいことではないが、京子や初美たちから逃げるようにその場を離れる際に、2回目までのループでは必ず栄治1人で逃げていたことを考えると、これはちょっと意外な行動だ。
「えーじ、まーくんを置いていきなさいよっ!」
京子は久々に俺と遊ぶつもりだったみたいだが、俺の方としても由美乃をさしおいて、他の女の子達と遊ぶのは避けたかったので、栄治の行動は渡りに船だった。
「雅哉、お前、なんで由美ちゃんが雪姉の家に来たのか知ってるよな?」
「どうしてそう思うのさ? 雪姉の叔父さんが文也のお父さんと仕事上の付き合いがあることぐらいは知ってるけど、それだけだぜ?」
「本当か? まあ、それは別にいいか。それより、由美ちゃんたちが帰ったら、雪姉んちにまた行くからな。準備しておけよ?」
「今日はやめた方がいいんじゃないか・・・」
「なんでだよ? やっぱりなんか知ってやがんのか? 怪しいぞ?」
やけに栄治が突っかかってくるが、さっきの雪姉のラッキースケベが原因だとわかっているので、俺は終始、下手に出るしかなかった。
由美乃達の話は30分ぐらいで終わったらしく、由美乃の母親が雪姉の家を出ていったが、由美乃の姿はなかった。さっきは「明日から」と言っていたのが、どうやら「今日から」に変わったみたいだ。
栄治は、俺の手を引いて、雪姉の家の裏口から入った。これはいつものことなのだが、今日は由美乃がいるのかと思うとなんとなく落ち着かない気分だ。
「あら、栄治君、今日は遠慮してって言ったでしょ?」
「でももう話とやらは終わったんだろ? それに雅哉が由美ちゃんのことを気にしていたからな・・・」
雪姉は、2回目のループの時もそうだったが、しつこく訪ねてくる栄治には辛辣だ。これは勉強を教わる、と言っておきながら、真面目に勉強をやろうとしていないことが原因だったが、それなら今日の由美乃の存在は、追い風になるかもしれないと考えた。
「雪姉、由美ちゃんがここにいる理由は敢えて聞かないけど、栄治が雪姉に勉強を見てもらいたいって言ってるし、由美ちゃんの勉強は俺が見るから、どうかな?」
栄治の性格上、年下の由美乃の目があるなら、勉強をおざなりにはしないはずだと思ったのだ。俺にも由美乃の相手ができるという利点もあるから、栄治がこの話に乗ってこないはずがない。
「雪姉、俺、今度こそちゃんとやるからさ、頼むよ。」
栄治は栄治なりに思うところがあったのだろう。雪姉は渋々といった感じで、この話に乗ってきた。雪姉が栄治に教え、俺が由美乃に教えるのだ。今回の由美乃はちょっと勝手が違っていたが、2回目までのループと同様に俺が勉強を見ること自体に抵抗は示さなかった。
今回は、雅哉の目の前で文也が由美乃を触らなかったことで、かなり展開が変わってきています。これまでは雅哉に罵詈雑言を吐いては逃げ出していた英治の行動の変化で、雪姉の行動も変わりつつありますが、肝心の由美乃の気持ちを掴みきれず焦りを感じている雅哉です・・・




